ジェームズ・キャメロン監督の総指揮になるテレビドラマ『ダーク・エンジェル』は、アメリカ本国で2000年10月からオンエアされた、1シーズン21話からなるシリーズです。そのセカンドシーズンの最終エピソードが2002年5月に放送された後、ストーリーがまだ完結していないにもかかわらず、「この秋からのサードシーズンの予定はありません」との打ち切りがFOXからアナウンスされました。そのために、シリーズ再開を願うファンの運動まで起きています。
日本ではアメリカより遅れてレンタルビデオとDVDでしか見ることができなかったのですが、2002年7月からテレビ朝日が「放送回数未定」ながらも月曜の夜8時に放送を開始。ファーストシーズンではいくつかのエピソードをスキップしたものの、11月からのセカンドシーズンはエピソード順に放送を重ねていたところ、これまた今月初めに突然第5話の放送をもって放送終了となりました。しかしこのテレビ放映がこれまで『ダーク・エンジェル』を知らなかった多くの人たちをファンに取り込んだことは確かです。
「遺伝子操作」という、人類と生物全体の未来を左右しかねない問題をテーマに、ジェームズ・キャメロン監督らしいアプローチを試みた秀作として、また2時間の映画では語り尽くせないとして、連続テレビドラマという形式を選んだことなど、早くから人気を集めたシリーズでした。そのヒロイン、マックス演ずるジェシカ・アルバの魅力に加えて、そのキャラクター設定にユニークな彩りを添えていたのは、マックスの乗る黒のKawasaki ZZ-R250 です。ただし、ドラマの中では「Ninja 650」と呼ばれていました。
敢えてジェシカ・アルバにバイクの特訓をさせてまでバイクをシーンの中に取り組んだのは、たぶんキャメロン監督にもバイクへの造詣と嗜好があるのかも知れません。映画の中にバイクが登場するのは、取り立てて珍しいことではありませんが、それが主人公のキャラクターと結びついた役割を演ずるのは、稀なことです。1960年代末に『イージーライダー』という映画がありましたが、そこで使われるハーレーは、ただアメリカの広大な大地とペアになっていただけの印象を受けます。
マックスと Ninja との関係はその点、日本の私たちライダーがバイクに接する感覚と近いものがあります。それは「乗り物」以上にマックスの体の一部、または拡張のようなものです。マックスのトレードマークのような黒の革ジャンも、スタイリッシュかつファッショナブルに見えてきます。
これまでバイクは男性の乗るものというイメージが強かったものです。そこへ持ち込まれた、かわいいヒロインとバイクという、ちょっとアンバランスとも思える組み合わせは、かえってジェネティックとしてのマックスのかかえる葛藤と奔放という二面性を映し出す効果があるように思えます。
ドラマの中の Ninja は単なる移動の手段でも、主人公の飾りでもありません。たとえば1st season 第14話の "Female Trouble" で、宙を舞うバイクからマックスがライデッカーに投げキスするスローモーション、2nd season の第2話 "Bag 'em" で、敵を傷つける代わりにバイクでなぎ倒してしまうシーン、これらはバイクであるからこそ可能なショットであるとともに、これまでたぶん誰も考えもしなかった、バイクという「役者」を生かした、胸のすくような演出です。
ここがたまたまバイクの盗難サイトであるために、テレビ放映中はバイクからのアプローチで各エピソードを「ヘッドライト・テールライト」で取り上げてきました。ジェームズ・キャメロンの熱狂的なファンである私にとっては、『ダーク・エンジェル』は『ターミネーター』、『アビス』に続くキャメロンSFの傑作です。そんな映画としての論評も「語り尽くせない」くらいありますが、ライダーの視点から見た「The other side of Dark Angel」論もまた、ひとつの切り口にはなるでしょう。