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最近、天文学者の間では、太陽系外惑星の検出が流行しているようで、『地球に良く似た惑星が発見された』といったニュースが度々飛び交っています。 木星のような大きな惑星は質量が大きい事もあって比較的探しやすいのだそうで、惑星を持つ恒星は、もはや200個以上見つかっています。 しかし、「検出した」だけであり、直接系外惑星像を撮影した画像はまだありません。 2007/09/19
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そんな中、日本の研究グループが惑星を直接観測するために、主星から来る光をカットする特殊なマスクを開発したというニュースも飛び込んできました。 …ただ、一般向けのニュースなので、それ以上の情報がありません。 2種類のマスクを使うらしいのですが、どんな原理でカットするのか、よくわかりませんでした。 少なくとも、「主星の光ただ単に隠せばいい」という問題ではない事は直感していました。 2007/08/15
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…と、疑問に思っていたら、天文ガイド2007/6の半田先生が担当する「天文学コンサイス」に、そのマスクの説明がありました。 天文ガイド、さすがです。 ただ、いつもはわかりやすく丁寧ななのに、今回はレベルが高すぎてさっぱりわかりません(泣)。 記事を読みながら、何をするものかいろいろ考えてみました。 まず、少なくとも主星と伴星(惑星)は、光源が異なるので、2つの光は互いに干渉を起こしません。主星と惑星は互いに独立して結像します。 主星と伴星(惑星)の光は互いに干渉を起こさないという事は、「干渉パターンの乱れから惑星の存在を検出する」というものではなさそうです。 少なくとも惑星からの光は主星からの光に比べて桁違いに淡いので、普通の恒星が作る干渉パターンに、惑星の光が混ざっているかどうかは全くわからないはずです。 干渉を起こさない2つの光(しかも一方は極端に淡い)を重ね合わせたって、検出は困難なだけです。むしろ、互いに干渉しないように、きちんと分離できないと惑星が検出できません。 という事で、この「新開発のマスク」。おそらく、主星からの光をマスクするものではなく、主星の像によって生じる回折リング(回折光)が、惑星の像に重ならないようにするものなのではないかと予想しました。 2007/09/21
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惑星は、太陽のような恒星の周囲を回っています。(↑イメージ図) 惑星は、主星の光を反射して光っているはずなので、明るさそのものは割と明るいはずです。何十分もの露出時間をかけないと写らないというような意味での厄介さはありません。 問題は、すぐそばに主星が猛烈な光を放っていること。この光に邪魔されて、直接観測する事ができません。 たとえば、太陽は、地球から見て-27等級、金星は-4等級、木星が-2等級前後。単純計算でも太陽と木星は25等級差。太陽系をずっと遠くから眺める事を考慮しても、太陽と惑星は20等級以上の差は充分にあるでしょう。 この明るさの差が大きすぎるのが問題なのです。 極端に明るさの差がある二重星を望遠鏡を通して観察した場合、どのように結像するか、シミュレーションしてみましょう。 ↑これは、0等星の側に8等星の伴星があるという想定のシミュレーションです。 (口径100、円形無遮蔽、画素ピッチ1.0μm/pixel、1200倍増感、離角5秒、位置角55度) ジフラクションリングの影響がかなり広がっているのに驚くかもしれません。 ↑こちらは伴星を10等星まで暗くした場合です。伴星の位置は変わっていません。しかし、もはや伴星はジフラクションリングに埋まってしまってどこにあるのか、ほとんどわかりません。 主星と惑星の明るさの差はさらに大きく、20等級前後かそれ以上あると考えられます。主星から来る光をどうにかしない事には直接観測するのは不可能という事です。 2007/09/21
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たとえば、開口部を正方形にすると、回折光が十字に強く生じる一方で、それ以外の場所には回折光がほとんど来ません。 ↑矩形開口によるフラウンホーファー回折像。光学の教科書には必ず載ってますね。(注:フレネル回折の事例で矩形開口の干渉パターンを説明するらしいのですが、矩形開口=フレネル回折と誤解する事も少なくないようです。これはフレネル回折ではありません。) 開口形状が正方形になると、回折光が十字にまとまるため、その裏返しとして対角線方向にはほとんど回折光が生じなくなります。(光度差の大きい二重星は、六角マスクを使うと検出しやすいと言われますが、同様の理由です。) これを光度差の大きい二重星の検出に応用すると: ↑たったこれだけで、10等級の伴星がずっと検出しやすくなります。 (口径100×100、画素ピッチ1.0μm/pixel、12000倍増感(さきほどの10倍)、離角5秒、位置角55度) ただし、これは単純な正方形開口なので、20等級差を検出するにはまだまだコントラストが足りません。 そこで、正方形の開口部を改良・発展させたのがチェッカー盤マスクと思われます。 2007/09/21
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こんな感じのマスクパターンだそうです。(とりあえず「Mask2」から。) ※なお、これは論文発表されたパターンを正確に再現したものではありません。 で、このマスクで光度差の大きい二重星を撮影したという想定のシミュレーションがこれ。 ↑チェッカー盤マスク2を使った場合 (口径200、画素ピッチ1.0μm/pixel、12000倍増感、離角5秒、位置角55度) 中央の恒星像の周囲は、十字型の回折光を除いて完璧に真っ暗(理論値ではピークレベル比で1000万分の1以下)という所がミソ。天文ガイドには「DR1」とか書いてますが、たぶん、Dark Region(暗黒地帯)の意味。 チェッカー盤マスクは、この真っ暗な部分に惑星が収まるように撮影することで、主星からの回折光を回避して、惑星を直接撮影する事を可能にする、というものらしいです。 2007/09/19
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チェッカー盤マスク2の方は、真っ暗な領域が広く取れる反面、その開口形状から中央遮蔽のある光学系(カセグレン反射式等)には使えません。そこで、中央遮蔽があっても構わないようにしたのがこちらのMask1。 ※言うまでもなく、論文発表されたパターンを正確に再現したものではありません。 同様に、マスク1で光度差の大きい二重星を撮影したときのシミュレーション。 (口径200、画素ピッチ0.5μm/pixel、12000倍増感、離角3.7秒、位置角50度) こちらは真っ暗になる部分が小さく、惑星の存在がわかりにくいですが、確かに右下の黒い部分に惑星が見えています。 2007/09/19
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ここまでハッキリ分離できるとなると、惑星の光を直接分光分析することもできますよね? 水はあるのかなぁ。植物(葉緑素のような色素)による吸収線があれば、植物があるということもわかるという噂もあるらしいです。 って言うか、早く観測衛星が打ち上がらないかなぁ。o(^-^)o こんなマスクパターンを考える人っていうのもすごい頭の人だなぁ、と思いますが、それを読み解くのも一苦労でした。 2007/09/21
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これは天文ガイドに載っていなかったパターン。 Prolate Spheroidal Mask、通称Spergel pupilというマスクだそうです。 チェッカーマスクのMask1は視界が非常に狭く、Mask2もそれほど広い訳ではないので、「とりあえず当たりをつけるために」は、回折光が入り込まない部分が広くとれるパターンを使った方が有利です。で、こんな開口マスクも使い分ける(かもしれない)ようです。 いずれも10等級の伴星を位置角90度で配置しています。 こちらは開口部を2つ持つパターンで、(曲線部分の角度が浅い分だけ)回折光がまとまって、暗い領域が広くなります。 本当はきちんと形状計算するようですが、私はペイントのスプライン曲線で真似して描きました。 2007/09/21
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月刊天文ガイド 2007年6月 天文学コンサイス Knya K., Tanaka S.,Abe L.,Nakagawa T.(2007) AA 461,783-787 (↑読んでません。) 2007/05/05
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