偏光フィルタと円偏光フィルタ


 写真用フィルタには、通常の偏光フィルタ(Polarizing Filter:略してPL)(写真下)と、円偏光フィルタ(Circular Polarizing Filter:略してCPL)(写真上)の2種類があります。(見た目にほとんど違いはなく、中灰色のフィルタです。)




 偏光フィルタは、ガラスなどの艶のある表面の反射光が偏光になっている(または、それに近い光になっている)という性質を利用して、周辺の光の乱反射をカットし、被写体のコントラストを上げるフィルタです。ショーウィンドのガラスに周囲の景色が写り込んだりするのを防いだり、順光の青空も偏光の性質があるので、青空をスカッと青く抜きたいときも用いられれます。
 カラーフィルムで被写体のコントラストを上げられる唯一のフィルタです。

 しかし、 測光や測距のセンサーまでの光路にハーフミラーを使用しているAE/AF一眼レフで、通常の偏光フィルタ(直線偏光フィルタ)を使うと測定誤差が出て失敗することがあります。そのカメラで誤差を回避するには円偏光フィルタを使用します。



 …とまぁ、ここまではどの写真雑誌を見たって書いてありますが。
ところで円偏光って何なのでしょう?


2006/07/01
●縦波、横波

偏光とは全然関係ないのですが、混同すると厄介なので、まずは縦波と横波の区別をはっきりさせておきましょう。

 縦波とは、波の伝播方向と平行に振動する波で、粗密波とも呼ばれます。
 たとえば、音波は縦波です。

縦波
←→←→←→←→
←→←→←→←→
←→←→←→←→ →進行方向
←→←→←→←→
←→←→←→←→


 横波とは、波の伝播方向と、波の振動方向が直交している波です。

横波(a)
山谷山谷山谷山谷
山谷山谷山谷山谷
山谷山谷山谷山谷 →進行方向
山谷山谷山谷山谷
山谷山谷山谷山谷

 水面の波は、水位の変化が伝播する振動です。水面の変動方向が波の伝播方向(進行方向)と直交するので横波です。

横波(b)
↑↓↑↓↑↓↑↓
↑↓↑↓↑↓↑↓
↑↓↑↓↑↓↑↓ →進行方向
↑↓↑↓↑↓↑↓
↑↓↑↓↑↓↑↓

 光を含む電磁波は、電場(電気のプラスマイナス。電位の高低)と、振動面で90度ずれた磁場(磁石のNとS)の変化の振動が伝播する波です。
 上図は、わかりやすくするため、電界の振動が伝わる様子を示しています。
 「場」のエネルギーの変動方向が波(光・電磁波)の伝播方向(進行方向)に対して直交しているので、横波です。

 電界の振動に対する磁界の振動の様子は、画面に対して奥から手前方向を◎、手前から奥に向かう方向を×とすると、

横波(c)
◎×◎×◎×◎×
◎×◎×◎×◎×
◎×◎×◎×◎× →進行方向
◎×◎×◎×◎×
◎×◎×◎×◎×

と、表現でき、これも横波になります。


2006/07/01
●水平偏波、垂直偏波

 横波は、進行方向に直交する振動なので、振動面の傾きというのが存在します。その振動方向に偏りをもった波を、偏波(へんぱ)と呼びます。
 一方、縦波は、進行方向に振動するため、「振動面の傾き」はありません。

 電波が水平に伝播するとき、電場振動の方向が垂直なものを垂直偏波、電場振動が水平になるものを水平偏波といいます。

垂直偏波



水平偏波




 電波は、光と同じ電磁波です。テレビアンテナは、電場の振動を拾うようなタイプ(八木アンテナ)が用いられることが多いですが、金属棒(素子)が水平か垂直かで、その地域のテレビ電波の偏波方向がわかります。

水平偏波でのテレビアンテナ


 光も電波も、同じ電磁波です。電波では偏波、光では偏光と呼びます。

 縦波と垂直偏波の違いがわかれば、それで結構です。


2006/07/01
●偏光フィルタと円偏光フィルタの構造の違い

 さて、本題。
 カメラ用偏光フィルタそのものは、薄いガラス板の間に偏光のみを通す色素(沃素:ヨウ素)で染色したフィルム(ビニール)をサンドイッチした構造になっています。



 円偏光フィルタは、通常の偏光フィルタの裏に1/4波長位相差板という光波の位相補正フィルタを貼り付けた構造になっています。「1/4波長位相差板」とは、簡単に言ってしまうと、直線偏光を解除する(円偏光と呼ばれる偏光に変換する)フィルタです。

 円偏光フィルタは「1/4波長位相差板」がついているので、普通の偏光フィルタよりも高価です。値段が高い理由はそれだけです。別に高級だからとか、高性能だからという訳ではありません。


2006/07/01
●円偏光の振動面

 円偏光の説明で、たまにこんな図が描かれることがありますが、


 …ええっと。
 こんな描かれ方をしても、どんな波なんだかよくわかりませんね。



 私は、バネのようなものよりは、リボンをねじったような雰囲気を想像しています。振動面が螺旋状になっている波です。




 円偏光は、直線偏光のような、一定の偏波面を持たないため、角度によってハーフミラーの反射率が変わってしまうことがありません。AF/AEカメラにはサーキュラPL(円偏光)フィルタ、というのは、そういう理由です。


2006/07/01
●複屈折

 で。
 問題は、1/4波長位相差板で、なぜ円偏光になるか? ということです。これを理解するには、複屈折を理解しないといけません。どんどん覚えないといけないものが増えてしまってますね。どの写真雑誌でも説明をしたがらないわけです。

 複屈折とは、通常の光が通ると、互いに90度違う直線偏光に分かれて屈折する現象です。透明な方解石を通った光は、複屈折を起こし、像が二重に見えるのは有名です。像が二重に見えるのは、結晶方向によって常光線と異常光線に分離するためです。




方解石による複屈折


 常光線とは、スネルの法則に従った屈折を起こす光線、異常光線とは、スネルの法則に従わない屈折を起こす光線のことです。
 二重になった光は、互いに偏光になっているので、偏光フィルタを通すことで、二重になった像の一方を消すことができます。


2006/07/01
●複屈折を起こす物質での光の伝播

 複屈折を起こす物質とは、結晶軸によって、進行速度に違いが出る物質のことです。複屈折を起こす物質で、光の進む速度が遅くなる方を遅相軸、遅相軸に比べて速く伝播する方の軸を進相軸と呼びます。

 多少の語弊はありますが、屈折率が低い軸が進相軸、屈折率が高い軸が遅相軸になります。語弊があるというのは、「屈折率」という言葉は異常光線には適用しないからです。

 ただし、本などによっては説明の都合上「屈折率」という言葉を当てはめている場合もあります。


2006/07/01
●円偏光の作り方

 直線偏光を1/4波長位相差板を使って円偏光に変換するのは、実際は次のようになります。

 まず、45度傾けた直線偏光を想定します。



 次に、45度傾いた直線偏光を、水平の偏光と垂直の偏光にベクトル分解します。45度に傾いた偏光とは、この上下方向と左右方向の波がベクトル合成されてできていると考えることができます。現在、互いに同じ位相になっています。


この状態で、複屈折する物質の進相軸と遅相軸に合わせて光を通します。
 (要するに、直線偏光を進相軸と遅相軸に互いに45度になるように光を当てます。)


 1/4波長位相差板を通り抜けると、遅相軸側の屈折率が高いため、進相軸(垂直の偏光)に対して、遅相軸(水平の偏光)の波の伝播が遅れます。
 ↓これは、1/4波長位相差板を通っている様子の図です。


 1/4波長位相差板を通り抜けた直線偏光は、遅相軸側が1/4波長遅れた格好の波になります。


 このグラフのsin曲線の山をなめらかにつないでいくと、バネやネジのような螺旋状になるのがわかると思います。
 これが円偏光の正体です。
 もちろん、円偏光には、左旋回のものと右旋回のものがあります。


2006/07/01
●位相差板によるいろいろな偏光

 「1/2波長位相差板」というのもあって、これは偏光の偏波面を90度回転させる働きがあります。
 また、「1/8波長位相差板」といった中途半端な位相差板を使うと、楕円偏光というタイプの偏光にすることもできます。

 どのような仕組みでそうなるかは、宿題としておくことにしましょう。


2006/07/01

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