湾曲型スパイダーの効果



新型VMC110L鏡筒は新設計湾曲型スパイダーを採用、光の回折による見え味への影響を軽減しています。

 ということで、ビクセンのVMC110Lに湾曲型スパイダー(以下曲線スパイダー)が採用されたようです。
 しかも「新設計」だそうです。

 「なんだかよくわからないけど、見え味への影響が少なくできる、すごい技術らしい」と噂が立って、何も考えずに自作望遠鏡に真似したものが蔓延しても困るので、書きます。


2006/05/07
●曲線スパイダーのアイデアは意外に古い

 直線スパイダーを採用すると、その回折によって星像に光条が発生することは良く知られていることです。

↑三本スパイダーによる六本の光条の様子(シミュレーション)


 そこで、当然

スパイダーを直線ではなく、曲線にすれば光条の発生を回避できる(はずだ・だろう)

という、単純明快なアイデアが生まれます。

 これが、曲線スパイダーで、アンチジフラクションマスクもアイデアの基本は同じです。
 アイデアが単純なだけに、これもかなり古くから知られています。

 どんな形状のスパイダーが最も良いのか? この手の議論は過去(海外で)盛んに行われていたようです。


 しかし、本当に光条の発生を回避するのに効果があるのか? と言われると答えられる人は残念ながらほとんどいません。


2006/05/07
●答えから先に言うと

 曲線スパイダーは、結果的にどんな設計をしようとも回折問題をうやむやにするだけで、根本的な解決になりません。

曲線スパイダーは、実装する時点で
 ・構造的に弱いために正確な光軸を維持しにくい
 ・強度を補うには、スパイダー自体を太く・丈夫にしなければならない
 ・スパイダー自体の遮蔽面積が増えて、余計に回折問題を深刻化する

 という悪循環が生じます。このため、今やアマチュアの世界ですら今は誰も使っていません。

 なお、スパイダーの形状の議論が進むと、

 ・望遠鏡の姿勢で光軸がズレるような弱いスパイダーは、回折問題以前の問題
 ・スパイダーの形状を議論する以前に、遮蔽面積を下げるのが先決

ということになり、「最低の遮蔽面積で最高の強度を得る方法」に論点が変わります。
 そして、最終的に出る結論は、形状や本数を決める以前に、可能な限り薄い素材を使うのが最優先となるため、強度面で有利な直線型を採用することになり、いわゆる羽根型スパイダーに落ち着きます。

 これが、アマチュアが曲線スパイダーを採用しない理由です。


2006/05/07
●なぜVMC110Lに曲線スパイダーが採用されたか

 アマチュアレベルですら、ここまで解析が進んだ今、VMC110L(メーカーの製品)で曲線スパイダーが採用されたというのが、正直、驚きです。

 曲線型を採用しないのには理由がありますが、採用するならそれなりの理由があってのことでしょう。

 副鏡支持法は、前にも書いた通り、どんな設計をしようとも回折問題をうやむやにするだけで、根本的な解決になりません。

 曲線スパイダーは、決して最適解ではないのですが、かと言って同じ太さの直線スパイダーも最適解ではありません。直線型は、強度を保ったまま薄くするのに都合が良いというだけです。

 つまり、スパイダーの太さを同じにせざるを得ない(製造コスト等の理由でエンプラやアルミで鋳造したスパイダーを使うような場合)なら、直線型を採用する理由もないということです。

 全体的なコントラストが浅くなったとしても、くっきりとした光条が見えてガッカリするよりはマシと考えるのなら、曲線スパイダーも最適解の一つです。

 それに、スパイダーによる光条が問題になるのは、おおむね20cm以上の口径になったときで、10cm程度ならあまり目立ちません。
 感度限界以下にまで淡くしてしまえば、事実上光条が出ていないのと同じです。

 VMC110Lは、口径が小さい分、ごまかしが効きます。
 おそらく、そんな理由ではないかと思います。


2006/05/07
●何が新設計なのか

 直線スパイダーによって光条ができる原理を別枠で説明しておきますので、読んでおいてください。その原理がわかりさえすれば、曲線スパイダーがどのような効果を表すか、推測しやすくなります。

 原理原則で言えば、開口部に何らかの遮蔽物がある限り位相バランスの崩れは解消しません。ですから、曲線スパイダーを採用したところで、根本的な解決にはなりません。

 光条を薄めてごまかしているに過ぎないということです。

 さて、その薄める方法論ですが、これもあまり難しくありません。
 基本的に接線に対して直交する方向に光条が発生しますから、たとえば90度の弧を使うと90度の範囲で光条が分散します。

 曲線片持ちスパイダーの例です。




↑上下方向に扇型で光条が分散します。


2006/05/07
●曲線スパイダーによる回折の影響低減効果とは

 スパイダーの曲線の放線の角度がなるべく重なり合わないようにすると、均等に分散できますね。
 VMC110Lではスパイダーが4本なので、4本を合わせると1つの円になるような(1本が1/4周分になるような)設計ではないかと思います。




 個人的には、予想外に光芒が少なく、案外と健闘している感じです。

 ただ、釘を刺しておきます。
 ・スパイダーや副鏡などによる遮蔽面積を下げるのが最優先
 ・望遠鏡の姿勢で光軸がズレるような弱い構造は、論外
です。


2006/05/07
●ちなみに


スパイダーの太さが同程度の直線型十字スパイダー
かなりハッキリ光条が出ます。


極細十字スパイダー
スパイダーの影響は、ほとんどなくなります。


スパイダーがない(補正板等に固定している)場合


無遮蔽の場合

どの像がいいか、あとは好みで決めてください。


2006/05/07
●ついでに

さきほどの解析に使った開口形状パターンです。

スパイダーの太さが同程度の直線型十字スパイダー


極細十字スパイダー


スパイダーがない(補正板等に固定している)場合


無遮蔽の場合


2006/05/07

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