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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − school festival −





『歩』を裏にした『と』を指ではさみ、 由希はパチッと将棋盤を鳴らした。
「王手」
「うぇええ?」
川原が情けない声を上げて、将棋盤を覗き込む。
「お、決着か?」
ふたりの勝負にあきて隣でトランプをしていた俺と鈴木も横を見た。
「うーん、さすが川原も由希には負けたか〜」
小さいころに祖父に仕込まれたという川原は、意外なことにかなり強かった。
しかし由希には勝てなかったようだ。
由希も由希でじいさんに将棋を叩き込まれている。由希のじいさんといえば俺も会ったことがあるが、酒も煙草も豪快なファンキーじいさんだ。藤崎家の会社の創始者でもある。
「粘ったなあ、川原も」
難色を示しはじめた川原が降参するまでに、俺と鈴木はすでにスピードを5ゲーム以上は済ませていた。

「竜〜、沢田が来てんぞー」
のんきに昼休みを楽しんでいる俺たちに、 廊下のドア近くに座っている西田が声を上げて訪問者の存在を報せた。
イエローの沢田が、紙をひらひらと振ってみせる。
「なんだ?」
「陵ONEトーナメントの組み合わせ。できたからさ」
「あ〜…」
そういえば K 1(もどき) に出るって返事してたんだっけ。
「 陵ONE 」という名で開催されるイベントは毎年行われていたが、参加するのは初めてだ。
「文化祭一日目が予選で、二日目が準決勝な」
「はあ?二日もあんのか?」
一日ちょこっと行けばいいもんだと思っていた。
「お前なー、人の話きいてた?」
いや実はあんまり。
「自分のことなのに能天気だなー」
沢田は呆れた顔でいった。

俺を誘ったのは、この沢田だ。
小学校のころに何度か手合わせをしたことがあるらしいのだが、俺のほうは覚えていなかった。
高校で再会して話しかけられても思い出せなかったから、記憶に残らない程度だったのだろう。
強かったなら覚えている。
沢田もリベンジだ!といっていたから、たぶん想像は正しい。
「ったく。去年、見にも来なかったのか?」
「おう」
あの頃は、もう格闘には関わらないと決めていた。
だから誘ってきた沢田の話も流していたのだ。
もちろん見に行くわけがなかった。

「一宮」
「あ?」
「俺とやるなら決勝だからな。絶対に上がってこいよ」
ニヤリと沢田が口角をあげる。
「誰に言ってんだよ?」
とーぜんだろ。 俺も笑みで返してやった。

「沢田センパイ」
「おう、わりぃな」
沢田に、後ろに立っていた男が話しかける。
青い上履きからして、二年。
俺より少し身長が高く、顔は荒削りだが、整っていると言っていいだろう。
んー?
見覚えがあるような・・・
「一宮、こいつ、今の主将の唐沢」
「ああ・・・」
そうだ、それで見たことがあったんだ。
沢田が主将を引退したあとの、2年の空手部主将。

「ちなみに映画の、真琴ちゃん相手役」

「・・・は?」

沢田の言葉にまじまじと唐沢を見てしまう。

「一応、恋人役ってことで出演しました」
なぜか勝ち誇った顔で、俺を見る。

「俺と当たるなら、準決勝ですね」
挑発的なセリフ。
上から、わざわざ見下ろすように。

「負けないでくださいよ?」


(・・・こいつ・・・)


あー、そう、そういうことね。

はー、と傍目からもよくわかる、大きな溜息をついた。

「相変わらず伊集院もモテるねー」
乱暴に頭を掻く。
めんどくせーなー、もう。

好戦的な顔をしている唐沢を見る。
塩谷はなにが良くてコイツを使ったんだか。
顔か? 身長?

ま、とにかく。

俺はニヤリと馬鹿にしたように、唐沢を眺めた。
先輩には礼儀が必要だぜ? 唐沢クン。

「振られたうえ、わざわざ俺にも叩きのめされよーなんて、御苦労サマ」

カッと唐沢の顔が赤くなった。
「俺はっ! …アイツらみたいには いきませんから!」
唐沢はギッと俺を睨みつける。

・・・アイツら?

首を傾げた俺に、沢田がとなりで苦笑した。
「一宮、前にウチの連中から道場に呼び出されたことあるだろ?」
「あー…?」
あったっけ、そんなこと。
「ああ!勧誘のときか!」
「勧誘じゃなかったんだけどな」

あれは、伊集院の家に居候をはじめてすぐの頃。
空手部の2年にちょっと道場まで来て下さい、といわれてヤダと答えた。(当たり前だ。面倒くさい)
お願いしますと必死な顔で何度も頼まれ、これは沢田に連れて来いとでも言われたのかと(運動部の上下関係は絶対だ)思って、仕方なくついていった。

そうしたらイキナリ勝負してください、だ。

稽古を再開したばかりの俺は腕慣らしのつもりでちょいと捻ってやったのだが…

「…沢田から話を聞いて、勝負を挑んできたんだと思ってたんだよなー」
しみじみと言う。
一年のときに再会した沢田は一緒にやろうと部活に勧誘してきた。
それはもちろん断ったのだが、 だから後輩たちは俺が主将である沢田を負かしたことがあると聞きつけて、勝負をしかけてきたんだと思った。

そいつはあまりの瞬殺に、立てなくなった脚を呆然と眺めていた。
(だって長々やると俺も疲れるし)
友人らしき連中も2、3人勝負してやり、調子が戻ってきていることに満足して『沢田によろしくな』と言って道場を後にした。

「唐沢、お前、あんとき道場いたっけ? 勝てると思った?」
「いませんけど…アイツらは全然弱いんです」
まるで一緒にしないでくれと言わんばかりの生意気な目つき。
確かに初心者っぽかったけど、主将がそれはマズイだろ。

「ちょっとぉ、沢田サン、しつけがなってないんじゃございませんこと?」
「面目ない」
くっくっく、と俺と沢田は笑う。
ま、こんくらいじゃなきゃ、伸びないけど。

唐沢といえば、俺にまったく相手にされていないことに青筋がビキビキと入っている。
おいおい、せっかくの顔が台無しでっせ。

この生意気さ加減を見ると、きっと沢田より強い。
大会でもいいところまで行ってそうだ。

「じゃ、次に行くから」
ピラピラと対戦表をふって、沢田がいう。
「おー」
俺も教室の扉によりかかったまま手を振った。


「からさわだー」
去っていく二人の背に声を掛ける。


「俺に勝つ気なら死ぬほど練習してこいよ〜」


今の俺は、小学生の頃はもちろん半年前だって比べ物になんねーよ?






つづく




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