ブーツは転倒時に足を守るために履くもののように思われがちだが、それはオフロードブーツや、レースの場合なら確かにそのとおりだとしても、一般のオンロードまたはスポーツバイクのライダーにとっては必ずしもそれが目的とは言えないと思う。
個人的に私はCBXに跨がるときは必ずブーツを着用した。それは、毎日片道20KMの通勤と、休日のツーリングが主な使い道だったからだ。だから、ブーツは、外側が牛革で内装が豚革の軟らかめのツーリングブーツで、とくにパッドが当てられているタイプではない。
これが、もしもバイクが単に移動目的であって、バイクを停めてから長く歩きまわったり、人と会わなければならない場合には、どんな足回りがふさわしいか、判断に迷うところだ。若い人がスニーカーでバイクをちょい乗りに使うのも、一概に批判はできない。
私がツーリングブーツを好むのは、まずはライディング時に足の操作をスムーズにすることを優先しているだけだ。かかとまわりが固く作られていて、その内側でバイクをホールドしやすくなっている。私はブーツなしだと、バイクと一体感を掴みにくい。
だから、ブーツはライダーにとって、転倒したらどうなるかというパッシブな保険のためよりも、転倒しないようにバイクを操るための、いわばアクティブな安全対策のようなものだ、と思っている。使い込んだブーツは、そのバイクに当たるかかと部分が、テカテカに光るほどになっているはずだ。
私のクシタニのブーツは靴底が厚くなくて、ブレーキべダルやシフトレバーの感触が直に伝わってくるほどだった。ズボンはブーツの中に折り込むので、自然裾のすぼまったタイプのジーンズを履くことが多くなった。
CBXを失ってから、履く機会がなくなった。でも、買ってから15年以上も経つが、ミンクオイルで手入れしてもいるし、まだ革に何の支障もない。ただ、ジッパーが後ろに着いているタイプなので、負担のかかるところは歯が抜けてしまっていた。5年程前に、たまたま近所にクシタニショップがあったので、持ち込んでジッパーだけ交換補修をお願いしたら、受けてくれた。
CBXでは転倒したことはないが、ナガガワで大型の訓練に励んだ時は何度も転倒するので、このときばかりはブーツが足を守ってくれた。ブーツに今でも残る傷は、この時の勲章だ。
ヘルメットやグローブと違って、ブーツにはハンディがある。バイクを降りたときヘルメットもグローブも脱ぐことができるが、ブーツはそうはいかない。履いたまま歩き回らなければならない。ライディングを優先するか、歩くときのカッコ良さをとるか、ブーツのコンセプトが分かれることになる。
いわゆるショートブーツは、その両方を狙ったものだろう。くるぶしを保護するだけでも意味がありそうだが、どこかデザインに折衷的な感も否めない。私は一度ショートブーツを買って失敗しているので、今のところ試そうという気持ちはない。でも現在だと、メーカーの品ぞろえにかなりショートブーツがある。ブーツに引けを取らない履き心地のものができているのかしら。それとも、ライダーが足下のおしゃれに、どれだけ気を遣うかに拠るのかも。