ペルテス病の診断


 症状は、痛みと跛行です。重要な事は、痛みは股関節に限らず、大腿部あるいは膝関節痛を訴える場合もあることです。このため、非専門医により膝関節疾患と誤診されることが多く、発見された時には骨頭が完全に潰れて著しい変形を呈している、というこが稀ではありません。小児の跛行を見つけたらまずペルテス病を疑え!、ということは憶えていて下さい。痛みは極めて軽い場合もあり、また早期に消失することもありますが、この疾患においては痛みが消失しても跛行が持続することが普通ですが、痛みと跛行が消失したり発現したりと、繰り返す場合もあるので注意が必要です。通常症状発現後、2週間もすればX線検査で診断できますが、稀に2ヶ月くらいX線画像上所見のないことがあります。

股関節のある方向への動きが制限されることもこの疾患に特徴的です。上向きに寝かせ、膝を曲げ股関節を曲げてゆきます。そして90度曲がったところから膝がおへそに向かうように股関節をさらに曲げてゆくと痛みが発現します。この所見はこれまで例外を経験したことがないほど特徴的です。また、骨頭を圧迫すると痛みを訴えます。骨頭は、ももの付け根の内側の部分で大腿動脈と交差する部分の下にあるので、両側のこの部分を同時に軽く圧迫すると患側に痛みを訴えます。

鑑別すべき疾患で代表的なものは、単純性股関節炎、リウマチ熱、化膿性股関節炎、若年性慢性関節リウマチなどの膠原病、心因性関節炎などです。単純性股関節炎は同じように股関節痛と跛行が見られますが、自然治癒し、後遺症も残る事がないとされています。超音波断層像では濁りのない関節液が関節包内に貯留していることが多いのですが、関節液貯留のない場合も少数ですが存在します。リウマチ熱の場合にもしばしば股関節痛みが初発の場合があります。疑わしいときには血液検査( ASLO) をおこなうと判明します。実際に股関節痛からリウマチ熱が発見され、そこから心臓の異常が診断されたことがあります。化膿性股関節はいつでも疑わなくてはなりません。股関節痛だけでなく熱発などの感染症症状を呈することが多いのですが、全身所見がなく、また痛みも軽度で血液検査で所見の出ない例もありますので注意が必要です。超音波断層像では濁った水腫の像が見られるのが普通です。すこしでも疑いがあればただちに関節鏡をおこないます。若年性慢性関節リウマチなどの膠原病においては、股関節以外にも多彩な症状が出てきます。心因性関節炎では他人が見ていない所で跛行が消失しますので鑑別できます。

他の鑑別疾患としては数は少ないのですが、骨端異形成症などの骨系統疾患、マイヤー病、血友病などの血液疾患による骨頭の変化、甲状腺機能低下症にともなう骨頭変形などです。骨端異形成症などの骨系統疾患の場合には他の関節や脊椎に変形がありますので注意すれば鑑別可能です。マイヤー病は良性で自然治癒する心配のない疾患です。X線像ではしばしば間違えられるのですが、ペルテス病に伴う所見、たとえば関節可動性の制限とか、痛みなどがないことで鑑別できますし、X線像も経過を追えば明らかにペルテス病と異なることがわかります。血友病や甲状腺機能低下症などでは小児科的な全身の変化がありますので鑑別できます。

ペルテス病の場合には骨頭の変形が軽微な内に治療を開始するのが理想的です。変形がわずかであれば、治療は変形を予防することが要点になります。診断が遅れ、骨頭の変形が著しくなってしまった場合には変形を矯正することからはじめなくてはなりません。変形矯正には時間がかかりますし、年長児であれば矯正にも限界があります。したがって、早期診断が極めて重要です。とにかく小児で跛行が見られる場合はペルテス病を疑う必要があります。

発症直後のレントゲン診断は難しい場合があります。骨頭の変化がまだ明確になっていない事が多いからです。しかし、注意して画像を見れば、大腿骨頭がわずかに外方にずれ、骨端(骨頭の骨の部分)の高さが反対側と比べわずかに低くなっていることが多いものです。

右側左側

上の図は右初期ペルテス病のX線像で、学生の講義にいつも使っていたものです。
正常と判断しにくいのですが、右側の骨端の高さがわずかに低くなっています。
また、関節内には滑膜が増成し、水がたまっているため、骨頭がわずかに外方にずれて、骨頭と臼蓋との内側における重なりが少なくなっていることに注目してください。

発症してから数ヶ月も経過すれば上図のように骨端はますます低くなり(潰れる)、白っぽくなる(骨壊死による)ので診断は容易となります。



死んで白っぽくなった骨は破骨細胞という細胞の働きで吸収されてゆきます。吸収とともに新しい骨の再生が始まります。
もちろん壊死、吸収、再生というのははっきりと境界線があるわけではなく、3つの現象はこの順序でオーバーラップしながら進行してゆきます。特に吸収期には骨頭は機械的に脆いので変形がおこらないように対処することが重要です。

この疾患は、骨端が、壊死、吸収、骨再生という一連の病理学的変化をしてゆきます。発症後2週もすると骨変化がはっきりしてくるので診断は容易です。ただし、発症後2ヶ月くらい骨変化の無かった例を経験していますので、注意が必要です。X線写真においてペルテス病と良く似た画像を呈するのがマイヤー病です。これは害のない疾患です。ペルテス病のように壊死、吸収、再生といった一連の病理的変化がないことで鑑別は容易です。

超音波診断は参考になります。単純性股関節炎と異なり、多くの場合、水腫は濁っています。ただし、発症の超早期では清澄な場合があるので注意が必要です。清澄な場合でも穿刺すると粘稠度が高いのが特徴です。

MR I診断は確定的です。血流が途絶え、骨の壊死した部分があれば信号がなくなり診断は容易です。また、この検査方法によればどの範囲までが壊死になっているのかわかりますので、治療方法を決定する場合に有力な情報を与えてくれます。なくてはならない検査と言えます。

左右の骨頭を比較すると、ペルテス病の側の骨頭は信号がない(白くなっていない)のがわかります。

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