パニック障害


 パニックに陥ることは誰にでもあることです。どんなに冷静な人でも、予期しない衝撃的な出来事が起これば、ふだんの落ち着きは失われ、別人のように右往左往してしまうものです。判断力も狂い、ふつうなら考えられないようなことをしてしまうこともあります。心臓は高鳴り、息は速くなります。こうしたことは、人間にそなわった、正常な反応です。危機に対して、エンジンを全開してからだ全体を駆動するため、神経や心臓のはたらきが急激に高まるのです。パニック障害は、実際には危機でないのに、脳が幻の危機を感知してパニック発作が起きる病気です。
 パニック発作の時は、息苦しくなって、心臓が速く打ち、胸が痛くなるなどの症状が急に出てきます。汗が激しくでたり、からだがふるえたりすることもあります。症状は心臓発作に似ているので、死ぬのではないかと心配することが多く、不安が不安を呼んでいてもたってもいられなくなります。このため救急車で病院にかかることが多いものです。病院では心電図などの検査をしますが結果は何の異常もない。これが典型的なパニック発作です。確かにパニック発作はこわい感じがしますが、もともと人間の正常な反応が急にあらわれたものです。
 
○主な症状
・パニック発作
 パニック障害の患者は、突如強い不安感に襲われる。これに付随してめまい、動悸や手足のしびれ、吐き気、息苦しさなどを感じたり、死ぬのではないか、狂ってしまうのではないかという恐怖に襲われて、非常に困惑する。しかし、身体的には全く問題は生じずにある程度の時間の経過によって回復する。これを不安発作やパニック発作という。
・予期不安
 患者は、この体験を非常に強烈なものとして感じるため、次に不安の発作が発生する状況を非常に恐れ、また起きるのではないかと、さらに不安に感じる。これを予期不安という。
・広場恐怖
 電車や飛行機、歯科、理・美容室、道路の渋滞など、一定時間特定の場所に拘束されてしまう環境や、ショッピングモールなど人込みの中などでは、その場からすぐに離れたり逃げたりすることが難しい。このため、前述の発作が実際に起きてしまうことを恐れ、乗り物に乗ることなど不安を感じる特定の状況を避けたり、発作を避けるために家にこもりがちになったりする。このような症状を広場恐怖(アゴラフォビア)という。なお、パニック障害は広場恐怖を伴うことがあるが、逆に広場恐怖の原因のほとんどはパニック障害である。
その他、カフェインやニコチンで増悪する。


○診断
 予期しないパニック発作が繰り返し発生し、それらに対する予期不安が1か月以上続く場合、パニック障害の可能性が疑われる。
 ただし、PTSD・うつ病・強迫性障害などの精神疾患の症状の一つとしてパニック発作を併発する場合があるが、この場合は、これらの病気の症状の一つとして扱われ、パニック障害とは診断されない。また身体疾患が原因になっている場合もパニック障害とは診断しない。パニック障害は、広場恐怖を伴うものとそうで無いものの2つに分けて診断される。


○特徴
 生涯有病率3.8%。 男女ともに起きる疾患だが、女性に比較的多いといわれる。従来は精神的、心理的な問題だと思われてきたが、脳内の神経伝達物質のバランスに異常があることがわかってきており、これを改善する薬物療法が注目されるようになった。

○治療
 薬物療法では抗うつ薬(SSRIや三環系抗うつ薬)は有効である。抗不安薬は不安を下げるが依存性があり、益と害の交換である。精神療法では認知行動療法や非指示的療法が有効である。ただし、日本国内に「認知行動療法」の施術者は、ほとんどいない。


○認知行動療法
・暴露反応妨害法
不安が誘発される状況に想像的(in vitro)または体験的(in vivo)に身を置き、回避しないことで徐々に慣れる ・呼吸法
過呼吸にならないようなリラクゼーショントレーニング
・筋弛緩法
筋肉を緩めるリラクゼーショントレーニング


○注意すべき点
パニック障害は、パニック発作が1ヶ月以上続くこと、薬物、身体疾患によるものではないこと、他の精神疾患ではうまく説明が付かないことが診断の基準になっている。
 「他の精神疾患ではうまく説明が付かない」という点は非常に曖昧であり、似たような症状を持つ精神疾患が複数存在するため、専門家でも何年も治療してからようやく診断を下すケースや、誤診してしまうケースも少なからずある。逆に、心臓など身体に問題があるととらえてしまい、別の診療科を回ってしまうケースもある。どちらにしても、素人がこの病気を診断するのは危険である。






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