あの頃 ”譲君・・・どうしてるかな” 望美が時々、譲の名を口にする。 譲の想いはガキの頃から俺は知ってて・・・。 望美もどこかでそれを感じていたんじゃないか。 望美の心の中には少なからず、譲が存在しているは確かなんだ。 男してではなくとも・・・ 「ふふ。譲君の方が料理上手よね」 「ああ。そうだなー。譲が作った飯が恋しいぜ」 囲炉裏で朝食をとる。 何気ない昔話に花を咲かせている。 望美の奴は楽しそうに懐かしそうに話すが俺は・・・ 心のどこかがキリキリしてやがる。 イラつくっていうか・・・ やっぱり嫉妬ってやつなのか。 ヒノエとは違って・・・。譲の想いは本当に一途だった。 "兄さん・・・。俺・・・。望美先輩が好きだ。これだけは 兄貴にも知っていてほしくて・・・" いつだったか。 真剣な顔でオレに宣言して・・・。 オレは譲の言葉にただ黙っていた。 ・・・譲の真剣さに圧倒された気がして・・・。 ”仲良し3人組”その関係を崩したくなかったってのもある。 オレは・・・。自分の本当の気持ちから目をそらしていたんだ。 「将臣くん?どうしたの。ぼうっとして・・・。眠れないの?」 夜。 隣の布団で眠っていた望美がオレを心配そうに見つめる。 「いや・・・。ちょっと譲のことを思い出してた・・・」 「譲君・・・?」 「ああ・・・」 望美にはいえねぇ。兄弟のやりとりだ。 っていうか・・・。譲の気持ちをオレの口からなんていいたくねぇ。 ・・・俺もまだまだ青いガキなのかな。 「譲君か・・・。どうしてるかな。彼女とかいたりして」 「・・・それは絶対にねぇな」 「どーして言い切れるの?」 「・・・絶対は絶対なんだよ・・・」 望美の奴は・・・。本当に譲の本心をしらねぇのか。 ずっと聞いてみたかった。 ・・・弟でも他の男のことを聞くのは少しむかつくけど・・・。 「望美・・・。お前・・・知ってるんだろ?」 「何を」 「譲はお前が好きだったこと・・・」 少し・・・。望美の表情が固くなった。 やっぱり知ってやがったんだな・・・。 「・・・。譲は一途だ。多分一生、お前以外の女に惚れることなんて ねぇだろ」 「そんなこと・・・」 「分かるんだよ。兄貴だからな・・・」 分かりすぎるくらいに知ってるよ。 子供の頃から 譲はお前一筋だった・・・ 「・・・でも・・・。私が好きなのは・・・っ」 望美は起き上がって必死にオレに訴える・・・。 「・・・分かってる・・・」 オレはそのまま望美を自分の床に入れ、腕に包む。 「・・・。譲の気持ち程オレは・・・年季はねぇかもしれねぇ。 でも・・・。弟でもお前を渡す気持ちは毛頭ねぇよ・・・」 「うん・・・」 譲の一途さには負けるかもしれない。 でも・・・好きになった女を弟に遠慮するなんてことは・・・ できねぇ。 「・・・きっと譲君・・・。元気で・・・幸せにやってるよ・・・」 「ああ・・・」 「・・・。新しい恋にもいつか・・・」 「そうだな・・・」 そうであってほしい。 新しい出会いが譲にも・・・ 「アイツは大丈夫だ。きっと・・・」 「うん・・・」 オレは望美を選んだ。 望美もオレとの道を選んだ・・・。 それを大切にしなければ・・・。 「・・・望美・・・。もう仲良し3人組のあの頃には戻れねぇけど・・・。 お前を・・・一生幸せにするから・・・」 「・・・うん・・・」 オレは腕の中の望美を見下ろす・・・ 望美の髪を撫でながら・・・ 「私は・・・将臣君・・・ずっとずっと・・・好きだった・・・。 ”あの頃”から・・・。将臣くんは・・・?」 可愛らしい声で尋ねる・・・。 照れくせぇけど・・・言わなくちゃな・・・ 「・・・オレも・・・。”あの頃”から・・・お前が・・・好きだった・・・」 目を閉じた望美に・・・口付ける・・・。 少しお互いに切なさを秘めたキス・・・。 そしてそのまま・・・ ”あの頃”から秘めた想いを激しくぶつけ合う・・・ あの頃という思い出を抱えながら 今という時間を二人で生きていくんだ・・・ ”好き”ではなく・・・ ”愛している”と呟きながら・・・。