い <格助>[意]主格を表す「が」と同義[例]風い吹く(風が吹く)。「イ」の段で終わる言葉に続く場合は「が」を使用する。県北部では「ぐ」を使う所がある。
<参>@言清く いたくもな言ひそ 一日だに 君いしなくは 堪え難きかも(そんなにあっさりと、ひどくおっしゃらないでください、一日でも、あなたがいらっしゃらないと、たまらないのです=萬葉集537)A筑波嶺の  をてもこのもに 守部すゑ 母い守れども 魂そ合いにける(筑波嶺の、山のあちこちに番人を置くように、母は見張っているが、私たちの魂はもう合ってしまった=萬葉集3393)
[解説]小学館発行『萬葉集』では@の「い」を「主語の下について強めを表す」とし、Aの「い」を「主格について強めを表す助詞」としている。ほとんどの古語辞典も同様に「名詞または名詞的なものに付き、主格を強める」とする。その一方、やはりほとんどの辞書が「主格を表す格助詞とする説もある」と、異説のあることに触れている。「い」を「が」同様に主格を表す格助詞として使用する大分弁の立場からすれば、この異説の方が正しいことになる。

い <格助>[意]動作や作用の向けられる方向を示す。[例]おいてえ、いく(大分へ行く)。ふり、いく(風呂に行く)。つり、いく(津留へ行く)。みい、いく(三重へ行く)。ろくり、いく(六呂へ行く)。
[解説]大分では「どこそこへ行く」を表現する場合は一般的に「へ」ではなく「に」を使う。「に=ni」から[n]が消えて「い=i」となったものと考えられる。音韻変化の習性として母音[a]と[i]が連続する場合に[e]に変化する(例えば、「ない=nai」が「ねえ=nee」、「したい=sitai」が「してえ=sitee」になる)。このため、地名の最後の音が「ア」の段の場合は、次に続く格助詞「い」と反応して「エ」の段に変化する。その他の段の場合は地名の最後の音が「い」に反応して「イ」の段に変化する。


いあんべ 
<句>[意]時宜を得る。うまい具合。ちょうど良い。「いやんべ」とも。「いい塩梅」が変化したものだろう。単に「いい塩梅」ではなく、「ちょうど良いタイミング」という意味合いがこもる。[例]いあんべじゃ、ちょっと、こるぅ、かっしい(ちょうどいいところに顔を見せた、ちょっとこれを手伝え)。
 ※緒方・入道さん


いい 
<形>[意]良い。標準語とは活用が一部異なる。
 〔未〕よかろう [意]良いだろう。
 〔仮〕よから [意]良ければ。[例]それじ、よから、そげえしなあ(それで良ければ、そうしなさい)。


いいえのこと
 
<句>[意]「いんねのこと」に同じ。@とんでもない。[例]役員ぬ、せんかなんち、いいえのこと(役員をしないかなんて、とんでもない)。Aどういたしまして。[例]こないだは、すまんじゃったなあ。いいえのこと(先日はすみませんでしたね。どういたしまして)。

いいしこ <連語>[意]言う限りの。言えるだけの。[例]ついでじゃあき、もんくう、いいしこいうち、かいっちきた(ついでだから、文句を、言えるだけ言って帰ってきた)。

いいすぐる 
<動・中三>[意]言いすぎる。余計なことを言う。命令形は「いいすぎい」となるので、大分独特の下二段活用の変形「中三段活用」である。
 〔未〕いいすげん [意]言い過ぎない。

 〔用〕いいすげた 
[意]言い過ぎた。[例]ちっと、いいすげた(少し言い過ぎた)。
 〔仮〕いいすぐら [意]言い過ぎれば。


いいすげ 
<連語>[意]言い過ぎ。[例]なんぼなんで、そら、えれ、いいすげじゃ(いくらなんでもそれは言い過ぎだ)。

いいつくる 
<動・中三>[意]結びつける。「ゆいつける」からの転か。
 ※清川・邦友さん


いいばっちゃ 
<句>いい罰ゃ。[意]いい気味だ。ざまあみろ。[例]いわんこっちゃねえ、いいばっちゃ(言わないことではない、いい気味だ)。
 ※清川・久洋さん


いいやいこ 
<名>[意]「言いあい」のことだが、大の大人による本気の罵りあいよりは、冗談半分の掛け合いや子供同士の口げんかを言う。末尾の「こ」は「駆けっこ」「鬼ごっこ」と共通。
 ※清川出身・あんちゃん


いいくれ
 
<副>[意]@いい加減に。適当に。[例]ひとんはなしゅう、いいくれ、きいちょっち(人の話を適当に聞いていて)。A良いように。[例]おまや、あんやてぃ、いいくれ、ふりまわされよる(お前は、あいつに良いように振り回されている)。

いいぜ <名>「意]稲刈りの際、刈り取った稲を束ねる際に使用する稲わら。「いなで」に同じ
 ※清川・康晴さん

いいとこりぃいきなあえ 
<句>[解説]葬儀で故人に最後のお別れをする際に、家族や親族などが故人の顔や頭、腕などをさすって名残を惜しみながら故人に語りかける。「成仏してください」あるいは「天国に行ってください」といったほどの意味。

いいところ 
<句>良い所[意]天国、極楽。[例]いいとこりぃ行きなあえ(天国に行ってください)。
 ※緒方・入道さん


いう 
<動・五>[意]ラジオやテレビなどから音が出ること。[例]こんテレビゃ、こわれちょんのじゃねえんか、さっきかりなんもいわんが(このテレビは壊れているのでないか、さっきから何も音が出ないぞ)。誰もおらんに、テレビがいいよる(誰もいないのに、テレビが点けっぱなしになっている)。
 〔未〕いわん [意]言わない。
 〔用〕いうた [意]言った。
 〔仮〕いわ、いや [意]言えば。


いうちあるく 
<句>[意]言い触らす。[例]そげんこつぅ、いうちあるきなんなえ(そんなことを言い触らしては駄目だよ)。

いうちぇん 
<句>[意]言っても。大分では「て」が「ちぇ」になることが多い。「いうてん」に同じだが、「いうちぇん」は高齢者が使う。[例]いうちぇんいうちぇん、ききゃあせん(言っても言っても、聞きはしない)。

いうてん 
<句>[意]言っても。「いうちぇん」に同じ。[例]いうてん、きかんのじゃき、しよいねえわ(言っても聞かないのだから仕方がないよ)。

いかざった 
<句>[意]行かなかった。形としては「行かず」の過去形であるが、他の活用形が使用されるのは聞いたことがない。[例]ひもくれたき、いかざった(日も暮れたから行かなかった)。
 ※清川・康晴さん


いかする 
<動・中三>[意]行かせる。命令形は「いかしい」となるので、大分独特の下二段活用の変形「中三段活用」である。
 〔未〕いかせん 
[意]行かせない。
 
〔未〕いかしゅう [意]行かせよう。
 〔仮〕いかすら [意]行かせれば。
 
〔命〕いかしい、いかせよ [意]行かせる。

いがみつくる 
<動・中三>[意]大げさに怒りけなす。命令形は「いがみつきい」となるので、大分独特の変形下二段活用「中三段活用」である。
 〔未〕いがみつけん [意]ひどく叱り飛ばさない。
 〔未〕いがみつきゅう 
[意]ひどく叱り飛ばしてやろう。
 〔仮〕いがみつくら [意]ひどく叱り飛ばせば。
 〔命〕いがみつきい
、いがみつけよ [意]ひどく叱り飛ばせ。

いがむ 
<動・五>[意]自分の苦痛や苦労を大きな声で言いたてる。標準語には「いがみ合う」という言葉がある。[例]だんごばちかり刺されち、痛えち、いごうじひっくりかやった(スズメバチから刺されて、痛いと大声を上げてひっくり返った)。
 〔未〕いがまん [意]大声で言い立てない。
 〔用〕いごうだ [意]大声で言い立てた。
 〔仮〕いがま [意]言い立てれば。
 ※清川・康晴さん
【邦訳日葡辞書】「イガム」犬がきゃんきゃんと鳴く。


いがらひじい 
<形>[意]横着、陰湿、陰険な。
 〔未〕いがらひずかろう [意]陰険だろう。
 〔用〕いがらひずう [意]陰険に。
 〔仮〕いがらひずから [意]陰険なら。

いかるる 
<動・中三>行かるる[意]行くことができる。道路に異状がなく通常通りに通ることができる。大分独特の変形下二段活用「中三段活用」である。
 
〔未〕いかれん [意]土砂崩れなどで通ることができない。行けない。行くことができない。
 〔未〕いかりゅう [意]行くことができるだろう。[例]たいへんな雨じゃったが、やまみちは、いかりゅうか(大雨だったが、山道は通行できるだろうか)。
 〔仮〕いかるら [意]行くことができれば。


いかれん
 
<感>[意]駄目だ。[例]こいた、いかれん(これは、ダメだ)。

いかん <副>[意]だめ。「いけん」より強い調子。

いきしゅうばき 
<名>[意]元気なうちに分け与える形見。「しゅうばき」は「形見」のこと。

いきすりきすり 
<連語>[意]往来のたびごとに。[例]いきすりきすりぃ、さがしよんのじゃ(行き来するたびに探しているんだ)。
 ※『緒方町誌』


いきだす 
<句>[意]行ける状況になる。「だす」は可能の意。[例]ひまい、いったけんど、やっとこせえ、いきだすごとなったんじゃ(時間がかかったけれど、やっとのことで行くことができるようになったんだ)。
 
未〕いきださん [意]行けるような状況にならない。[例]さっかりだき、しごといでけち、釣りぃいきださん(次々に仕事が出来て、釣りに行く暇もない)。
 〔未〕いきだそう [意]行けるような状況になるだろう。[例]これい、すんだら、いきだそうで(これが終わったら、行ける状況になるだろうよ)。
 〔仮〕いきださ [意]行けるような状況になれば。


いきりたくる 
<動・五>[意]いきり立つ。
 ※『緒方町誌』

いく <動・五>[意]行く。未然形、連体形、仮定形が標準語とは異なる。
 〔未〕いかん [意]行かない。[例]どっこも、いかんで(どこにも行かないよ)。
 〔用〕いた [意]行った。標準語と違って、大分では促音便の形にならない。「くた」(食た)も同様。[例]どきい、いたんか(どこに行ったのか)。
 〔仮〕いか、いきゃ [意]行けば。[例]あっきぃ、いか、いいんじゃな(あそこに行けば良いんだね)。

いくる
 
<動・中三>[意]土に埋める。標準語では下一段活用だが、奥豊後では下二段活用の変形である「中三段活用」となる。命令形は「いけろ」ではなく「いきい」となる。[例]ねこい死んだき、桜ん木んねきぃ、いけた(猫が死んだから、桜の木の根元に埋めた)。
<参>辞書では「埋(い)ける」として標準語扱いだが、普段耳にすることは稀。「(野菜などを保存のため)土に埋める」「土管を土の中に埋める」の意を挙げている。
 〔未〕いけん [意]埋めない。
 〔未〕いきゅう [意]土に埋めよう。
 〔仮〕いくら [意]埋めれば。
 〔命〕いきい、いけよ [意]土に埋めろ。
【邦訳日葡辞書】「イクル」栗、蜜柑その他の果物を、長もちするように土や砂に埋めて貯蔵する

いくる <動・中三>[意]生きる。大分独特の下二段活用の変形である中三段活用。[例]こんねかあ、なごう、いくるなあ(この猫は長く生きるねえ)。
 〔未〕いけん [意]生きない。
 〔未〕いきゅう [意]生きよう。
 〔仮〕いくら [意]生きれば。
 
〔命〕いきい [意]生きろ。

いけほり 
<名>[意]墓掘り。[例]そうしきが、でけち、いけほりぃ、やとわれた(葬式があって、墓掘りを頼まれた)。
 ※『緒方町誌』


いけん
 
<形>[意]いけない。「いかん」より柔らかい。[例]そげんとこりぃ、くるもぉ、置いたら、いけん(そんな所に車を置いたら、だめだよ)。

いごきもすごきもせん <句>[意]びくともしない。[例]おもとうじ、いごきもすごきもせんで(重たくて、びくともしないよ)。

いごく 
<動・五>[意]動く。[例]あげな、おおけな、いしが、いごくかのう(あんな大きな石が、動くかなあ)。
 〔未〕いごかん [意]動かない。
 〔未〕いごこう [意]動こう。
 〔用〕いごいた [意]動いた。
 〔仮〕いごか [意]動けば。
 〔命〕いごけ [意]動け。[例]はよ、いごけ(早く動け)。


いさぎい
 
<形>潔い[意]思い切りが良い、さっぱりとしている。[例]あんこは、いさぎいこじゃ(あの子は、さっぱりとした性格の子だ)。
 
〔用〕いさぎゅう [意]潔く、思い切り良く。[例]あんしゃ、いさぎゅう、つうじいったなあ(あの人は、思い切りよく走って行ったなあ)。
 〔仮〕いさぎから [意]潔ければ。[意]もちっと、いさぎから、いいになあ(もう少し潔ければ良いのにねえ)。


いぜ <名>[意]灌漑用水路の「井手(いで)」のこと。大分でよく聞かれる「ダ行」と「ザ行」の混同現象。

いぜぶしん <名>[意]井手普請。地域の人が協力して、灌漑用の水路に溜まった土砂を救い出したり、周囲に生い茂った雑草を刈ったりすること。大分で頻繁に聞かれる「ダ行」と「ザ行」の混乱の一つ。

いぜもり 
<名>いぜ守り[意]灌漑用水路の世話役、それぞれの地区から選ばれる。下流の地区のいぜ守りは、夜間に上流の水口を細めたり、夜通しの苦労が続いたという。
 ※『緒方町誌』


いだ 
<名>[意]コイ科の川魚、ウグイ。別名「猫またぎ」は、猫もまたいで通るほど不味いことから。

いたしかゆしのかさあたま <句>[意]痛し痒しのかさ頭。難題で頭を抱えているときに言う決まり文句で、しばしば独り言で使われる。[例]さてこまった、いたしかゆしのかさあたまじゃのう(さて困った。痛し痒しのかさ頭だなあ)。
 ※清川・康晴さん


いたじきばらい 
<名>[意]祭りなどが終わり、片付けを済ませた後で行う打ち上げの宴会。
 ※『緒方町誌』


いちきた 
<句>[意]行ってきた。[例]もう、いちきたが(もう、行ってきたよ)。

いちごんもねえ
 
<句>[意]@まったくその通りで、言うべきことはない。[例]あんたん言うとおりじゃ、わしゃ、いちごんもねえ(あなたの言う通りだ、私は何も言うことがない)。A申し訳がない。[例]すまんこつぅしちしもうた、わしゃ、いちごんもねえ(申し訳ないことをしてしまった、私はなんといったらよいのか分からない)。

いちねんご <名>[意]妊娠した年に生まれた子供。
 ※『岡藩のひらくち』

いちのくれ 
<名>市の暮れ[意]薄暮、夕暮れ時。
 ※『緒方町誌』

いちべえ <副>[意]よけいに。[例]そげんこつういや、いちべえ、怒るが(そんなことを言うと、よけいに怒るよ)。

いぢらがいい <形>[意]痛痒い。
 〔用〕いぢらがゆう
 [意]痛痒く
 〔仮〕いぢらがゆから [意]痛痒ければ。
 ※『緒方町誌』


いちりき 
<名>一力[意]独力、自力。
 ※緒方・入道さん

いっかかり 
<名>[意]最初の関わり、出会い。
 ※『緒方町誌』


いっくりかやす 
<動・五>[意]水などを盛大にこぼす。ひっくり返す。
 〔未〕いっくりかやさん [意]こぼさない。
 〔用〕いっくりかええた [意]こぼした。
 〔仮〕いっくりかやさ [意]こぼせば。


いっけん 
<名>[意]片脚跳び。「いっけんとび」とも。
 ※緒方出身・悦ちゃん

いっこむ 
<動・五>[意]勢い良く注ぎ込む、流し込む。
 〔用〕いっくうだ [意]まとめて注ぎ込んだ。標準語の感覚からすれば「いっこんだ」となるところだろうが、奥豊後ではウ音便のか勝ちで使われる。[例]たねい、あまったき、いっくうだ(種が余ったから、それまでの播き方を無視して残りをまとめて播いた)。
 〔仮〕いっこま [意]まとめて注ぎ込めば。[例]いっこま、いいで(まとめて注ぎ込めば良いよ)。
 ※清川・康晴さん


いっこぼす 
<動・五>[意]液体の入った器をひっくり返して液体をこぼしてしまうこと。
 〔仮〕いっこぼさ [意]ぶちまければ。
【邦訳日葡辞書】「イッコボス」容器を逆様にするなどして、中の物をすっかりぶちまける、あるいは、こぼす。

いっこん
 
<名>[意]一個。ものを数える際「いっこん」「にこん」となる。

いっこん <副>[意]少しも、ちっとも。[例]わがん言うこたぁ、いっこん、わからん(お前の言うことは、少しも分からない)。

いっしょまくり <連語>[意]一緒、ひとまとめに。いっしょくた。

いっすんずり 
<
句>一寸ずり[意]ほんの少ししか、前に進まないこと。道路の渋滞で車がなかなか進まない場合によく使う。ちなみに大分では「一寸ずり」のような道路渋滞は滅多にない。

いっすんひとはず <連語>[意]あとちょっとのところ。
 ※『緒方町誌』


いっちょん
 
<副>[意]少しも、ちっとも。「いっこん<副>」に同じ。

いってん <副>[意]いつも、いつでも。[例]いってん、いいで(いつでも良いよ)。

いってんかってん <副>[意]いつもかも。「いってん」の強調。

いっぷくりゅう 
<形動>[意]頑固な。妥協を知らず一歩も譲らない態度。

いっぺ 
<副>[意]いっぱい、たくさん。「ようけ」「よき」に同じ。[例]ことしゃあ、かきが、いっぺなった(今年は柿が沢山成った)。

いてえ 
<形>[意]痛い。
 〔用〕いとうなる [意]痛くなる。
 〔仮〕いたから [意]痛ければ。


いでぶしん 
<名>[意]井手普請。「いぜぶしん」に同じ。

いどろ 
<名>[意]いばら。

いどろむし 
<名>[意]コガネムシ科の甲虫、カナブン。
 ※緒方・みっこさ

いなで 
<名>[意]刈り取った稲を束ねる際に使用する一握りほどの藁。二つの穂先同士を結んで使った。「いいぜ」に同じ。
 ※緒方・入道さん


いなりしょうけ 
<名>稲荷?塩受け。形がお稲荷さんに似ていることからか。[意]「しょうけ」と同じく竹を編んで作ったざるだが、「しょうけ」と違い、片方に口がついていて、入れた穀類などを別の容器に移しやすくしてある

いなるる 
<動・中三>[意]帰ることができる。[意]やんがち、いなるるごとなるきの(もうすぐに帰ることができるようになるからね)。
 〔未〕いなれん 
[意]帰ることができない。[例]まだ、いなれんに(まだ帰ることができないんだよ)。
 〔未〕いなりゅう
 [意]帰ることができるだろう。[例]やんがち、いなりゅうで(すぐに帰ることができるだろうよ)。
 〔仮〕いなるら [意]帰ることができれば。[例]いまかり、いなるら、きしゃにまにあうがなあ(今帰ることができれば、汽車に間に合うんだがなあ)。


いねじの 
<名>稲収納[意]秋の稲刈り、脱穀など一連の収穫作業。「しの」は収穫作業のこと。


いぬる
 <動・ナ変>[古]往ぬる、去ぬる[意]帰る、去る。[例]よい、やんがち日が暮るるき、いぬるど(おい、もうすぐ日が暮れるから帰るぞ)。
 〔未〕いなん
 [意]帰らない。[例]まだ、いなんのな(まだ帰らないの)。
 〔未〕いのう [意]帰ろう。[例]うん、もう、いのう(うん、もう帰ろう)。
 〔用〕いんだ [意]帰った。[例]あんしゃ、もう、いんだで(あの人はもう帰ったよ)。
 〔仮〕いぬら [意]帰れば。[例]いぬら、いいに(帰れば良いのに)。
 〔命〕いね
 [意]帰れ。[例]わからんこつぅ、いうやたぁ もういね(訳の分からないことを言うやつは帰れ)。
<参>古語は「往ぬ」「去ぬ」。


いねちゃ <名>[意]帰る前に飲むお茶。[例]まあ、そげえせかんでん、いねちゃ、のんじかえんなあ(まあ、そんなに急がないで、お茶を飲んで帰ってください)。
 
※緒方・みっこさ

いのこ
 <名>井のこ[意]地域共同で使い、守る湧き水。水源。[例]いのこに、水汲みぃ、いちきちくりい(共同水源に水汲みに行ってくれ)。

いのこまつり <名>亥の子祭り[意]十月の亥の日に、子供たちが一握りの藁を固く束ねたものを担いで家々を回って庭の地面などをその藁で叩く。その時の口上は「今晩の亥の子を祝わんもなあ、鬼を産め蛇を産め角ん生えた子を産め」(今夜の亥の子を祝わない者は、鬼を産め、蛇を産め、角の生えた子を産め)。どの家でもこう言ったものかは定かではない。十五夜引きのように供え物があったわけではなかったようだが、「亥の子餅」というものがあることから、子供等が貰っていたものかも知れない。
 ※緒方・みっこさ、清川・康晴さん


いのちき
 
<名>[意]生計。[例]おまや、どげえしちいのちきしち行くつもりか(お前は、どうやって生計を立てて行くつもりか)。

いのちきゅうする <句>[意]自立して生計を立てる。

いのちぎさねえ 
<形>[意]しぶとい。往生際が悪い。「命」と「汚い」が合わさってできた言葉。「汚い」がついているものの、必ずしも否定的に使われるとは限らない。
 〔用〕いのちぎさのう
 [意]しぶとく。
 〔仮〕いのちぎさなから [意]しぶとければ。


いのね
 
<名>[意]脚の付け根のリンパ節。[例]なんや、いのねい、腫れたや(何だと、リンパ節が腫れたって?)。

いばかり 
<名>[意]わがまま。主に幼児のそれを指すことが多い。
 ※緒方・入道さん


いびしい 
<形>[意]身の毛がよだつほど気味が悪い。
 〔用〕いびしゅう [意]気味悪く。
 〔仮〕いびしから [意]気味悪ければ。
 ※緒方・入道さん


いまがし 
<句>[意]今でも。[例]いまがし、そげんこつぅ、しよんのな(今でもそんなことをしているんですか)。
 ※清川・邦友さん


いみらする
 <動・中三>[意]増やす。命令形は「いみらしい」となるので、大分特有の下二段活用の変形「中三段活用」である。[例]こん、なゆうやるき、いみらせちみなあ(この苗を上げるから、増やしてみなさい)。
 〔未〕いみらせん
 [意]増やさない。繁殖させない。
 〔未〕いみらしゅう [意]増やそう。繁殖させよう。[例]めだかを、いみらしゅうえ(メダカを繁殖させようよ)。
 〔仮〕いみらすら [意]増やせば。繁殖させれば。
 〔命〕いみらしい、いみらせよ [意]増やせ。繁殖させろ。[例]めだかを分けちゃるき、わがかたじ、いみらしい(メダカを分けてやるから、お前の家で繁殖させてみろ)。


いみる
 
<動・五>[意]増える、増殖する。[例]知らんなかめえ、メダカぃ、ばされえいみっちょるが(知らないうちに、メダカがたくさん増えているよ)。
 〔未〕いみらん [意]増えない。繁殖しない。[例]かんたんにゃ、いみらんなあ(簡単には増えないねえ)。
 〔用〕いみった [意]増えた。[例]どげえかえ、いみったな(どうですか、増えたかい)
 〔仮〕いみら [意]増えれば。繁殖すれば。[例]いみら、わけちゃぐるわ(増えれば、わけてあげるよ)。


いやんべ <句>[意]「いあんべ」に同じ。[例]いやんべに、あめいふる(ちょうど良いところで雨が降る)。
 ※緒方・入道さん


いらざった
 
<句>[意]余計だった、いらなかった。[例]わがん、しまいんひとこたぁ、いらざったのぉ(お前の最後の言葉は余計だったな)。

いらんせわ <句>[意]余計なお世話。「いらんしょわ」とも。[例]おまや、くちゅうだすな、いらんせわじゃ(お前は口を出すな、余計なお世話だ)。

いらんしょわ <句>[意]「いらんせわ」に同じ。[例]いらんしょわんじょうする(余計なお節介ばかりする)。

いる 
<動・五>[意]入る。[例]どっかり、いるんか(どこから入るのか)。
 〔未〕いらん [意]入らない。[例]どげえしてん、いらんで(どうしても入らないよ)。
 〔未〕いろう [意]入るだろう。[例]よこしぃ、すら、何とか、いろうで(横にすれば何とか入るだろうよ)。
 〔用〕いった [意]入った。[例]どっかり、いったんか(どこから入ったのか)。
 〔仮〕いら [意]入れば。[例]そっかりなり、いらせんか(そこからなら入りはしないか)
 〔命〕いれ [意]もう、いれや(もう入れよ)。
 ※清川出身・三鷹んあんちゃん


いる 
<動・五>[意]要る。必要とする。標準語とは活用形が一部異なる。
 〔未〕いらん [意]要らない。
 〔仮〕いら [意]要れば。


いるる 
<動・中三>[意]入れる。標準語では下一段活用だが、大分では下二段活用となる。ただし、命令形が「いりい」となることから、正確には中三段活用である。
 〔未〕いれん
 [意]入れない。[例]せんたくもなあ、いれんでいいんな(洗濯ものは入れなくてもいいの)。
 〔未〕いりゅう [意]入れよう。[例]そうじゃった、いりゅうかのう(そうだった、入れようかねえ)。
 〔仮〕いるら [意]入れれば。[例]冷蔵庫に、いるら、いいんじゃな(冷蔵庫に入れればいいんだね)
 〔命〕いりい、いれよ
 [意]入れろ。[例]はよう、なけえ、いりい(早く中へ入れろ)。


いれかゆる 
<動・中三>[意]入れ替える。標準語では下一段活用だが、大分では下二段活用となる。ただし、命令形は「いれかいい」となるので、正確に言うと中三段活用である。
 〔未〕いれかえん
 [意]入れ替えない。[例]でんちゅう、いれかえんと(電池を入れ替えないと)。
 〔未〕いれかゆう [意]入れ替えよう。[例]いけすんみずぅ、いれかゆうえ(生け簀の水を入れ替えようよ)。
 〔仮〕いれかゆら [意]入れ替えれば。[例]あした、いれかゆらいいじゃねえな(明日、入れ替えればいいじゃない)。
 〔命〕いれかいい、いれかえよ
 [意]入れ替えろ。[例]たったいま、いれかいい(今すぐに入れ替えろ)。


いれくる
 <
動・五>[意]小細工を弄してごまかす。[例]みんなぃ、見ちょんのど、いれくるこたならん(皆が見ているんだぞ、小細工をしてはならない)。
 〔未〕いれくらん [意]ごまかさない。[例]いれくらんごと、ようみちょれや(ごまかさないように、よく見ておけよ)。
 〔用〕いれくった [意]ごまかした。[例]われ、いつんなかめえ、いれくったんか(てめえ、いつの間にごまかしたのか)。
 〔仮〕いれくら [意]ごまかせば。[例]いれくら、しょうちせんきの(ごまかしたら承知しないからな)


いれこむ <動・五>[意]入れ込む。標準語とは活用が一部異なる。
 〔未〕いれこまん [意]入れ込まない。
 〔用〕いれくうだ [意]入れ込んだ。ウ音便の形になる。
 〔仮〕いれこま [意]入れ込めば。


いろかす 
<動・五>[意]乾燥させる。
 〔未〕いろかさん [意]乾燥させない。[例]いまんうちぃ、いろかさんと(いまのうちに乾燥させないと)。
 〔仮〕いろかさ [意]乾燥させれば。[例]そこじ、いろかさ、いいわ(そこで乾燥させればいいよ)。
【邦訳日葡辞書】「イロカス」火に当てて乾かす、あるいは、水気をとる。


いろく 
<動・五>[意]乾燥する。[例]そき、さげちょか、いろくわ(そこに下げておけば乾燥するよ)。
 〔未〕いろかん [意]乾燥しない。[例]なかなか、いろかんのお(なかなか乾燥しないなあ)。
 〔仮〕いろか [意]乾燥すれば。[例]いろか、じぶんじ、たたみよえ(乾いたら自分で畳みなさいね)。


いろめ 
<名>[意]顔色。[例]あんた、どしたんな、えれえ、いろめぃわりいじゃねえな(あなた、どうしたんですか、随分顔色が悪いじゃないですか)。

いわざった 
<句>[意]言わなかった。形としては「言わず」の過去形であるが、他の活用形が使用されるのを聞いたことがない。[例]どうせ、きかんき、いわざった(どうせ聞かないから言わなかった)。
 ※清川・康晴さん


いわんこたあねえ 
<句>[意]@直訳すると「言わないことはない」だが、誰かの言葉に反応して、「あんなことを言っているよ」「よく言うよねえ」などと周囲の人の相槌を求める、あるいは、周囲の人と笑いはやす際に使う。[例]ようちょらんのと、いわんこたあねえで(酔っていないんだって、よく言うよねえ)A「いわんこっちゃねえ」(言わないことではない)と混同されることが多い。
 ※三鷹・あんちゃん


いわんこっちゃねえ 
<句>[意]言わないことではない。[例]じゃあき、いうたじゃねえか、いわんこっちゃねえ(だから言ったじゃないか、言わないことではない)。

いわんじょくれ 
<句>[意]本来は「言わないでください」の意だが、人の物言いに対して用いられると「じょうだんじゃありません」「とんでもない」の意。[例]ことしゃ、えらいもうけたろお。いわんじょくれ(今年は随分もうけただろう。とんでもない)。

いん 
<名>[意]犬。子犬を「いんのこ」というほか、地名でも清川に「犬鳴」(いんなき)、緒方に「犬塚」(いんづか)がある。「ものもらい」は「犬の糞(いんのくそ)」という。[例]あらぁ、どこん、いんか(あれは、どこの犬だ)。
 ※清川・康晴さん

いんね <感>[意]問いかけに対する否定語。いいえ。[例]盗ったなぁ、われか。いんね(盗んだのはお前か。いいえ)。

いんねのこと <句>[意]とんでもない。「いいえのこと」に同じ。

いんのくそ 
<名>犬の糞[意]@目の縁に出来る吹き出物。「めいぼ(目疣)」に同じ。Aしばしば見かけるほど多いことをいう。大分には「佐藤(さとう)」、「後藤(ごとう)」の苗字が多く、そのことを表現するのに「佐藤、後藤、いんのくそ」という。
<参>「いぬの糞」はどこでも「多い物」として認識されていたらしく、江戸の多いものとして「火事に喧嘩に中っ腹、伊勢屋、稲荷にいぬの糞」といわれた。


いんのこ
 <句>[意]犬の子。奥豊後では「子犬」とは言わない。[例]こん、いんのこぁ、どっかりきたんじゃろうか(この子犬は、どこから来たのだろう)。

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