280話 パリから来た車椅子の女刑事

(注:ストーリーが判らないように解説していますが、ネタバレの内容は含んでいます)

<この作品には、、、>
     予告編が本編と違うシーンが幾つかある。−→ 「6.予告編に残された、別の展開」 を参照して下さい。


<予告編のナレーション>

ハードボイルドGメン75 次の活躍は、


パリから帰国した女刑事と、出迎えの女性Gメン2人を狙う犯人と、
撃ちあいの最中、女性Gメンが誤って女刑事の足を傷つけた。

傷心の女Gメンをかばい、激励する女刑事を仇と狙う、ロンドン強盗事件の
仲間が日本に潜入。
インターポール捜査官の遺族の家で、殺し屋と女性2人の壮絶な闘い。

次は、「帰って来た女刑事シリーズ Part2
                パリから来た車椅子の女刑事」

    <監督:山口和彦、 脚本:高久進>

1.作品について

「帰って来た女刑事シリーズ」の第2弾。
3代目の女刑事、津川蛍子警部補が再登場する。
  このシリーズについては、156.帰って来た女刑事シリーズに記載。

夏木マリさん演ずる津川警部補が、半年ぶりに帰って来た貴重な作品で、
津川警部補ファンにとって、思いもかけないプレゼントとなった。
  (注:先週は速水刑事だったので、次回は響刑事を予想された方も多かったの
   ではと思うが、響刑事は帰ってこなかった)


吹雪刑事と津川警部補の出演頻度は、ほぼ同程度の2人主役の作品。

杏子は引き立て役のため、何度かミスをする場面があるが、吹雪刑事の印象も強い作品。

シカゴのギャング兄弟たちの復讐劇で、2人の女刑事だけで立ち向かう。

津川警部補はレギュラー時代とはイメージが違い、プレッシャーにも強いハードボイルドな女刑事になっていて、さらにゲストゆえに、カッコイイ役回りを用意されており、射撃が上手なシーンもある。
車椅子という設定により、津川警部補は苦手な格闘からは開放されている。

   注:DVDでも発売されている作品なので、少し詳細に書くことにする。


2.シカゴのギャング一家

ギャングのロガート一家。 兄サリバン(画像左)、弟ジャック(画像右)。昔からのギャング一家で、最初に2人の女刑事と対決するのは三男のマリオ。

元々は4人兄弟だったが今は2人になり、復讐のため津川・吹雪の2人は狙われる。2人とも大男で乱暴で、人殺しをなんとも思わない生まれたときから鍛えられた、筋金入りのギャングたち。


ラストで坂の下に現れた兄サリバンは、まるで伝説から出てきた怪人か、スケアクロウのようで、その全身からは異様な雰囲気を漂わせている。


3.ウィリアム捜査官と家族

 パリで、蛍子はウィリアム捜査官とともに、ギャング一味を捕えようとしていた。
 ウィリアム捜査官はジムを射殺し、サリバンの片目を打ち、ジャックの片手を
 撃ち抜く。かなりの腕利きだがここで殉職する。
 津川蛍子は、その形見を家族の光代とマイケルに届けるため訪問する。
 マイケルは将来の夢を杏子に語る。

 ギャングが来たとき、マイケルは「鏡」で吹雪・津川に知らせるという趣向がある。
   (注:そういえば294話香港カラテ編では「伝書鳩」で連絡している)

 舞台の洋館は、264話「悪魔の棲む家」の舞台になった洋館と同じである。


4.津川警部補の活躍

帰って来た2人の女刑事たちは、ともにクールでタフな女刑事になっており、
ハードボイルドな女刑事になっている。
特に、この280話の津川警部補は、レギュラー時代とは別人ではないかと思うほどである。

夏木マリさんは、津川警部補が降板されてから僅か半年ぶりなのだが、どことなく顔が違っている。期間が短いのでメーキャップの違いかと思うが、貫禄をつけるためなのだろうか?

吹雪刑事が珍しくミスを犯して落ち込むことになり、それを津川警部補が立ち直らせようと努力する姿が描かれる。
津川蛍子は、傷心の杏子を立ち直らせるために、黒木警視正に杏子を預ら
せてもらうよう依頼する。

1)三男 マリオ・ローガンの襲撃

吹雪刑事の出迎えを受けた津川警部補らは、マリオの襲撃を受ける。
追跡した後の銃撃戦で、津川警部補がマリオを射殺するが、その直後に吹雪刑事の誤射事件が発生する。

2)誤射と、津川警部補のミス

吹雪刑事が誤射する場面では、津川警部補も"大きなミス"を犯しているが、番組の中で語られることがなかった。
それなのに、全面的に杏子の過失として描かれているのはおかしい。事実のみを述べたいと思う。

  a.津川警部補は、犯人が倒れた姿を見ているはずで、吹雪刑事に声を掛けなければならない。

  b.津川警部補は犯人を射殺したのに、なぜ再び射撃の構えをしたのか?
       あれでは、まるで自分が犯人のように見せている。

  c.津川警部補の射撃の方向の疑問
       犯人への方向ではなく、なぜ吹雪刑事の方に向いて、いまにも発砲しようとしたのか?
       吹雪刑事がどのあたりにいたかは、知っているはずである。

この不審な行動は 「謎」 である。
誤射は杏子の大きな非であるが、津川警部補は自分に非があると "全く思っていない" のは不思議である。

<射殺を回避>
  あの近距離で、射撃の名手の吹雪刑事なら簡単に射殺できる。
  吹雪杏子は射撃が上手いがゆえに、足を狙って撃ったために、
  津川警部補は、足の負傷だけで済み、命拾いしている。
     逆の立場なら、津川警部補は相手を射殺しようするかも知れない。


3)車椅子での突撃

津川警部補がギャングに向かって、車椅子で突進するシーン。
ギャングからの銃撃をもろともせずに、決死の形相で突進する津川警部補。
レギュラー時代とは全く別の強い女になっての凄まじい突進は、この作品の大きな見せ場である。

<しかし、これは荒唐無稽である>
  射撃は、標的が 「右や左に」 に動くと当てにくい。 しかし車椅子は、左右への動きはほとんど出来ない。
  真一文字に突撃し、ギャングからは標的が段々と大きくなる。
  サリバンは計10発の弾丸を発射している。当たらないはずがない。
  どうみても"殉職覚悟”の自殺行為としか思えない。

このシーンを臨場感溢れる劇的な場面にした、山口和彦監督らの演出はさすがである。
しかし津川警部補のアクションシーンとして、大きな見せ場ではあるが無謀すぎる。他の方法もあったと思う。

<本来なら>
  2人は弟ジャックの拳銃を奪っているはずだから、その拳銃で対抗
  するはずである。
  その時は、吹雪刑事の射撃の腕ならサリバンに勝てるはずである。

4)予告編でのピンチについて
   不思議にも予告編には、本編には無い、津川警部補のピンチがある。
   兄サリバンが車椅子を差し上げるシーンや、弟ジャックに追い詰められ、
   殴られるシーンなどである。  (右の画像)
                 ↓
   これについては、「6.予告編に残された、別の展開」 を参照して下さい。



5.吹雪刑事の活躍

彼女は、先週以上にゲストの引き立て役の色彩が強く、普通ならやらない初歩的なミスを何度もやるし、いつものタフでハードボイルド的な女刑事ではなく、精神面も弱く描かれている。その為に杏子は落ち込み、一時は辞職を決意する。

相手の外人とは吹雪杏子が闘ったが、身長が違いすぎて苦戦を強いられる。
  吹雪刑事の格闘は、別ページ112.吹雪刑事の格闘についてを参照して下さい。

なお、誤射の場面は 「4.津川警部補の活躍」 の項目で。


1)「辞職願」の文字

あの文字はスタッフの文字だろう。 中島はるみの文字とは全然違う。
Gメン前期の作品(話数は覚えていない)での、「辞職願」も良く似た文字だった。


2)山中湖の湖畔にて

沈み込む吹雪刑事。
彼女が動揺したり落ち込んむ作品は少ないが、今回は本当に落ち込んでしまう。
しょんぼりと湖岸を歩く杏子の姿が可愛くて印象的。

マイケルがボールを蹴ってくるあたりから、少しずつ変わってくる。
殺伐としたドラマの中で、吹雪杏子が光代の息子マイケルと心を通わせ、徐々に元気を取り戻していく、この当たりの演出は抜群。僅かの時間で杏子の変化を上手く描いている。


3)弟のジャックと

異変を鏡の反射光で察知した2人は、杏子が見に行くことになる。
そこへ、待ち構えていた弟のジャックが襲い掛かる。

杏子は心理的に不利だが、殴りかかる男の腕をつかみ、得意の合気道
ジャックを投げ飛ばす。


<吹雪刑事の失敗>                                   ↑ 吹雪刑事は、ジャックを投げ飛ばす
しかし、 直後に杏子はミスを犯す。 下が 「柔らかい土」 でコンクリートや石
ではないのに、投げ飛ばした後の止めを怠った。 通り過ぎようとして足を
払われ、 起きた瞬間のパンチを避けられず、 形勢逆転を許してしまう。
    (吹雪杏子はカラテ使いのパンチもかわしているから、 普通なら避けるはず)
                                                   
体力勝負になれば杏子に勝ち目はなく、 連れ去られてしまう。


4)兄のサリバンと

吹雪杏子は家に連れ込まれたが、力強い眼光でサリバンの隙を窺う。(左の画像)
ジャックに体力負けしたが、杏子の戦闘意欲はいささかも衰えていない。
しかしサリバンは身長190cm程度はある。杏子とは体格差が大きすぎる。

<自重すべきだが>
  杏子とは体格差が大き過ぎるうえに、男女のパワーの差も大きい。
  さらに部屋の中の相手は2人で、喧嘩慣れしたギャングたち。
  吹雪杏子は強いのだが、あまりにも不利な要素が多くて、勝てそうにない。

杏子は家族を守るため、身の危険を顧みない、勇敢な行動をとる。
一発逆転を狙って拳銃を持つサリバンに挑んだが、杏子は自重すべきだった。

   (注:本編はカットされているが、吹雪刑事はサリバンと二度目の対決をしている。 → 最下項 「6.」 で参照下さい)

5)兄が部屋から出た後の、弟の行動

兄サリバンが出たあと、弟ジャックは思いがけない行動をとる。
彼は、吹雪刑事を後ろから殴りつけた。

なぜ殴ったのか? 何とか吹雪刑事には勝ったが、彼女に完璧に投げられ、杏子との "1対1の対戦" には不安を感じたからだろう。−−これ以外には考えられない。  吹雪杏子が完全に失神するまで殴った。

それにしても、男が女を"後ろから殴る"とは、、、例え相手が刑事であっても。この行動を、予測できた人はいないだろう。
杏子も、ジャックのこの行動は予測できず、殴られてしまう。
                                                   吹雪刑事は意識を失った
但し、弟ジャックの判断そのものは、正しかったと思う。
もし彼が何もしなかったら、吹雪刑事は必ず頃あいをみて、弟に戦いを挑んだ
はずである。−−弟にとって、杏子はじつに危険な女なのである。
ファンとしては、もう一度真っ向勝負で戦うシーンを見たかったし、もしそうなったら、
部屋の床の方が固いから、吹雪刑事は弟ジャックを投げ飛ばして、勝つ可能性はあると思う。


6)意識回復

意識を取り戻したその直後に、杏子はギャングとの再度の対決を決意する。
吹雪杏子は、殴られたり ・ 気絶したりしたが、闘争心は全く衰えていない。

このあたりの、タフで積極的な行動力は、本来の吹雪刑事そのものである。
津川警部補を守るため、吹雪刑事は光代とマイケルに、鍵を掛けて出ないように指示すると同時に、駆け出して行った。 


7)林の中で

ギャングが近くにいるのだから、本来の杏子なら、津川警部補を呼ぶはずもない
のだが、彼女は又も大きな声で叫んでいる。
このあり得ないミスのあと、津川警部補が杏子を救う場面が用意されている。もう少し筋を工夫できたとは思うが。

しかし、そのあとの吹雪刑事は、襲われていた津川警部補を助ける。
蛍子を襲っていたジャックの腕をつかんで完璧に叩きつけた。 ジャックは完全に宙を舞っており、最初のときより遥かにダメージが大きい。
                                      (右の画像)
さらに津川警部補と協力して弟を気絶させる。

<弟なら>                                         杏子は再度、弟ジャックを叩きつける
弟のジャックも大柄だが、吹雪刑事はミスをしなければ、弟には真っ向勝負で勝てる可能性が充分にある。
上記5)に書いたが、ジャックが吹雪刑事を恐れたのを見てもわかる。

8)クライマックスの坂

坂の下に現れたサリバンに向かおうとする津川警部補を、必死に引き止める杏子の行動は適切で、
あとで考えても、杏子の行動はあれ以外には考えられない。
結果良しにはなったものの、もし津川警部補が射殺されたり重症を受けたら、吹雪刑事はどうしていたのだろうか?


6.予告編に残された、別の展開

実は "終盤" については、 本編とは "まるで違う展開" が撮影されており、 それが予告編に残されている。
そして、 吹雪刑事が強敵の兄のサリバンと、 2度目の対決をするシーンも撮影されており、津川警部補を救出するための、吹雪杏子の命を懸けた闘いが描かれている。
本編には採用されなかったこのシーンを、 さりげなく予告編に残しているのは、 撮影したスタッフたちの執念だろう。


<元のストーリーを、映像に "推測" を交えて解説したい>
   どこから本編と違っているのか?
      "杏子は意識を回復した直後、 津川警部補を救出するために、 館を飛び出していった。"
   この場面の、後だと思う。 −− ここ以外には考えられない。

直前の場面
   吹雪刑事が、林の中の津川警部補を見つけて走り寄る。

−− 項目No.毎の画像を、最下段に掲載しました

1) ギャングたちの追跡
   その時、ギャングの兄弟二人が現れる。 そして、2人の女刑事を発見する。
   ギャングたちは猛然と走りだした。

2) 逃 走
   杏子だけなら、 彼女は足が速いから逃げられるとしても、 それでは、 津川蛍子警部補が殺されてしまう。
   ギャングが狙っているのは蛍子だ。 吹雪刑事は、 津川警部補の車椅子を押して、 全力で駆け出した。
   杏子は懸命に走る。 −−− しかし、 車椅子を押しては速くは走れない。

3) 車椅子を差し上げるサリバン
   キャング兄弟が2人に迫り、 ついに追いつかれる。
   サリバンは、 津川警部補から車椅子を奪って、頭上に差し上げる。−−恐らく、放り投げただろうと思う
                            (車椅子を奪われ、津川警部補は逃げられなくなった)
4) 津川警部補を襲うジャック
   ジャックが襲いかかる。 津川警部補は恐怖を浮かべて後退し、 抵抗することなく殴られて倒れる。

5) 野原で杏子を襲うサリバン
   サリバンが吹雪刑事に襲いかかる。
        −− 予告編のこの男を、本編と同じく弟のジャックだと、2010年5月まで思っていた。
   野原で、吹雪杏子に襲いかかっているのは兄のサリバンだ!
   大男 サリバンのパワーに、 負けそうになる杏子。

6) 渾身の合気道
   しかし、ここで吹雪刑事の合気道が炸裂する。
   2度目の対決で、 杏子はついにサリバンを投げ飛ばした。 大男は宙を舞って完璧に叩きつけられた!
                                   (服装と、片目の眼帯から兄のサリバンと判明する)
   サリバンは大柄で強い。
   吹雪杏子が強くてもこのサリバンには勝てそうにないと思っていたが、 見事に雪辱した。
   サリバンは、この女が弟を投げ飛ばした強い女刑事だと、知っていたが敗れた。

  ・ 予告編は、「弟のジャック」 と 「兄のサリバン」 の2人を投げ飛ばしたシーンを、巧みに組み合わせて
    あるが、良く見ると違いが判明する。  −− 投げ飛ばすシーンの背景も全然違っている。

−− 本編カット分で、予告編に挿入されているのは以上である −−

7) 以後の展開?
   その後の展開は、映像がないため不明だが、独断と偏見で推測した。

  A案 吹雪刑事が弟も投げ飛ばして、津川警部補を助ける。
       1) 津川警部補は、車椅子を奪われたうえに殴られて倒れており、自力では抵抗も逃亡も出来ない。
       2) ジャックの時よりも、 サリバンは完璧に叩きつけられており、 ダメージが大きくすぐには立ち上が
         れない。

  B案 杏子が、次にジャックと対決している最中に、 Gメンたちが駆けつけて救出する。

  C案 ダメージを受けながらも立ち上がったサリバンと、ジャックの二人相手に苦戦する吹雪刑事を、Gメンが
      駆けつけて救出する。

  D案 1) 津川警部補がギャングに襲われ、サリバンに車椅子を奪われ、ジャックに殴られる。
      2) 吹雪刑事が救援に駆けつけ、格闘のすえサリバンを投げ飛ばす。
      3) 杏子は、津川警部補の車椅子を押して走りだす。
      4) ギャングたちが追いかける。 杏子は懸命に走るが差がつまって来る。−−Gメンたちが駆けつける。

  ( いずれにしろ、本編のような "車椅子で突進する" という展開にはならないだろう。 −− 車椅子は奪われているし )

8) なぜ本編には、 撮影済のこの展開が、採用されなかったのか?
   今回の作品は津川警部補をゲストに迎えているのに、この展開では津川警部補の活躍場面がほとんど無い。
   吹雪刑事が活躍して終わりでは、 テーマに反するから駄目だとなったのではないだろうか?

   スタッフたちも、 それを充分に承知していたと思う。 それにも拘わらず、 吹雪刑事の活躍が撮影されていた。
   そして、本編に採用されなかったこの展開を、 予告編に巧妙に組み合わせて後世に残した。
   吹雪刑事のファン ・ 中島はるみのファンとしては、 是非こちらの展開を見たかったのだが。

−−本編の画像−−

      パリの宝石商にて            杏子は津川警部補を出迎える           サリバンと向き合う


  侵入したギャングに吹雪刑事は           山中湖畔にて               ギャングの長男 サリバン


−−予告編だけに採用された、別の展開−−

   1.ギャング兄弟が2人を追う       2.吹雪らの背後に、ギャングが迫る    3.サリバンが、車椅子を頭上に

  4.ジャックに殴られる寸前の津川     5.杏子が、サリバンと2度目の対決     6.吹雪が、サリバンを投げ飛ばす


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