しばらくSTAX信者をしていたのですが、最近ちょっと浮気をしてER-4Sを購入しました。
しかし、STAX信者をしていたら、PCから普通のヘッドホン端子が排除されていたことに気付きました。外がうるさい時などはER-4Sを使いたいのでヘッドホン端子が無いのは困ります。そこでヘッドホンアンプを用意することにしました。
ヘッドホンアンプには市販品もありますが、品質がよろしくなかったり、矢鱈と高価だったりと購入するには気が引ける商品です。
ここはひとつ自作です。
自作をするにあたってまずは回路構成を決めなければなりません。私は一から設計するほどの技術も根性もありません。既に偉大なる先人達がヘッドホンアンプを製作されており、その回路をほぼそのまま使わせていただきました。
OPAMPで受けてダイヤモンドバッファで電流ゲインを稼ぐ回路です。回路としては殆どDr.Headそのまんまです(というか最初はDr.Headを改造しようかと思ったのですが、改造個所がなかり多岐に渡るので自作の方が早そうだった)。回路図には片chしか書いてありませんが、当然両ch製作する必要があります。
PCのライン出力をソースとすることを想定していますので、電圧ゲインは殆ど不要です。ここでは1.47倍としてありますがこれでも大きすぎるくらいです。しかし非反転増幅回路ではゲインを1以下には設定できませんので仕方ないかと思います。
電源も典型的な構成で、トランスで降圧、ダイオードで整流、コンデンサで平滑したのち3端子レギュレータで安定化してあります。
注意 この回路は安全策がいろいろ足りません。信号の入出力には安全面から言えば直流をカットするためのコンデンサが必要ですし、3端子レギュレータでも出力側の電圧が入力側より高くなることを防止するダイオードを入れるべきです。
ただ、面倒だったこと、入力には直流が載っていないという前提がある、出力はOPAMPのポテンショメータで調整する、ということで安全のための部品を搭載しないこととしました。お勧めはしません。
回路を考えたら、次に注文すべき部品を考えます。
回路図に載っている部品は当然として、ケース、基板、ねじ、スペーサー、RCAコネクタ、ステレオミニジャック、ボリュームつまみ、ICソケット、圧着端子の類、3端子レギュレーターのヒートシンクなどの注文漏れに気をつけるようにします。
また基板の配線用に錫メッキ線、ケース内の配線用にシールド線があると良いです。もちろん手持ちの部品があればそれを流用しても構いません。
必要な部品を考えたところで基板上での部品の配置、ケース内での基板やトランスの配置を考えます。このあたりは自分で考えて最適な配置を模索するしかありません。不要な紙にでも殴り書きを繰り返してアイデアを練るようにします。
私は写真のように回路図を紙に印刷するとともに部品の配置、ICのピンアサインなどをメモしておきました。こういったメモは実際の製作のときにも結構役に立ちます。いちいちネットで調べるのも面倒なものです。
これくらい練っておいたところで製作開始。まずはケースの加工を済ませておきます。
ケガキは本当なら細い油性ペンで行うのですが、手持ちのペンが乾いてしまっていたので今回は仕方なく鉛筆で行いました。いずれにしてもケガキは細心の注意を払って正確に行うようにします。ずれたら思い切ってやり直しましょう。
ケガキができたら実際にケースを加工します。
今回は学校の電動工具を拝借して行いました。手で開けるのはなかなか大変なのですよ。しかし電動工具は慣れていないと中心がずれやすいです。私もクリティカルな部分の穴あけにはピンバイスで地道に穴をあけました。
また、電動に限らず、穴をあけるときは最初に径の小さな穴を開けてから大きなドリル歯で穴を広げるようにします。いきなり大きなドリル歯で開けようとすると中心がずれたり加工対象がぶれたりとうまくいきません。
アルミはかなりやわらかいため、力をかけすぎると簡単に歪んでしまいます。加工には細心の注意を払うようにしましょう。
ACインレットの角穴は、中心に1cm程度の穴をあけた後、ハンドニブラで穴を広げてゆきました。切り過ぎないように注意です。
加工後は写真の様になりました。
←操作面 背面→
ケースができたら主要な部品を仮に配置してみて干渉が無いかを確認しておきます。今回は大丈夫なようです。ここで配置がまずいとケースがパァです。部品同士が干渉しないようにケガキの段階でよく考えておくことが大事です。
ではまずは電源部を作ってしまいます。電源がないと動作チェックもできません。
回路図通りに製作すれば規定の電圧が得られますが、コンデンサに流れる電流の経路に注意してください。
リプルを含んだ電流が平滑コンデンサを通過するように部品の配置を考えます。またGNDに共通インピーダンスが生じないように一点アースを心がけます。
注意しなければならないのは3端子レギュレータのピンアサインです。正電圧用と負電圧用ではピンアサインが異なります。
写真は電源の部品面です。ほぼ回路図通りの配置となっています。3端子レギュレータにはヒートシンクを取り付けると共にシリコングリスを塗布して熱が上手く伝導するようにします。実際に動作させてみるとそれなりに発熱しますのでヒートシンクは確実に取り付けましょう。
トランスやアンプ基板との接続はコネクタを介して行います。導線を基板に半田付けではいくらなんでも組み立てや動作チェックに難がありますからね。
電源ができたらいよいよアンプ部を製作します。これも基本的には回路図通りに製作すればよいですが、配線が最短となるよう気をつけます。また、ダイヤモンドバッファ部は結構ジャンパ線が飛ぶので基板がヤキソバ状態にならないよう注意しながら部品や線を配置してゆきます。
片側chが完成したところです。この段階で正常に音が出るかテストしておきましょう。ちなみに私は結構配線ミスがあって音をだすのに苦労しましたw よく見直しましょうという話しです。
なお、この写真でわかるように、基板の4隅にスタッドが立っています。このようにスタッドをたてておくことで安定して半田付けができます。
このとき、こんな部屋で製作や動作チェックをしていました。
布団、洗濯物と半田こて、オシロスコープが同じ空間にあります。本当は机で作業したいところですが、半田こてが誤ってキーボード等を焦がしては悲しいものがありますし、スペースも足りませんので床でやってます。腰が痛くなってしょうがないw
工作台が欲しいところです。
片側chが完成したらもう一方も作ります。既に片方できてますから、もう片側は簡単に作れます。
両ch完成したところでDCオフセットを調整しておきます。OPAMPの温度によってもオフセットは変わりますので、ある程度電源をいれて平衡したところで調整するようにします。調整はオシロスコープを用いるのが良いです。やっぱりオシロは便利ですね。
アンプ基板が完成したらケースに組み込み、配線を行います。ノイズが乗らないようシールド線を用います。とはいってもシールド線で防げるのは静電的なノイズだけですが。
磁気に由来するノイズを防ぐにはとにかく配線を最短距離で行うこと、そしてループを作らないことです。そのためには1点アースが基本となります。
完成した中身の写真です。
ちょっと見づらいですが、ケース背面で一点アースされているのがわかるでしょうか。ループを作らないよう一点でアースをとります。ループを作らないよう、わざとシールドを接続していない部分も多いです。
ただしボリュームのみアースの場所を変えてあります。当初ボリュームのアースも背面で行っていたのですが、ハムノイズがのってしまいました。ループができていたようです。そこでボリューム近傍のケースにアースをとってみたところ改善されました。こういった試行錯誤がなかなか大変です。
試行錯誤の末、無事にノイズも消えました。これにて完成です。
低音が引き締まっていていい具合です。ボリュームを最大にしてもノイズは殆ど感じられません。
今回のまとめ
素人でも一応ヘッドホンアンプは作れる。
その効果は結構大きい。
手元でボリューム調整できるのは便利だ。
出力段にトランジスタを使ってもノイズは問題にならない。
今回の反省
基板と配線の接続はもっとコネクタ化を進めよう。一度組み立てても大抵分解することになるので。
半田付けはもっと奇麗に行おう。
ボリュームの軸は長すぎることがある。
回路に必要な電流をしっかり計算すれば、トランスは多分小型にできる。
今回は以下のページを参考にさせていただきました。ありがとうございます。
JG4KFD's Page(http://www.kfdlab.com/~jg4kfd/)内、DrHeadのこと
さいたまAudio(http://saitama-audio.com/)内、SAITAMA-HA7
以上の状態でしばらく使っていたのですが、ボリュームの接触が悪くなったのかノイズが出たり突然大音量が出たりと、おかしくなってきました。
ボリューム交換・・・いや、前回の反省を活かして、この際アンプ部を作り直してしまおう。ケース、電源部は流用w
回路は図の通りです。
通常、PCからの電圧出力は十分過ぎるほどありますので、電圧ゲインは無しとして、バッファだけの簡単構成にしました。このページの頭にある回路図からバッファ部だけ取り出したようなものです。
1段目のNPNトランジスタとPNPトランジスタのベースとコレクタが接続されていますが、このようにしても動きます。
他の変更点としては発振防止のために入力に36Ωの抵抗を入れたこと、DCカットのために出力にカップリングコンデンサを入れたことがあります。
正負電源、上下対称な回路ですのでコンデンサ無しでもいけるか?とも思いましたが、実際に仮組みして動かしてみると少々のDCオフセットは避けられませんでした。
取り除くにはコンデンサを入れるか、初段を差動入力としつつDCサーボで直流成分を負帰還することが考えられます。信号経路にコンデンサが入ることに多少のわだかまりはありましたが、DCサーボとて帰還回路にコンデンサが入れば大差ない???ような気がしてきました。
ということでここでは簡単にカップリングコンデンサで済ませました。一応おまじない?として0.47μFのフィルムコンデンサも並列に入れておきます。
関係ありませんが、今回から回路図はBschで描いています。Ver.2の頃使っていましたが、しばらく離れているうちにバージョンが上がっていたとは。
ここでカップリングコンデンサによる低域カットオフ周波数を考えてみます。16Ω負荷時に振幅が1/2になる周波数は、抵抗RとコンデンサCのインピーダンスが等しくなるときなので
1/(2πfC)=R
fについて解いて
f=1/(2πCR)
値を代入して4.52Hzと求められました。十分に低い周波数です。1000μFあれば十分過ぎるほどですが、手持ちに2200μFの物があったのでw
こんな感じで完成しました。左半分がLch、右半分がRchになっています。左右がちょっと非対称になってしまったorz 今回はちゃんと接続部をコネクタ化して取り外しを容易にしておきましたw
さて改めて、回路をちょっと解析してみます。書き込まれた値は計算値、括弧内は実測値です。計算は以下の通り。
トランジスタQ1,Q2のVbeを0.6Vとして、初段に流れる電流I1は
I1=(24-0.6-0.6)/(4.7k+4.7k+22+22)=2.41mA
これより、R4(4.7kΩ)とR5(22Ω)に生じる電圧は図に書き込んだ通りとなります。実測値と比較してもほぼ一致しています。
また、この計算によりQ3,Q4のベース間の電圧は1.3062Vとなり、実測値も1.32Vとほぼ一致します。Q3,Q4のVbeを0.6Vと仮定して、この1.3VからQ3,Q4のVbeを引くと0.1062V。これをエミッタ抵抗で割ることで出力段のエミッタ電流(≒コレクタ電流)が求まります。
0.1062/(2.2+2.2)=24.1mA
この電流から、エミッタ抵抗R6に生じる電圧は図に書き込んだ通りとなります。
ところが実測してみるとエミッタ抵抗R6に生じる電圧は30mVであり、ここからエミッタ電流は13.6mAとなります。これは実測値とずれがあります。これはQ3,Q4のVbeが実際には0.6Vではなく、少々のずれがあるためと思われます。
実際には0.63V程度あるようで、それもQ3とQ4で一致していません。このためエミッタ電流が計算値とやや異なり、DCオフセットも生じたものと思われます。Q3,Q4のVbeを少し(0.02〜0.03V程度)大きく見積もって計算すると実測値に近くなります。
ここでQ3,Q4のコレクタ損失を計算します。計算で得た出力段の電圧、電流からQ3のコレクタ損失は
(12V-53.1mV)×24.1mA = 288mW
Q4も同様の値となります。2SC1845,2SA992のデータシートから、許容コレクタ損失は500mWとなっているので、288mWは許容範囲内でしょう。
実測値から計算すると
(12V-30mV)×13.6mA = 163mW
これも許容範囲内です。動作させるとそれなりに発熱しますが、この計算から問題ないでしょう。
Vbeのばらつきを除けばほぼ計算通り動作しているようです。ということでケースに組み込んで完成です。無負荷時、ヘッドホン接続時とオシロを充ててみましたが特に発振も無く、安定して動作しています。
周波数特性も測ってみたいところですが、信号発生器があるわけでもないので真の特性は不明です。ただPCからいくつか正弦波を入力してオシロで観測したところでは可聴周波数内の周波数振幅特性は平坦なようでした。
ハムノイズやホワイトノイズは特に感じられません。実際に音を聞いてみると前回よりさらに良く聞こえます。心なしか定位も広く感じます。また、電圧ゲインが無いためボリュームは9時の方向付近で丁度良い音量となり、使いやすいです。
もう接触不良とか起きませんように・・・。
トップへ戻る2005/4/24記、2008年1月23日追記