『肩こり』という症状は、鍼灸師は、良く取り扱う症状の一つで、鍼灸臨床は肩こりに始
まり、肩こりに終わると言われるほど、その症状や原因は多様で、奥の深い症状の一つでも
あります。
しかし、肩こりという表現は、日本独自のものといわれ、「肩こり」という言葉自体、近
代になって「坊ちゃん」や、「我が輩は猫である」などの文学作家として、また、旧千円札
の肖像の顔として有名な、夏目漱石が「門」という小説のなかで、記載した「指で押してみ
ると、首と肩の継ぎ目の中へよった局部が石のように凝っていた」という一文が、本邦にお
ける、肩こりの語源となったという説は有名です。
肩こりの原因には大別して、日常的な身体的・精
神的疲労などが原因となる、1次性の肩こり(表1)
と、別の病気や他の臓器の器質的疾患の、症状の
一つとして出現する2次性の肩こり(表2)がありま
す。鍼灸治療が良く効くのは、前記の疲労が原因
となる肩こりの方です。2次性の肩こりの場合、治
療の前に、その原因となっている疾患を突き止め
その疾患の治療と併せて行うのが一般的です。
表2を見て、お感じのことと思われますが、肩こ
りは以外と肺や消化器、肝・胆を含む内臓疾患と関
連のある症状であることが、お解り頂けたと思いま
す。内臓疾患が何故、肩こりの原因となるのか、現
在のところ明確な解明は為されていませんが、頚椎
から出ている横隔神経(横隔膜を動かす神経)という
神経と関連があるのではないかと言われています。
@ |
肩周囲の筋の疲労 |
A |
日常での不良姿勢 |
B |
体型や体格によるもの |
C |
精神的疲労(ストレス) |
内科 |
心疾患(虚血性心疾患・心肥大) |
|
消化器疾患(胃潰瘍、胃ガン) |
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肝・胆疾患 |
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自律神経失調症 |
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肺疾患(肋膜炎・横隔裂孔ヘルニア) |
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整形外科 |
頚椎椎間板変性症 |
|
頚椎症 |
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胸郭出口症候群 |
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肩甲背神経の絞扼性神経障害 |
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むち打ち症 |
||
耳鼻咽喉科 |
慢性鼻炎、蓄膿症 |
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婦人科 |
更年期障害など |
|
精神科 |
鬱状態 |
|
眼科 |
緑内障・眼精疲労を生じさせる疾患 |
|
脳神経外科 |
脳血管疾患、脳腫瘍 |
おおよその方は、整形外科とお答えになると思われ
ますが、正解は表から判断出来るように、内科です。手や腕にしびれ感がある場合は、整形外科を受診し
て下さい。そして、受診しても満足のいく治療を受
けることが出来なかった場合は、迷わず当院へどう
ぞ(笑)。
これからは、自分でケア出来る1次性の肩こりを、
「肩こり症
」と定義して話を進めます。
何らかの病気が原因となって出現している2次性の肩
こりが疑われた場合、迷わず内科を受診して下さい。
1次性のいわゆる「肩こり症」と判断出来る条件は、
首や肩を動かした際に特別痛みを感じないこと。腕や手
には特別痛みやしびれといった症状は無く、症状はもっ
ぱら突っ張ったような強ばったような不快な“こり感”
を肩周辺に自覚する症状であること。交通事故などの経
験が無いことに加え、他に思い当たる内臓疾患が無いと
いったような、肩こりを発症させる疾患の存在を、除外
出来て、始めて「肩こり症」と判断できます。
一方で、手や腕に、痛みやしびれを伴う肩こりの場合
は、一度その原因を詳しく調べる必要があると思います。原因を突き止めた上での、早期の鍼治療開始は、症状緩
解のお役に立てることも多いので、ご相談下さい。
@ | 首を回しても痛みがない |
A | 腕や手にしびれ・痛みなどの症状がない |
B | 主な症状は、こり感 |
C | 交通事故など、頚部外傷の経験がない |
D | 他の疾患の存在を除外出来る |
「肩こり症」の主な成り立ちとして、筋疲労や筋収縮の持続に
より、筋肉の血流が阻害され、筋肉の活動の結果、産出された
乳酸・二酸化炭素などの疲労物質が筋肉内に蓄積し、それがさ
らに筋疲労を促進させる。という疲労の悪循環を形成している
ことが考えられます。(図2)
さらに、筋疲労を来たし易い状態として、仕事などでの不良姿
勢や、生まれもっての体型や体格(なで肩やいかり肩、猫背)と
いった素因も、筋疲労を増悪させる要素の一つとなります。 ま
た、長期間の精神的なストレス刺激は、末梢血管を収縮させ血流
をさらに悪化させるため、筋肉を強ばらせ、悪循環の輪を促進し、
肩こりを増悪させるものと考えられます。
そして、肩こり歴が長くなれば長くなるほど、それぞれの要素
は大きくなり、複雑に絡み合い、充分休養を取ったとか、ゆっく
りお風呂に入ったなどの、1つの要素に対する治療では、症状は
改善されにくくなり、慢性化する傾向にあるのだろうと思われま
す(図3)。
肩こりを強く訴える方の多くは、肉体労働の方に比べ、OA作業、家事仕事など、あまり首
や肩の筋肉を動かさない方に多い様です。実は、これには、ちゃんとした理由があって、筋
肉は自分で使う血液の殆どを、自分が伸びる、縮むといったエネルギーを利用して、新鮮な
血液を取り込み、古い血液を押し出しているのです。ちょうど、スポンジを水中で絞った時
に似ています。つまり、筋肉を沢山伸び縮みさせると血液は沢山供給されるのです。
ところが、OA作業で代表される作業の殆どが、パソコン画面を見つめ、肩を固定し、椅子
に座り続けるという固定化した一連続作業になっています。一見大きな動きがないので、筋肉
は使っていないように思われがちですが、実は、頭を支え、肩・腕を支えるため、ずーっと働
き続けているのです。しかし、大きな筋肉の伸び縮みがないため、新鮮な血液を取り込めず、
筋肉は常に血液不足・酸素不足の状態で働き続けるのです。
当然、筋肉の代謝の結果、乳酸や二酸化炭素などの疲労物質が蓄積し、筋肉は容易に疲労す
るのです。考えてみてください、安い給料でつまらない仕事を長時間させられたら、仕事に対
する意欲は無くなってしまうでしょう。肩の筋肉の不平・不満が「肩こり」なのではないでし
ょうか?