282話 肉体のない女が呼んでいる

(注:ストーリーが判らないように解説していますが、ネタバレの内容は含んでいます)

<予告編のナレーション>

ハードボイルドGメン75 次の活躍は、

女性Gメンに霊魂がのり移り、導いた古い館で次々に起こる怪奇な現象。
交通事故で夫を失った女の霊が、霊媒師を通して訴えた3つの死体が発見。
恨みに迷い続ける3つの呪縛霊。

復讐に燃える霊は。女性Gメンの口を借りて、真相を暴いていく。
世にも不思議な物語。

次は、「肉体のない女が呼んでいる」

    <監督:鷹森立一、 脚本:山村英司>

1.作品について

Gメン75で最大の異色作といえば、この作品だろう。

深夜、吹雪杏子は霊魂に憑依される。
美しく可憐な杏子の形相が変わり、力強い眼光で田口刑事を睨みつけながら
近づいていく。
これがきっかけとなり、吹雪刑事そして田口刑事は、Gメンがかつて誰も経験したことのない捜査へと踏み込んでいく。

物証と論理が重視される刑事ドラマではタブーともいうべき、"本物の霊魂”を
あえて登場させ、人間の飽くなき欲望を暴いていく。
予告のナレーションでも「世にも不思議な物語」と言わしめた異色作。

ミステリアスな吹雪刑事の特色も、上手く生かされている。

この作品は、違和感を感じる人が多いかも知れない。
しかしリスクもあったとは思うが、タブーに挑み見ごたえのある怪奇作品に仕上げられたのはさすがだと思う。

2.なぜ霊魂が登場か?

これについては、別ページ 140.吹雪刑事と霊魂と87分署に触れましたのでご参照下さい。

    また87分署については、別ページ 130.Gメン75と87分署を参照して下さい。


3.石田奈美の怨念

奈美はある事件により、非常に強い怨念を持った女で、恐ろしい登場シーンもある。
演じた吉岡ひとみさんは、悪女が似合う強い個性があるが、今回は被害者の役。

なぜ吹雪杏子へ憑依したのか?
霊になった奈美は強い怨念をもったまま、自分の怨みを晴らし、犯人を懲らしめてくれる人物を探し続けた。そして半年後に田口刑事と歩いていた吹雪杏子に憑依する。
霊媒師を通じて、吹雪刑事と田口刑事だけには死体の隠し場所さえも教える。

    ところで、
     ゲストの女性は「奈美」だが、脚本の山村英司氏は260話「悪魔の結婚式」の時にも、
     吹雪刑事を拉致した女も「奈美」だった。
     奈美という名前に、思い入れがあるのかもしれない。



4.不気味な洋館

静まり返った、大きく不気味な洋館。
東京という大都会の中なのに、この館には違う世界がある。

昼でも入るのが気味悪いが、憑依された杏子は電気もつけずに闇の中を、
奥に入っていく。 田口刑事は照明をつけるが、それでも薄気味悪い。

黒猫が何度も登場し緊張感・不気味さを盛り上げ、ドラマの怪奇性を高めている。
最初だけは、カラスも屋根に止まっていて不気味だったが。

5.霊媒師

吹雪刑事は田口刑事を連れて、かねてから聞いていた有名な霊媒師を訪れる。
  (この作品は霊魂だけでなく、本物の霊媒師が登場する)

霊を信ずる杏子にしてみれば、通常の捜査では解明不可能と判断していた。
田口刑事も、最初はかなり疑っていたが徐々に信用してくる。

<神道>
私には、霊媒師が何を拝んでいるのかさっぱり判らず、「密教」のお経か何かの適当な言葉を並べているのかな?と思っていたが、「神道」に詳しい人がいて、あれは「神道の御祓いの言葉」そのものだという。 つまり御祓いも本物という事である。

                      このようなところにも、作品に対するスタッフのこだわりが現れている。

6.親戚たち

形ばかりの通夜が、洋館で行なわれ3人が集まった。
   奈美の夫の弟 石田リョウヘイ
   奈美の叔父   石田タケシ
   奈美の従兄弟 ウンノケンキチ
彼らは、奈美に優しかったらしいことを主張するが。

キャストは、松橋登、戸浦六宏ら。(もう1人は不詳)

一癖ありそうなメンバーばかりだが、彼らのうち一体誰が犯人なのか。


7.田口刑事らGメンの活躍

吹雪と田口の2人主役だが、吹雪刑事がメインである為、田口刑事自身の活躍場面は、それほど多くはない。

1.見知らぬ洋館へ
   霊魂に憑依された吹雪刑事に導かれて、見知らぬ洋館に入って行き。
   そこで心霊現象を目の当たりにする。
   吹雪刑事の力強い眼光で睨みつけられ、人が変わった杏子に声を
   掛けることさえ出来なくなる。

2.再び洋館へ
   田口刑事は吹雪刑事とともに、再びその洋館を訪れた。
   その中の写真から、田口刑事は2年前にかかわった事件を思い出す。
   吹雪刑事は、直感を田口刑事に話すのだが、、、

3.壁の中から
   田口刑事らが壁を掘り起こした事で、事件が発覚し急展開を見せる。
   吹雪刑事の直感は正しかった。

4.通夜にて
   奈美の家に集まった親族を、杏子とともに監視する。

黒木警視正の言葉
  「お前たち2人が霊魂に呼ばれていると言うのなら、
               納得のいくまで捜査に当たってみろ。」
  丹波哲郎さん扮する、黒木警視正ならではの言葉かもしれない?


8.吹雪刑事の活躍

吹雪編の30話目。
ミステリアスな女刑事 吹雪杏子が霊魂と遭遇するという異色作。

吹雪杏子は、初めての奇怪な出来事にとまどいながらも、殺された女の強い思いを感じ取り、その思いを晴らすために懸命の捜査を開始する。

1)憑依

ある夜、霊に興味を持っていた吹雪杏子は突然、霊魂に憑依される。
そして田口刑事を睨みつけ、暗闇の中に建つ見知らぬ洋館に、
杏子は恐れ気もなく歩き出す。

その館で彼らは、闇に葬られた事件を発見することとなり、吹雪刑事は
田口刑事とともに、不思議な事件の捜査に踏み込んでいく。

2)洋館と杏子の直感

再び訪れた館での写真から、田口刑事は2年前の石田奈美を思い出す。

<吹雪刑事の直感>
杏子は、直感力がいつも以上に強く、霊の行動の目的を田口刑事に説明する。  「その女が死んでいること」 を、しかも 「殺されたこと」 を、推測ながら
自信をもって田口刑事に話す。

杏子は自分に憑依した霊魂について、自分を殺した犯人に、仇を討って
欲しいとの行動であると説明する。

さらに吹雪杏子は断言する。
     「石田奈美の死体は、絶対にこの家にあるはずです」

3)霊媒師

他のメンバーは「霊」など相手にしないが、唯一黒木警視正の賛同を得て指示を受けた吹雪刑事らは、訪れた霊媒師の霊との接触がキッカケで、事件を発見することになる。
田口刑事が段々と霊媒師を信用していく過程も描かれる。

4)復顔術

吹雪刑事は、頭蓋骨から復顔を行なう。
専門知識と技術を要するものだが、吹雪杏子の能力として描かれている。
そして吹雪刑事は憑かれたようになって"復顔”は完成する。
田口刑事は彼女が復元した顔を見て、驚くことになる。

  (吹雪刑事は、平気で頭蓋骨をさわり、白骨死体が出た時も平然としている。
   タフな女刑事の設定になっている杏子ならではだろう)


5)姿なき犯人の動き

杏子らの捜査活動に気づいた犯人が、とうとう動きだした。
姿を見せない犯人の狙いは吹雪刑事。

彼女に対して、"シャンデリア""ナイフ" による攻撃が行なわれる。
吹雪杏子は、パンチをかわすのは上手いが、ナイフ攻撃をかわせるのか?

6)最後の怪奇現象と、犯人の逆襲

死んだ石田奈美の通夜に集まった3人の前で、最後の怪奇現象が起きる。
あるいは、彼らだけに見える 「幻覚」 なのか?

男たちは、現れた奈美に驚愕する。 そして、、、
3人の男たちは、前に立ちふさがる亡霊に、次々と襲い掛かった。
亡霊と見えた女は、殴りかかる男の腕をつかんで、投げ飛ばした。

犯人の前には、合気道で男を倒した吹雪杏子刑事が立っていた。

<幻影と幻聴>
怪奇現象と見えたのは、幻影と幻聴だった。
吹雪刑事は奈美に変装していない−−−犯人は勝手に幻影を見た。

さらに吹雪刑事に真相を語られ、犯人は逃亡を図ったが、、、

7)犯人への杏子の言葉づかい

ラストで犯人を追い詰めるシーンで、杏子は「お前は」と話している。
吹雪刑事はどんな犯罪者にも使わない言葉である。
ドラマの流れから、何気なく聞いてしまうが杏子はいつもと違っている。


吹雪刑事を演じた中島はるみは、最初の憑依だけでなく、復顔する場面やラストも
霊魂と遭遇した雰囲気を漂わせ、その役割を演じきった。

Gメン唯一の怪奇作品であり、鷹森立一監督の力量もあって見ごたえのある面白い作品である。
    (人それぞれの好みによって分かれる作品かも知れないが、私は気に入っている作品)

   (なお、失神した吹雪刑事が持っていた本は、次の通り。
       「因縁霊」著者谷口雅宣 1979年発行 副題:神と霊魂と人間とおそるべき怨念と人間の業)
                 (私は持っていないので、最近図書館で借りました)




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