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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − school festival −





そうして文化祭は終わり、しばらく伊集院は怪我をした俺に気を使っていたが、俺が「鬱陶しい」と散々言うと、やっといつも通りに戻った。

「竜くん」
「静かに、あと少しなんだぞ」
何かを言い掛けた伊集院を遮る。
「でも・・」
「シーッ」
「着きましたよ」
「あーーくそ、最後まで行かなかった!」
英語の長文を読んでいた俺は、バタンと問題集を閉じて、カバンに仕舞った。
骨折をして車通学になってしまったので、移動時間に勉強することにしたのだ。
「でも、前よりは全然早いですよね」
「ほっとけ」
海外の小説をパラパラと読んでしまうヤツに言われたくない。
「バカにしてんだろ〜!このあいだ物理を教えてやったのは誰だと思ってんだ」
ヘッドロックを掛けながら伊集院の頭にぐりぐりとゲンコツを当てる。
「イタイイタイ!竜くん!竜くんです!感謝してますってば!」
「よし!」
パッと放すと、伊集院は、
「また髪がグチャグチャに〜〜」
と唇をへの字に曲げた。

「・・もう少し人の目をはばかってほしいわー」
「そこの二人!往来でイチャつかない!」
振り返ると、呆れ顔の高岡と、レッドカードを掲げたふりをする川原がいる。

「はぁ?」
どこがイチャついてんだよ?
別に川原とだって鈴木とだって、このくらいするじゃねえか。
「ってことは、俺は川原ともイチャついてんのか?」
「一緒にすんなよ・・」
ガックリと項垂れる川原。

「ひどい!竜くんの浮気者っ!」
え゛え゛?!

「竜くんのばかーー!」
って本気ですか??
去っていく伊集院に呆れ返る。
「やーい浮気者〜」
浮気相手の川原が言った。
「お前らなぁ・・」
はぁーと溜息をついた。

「で、実際のところ、どうなの?」
高岡が何もかも知ってます、という顔で俺を見る。
「どうって・・別に」
「にわかに彼氏がモテ出したら、彼女としては心配よねえ〜」
「あー・・」
そうなのだ。
陵湘祭のあと、映画と陵ONEで顔が出た俺は、遊びに来ていた近隣の高校や女子高にまで名前が売れてしまった。
そして、映画のキャラクターと俺自身を混同した奴らが、何を血迷ったのか、俺に声を掛けてくるようになった。

あのねぇ・・俺は「ありすの優しい幼なじみ」でも「格闘で女の子を助ける王子様v」でもないのだよ。

「妹にしか思えない」とありすを振ったリョウでもないし、「穏やかに見守る」タイプでもないんだよ、わかる?

さすがに陵湘の生徒は勘違いをしたりしてはいないが、部外者で何も知らない他の高校の学生とか・・(たまに中学生も)
そんな気の迷いで告白とかされてもさあ・・。


め ん ど く さ い 。


思ったことが顔に出たのか、高岡がバン!と背中を叩く。
「ま、ちゃんと真琴ちゃんにはフォローしときなさいよ。不安に思っているだろうから」
まったく、高岡の方がよっぽど世話好きの男前兄さんだ。


授業が終わり、いつも南さんが迎えに来てくれる公園まで歩く。
(校門前だと目立つし邪魔だから)

その短い距離で、もう視線を感じる。

「あ、あの・・っ」
「なに?」
振り返ると、近くの女子高の制服を着た人物が三人。
真ん中の子が赤い顔をして、チラチラと俺の顔を見ている。
うー。
またお友達になってくれ、とか、メールアドレス、とか、そういう・・

「あの、少しだけお時間いただけませんかっ?」
上擦った声で、赤い顔を俺に向けてくる。
「あー・・」
断るのも手間が掛かるんだよなぁ・・。
バリバリと頭をかいて、「面倒くさい」という言葉はさすがに飲み込んだ。

断り文句を考えて、目線をうろつかせる。

「あ・・」
あの植木の後ろから見えるのは・・


「おい、こら、隠れてんじゃねーよ」
ズカズカと大股で植木まで近づくと、しゃがみこんでデバガメしていた伊集院にチョップした。
「・・・だって」
不安げな目が俺を見上げてくる。

まったく、コイツは・・・。

「おら、立て」
細い腕を掴んで立たせると、引っ張って女子高生たちの前に行く。
「え、え?竜くん?」
戸惑う伊集院から抗議の声があがるが、それは無視した。


「あのさ、悪いんだけど、」

グイッと伊集院を俺の前に出す。





    「 俺、コイツのもんだから 」





「だから俺の時間を借りるときはコイツの許可を取って?」
呆然とする女子高生たちに、にっこり笑って、宣言した。

「・・え、えええ〜〜〜!」
その女子高生たちよりも大きな声を上げて、伊集院が驚いた顔で振り返る。
けっ。
俺がこんな目に遭うのも、文化祭の計画に乗った伊集院にだって責任があるんだ。
責任取れ。

「じゃ、俺帰るから〜」
ひらひらと手を振って、公園へ向かう。
「竜くん!」
車に乗り込むと、追い掛けてきた伊集院もすぐに乗り込んできた。
「竜くん、今の・・・!」
「あー、うるさいうるさい。俺は車の中で一問解くって決めてるの。静かにして下さい」
両耳を手でふさいで、広げた問題集を見る。
となりで伊集院はまだ何かを言っているが、知らないふり。


だいたい、なにもわかってない伊集院が悪い。
川原のときは浮気者って騒いだくせに、肝心なときには逃げ腰で。

不安な顔ばかりする。

まったく、俺に同じことを二度も三度も言わせるなよ。

むくれてしまった伊集院の横顔をちらりと見る。
(わかってんのかね?このお嬢さまは・・)
わかってないんだろーなーと思いつつ。


もう言わねえぞ、と、意地悪く決意した。







文化祭編 終了!




次回は受験編。
の、合間に
真琴編の閑話休題?かな。

秋風 編



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