AD/HD(注意欠陥/多動性障害)について
1.AD/HD(注意欠陥/多動性障害)とは
衝動的で落ち着きが無く、授業に集中出来なかったり、不注意でボーっとして、呼びかけれれても気がつかなかったりする子供たちが、注意欠陥多動性障害(ADHD=Attention-
Deficit/Hyperactivity Disorder)と呼ばれて、我が国でもその行動特性のために、学校や家庭に適応できない子供たちの姿がメディアでも最近多く取り上げられている。そして近ごろは活発にその子供たちへの対応策が医療や教育現場で講じられたり、医学の分野でも生物学的特性の検討が行われている。
AD/HDのメカニズムは、まだ、確定的には明らかになっていない。だから、障害として制度的には認知されていなかった。医学界での認識のされ方は、「子供の思春期までの特異な傾向」というあたりで、大人のAD/HDは存在しないという医師のほうが、まだ、日本では多数である。そのため、AD/HDをめぐる状況は子供に限っての障害として認知されている場合がほとんどで、成人にもAD/HDがあるという考え方は、一般的ではない。ただ実際の医療現場とその研究において、かつては成人本人の意識や育ってきた環境の問題、心の病気、脳の欠陥が原因とされてきたような、『衝動性・多動・注意持続困難・先延ばし等』の症状が、実は大人になっても脳神経の発達の特性が原因でそうならざるを得ない部分が多々あるということが分かってきた。
これらの障害は思春期以前がもっとも顕著であり、多動性 (hyperactivity)に関しても、衝動性(impulsivity)に関しても、注意欠陥(inattention)
に関しても、年齢が上がると減衰するというデータがある。この点から、成人AD/HDを否定する意見が出てくるわけであるが、これはあくまで「減衰」であって、「消滅」ではないわけではないから、AD/HD児が存在する以上、AD/HD者というものも確実に存在するわけである。
このようなAD/HD的傾向をもつ成人が、日々の家庭生活において配偶者や子供との関係で悩んでいたり、職場での対人関係や仕事自体の問題で日常生活においていつも「生きにくさ」を感じている場合が多々あるが、我が国の成人AD/HDへの理解の低さから、自分の日々の悩みがAD/HDに関連し生物的な理由からだということに気がつかないで、適正な診療やサポートを受けられないる人達が沢山存在する。
2.原因
前頭葉機能不全や神経伝達物質(ドーパミン・ノルエピネフリン・セロトニン等のカテコールアミン)の代謝の問題、また、その他RASや青斑核や尾状核、扁桃体などの領域の機能不全など、生物学的な問題が原因とされている。AD/HDはまさに、脳内化学物質が良くわからない理由でアンバランスになって起こる障害であるらしい。右脳と左脳の連携障害でもあり、海馬の血流障害でもあり、「やる気部位」とされる前頭葉の一部の血流障害でもあり、その他、もろもろの障害がある。AD/HD者の脳においては、このような様々な障害が起こっていることが検査の結果示されているが、その原因が、よくわかっていないわけである。その結果、確定的な治療法というものも存在しないわけなのだ。
3.主症状
・衝動性
ADHDの症状の中でも、生涯にわたってずっと続いていく症状。
外界からの様々な刺激に対して無条件に、一見反射的に反応する症状で、特に頭に浮かんだ考えをそれをすぐに言葉に出してしまう欲求に駆られ、それが原因で問題に直面する場合が多い。
・多動性
多動性は、成人になってから経験による学習効果と行動のコントロールで抑制する場合が多いが、貧乏ゆすりや早口のたえまないおしゃべりという形で置き換わっている。
・不注意
注意力を自分の意思で充分長く持続させることができない現象で、それが原因で「にぶい」「ぬけている」「意識がふっと別の次元にいく」という問題がでてくる。
注意力持続の欠陥は、学業・人間関係、職場での評価など、人生様々な面での障害となる。
・その他具体的な症状
『だらしない、整理整頓ができない、ミスが多い、ストレスに弱い、刺激が多い道を選ぶ、モノを無くしやすい、金銭の管理が出来ない、遅刻が多い、不器用、危険な行為をする、計画・準備が困難、仕事が完成しない、退屈にたえられない、気分がかわりやすい、気ぜわしい、不安感、鬱、心配性、目標に対しての達成感が感じられない、かんしゃくもち、怒りっぽい、マニュアルに従うのが苦手、自尊心の低さ、不正確な自己認識、対人関係に一喜一憂しやすい、暴力行為をおかしやすい、アルコール中毒や薬物中毒になりやすい、しゃべりすぎる、手足を無意味にそわそわ動かす、順番を待つことが苦手である・・・・・・・等』
4.診断基準
<診断基準(DSM-W)>
1.不注意
以下の症状のうち、少なくとも6つが6ヶ月以上続いている。
●学業、仕事、その他の活動において、しばしば綿密に注意することが出来ない。また、不注意な過ちを犯す。
●課題または遊びの活動で注意を持続することが、しばしば困難である。
●直接話し掛けられた時、しばしば聞いていないように見える。
●しばしば支持に従えず、学業、用事、または職場での義務をやりとげることが出来ない
(反抗的な行動または指示を理解できないためではなく)
●課題や活動を順序だてることが、しばしば困難である。
●(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
●(たとえば、おもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、道具など)課題や活動に必要なものをしばしばなくす。
●しばしば外からの刺激によって、容易に注意をそらされる。
●しばしば、毎日の活動を忘れてしまう。
2.多動性−衝動性
以下の症状のうち少なくとも6つが6ヶ月以上続いている。
●しばしば手足をそわそわとうごかし、または椅子の上でもじもじする。
●しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる。
●しばしば、不適切な状況で、余計に走り回ったり高いところへ上がったりする。
(青年または成人では落ち着かない感じの自覚のみに限られるかもしれない)
●しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
●しばしば「じっとしていない」または、まるで「エンジンで動かされるように」行動する。
●しばしばしゃべりすぎる。
●しばしば質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう。
●しばしば、順番を待つことが困難である。
●しばしば他人を妨害し干渉する。(例えば、会話やゲームに干渉する)
3.上記1、2項の症状が7才未満に存在し、障害を引き起こしている。
4.これらの症状による障害が、2つ以上の場所(学校又は職場と家庭等)で存在する。
5.社会的、学業的または職業的機能において、臨床的に著しい障害が明確に存在する。
6.その症状は「広汎性発達障害」「精神分裂病」その他の「精神病性障害」の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患「気分障害」「不安障害」「解離性障害」「人格障害」では、うまく説明されない。
<診断基準(ICD-10)>
1.不注意
不注意を示す以下のような症状が6つ以上あり、それが6ヶ月以上持続し、小児の発達レベルにそぐわない不適応が認められる。
●細かいことに集中できず、学業や仕事、その他の活動において不注意による誤りが目立つ。
●課題や遊びにおいて、注意を持続することができない。
●話しかけられても聞いていないように見えることが多い。
●反発しているとか、理解できないということではないにもかかわらず、指示に従うことが出来ず、
宿題や用事(大人の場合は与えられた仕事)をやり遂げられない。
●課題や活動を順序だてて行うことが出来ない。
●家事など、根気のいる仕事を避ける。
●特定の課題や活動に必要なもの(教材、鉛筆、本、おもちゃ、道具など)をよくなくす。
●他からの刺激で簡単に注意がそがれる。
●日常の活動において、様々なことを忘れる。
2.多動性
多動性を示す以下のような症状が3つ以上あり、それが6ヶ月以上持続し、小児の発達レベルにそぐわない不適応が認められる。
●手足を落ち着きなく動かしたり、椅子に座っているときにもじもじする。
●教室内で席を離れたり、座っていなければならないような状況で席を立つ。
●おとなしくしていなければならないところで走り回ったり、高いところに登ろうとする。
(青年や成人の場合は、落ち着きがないように感じられるだけでもあてはまる)
●遊んでいるときに必要以上に騒ぐ、あるいは静かに余暇活動につくことができない。
●どこでも激しく動き回り、社会的な状況や要請によっても実質的に変わらない。
3.衝動性
衝動性を示す以下のような症状が1つ以上あり、それが6ヶ月以上持続し、小児の発達レベルにそぐわない不適応が認められる。
●質問が終わる前に、出し抜けに答えてしまう。
●行列に並んだり、集団行動やゲームで順番を待つことができない。
●人の邪魔をしたり、介入したりする傾向がある(人の話やゲームに割り込む等)。
●社会的な状況と関係なく、やたらにおしゃべりをしてしまう。
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