スチューデント・アパシー
本来「アパシー」とは、精神疾患や脳器質疾患に見られる無感情や感情鈍麻の状態を指します。無気力・無関心・無快楽が主な特徴です。「スチューデント・アパシー」という言葉は、アメリカの心理学者ウォルターズWalters(1961)が「大学生に見られる、慢性的な無気力状態を示す男性に特有の青年期発達の障害」として用い、本来のアパシーとは区別したことに始まります。
その後、笠原嘉(1973)がWaltersのスチューデント・アパシーの概念を元に、日本の大学生の無気力状態を「退却神経症」と名づけて広め、日本にこれらの名称を定着させました。最も特徴的な症状は、大学生の本業である勉強のみに対する無関心で、アルバイトなど勉強以外のことに対してはまじめに取り組むことです。そのため、周囲からは怠けていると見られることが多いようです。
スチューデント・アパシーの症状が出始めるのは、もともと、気立てが優しく、人と競ったり争ったりすることを好まない人達が多いといわれています。まじめ・几帳面・完全主義・頑張り屋の男子学生に多く、女子学生では摂食障害に陥ることもみられます。 スチューデント・アパシーの原因や予防法は未だ明確ではないようですが、受験戦争のための疲労や、無目的な進学、親の期待からの重圧、などがあるのではないかと推測されます。
以前は主に、こうした新入生のアパシーが注目されていたのですが、最近では新入社員にもこのアパシーに陥る人が増えてきています。もともと不本意で入った会社なら、早々とやる気を失ってしまうこともあるでしょう。しかし何百、何千倍という競争率をくぐり抜け、念願の一流企業に入った若者が、ゴールデンウィークを明けたころから、急に仕事に対する意欲や関心を喪失し、無気力な状態に陥ってしまうケースが増えているのです。これを「サラリーマン・アパシー」といいます。
アパシー・シンドロームは、一種の自己防衛反応とも考えられます。期待と希望に満ちあふれて入社したものの、実際には自分が思い描いていたような成果を上げることができない。すると自己防衛反応が働いて、無気力になることで、自分への失望感から逃げようとするのです。
アパシー・シンドロームの人は、学校や就職に対して具体的な不満があるわけでもなく、自分の無気力な状態にもさして問題を感じていないため、治療も難しいといえます。ただ、スポーツでも趣味でも、自分が何か夢中になれるものが見つかると、無気力状態から脱することが多いようです。