日常生活自立支援事業について


突然ですが、問題です。○か×かでお答えください!!
正解は…?


 日常生活自立支援事業の支援計画に定める援助に関する契約内容については、認識しうる能力のあるものが対象とされ、その能力のないものは地域福祉権利擁 護事業は利用できないので成年後見制度により支援が行われる?

正解⇒「×」なんです。詳しくは以下の改正点を読 んでください。




 2002年6月24日の「『日常生活自立支援事業(旧地域福祉推進事業)の実施について』の一部改正について」において、地域福祉権利擁護事業が改正さ れた。改正のポイントは以下の1〜3の3点です。


1.対象者の範囲の朋確化=拡大

(1)認知症との診断、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳保有に限らない
 事業の対象者を「認知症と診断された高齢者、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を有する者に限るものではない」と規定し、判断能力が不十分な者であれ ば、事業の対象者となることを明確にしたとのことである。日常生活自立支援事業の一項目の福祉サービス利用援助事業の説明では、あらためて整理して述べて いる。

「本事業の対象者は、次のいずれにも該当する者とする
ア 判断能力が不十分な者(痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等であって、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判 断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難な者をいう。)であること。
イ 本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる者であること。」

 全国社会福祉協議会発行「NORMA7月号」の「特集 地域権利擁護事業の機能拡充の推進」では、この問題を詳しく研究した結果を報告しているので、引 用しながら反芻してみる。同報告は地域福祉権利擁護事業の実績にふれた後、次のように指摘している。
 「本事業の利用対象とされている『断能力が不十分な者』が外見的には分かりにくいこともあり、対象を非常に限定的に捉える傾向も見うけられた。たとえ ぱ、実際には自分ひとりでは日常生活上の様々な判断をすることが難しく、周囲の人たちも何らかの援助が必要だと感じているのに、判断能力の不十分さが確認 できない(認知症の診断を受けていない、障害者手帳を持っていないなど)としてこの事業の対象外としてしまう例である。」
 そこで、機能拡充研究で契約事例403事例の内容を、利用者が抱える生活課題を抽出、コード化し、援助内容、対象を明確化し、どのような生活課題・生活 者に対応できているかを明らかにし、「量的・質的分析」を試みたとのことである。その結果は、金銭管理と衣食住の管理に関する課題を多く抱えること。家族 や親族がいない、疎遠で十分に機能していないなどインフォーマルな面でのつながりが弱い、関係が悪く葛藤がある事例も多くみられた。また、意思表示や情報 の伝達では、痴呆の診断が確定していないが、頻繁な物忘れがある、物盗られ妄想、被害妄想、教育レベルや身体の障害等により署名などができない、書類の内 容が理解できないなどの課題も多く見られたとのことである(以下の生活課題の例)。

<生活課題の例>
・公共料金や新聞代などの支払いの滞納がある。ガス、電気、水道などを止められた
・不必要な訪問販売等の契約や購入がある・多額である
・消費者金融や金融機関への負債、ローンの支払いがあり、返済能力や方法に課題(疑問)がある
・通帳や印鑑、権利証などの管理が困難である。財布や現金、通帳や印鑑を紛失する事がある
・衣類や身辺の清潔・管理ができていないのに、適切なサービス利用がされていない
・住居が著しく不清潔・散乱している、または老朽化などにより住居として適さないのに適切なサービス利用がされていない
・必要と思われるのに福祉サービスの利用に結びついていなかった
・家族・親族が死亡、音信不通、疎遠等の状況にある
・家族、親族と折り合いが悪い、葛藤がある
・頻繁な物忘れがある(痴呆の症状が疑われるが確定していない)
・もの録られ妄想、被害妄想がある(痴呆の症状が疑われるが確定していない)
・疾病や障害によりコミュニケーションに困難がある(難聴がある)
・郵便物の内容の理解や管理ができない(教育レベル、身体障害等)
・金銭的・物質的な搾取を受けている疑いがある

 そして、結論として次のようにま述べている。「このように事例を見ていくと、判断能力の不十分さとはその人自身の認知や知的な能力のみによるのではな く、情報の獲得やコミュニケーション能力、本人をとりまく社会資源の状況などから複合的に生じており、そのことで日常生活の不安定さや権利侵害にあう危険 性等を招いていることがうかがえる。今後は、このような具体的な生活課題に着目し、日常生活に不安を感じている人を積極的にこの事業でサポートする必要が ある。」
 こうした研究を踏まえて、「改正通知では、この報告を踏まえて利用対象者が『痴呆と診断された高齢者、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を有する者に限 るものではない』ことを明確にしている。改正の趣旨を路まえ、上述のような生活課題を手がかりに、本事業の利用者を拡大することが必要である。」とまとめ ている。

(2)施設入所者、入院患者も対象
 また、「本事業による援助の対象者は、居宅におけるものに限られるものではない」と規定し、社会福祉施設入所者及び入院患者についても本事業の援助対象 としたこと。

(3)契約内容を判断できなくとも、成年後見制度の利用で対象となる
 さらに「契約内容について判断し得る能力を有していないと判断された者であっても、成年後見制度の利用により本事業の対象となり得る」と規定し、本事業 の対象者を明確にしたこと。


2.援助内容の拡大
 援助の内容について、@福祉サーピスの利用援助、A日常的金銭管理、B書類等預かりの3つのサービスの3つのサービスに次のサービスを加える。
「住宅改造、居住家屋の賃借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助その他福祉サービスの適切な利用のために必要な一連の援助」 の規定を追加し、福祉サービスの利用に関する援助以外の援助を含め、福祉サービスの適切な利用のために必要な一連の援助を一体的に行えることとしたこと。
 「特集 地域権利擁護事業の機能拡充の推進」では、今まで「地域福祉権利擁護事業では@福祉サーピスの利用援助、A日常的金銭管理、B書類等預かりの3 つのサービスを中心に展開してきたが、実一践や事例分析を通して本事業の利用者に対してはこれらの3つのサービス以外にも日常生活全般を視野に入れた支援 が必要であることが明らかになっている。」と指摘している。
 そして、「このような状況を踏まえ機能拡充研究では、地域福祉権利擁護事業の制度創設に先だつて出された『社会福杜分野における日常生活支援事業に関す る検討会報告』で、今後検討すべき援助として提示された『住宅改造や居住家屋の賃借の援助』、『文化・レクリエーションに関するサービスの利用援助』、 『商品購入に関する簡易な苦情解決制度の利用援助』等について検討を行い、日常生活に関連する『情報提供や助言』について支援内容を拡充することを提案し た。」と述べている。
 さらに、こうした総合的な援助をどう実施するのかの問題であるが、次のように社会資源の情報収集とネットワークで解決していく方法を解明している。
 「ただし、当然、生活全般について日常生活自立支援事業のみで解決できるわけではなく、望ましいことでもないので、専門員には、地域の社会資源をよく把 握し、適切につなげることが求められ、その範囲は福祉、医療、保健、消費契約、法律、就労、教育など非常に多岐にわたる。地域福祉権利擁護事業では、社会 資源力―ドの作成を提案しているが、それを社会福祉協議会として整備し、住民に情報提供するとともにリスト化しておくことで、不足している社会資源につい ての気づきや新たな-資源開発にもつながる。(社会資源力ード様式及び作成の方法については『地域福祉権利擁護事業実践テキストブック1』にまとめてい る。)」
 また、現在この事業には、多問題家族や援助を受け入れることに拒否的な利用者など、手厚い関わりそ必要とする相談が他機関からも寄せられるという現象も 起きている。この事業を通じて、地域にどのようなサービスや社会資源が不足しているのかを発信したり、社会資源のネットワーク化を図るこどでより使いやす く、機能するものにしていくことも重要な役割である。
 また、福祉サービスの適切な利用のために必要な一連の援助等に伴う堰祉サービスの利用に関する援助、福祉サービスの利用に関する苦情解決制度の利用援助 又は福祉サービスの適切な利用のための一連の援助に伴う預金の払い戻し、預金の解約、預金の預け入れの手続等利用者の日常生活費の管理(日常的金銭管 理)」の規定を追加し、「日常的金銭管理」を援助内容として明確にしたこと。


3.援助方法の明確化
 援助の方法について、『原則として情報提供、助言、契約手続、利用手続等の同行又は代行によること」及び「法律行為にかかわる事務に関し、本事業の目的 を達成するために、本人から代理権を授与された上で代理による援助を行う必要がある揚合には、契約締結審査会に諮り、その意見を踏まえて慎重に対応するこ と」との規定を新たに設け、本事業の援助方法を明確にしたこと。


4.改正され日 常生活自立支援事業有効活用
 認知症と診断された高齢者、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を有する者でなくとも、判断能力が不十分な者であれば、事業の対象者となるとのことであ り、利用対象者は大幅に増える。独居で近親者がほとんどいなくて、単独外出がままならないのに、銀行にお金をおろしに行くことができない高齢者も多い。そ うした層が今は実際は、ヘルパーやケアマネージャーが代行している現実も少なくない。この層が一定の判断力低下があれば対象となってくる。
 さらには、「住宅改造、居住家屋の賃借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助その他福祉サービスの適切な利用のために必要な 一連の援助」となれば、その援助内容は大幅に広くなる。ケアマネージャーが本人と相談、合意の上でケアプランの中に地域福祉権利事業を位置づけて、そして 本人を支援するネットワークの一環として機能してもらえば、その有効性は非常に高いものとなる。
 このように改正された日常生活自立支援事業について、社会福祉協議会も現在、関係機関に説明、啓蒙をしている。必要で可能なケースでは、ケアマネー ジャーは、この事業を有効活用するように利用者と相談することとなる。

 
5.課題が残る利用料金、公的補助が必要?
 この事業の対象者が生活保護受給者であれば利用料は無料である。ただし、そうでなければ、1時間当たり1,000円であり、裕福な高齢者でなければ利用 はためらうだろう。金銭感覚が鋭い方、実際切り詰めて生活しているが多いので、利用が広がらないおそれが充分にある。
 また、利用料は原則自己負担であり、公的な補助があるわけでないこと。利用料1,000円のうち、800円は生活支援員への報酬であり、200円が調整 等に当たる社会福祉協議会の収入となる。それぞれ適切な報酬とは決して言えない。特に生活支援員については、自分の交通費も含めての報酬であり、また、前 後の準備、記録などの時間は支払いの対象外である。また、1時間をオーバーしても、支援員の方ではなかなか請求しにくい状況も充分あり得る。それらのこと を考えて、たった800円とは、、、良いのでだろうか?
 事業が小規模の間は、意欲ある生活支援員のなり手も見つかりやすいが、今後本格展開をしていくと事業量も増え、多くの生活支援員が必要となるし、ひとり ひとりの業務量も増える。そうした時、今のままの報酬でなり手が確保できるのか、疑問である。今のうちは、地域福祉で権利擁護を進める事業だが、将来は地 域負担で権利擁護を進める事業という側面が強いものになりかねない。 公的補助を一定出すことで、利用者負担を減らし必要な人に利用しやすくするととも に、生活支援員、社会福祉協議会への報酬を適切なものにすべきではないだろうか?こうした公的補助をしないで解決をはかる方向を突き進むのであれば、以下 のような指摘が当てはまってしまう。
 厚生労働省は、一人暮らしや高齢者世帯への生活支援事業について『主として健康な高齢者をはじめとする地域住民やボランティア等が地域ネットワークを 担って』すすめていくことを想定している。そうしたネットワーク作り自体は有意義なものだが、公的な責任を回避する側面があることを指摘しなければならな い。介護の必要度を心身の状況のみで判定し、一定の基準以外の人は『自立』とする。そして『自立』だが社会的条件で援助が必要な人は、地域の自主的な力で 支援するというのでは、社会的条件で援助が必要な人は公的援助の対象外であるということになる。そして、福祉の措置による公的援助は虐待、介護放棄、一人 暮らしなのに認知症等判断能力が欠如した方などの限られた特殊ケースのみにしようと、厚生労働省は考えているのだろうか?厚生労働省の本音がこうした方向 にあるのなら、“福祉はボランティアでやるもの”というようになりかねないだろう。



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