石油ストーブ爆発火災の裁判<(火災調査と裁判) <火災調査の話題 <ホーム:「火災調査探偵団」
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H5-01 07.11.02
先日(07年11月23日午後3時)、江戸川区でプロパンガスによる爆発火災が発生し、1名の死者が出た。
昔は、ガス爆発は多くあったが、最近は、マイコンメータとガスカラン(ガスの吐出口金)ボールコック安全弁、
そして、天然ガスへの移行により、激減した。
そんな記事に接した時に、資料ダンボールを整理していたら、ある爆発火災の裁判資料が出てきたので紹介
します。
ガス爆発などの裁判 |
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裁判の概要 |
この民事裁判となった爆発の要因は、石油ストーブから排出された灯油ミストによる爆発火災。 使用者が、「当該ストーブは、普段から不調で、当日の朝7時頃、約2時間使用したが、目が痛くなるぼとの臭いがして、 9時頃、スイッチをきり、室内を換気した。その時、ストーブの外枠が異常に熱かった。」 「その後、外出して、10時頃に帰宅したが、まだ、臭っており、ストーブの外枠が熱を持っていたので、電器店に電話を していたら、ドカーンと爆発して吹き飛ばされた。 その時、部屋全体が火に包まれ、腰から上が燃えていた。」 と言っている。 近隣者の供述でも、「爆発音がして、行ってみると、室内が燃えていた」と言っており、爆発が発生したことに争いがない。 まず、台所のガステーブル・ガス湯沸器からの器具からのガス漏れについては、漏れても量的に爆発限界に達しないし、 また、配管は爆発後のガス漏れ検査で異常がなかったことが、調べられている、こと、台所の焼損状況が写真でも弱く、 A市消防の火災調査でも、プロパンガスの漏れによる爆破を否定している。 しかし、裁判所の判決では、プロパンガスからの“爆発は否定しきれない”となっているが、その見解はちょっと?だと、 言える。 となると、最も焼損の強い灯油ストーブが置かれた部屋の居間が“出火室”となり、火災原因として石油ストーブが 取り上げ上げられる。 ストーブの焼損の写真では、全面と合わせて、壁に面している背部も、燃焼筒部のあたりがかなり焼損している。 他の原因による火災だと、延焼過程から、ストーブ背部の焼損は“強くない”から、一見すると石油ストーブが火源と して疑いがもたれる。しかし、“疑い”だけでは、火災原因の判定とはなりえない。 しかも、当該石油ストーブが、警察に証拠して押収されて、その後、機器内部を見分した事実がなく、火災現場の火災 調査が十分に詰められたと言えるだけの見分内容や写真がない。このため、訴訟鑑定人書面やB社メーカ実験結果 書などは、いずれも、現場の詳細部分が詰められないまま争っており、争点の意見がかみ合わないまま、終始し、結 果として、判決では、「爆発原因がわからない、以上は、争えない。」となったようだ。 [焼損が強い、石油ストーブ] 特に、外出後には、10℃前後の室温で、石油ストーブにより噴出する灯油ミストが爆発限界を越えて、床面に滞留し、 着火するのかと、の爆発要因の立脚点。また、9時に電気スイッチを切っていること、ストーブから万一噴出したとして も安全装置により噴出が継続することが起こり得ない、また、電源スイッチが切られて1時間も経って、火源することは 合理的説明に欠ける。 ここで、灯油ミストの着火と灯油ガスの着火についての議論では、灯油ガスが爆発に至るまでの間、噴出するのか、灯 油ミストが10℃程度の低温でミスト状態で滞留し続けられるのか、灯油ガスにおける爆発限界の「温度」と灯油ミストに よる違いによって「室温」を無視しえるのか、ミスト爆発だとしても、それらの着火現象をどのように想起するのか、など、 「不明」な点が多い現場となった。つまり、「裏付けが得られない」状況だと言える。 |
裁判の資料を別の視点で見て、爆発原因を想定してみると |
さて、この裁判資料を、消防の火災調査書類から再度見てみる。 まず、本人の供述に齟齬がある。 「9時にスイッチを切った。外出して、1時間して、帰ったが、まだ、臭いがしていて、ストーブの外枠が熱かった、そこで、 電器店に電話していたら爆発した。」と述べている。 消防署調査書類の初期の供述には、「30分して帰宅、ストーブを点火しょうとして、弄って(いじって)いた。点火しない ので、電話していたら爆発した。」と述べている。(本H.P「火災調査の話題」⇒「質問の取り方」参照) また、近隣者が見た状況の中に、「床面のジュウタンが燃えていて、消せそうだった。」と言っており、本人も爆発後、 ストーブの脇の出入り口から外に避難している。 発災地域が、関東以北だと、ストーブはポット式の据え置き型なので、壊れると修理依頼に電器店にTelするが、温かい 地方では、石油ストーブの壊れたことで、電器店にTelしてまで修理来訪を依頼することが「マレ」だ。とすると。 外出から帰って、寒いので、消してあった石油ストーブに点火操作をしたのではないか、それも繰り返し行なった。 察すると、この弄った20分間の中身は、⇒ 点火、燃焼して、外枠だけは「熱く」くなるが、本体から、熱風が出てこないで、 すぐ、消えてしまう、再度、繰り返す、で、また、同様に、点火するが、熱風がでてこない。そこで、点火しないので、頭 に来て、一般的には行なわない電器店への修理依頼のTelをしたのではないか、と思える。とすると。 散々、弄りまして、その直後に、爆発したことになり、「発火源」は点火操作中の「石油ストーブの点火装置」となる。 その裏付けは、焼損している「石油ストーブ」の背面の焼損状況である。可燃性ガスが滞留する現場で、火源となった 「石油ストーブ」の点火装置が作動して、その付近から「火炎形成」が起きると、“焼け”は強いのが特徴だ。 これで、火源が特定できた。 次に、「外枠が熱くなった」と言っている。 ガス化石油ストーブの構造上から、稼働の仕組みは、余熱装置がしばらく働き 灯油ミスト・ガスの噴出し、燃焼雰囲気となった状態のところで、点火装置が働いて、燃焼し、その後、背部の送気ファンが 回って、温かい風がでる、のが一般的なシーケンスだ。 帰宅後の操作時には、何らかの原因で送気ファンが動かなくなっ ていた、ために、ストーブの燃焼筒内で、点火・燃焼は繰り返すため、外枠はかなり「熱く」なってくるが、送気ファンが回ら ないと、安全回路によりストーブは「OFF」となる。 再三にわたり、これを繰り返すうちに、多量の未燃ガスが形成され、 遅れ点火で、灯油ミストとガスが爆発した。 これで、かなりの量の灯油ミストの発生経過と「爆発着火物」が特定される。 次に、「7時に点火して2時間したら、臭い、目が痛くなる、ビニールの焦げる臭い、」と話している。そして、前日、給油の継 ぎ足しをしていることから、それ以前には、不調(多分、点火ミス)だったとしても使用できていたことから、「給油」時の継ぎ 足しで、灯油以外の「アルコール又はガソリン」を混入させたために、熱量がオーバして、外枠が触れないほどに過度の 温度に燃焼筒がなり、送気ファンの配線被覆を損傷させた。 異常が極限となった2時間後には、送気ファンも動かない状態となっていた。(⇒誤給油のアルコールは、この建物が医療 関係に関する作業場として使用されていることから、「あったのではないか?」と勝手な想定をした。) また、この中で着火して、「2時間」してから、過度の異常状態となっているが、灯油ストーブのカトーリッジタンクに誤給油 して、使用した際の一般的な火災事例では、異常が発しやすい経過時間が「2時間」程度が多いのである。 これで、「目の痛みと外枠の過熱などの異常」が、前日の給油継ぎ足し時に「誤給油」したことで説明される。 次に、「外出から帰ってきても、臭かった」「床ジュウタンの燃焼」は、爆発火災では、ガス濃度が高い箇所に「炎」が残るが 床面の素材が同時に燃えることは「マレ」だ。とすると。 誤給油による混合燃料により、余熱噴射ノズルからガス化しきれなかった燃料漏れがあり、この「油たれ」がストーブ付近 に漏れていたために、外出から変えるとスイッチを切っているストーブで「臭い」があり、爆発とほぼ同時に床面に着火・燃 焼したものと思われる。 なお、アルコール等が混入した灯油は、一般的にはカトーリッジタンク内のそれは「灯油」としか区別がつかない。 |
その他 |
このように、特に「爆発」では、火災原因の究明は、極めて難しく、理論的な視点も必要ではあるが、その理論を十分に説 明できる「現場見分状況」が要求される。つまり、例えば、ガス配管などのハズレが、爆発前からあって、ここから「漏れ」た ことが原因なのか、爆発による衝撃で二次的に、配管がハズレものであり、爆発前はハズレていなかった。と見るのか、 「現場見分」の客観性からも、これらのことが爆発現場では強く「要求」される。 ただ、「爆発火災」は、大変興味ある現場だ。 なぜなら、漏洩した可燃性蒸気と発火源が位置的に異なることが多く、漏洩個所と爆心個所が違うために、結果としての 現場状況が複雑な様相を呈する。都市ガス類、危険物ベーパ、危険物品の反応など、爆発には多様性があり、興味ある 火災現場対象である。 本裁判では、仮説のような「爆発原因」を作ってみたが、行為者が「ホントのことを話し」たのかが、争点のカギのように 思える。とらえ方によっては、行為者に過半の責任があるようだが、行為者は誤給油にも気づかず、また、外出帰宅後、 石油ストーブを弄ったことも、あまり意識していないで、「爆発と火災」ばかりに気が向いていることになる。 なお、この現場は「爆発」とは言え、焼損状態からは建物被害として、ほとんど爆発の威力は見られず、雨戸が隣りに 飛んだぐらいで、多分、石油ストーブ付近近傍で「ボント」といった程度と見られる。爆発程度は、丁度、石油ストーブの 上に、100円ライターを置いておいて、ライターのガスが出て引火爆発するような被害規模と言える。(無茶な実験は しないで下さいネ。消防学校火災調査課程などで実験しくれると思う。) 反面、メーカのM社もガス化石油ストーブの機構上から「外枠が熱くなる」事象を前提としないで、実験を繰り返して、 その安全性を強調している面もある。 まあ、裁判なので、お互いさまみたいなところがあるように、思えた。 で、 この機種の石油ガス化ストーブは25年以上経て、すっかり変わっているので、この裁判でのことは、将来、参考にもなり そうにないです。ハイ。 参考] 昔「新燃料」と言う名称で、灯油にアルコールを混ぜた節税型の「燃料」が売られた。 石油ストーブで使用すると、一見、正常に燃焼するが、次第に、配管のパッキン等から燃料漏れを起こし、火災が 発生することが判明して、売られなくなった。 今、流行りのバイオ燃料も、ガソリンにアルコールを5〜10%混ぜる。 別に、この程度の混合比だと、エンジンには支障とは言えないが、配管に使用しているゴム製品などのパッキン類が、 耐アルコール製でないと、次第に「漏れ事故」を起こし、火災につながる要因がある。ために、バイオ燃料使用の車両 は、その種の検査を受けている車両に限られる。 このように、「アルコール」を誤って、「混入させたのでは」と言う、上記の仮説は、火災事故としては起こりえることだ と思う。 |