事例 糖尿病 解説

 インスリンはすい臓から分泌されるホルモンで、細胞が血液中らブドウ糖を取り込み、エネルギーとして利用する働きを助ける作用があります。
 糖尿病は大きく、2つに大別されます。一つはi型糖尿病で、これはすい臓のインスリンを分泌する細胞の障害によるもので、若年者に多いです。もう一つはII型糖尿病で、遺伝的要因、環境要因(肥満、運動不足等)、加齢によるインスリン抵抗性増大等が加わった起こります。糖尿病の大半ははII型糖尿病です。
 知ってもらいたい病態は、二つあります。一つは高血糖で、もう一つは低血糖です。
 脳の細胞はエネルギー源としてブドウ糖しか利用できませんので、血糖の低下は中枢神経系の機能低下、さらには死に至ることもあります。糖尿病で、インスリンを自己注射している子供が何かおかしいと感じた場合は、常に低血糖の可能性を疑ってください。疑ったら、直ぐに119番通報です。時間的余裕はないです。
 糖尿病性昏睡には2つの病態(糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧性非ケトン性昏睡)があるが、どちらも高血糖、意識障害を来たします。早期診断、早期治療が予後を左右するので、119番通報して救急車で病院に搬送する。


事例1 低血糖、 

  事例1は、糖尿病の既往がある、朝から意識状態がおかしかった(いびきをかいている。教室を間違えた)、皮膚は冷たく、湿っている状態から考えると、低血糖の可能性が高いです。
 まず、呼びかけに反応がなければ、119番通報とAEDを依頼。あご先挙上頭部後屈法を行い、正常に呼吸しているか確認。正常に呼吸していなかったら、人工呼吸、心臓マッサージ(AEDが着たら、AED装着)です。正常に呼吸しているなら、気道確保を継続し、救急車を待ちます。病院では直ぐにブドウ糖の静注を行います。
 意識があって、糖分を摂取できるならば、飴玉をなめさせたり、ブドウ糖(コカコーラ、スポーツ飲料(ブドウ糖含有)を飲ませます。誤嚥、窒息する可能性がある場合は、飲ませず、救急車を待ってください。
 糖尿病で、インスリンを自己注射している生徒の意識状態が悪く、又皮膚も冷たく,湿っている場合は、低血糖の可能性を忘れない。


事例2 糖尿病性ケトアシドーシス

 事例2は、インスリン注射をしていないために、血糖を下げることができず、高血糖となっています。高血糖になりますと、血清浸透圧が上昇します。この浸透圧の上昇によって、細胞内の水は血管内に移動し、細胞は水不足で障害を受けてしまいます。この事例では、サッカー部の夏合宿であり、運動によって、脱水を起こしやすい状況であったと思われます(水分管理不十分)。また、水分補給をスポーツ飲料で行っていた場合、スポーツ飲料に含まれる糖分がさらに血糖を上昇させた可能性もあります。その上、下痢によって体液が体外に放出されますので、脱水をさらに悪化させています。このような状況が今回の症状を引き起こしたものです。特徴的な呼吸はゆっくりした大きな呼吸(過呼吸)です。これは血液中のPHを正常に戻すために、過呼吸気味になったものです。病名は糖尿病性ケトアシドーシスで、死亡例も報告されています。

参考 高血糖で水が移動する?

 血漿浸透圧に大きく影響を与える溶質ナトリウム塩、ブドウ糖、血中尿素窒素で、これらの増加によって、浸透圧は高くなる。
 細胞膜は、浸透圧の低い方から高い方に水を移動させる性質を持っているので、血漿浸透圧が上昇すると、水は細胞内から血漿の方に移動する。

 左図上は正常の状態で、細胞内外で浸透圧が等しく保たれている。下図のように、水喪失(脱水、下痢、運動等)、ブドウ糖の過剰摂取等で血漿中のブドウ糖濃度が増加する。この増加は血漿浸透圧を上昇させ、細胞内から水を血漿側に移動させる。そのため、細胞内の水が減少し、皮膚のみずみずしさはなくなる。







対応は?
 意識状態が悪いので、直ぐに119番で、救急車を呼んでください。早い診断、早い治療が必要です。救急車が来る間は、意識状態、呼吸状態の変化は観察してください。体の脱水状態ですので、口渇を訴えることもありますが、事例1とは逆の病態ですので、決して糖分は飲ませないで下さい。飲ませるなら、、水かお茶(糖分を含まない)です。但し、低血糖か?高血糖か判断がつかない場合は、より重篤な低血糖を念頭に、糖分を含んだものを摂取させます。


糖尿病の子供の学校生活で、忘れないでほしいこと
  1)糖尿病は感染症、脱水によって悪化する可能性がある。
  2)インスリンを自己注射している子供が居る場合には、普段から意識して観察し、異常の早期発見に努める。
  3)皮膚が冷たく湿っている場合は、低血糖、ゆっくりした大きな呼吸があれば、高血糖の可能性があります。
 4)学校生活(特に部活)では、水分管理、体調管理は生徒に任せっきりにせず、先生も一緒に行う。
 5)スポーツ飲料の中には、糖分が含まれているのもあるので、要注意!
 6)糖尿病の子供の意識状態が悪ければ、直ぐに119番通報して、救急車を呼ぶ。

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