気分障害及び気分変調性障害
○気分障害(うつ病、抑うつ神経症、情動性人格障害を統合した概念) mood disorder
気分の高揚や抑うつのような気分変化を優勢症状とする精神医学的障害。双極性障害とうつ病性障害に分けられ、前者は本格例の双極T型障害と軽躁状態にとどまる双極U型障害、さらに軽症型として気分循環性障害に区別される。うつ病性障害は、本格例の大うつ病性障害と軽症型で従来の抑うつ神経症に相当する気分変調性障害に区別される。
うつ状態では、悲哀や絶望感を伴う抑うつ気分、口数が少なくなったり考えが頭に浮かばないなどの思考制止、活動性や自発性が低下する意欲低下、睡眠障害や食欲減退、体重減少、死についての反復思考、性欲減退などの身体症状が現れ、日内変動がある。躁状態では、楽天的で疲れを覚えない爽快気分、多弁で話がすぐに脱線する観念奔逸、活動性の亢進や多動、脱抑制などの意欲亢進がみられ、身体症状はうつ状態に比べて少なく、早期覚醒が必発だが熟眠感がある。
一般的に、うつ病性障害の方が双極性障害より予後が良好である。病因として、遺伝負因が発病に関与するが、双極性障害の方が遺伝負因が高い。器質因として、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンなどのモノアミン系と感情病の関係が注目されている。また、心理社会的因子に引き続いて起こることがしばしばであるが、三つの病前性格と誘因が挙げられる。循環病質はクレッチマーの循環気質が顕著となったもので、社交的、善良、親切、情味深いことを基本特徴とし、これに陽気と陰気の特徴を両極とする気分の比がある。循環病質は特に双極性障害の病前性格に多い。執着性格は下田光造によって提唱された躁うつ病患者の病前性格で、几帳面、仕事熱心、凝り性、強い正義感や責任感などを特徴とする。この性格では、適応困難な状況でも休息を取らずに活動を続け疲弊して発症するとされている。メランコリー親和型性格はテレンバッハ(1961)によるうつ病患者の病前性格で、几帳面、他者配慮、秩序性がみられるという。執着性格とメランコリー親和型は類似しており、中年期に初発するうつ病者によく認められる。また誘因として挙げられるものは、近親者の死、転勤、昇進、退職、引っ越し、身体疾患などのストレスやライフイベントである。うつ病の治療には、薬物療法(三環系/四環系抗うつ薬、SSRI、炭酸リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、抗精神病薬)と精神療法が主であり、難治例には電気痙攣療法が劇的に効果を示すことがある。また、躁状態に対しては刺激するような応対は避け、うつ状態に対しては特に回復期に自殺に注意し、一人にしない、激励したり無理な作業をさせないでしっかり休ませるなどの対応が重要になる。
○気分変調性障害 dysthymic disorder
気分変調とは、従来の抑うつ神経症にほぼ相当し、広義には偏った気分の状態を指すが、狭義には抑うつ的な気分の状態を指す。軽症で持続的な抑うつ気分を主徴とする気分障害の一型である。DSM-Wでは、一日中の慢性的抑うつ気分が少なくとも2年間持続し、その間、食欲減退/過食、不眠/過眠、気分低下、自尊心の低下、集中力・決断力低下、疲労、絶望感などの症状が見られる。うつ病の慢性化や慢性的抑うつ状態はこれには該当しない。