火災調査探偵団   Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters
Title:「建物・林野火災の損害評価」-17  転載を禁ず
B2-09   07’06/02 ⇒ 19'08/16      .   
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1,建物火災における「建物の評価」
 前「火災損害額の評価」-16に続いて
   損害評価は、基本的には原価を評価することと同じ理屈となる。
   建物(=不動産)の評価方法は、不動産取引において、大きく次の3つがある。
       1) 原価方式(不動産の再調達に要する原価に着目して価格又は賃料を求める方式)
       2) 収益方式(不動産から生み出される収益に着目して価格又は賃料を求める方式)
       3) 比較方式(AとBの2つの価格方式の中間の均等価格といわれ、実際の取引事例または賃貸借等の事例に着目して求める方式)、
   の3つがある。一般的には、3)が不動産評価とされるものとなっている。 
   その中で、消防では、固定資産評価と同様に、一般の市場での売買取引を考えないことから「原価方式」を採用している。
   この際、「火災損害額の評価」で示したように、再購入価格に減価償却する算出方法を取り入れており、復成式評価法ともよばれている。
    ここで、損害保険会社の損害鑑定人が行う火災損害額算出と消防の相違点は、損害保険会社では再建築費の算出方法として工事費積算法
  によっているが、消防の算出方法は建築時費用を申告とした単価をベースとしている。算出方法の相違はあるが、実際の損害額の開きは、算出
  方法の相違による全焼建物の損害額よりも、部分焼から半焼建物の場合の損害評価の差異が大きくなる。
   消防の損害額の算出をより保険会社に近づけるのであれば、部分焼建物の焼損箇所とその他損害箇所の取合い部分の評価であると言える。
2, 建物火災の損害額算出     転載を禁ず
 損害額算出にあたって
    火災報告取扱要領による建物の損害算出方法は、昭和43年に定められた。
    原則は、被災者からのり災申告を基準として、り災時の再建築価格に物価比率的な建築費指数比率を乗じて再建築時価格とし、耐用年数
    から損耗率を算出して再建築時価格に減じて、「時価」としている。
      年ごとの係数比率を日本不動産研究所と建設工業経営研究所の年次係数資料を用い、減価償却等の耐用年数を昭和43年当時の固定
     資産税評価基準を用いている。
    そして、申告が得られない場合は、固定資産税評価基準の評点基準表を用い、部分的に積み上げて算出しており、部分焼建物では
    昭和43年当時に作成された固定資産税のハンドブックから標準的建物の構成割合別費用による割合を出して「部分別構成割合表」として
    時価単価に乗じている。  ( ⇒ その後、固定資産税評価基準等は幾度も改正されているが、「火災報告取扱要領」の中で改正しょうとする
                         気運(やる気)は全く感じられない?)
    このため、火災報告取扱要領の損害額評価方法には、現在、次の問題点がある。
           ①建築費指数比に準耐火造建物がない。
           ②減価償却の係数表が現在の固定資産税の表と相違しており、区分や用途において建物の実勢に適合していない。
           ③評点表も現在の固定資産税の表と相違し、建築材料等において建物の実勢に適合していない。
           ④部分率構成割合比率表が木造の2つしかなく、耐火建物火災の損害額算出がまったくできない。        など。
 建物火災の損害害額算出
     損害額の算出は、火災報告取扱要領により、次の図式で算出する。

  損害評価額の算定の手順
  各表の資料 火災報告取扱要領
  別表第4 「損害額の算出基準」による  
  ①建築費指数は、外部機関の数値を引用して比率表
  にしている。 1表 建物建築費指数 による。
 
  ⇒この表により、1) 建築時の「再建築時単価」
   2) 昭和42年9月の建物の評点を算出し、評点別の耐用
   年数を明らかにする。この評点が、耐用年数の区分と
   され、2表建物の経過残率表に引き継がれる。

  ②経過年数表等は、固定資産税評価の評価基準別の
   耐用年数表を利用している。 
          2表 定額法による建物の経過残存率表
    表に入っていないが「5表 都道府県別補整指数」を適用。
 
 ③部分別の割合表は、固定資産課税標準見取りリスト
  から、該当しそうな建物、部材を選んで、全体額から部分別単価
  を割合率として乗じて算出する。
  基本的には、火災報告の計算方法を読み取れば、算出できることとなる。
  建築時年数が分からい場合や建築時単価も分からない場合は、「3表 木造建物単価面積のあたりの評点基準表」から部屋ごとに比率にして、
  足し上げて乗ずる。それも火災報告に示されている。 ( ⇒ 昭和42年当時のリストのため、適応する部材がなく、算出が難しい場合がある。)
   年数不明の場合は、残存率として「4表 木造建物の損耗度による残存率の基準表」を使用する。この場合、燃える前の建物の状況が把握で
  きないと、表の比率を適用しょうがない、と言う壁がある。
   通常、この火災報告での扱いとしては、木造建物で耐用年数が30年程度、耐火建物で100年程度が平均となる。
   ただ、市場の中古住宅販売では、木造15年、耐火60年とされることが多い。

   林野火災の損害額評価
 算出方法の原則
   林野火災の損害算出は、当初、質疑回答により消防庁から示されたのが、林野火災の算出は
  「立木の評価基準(昭54年農林水産省告示第165号)」並びに「森林国営保険立木評価要領の制定について(昭54年林野保第267号)」による、
  となっています。 しかし、この質疑回答も今(2019年)では、その諾否は不明ですから、算出方法について検討するすべは有りません。、
   その中身は、「新火災調査教本」第2巻損害調査編 に掲載されています。
   (この本の単価係数が、時代で変わっていることもあるので、そのへんは営林署等で確かめてください。)。
  この計算式は、伐採木の市場価格から、伐採木と焼損木の樹齢比等を按分し、その価格に伐採事業費を引いた価格に全体量を掛ける、
  形となる。問題は、市場価格が相対的に低く、積出し等伐採事業費が高いと、この面倒な数式を、樹木ごと場所別にコツコツ算出して結果、
  ほとんど適正な評価額が出てこない(低価額)といったことに行き当たります。

  林野火災は、極端に大きいケースと、小規模焼損のケースに別れることから、建物損害のように日常的に損害評価に関わっていることが
  少ないのが特徴です。このため、どちらかと言うと、極端に大きいケースでは、県の林野担当者・営林署・林野保険担当に聞いて「結果」だけ
  を算出結果とするケースと、小さいケースでは、林野所有者の損害申告書(中身は林野保険額評価又は市場価格そのもの)を取り扱ってい
  ます。(ただ、算出基準は、農林水産省等から示されているので、建前上は計算してます。)

   林野火災では、損害調査はまず、その場所と焼損範囲の特定が「たいへん」です。
  服装も、編上げ作業靴・マスク・手袋・25000又は地域地図・コンパス・カメラ・水筒等をリックに背負って、図番持って、山登りですから、
  道がないのが難儀で「空から、写真機で、調査して!」と言いたくなりますが、損害調査は、一も二にも、地道にコツコツ歩いて調べることが、
  原則です。今(2019年)スマホのアプリなどで、山の地図が取り込まれている物もありますので、役立つかもしれません。
  地図から、面積コンパス範囲の縁をなぞって、面積を算出します。まずは、場所と焼損範囲が特定できれば、もうほとんど
  調査終わったような感覚になりますが、地図から、立木所有者を割り出し、(これが、市街地近郊だと結構複雑)で、その後は立木の特定等
  の作業と損害評価となります。
   
 参考;
  ⑴ 自治省消防庁防災課編「火災報告取扱要領ハンドブック」東京法令出版
  ⑵ 佐藤三雄著「建物鑑定評価の実務と事例」住宅新報社   
  ⑶ 「建物評価と損害査定」新日本保険新聞社
  ⑷ 武田公夫著「不動産評価の知識」日本経済新聞社
  ⑸ 積算ポケット手帳 
  ⑹ 東京消防庁調査課監修「火災調査技術教本第4巻」東京防災指導 協会

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