火災調査探偵団                 Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters
Title:「火災時の焼損程度」-15
B2-19   09’10/10 ⇒19’08/16      .   
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1,焼損の程度は、焼損区分とリンク
    「火災損害の区分」で記載した事項を再掲します。
 
火災損害の区分
   火災損害の区分は、どのような区分に分かれているか。
   以前からあった「焼き損害」「消火損害」と言う区分に、新たに1995年(平成7)爆発損害を加えた。刑法改正により「焼燬(き)」が「焼損」と
   書き換えられたが、燃えていると言う現場状況から「焼き損害」の言葉はそのままとなった。
 ここで。全国と東京消防の違い。
   火災損害の区分は、次のようになっている。
                 [全国]                   [東京消防] 
        火災損害   ア 焼き損害         火災損害 ア 焼き損害  
                 イ 消火損害               イ その他の損害 (火災報告上は消火損害)
                 ウ 爆発損害                ウ 爆発損害
                 (エ 人的被害)               (エ 人的被害) 

    [全国] 火災報告取扱要領の解説
          「焼き損害」  (火災の火炎、高温等によって焼けた、こわれた、すすけた、変質したもの等の損害)
          「消火損害」  (火災の消火行動に付随して発生する水損、破損、汚損等のものの損害)
          「爆発損害」  (爆発現象の破壊作用によって発生した損害のうち、焼き損害、消火損害以外の損害))
   東京消防の用語の意味
         「焼き損害」は、火炎によって焼失、火炎による焼けた、火災の熱による炭化、溶融、破損、変質した物の損害。
         「その他の損害」は、「消火損害」と「火災による影響により生じたその他の損害」の合計。
                   「消火損害」は、消火のために受けた水損、破損、汚損等による物の損害。
                   「その他」は、火災時の搬出等による物の損害、煙の臭いによる商品等の物の損害、火災停電による
                            冷蔵施設等の溶解商品の損害等としている。
         「爆発損害」は、爆発現象により受けた破損等の物の損害。
 「焼き損害」とは。
    火災損害の区分は、全国統計では、「焼き損害」「消火損害」「爆発損害」に分けてとらえている。
    その区分に従って、火災報告取扱要領に従って、損害額評価を計上している。
    この「焼き損害」は、「火災の火炎、高温等による焼けた、壊れた、すすけた、変質したもの等の損害をいう。」としている。
     ここで「
すすけた」を焼き損害にとらえることが問題となる。
 「すすけた」は、どのようなことに関連するか  
   り災者の立場から見れば、実際に火災により、真っ黒に煤けているタンスや布団などは 「焼き損害」として見たほうが、分かりやすく
   親切である。しかし、「煤けた」状況を「焼き損害」に取り込むと必然的に、その部分の壁や天井は焼損面積に反映させなければなら
   ないこととなってしまう。
    用語の解説では、「すすけ」は焼き損害に計上され、火災の高熱等により起きた「焼き現象の一部」とされている。
    反面、「消火損害」と言うときには「消火のために受けた水濡れ損害」「消火中に生じた破損や汚損などの損害」しされる
    ことから、「消火活動による被害」が該当し、「すすけ」はその範囲には計上されない。
     つまり「焼き損害」とするほかないこととなる。
 
焼損表面積等に反映されない「焼き損害」の考え方
    つまり、「すすけ」や「匂い」など汚損とされる損害対象は、火災の火炎や高熱等によるものではないが、
    「火災により発生」した被害であることは、確かなこととして、広く「焼き損害」として捉える、言わば「火災による損害」となる。
     東京消防のように火炎や高熱の影響と、それ以外を分けて「その他の損害」として火災全般による損害を包み込んでしまう
     とわかりやすいが、現行の「火災報告取扱」は、火災の定義、耐火建物損害算出等全般にわたって、時代の遺物(レジェンド)化
     していることからも、解釈的な解釈を必要とする。
     つまり、
「焼き損害」の部分(天井、壁なども含め)ではあるが、すすけを焼損表面関等には算定しない、ことが便法と
     なる。
     例: 耐火建物の火元が2階で、その煙で3階の居室が煙で「すすけた」ケースの場合、焼損面積とは算定しないが、「焼き損害」
     した部屋(床面積部分を被災損害計上)とされる。
    
 [雑談]
     このホームページの「焼損程度の区分」で紹介している、2013年10月「有床診療所火災」で延べ682㎡で、焼損床面積282㎡でも
     全焼となっているのは、上記のようなすすけ等を「焼き損害」としたうえで、焼損面積に計上しないとした仕組みと言えそうだ。
     しかし、全焼の区分は、建物評価額に対する、焼き損害額が7割を超えるとする判定であり、耐火建物のような躯体構造が火害
     被害を受けにくい構造体では、損害額をどのように損出計上しても難しいと言える。(取り壊されることが前提なら支障ないが)
      もっとも、一般的に個別の火災の火災損害額が公表されることは「ない」ので、その点では、「すすけ」をどのように捉えても
     実害はない。

2, 現場の見分事例
 事例1 出火室から廊下、更に別の居室の焼損
  全室内が焼損している現場である。
 天井、壁、床の全てが、熱により強く影響をうけ、明らかに「焼け」を呈している。
 出火箇所の判定では、この場合であっても、わずかな違いを差異ととらえ、観察して、
 出火の判定に結びつける見分する。
 損害調査では、全体の室内を「焼損床面積」となる。
 この部屋から、廊下に沿って見ると、床から30cm以上の高からは「焼け」があるが、
 床面附近には、焼けの変色は見られない。消防活動時の汚損となっている。
 このように、出火室から離れると、床面の「焼け」は見られないことが多く、出火箇所
 の判定として、それらを正確に記述する。
 さらに、奥を見ると、火点室から遠ざかるに従って、「焼け」は弱い。
 (表現としては「焼損は浅い状態で見分される。」となる)
 この部分は「焼損床面積」の対象となる。
 さらに、奥に向かって、見分を進める。
 玄関に近い所では、煙による黒く変色した壁は、明瞭な色変色があり、この天井高さ
 の半分の所で「中性帯」が形成されている
  天井は、明らかに火炎の影響を受けて、「焼損」と判断されるので、「焼損表面積」となり
 さらに、廊下の壁も過半以上が「焼損した」と見られることから、この場合は廊下全体を
 「焼損床面積」で計上できる。この場合、廊下の壁は「すすけ」ではなく、高熱による熱影響
 と見られる。
 分かりやすく、廊下に面した一枚のドアを例にとる。
 天井から40cmのラインで、板材が「焼けている」のが見られる。およそ500℃程度
 の熱影響と想定される。 さらにその下の部分で「板材の表面の樹脂材が熱で変色」
 しているのが分かる。たぶん200℃程度にはなったのではと思われ、修復は不可能で
 ここまでは「焼き損害」箇所である。
 そして、その下に「煤の付着」の部分となる。つまり、タオルなどで拭き取ると元通りに
 なる箇所である。拭き取っれない「色変色」であれば高温による熱影響であるが、拭き
 取れる範囲が出て来るとそこからは「すすけ」となる。
  熱変色部と煤け部の境界は微妙で、その取扱により「焼損部分」の範囲は変わって
 くる。見方によっては、「煤の付着」だけの部分も「熱による」と言えなくもないが、やはり
 「燃えていない」部分は、「燃えていない」と明確な判断が必要で、曖昧に全て 「火災に
 よる焼け損害」とするのは、「損害調査」とはならないと言える。
 
  居室の焼損状況。
  廊下のドアが開いていたため、室内に熱気とく濃煙が進入して汚損している。
  黒く汚損し匂いも強いので、「焼損した」部屋として考えたくもなるが、天井以外は、
  受熱影響はあまりなく、壁は煤の付着と認められる(拭うて取り除ける)。
  天井の「焼損表面積」のみを計上する。
 事例2 ダイニングキッチン
 マンションのダイニングキッチン「天ぷら油火災」である。
 台所キッチンのガステーブル周辺が強く「焼け」ている。特に、「換気扇フード」が最も強く
 焼損し、これらは設備品として「損害」計上される。
 建物としては、天井材が該当するかが、建築条例上台所天井は、不燃材等仕上げされて
 おり、厳密(化学的)には「燃えてはいない」が、熱影響により石膏ボードは影響受けている。
 内壁も、燃えてはいないタイル壁であり、燃えてはいないボード仕上げの天井を「焼損表面
 積」として算定する。 火災保険の支払い査定上も消防のり災証明で、「焼き損害」として、
 「焼損表面積」部分をできるだけ明らかにしておく必要がある。
 天井全体が30㎡あるうちの「10㎡焼損」としても、保険上は全体が、り災の査定対象となり、
 消防的に厳密な対応をする。
 キッチンと反対側のダイニング部の壁の焼損状況。
 天井も含めて、壁も濃煙による「すすけ」の被害が認められる。しかし「焼き損害」として、見ら
 れる受熱変化はない。 天井に濃煙影響を受けると、火災調査時に、家具や床面等の表面に
 「煤の付着」がはっきり認められるが、この現場ではテーブル上にそれらの影響は見られなか
 った。
  受熱の影響は「り災物件」により様々であるが、建物の天井・壁などの建築材料と照明器具
  や家具等とは、意味が異なる。家具等はその一つひとつで熱影響があれば「焼き損害」として
  とらえるが、建物は火炎の熱影響の程度を見極めて「焼き損害」として、「焼損床面積」または
 「焼損表面積」とする。
 損害調査の重要性を認識した
   「損害調査」は、原因調査のように複数人が関わる事案と違い、現場で個人的な判断要素が入りやすい業務となっている。
   り災者の立場を意識しすぎて、およそ「焼き損害」と言えない箇所までも「焼損面積(床面積・表面積)」としたり、逆に、耐火建物の部材から
   「燃えていない」のでとして、「焼損面積」とせずに単に「すすけた」とする場合がある。
   これは、「焼け」の見方が不十分で、それぞれの部材に対する観察が曖昧なことと、損害調査業務の意味を理解していないことから起こります。

   消防として「焼き損害」で扱っても、「焼損面積」に入れなくても、火災保険査定上では十分に認めれます。そのことの実態を知らないで、「焼損
   面積」に組み込むことは、間違いです。火災保険の査定は、「損害鑑定人」等の火災時のり災箇所の修復を含めた再建築価格を算定してから
   減価償却しており、「修復」的意味合いを査定上で勘案している。なまじ、消防調査でそれらの補修までも見て「焼損面積」を考える必要はない、
   と言える。 
     実態上、保険支払い額と消防の火災損害評価額は、全焼火災ではほとんど変わりなく、部分焼火災で隔たりがあり、半焼火災では大きく
   異なる。しかし、これは算出の式を見ればわかるとおり、査定上の考え方が違うことよる(単位建築時評価額に単純に焼損床面積を乗じる消防
    方式は、実態としての建物全体の損害評価としては半焼火災時には大きく影響する。)
  現在、「火災」の架空請求による詐欺まがいの行為を防ぐ意味から、火災保険会社は「火災」の発生の都度、消防のり災証明を必要としています。
  り災証明では、「焼けた部分(焼損面積)」および水損箇所等の明示をして、火災保険制度の善良な維持を担う役割があります。
  「焼けている」箇所を確実に把握し、これらが、「現場見分調書」として記載され、損害査定される必要があります。

   参考: 東京消防庁「新火災調査教本」第2巻 損害調査編
       「火災報告取扱要領ハンドブック」
       日本建築学会「建物の火害診断および補修・補強方法」
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