周瑜の嫁取物語

皖を落とした際に孫策は美女で名高い喬玄公の娘、二喬を一目見ようと、周瑜を誘った。

ところが周瑜はといえば、
「私は興味ありませんから、どうぞお一人で」
という。
仕方が無いので一人で出かけて行った。


そして帰ってくるなり、
「俺は嫁を貰うことに決めたぞ!」
と言う。
周瑜はおどろいたが、同時に孫策の心を捉えたと言う二喬に興味を覚えた。

次の日、孫策は大喬を訪れ、
橋玄公の桃園を二人で歩きながら話をした。
にこやかに笑うけれども時々、ふっと、寂しい顔をする大喬に、
孫策はそのわけを問いただした。



すると大喬は孫策を見上げて言った。
「妹のことです。
 私が貴方さまの所へ興入れするとなると、あの娘は一人になります。
 どなたかあの娘をもらってくださる殿方はおりませんでしょうか」

孫策はしかし、妹の小喬も姉に劣らず美女であることを知っている。
あれだけの美女なのになぜ、と問うと、
「妹は、気が強くて・・・それにひどく面食いですの。
 これまで幾人もの殿方に難題を出してはお断りしてきましたの」
これを聞いた孫策はひとつ手を打った。
「それに当てはまる男を一人だけ知っている。だがおそらく何もかもが気にいるだろうよ」


孫策が小喬にとひっぱってきたのは案の定、周瑜であった。
半ば強引につれてきたが、二喬を見て、やはり心が揺らいだようであった。

孫策が周瑜の肩をつついてどうだとばかりに自慢する。
周瑜は本当はまだ妻帯するつもりはなかった。遠征ばかりでそんな余裕はないと思っていたのだ。
しかし、こうして見るとやはり美しい女性だった。
さすがの周瑜も心惹かれた。

小喬は薄紅色の衣装を纏い、華の簪を挿して艶やかないでたちであった。
「どう?ステキな殿方でしょう?このような美しい若武者を見たのは私もはじめてよ」
大喬はこっそり妹に囁いた。
一目見て、気に入った。
だがしかし、小喬は意地っ張りであった。

「 一個大喬ニ小喬       (姉は大喬 妹は小喬)
  三春容貌四季嬌      (春の華のようで四季の美しさ)
  五顔六色調七彩      (そのあでやかな美しい容貌)
  難劃八九十分描 」     (絵筆ではとても描ききれない)

  
       という詩を周瑜にしたためて贈った。
       これは小喬の難題であった。
 

小喬はこの一から十までを折りこんだ詩に、
逆から読んだ答詩を一晩のうちに作れと言う。
本当はそのようなことをしなくてもよかったのだが、
目の前の男が見かけだおしのただの武者だというのでは面白くない。
周瑜に会う前に用意していたこの詩を思いきって使うことにしたのだった。
周瑜ははじめ、驚いたが、
この美女がただの人形ではない事を知って興味を持った。
それまで彼に懸想する女性は多くいたが、
小喬のような魅力を持った女性は初めてだった。
そうして難題をもらいながらその夜は自宅へと戻っていった。
しかし、なかなかにこれは難題であった。
答詩は十から始まるものを作らねば成らない。
気持ちはあせるばかりでなかなかいいものが浮かばない。
部屋の外にでて気分を変えようとしたとき、あまりの月の美しさに見とれてしまった。
その日は八月十九日。
ふと、回廊の横を見やると、見張りの者六人全員が眠りこけていた。
そうしているうちに鶏が三度鳴くのが聞こえた。

周瑜ははっとひらめき、すぐに部屋にもどって詩を書き出した。


「 十九望月八成園   (十九夜の空の月は八分)
 七人巳有六人眠    (七人のうち六人が眠り)
 五更四点鶏三遍    (鶏が三度鳴いて五更を告げ)
 ニ喬出題一夜難 」   (二喬の難題に苦労して1夜を明かした)

この詩はその朝小喬に届けられ、彼女はその出来映えにほれぼれとした。

「お姉樣、私、あの方の伴侶になりとうございます」
と言った。

それを孫策から聞いた周瑜は自分も小喬を娶りたいと申し出て、この縁談は成立した。
喜んだ孫策は
「では二人、一緒に婚儀をあげようではないか!これで晴れて俺達は本当の兄弟になるのだ」
と言って、たいそう喜んだ。


(終)