心理検査A(投影法)


投影法
外部からの観察や意識的内省によっては直接捉えることのできない人格構成要因や構造様式、あるいは知覚機能や認知の成立過程を理解す る方法である。
新奇で構造化されていない多義的な刺激と、自由度の高い反応を求める教示とが作り出す全体としてあいまいな刺激状況を提供する。
非構造的な刺激を知覚する際にその人の内にある固有の感や欲求、情緒が投影されるという前提に基づく。
[長所]
(1) 個人の全体的・力動的な性格の把握が可能である。
(2) 意識レベルにとどまらず無意識レベルを知ることができる。
(3) 反応が一定方向に故意に歪められることが少ない。
[短所]
(1) 結果の処理や解釈が難しく、検査者の専門的な訓練と経験、深い人間洞察力が要求される。
(2) 検査の多くは個人法のため、実施に時間と労力がかかる。

TAT(主 題統覚検査) Thematic Apperception Test
人間的な営み・体験を示唆する絵を被験者に示し、その絵から登場人物の欲求(要求)、そして将来を含めた物語を構成させ、空想された 物語の内容から被験者の主に欲求の体系を明らかにする投影法性格検査。
アメリカの心理学者マレーによって開発された。
絵画図版は31枚(うち1枚は白紙)用意されている。
実際の検査では、この中から数枚から20枚程度を選択し、1枚5分程度で実施する。
絵画を提示された被験者は、絵画の人物の性格・感情、現在・過去・未来などを空想し、自由に語る。
語られた物語は、被験者の投影された主題が示される。
分析方法は十分に確立されているとはいいがたいが、マレーの欲求=圧力分析法が有名である。
この方法では欲求は、「対人関係」「社会達成」「官能的快楽」「自立・抵抗」「防衛的逃避」などのカテゴリーにもまた圧力の源としては、「社会的対人関 係」「外的環境」「内的環境」のカテゴリーに分類される。
児童版としてCAT(児童用絵画統覚検査;登場人物に動物が描かれている)がある。

P-Fスタディ(絵画欲求不 満テスト) Picture-Frustration Study
ローゼンツァイクによって作成された、日常生活での24の欲求不満場面に対する反応による投影法性格検査。
他人から害を被った場面や攻撃を受けた場面、欲求不満が喚起される場面などがイラストで示され、被験者は空白の吹き出しが描かれている人物に同一視し、吹 き出しの中に記入することを求められる。
24の場面は、「自我阻害場面ろと「超自我阻害場面」の2つから構成される。
[場面構成]
・自我阻害場面−16場面
人為的・非人為的障害によって、直接に自我が阻害されて、欲求不満を引き起こしている場面。
・超自我阻害場面−8場面
他者から非難・詰問され、超自我(良心)が阻害されて欲求不満を招いた場面。
[評価方法]
・攻撃の方向
他責、自責、無責
・型
障害優位型、自我防御型、要求固執型
これらの組み合わせによる9種の評価因子に2つの変型を加え、合計11種の評定因子により評定する。

SCT(文 章完成法) sentence completion test
前半に短い刺激文が呈示され、未完成の文章の後半を自分が連想した通りに記入し文章を完成させる投影法性格検査。
SCTは、性格の全体をトータルで把握する目的で使用されることが多い。
文章理解と作文能力がある児童以上に用いられる。
SCTはロールシャッハ・テストと組み合わせて実施されることも多い。
[刺激文の構成]
刺激文は大きく3つに大別され、さらに下位尺度として合計7つの項目で構成される。
(1) 社会・生物的基礎
社会、家庭、身体、知能
(2) 性格
気質、力動
(3) 指向
指向

ロールシャッハ・テス ト Rorschach test
ロールシャッハによって考案された投影法人格テスト。
インクのしみをたらした左右対称のあいまい図形を呈示することにより、被験者の反応を問うものである。
検査課題でどのような性格傾向を知るかという手続きが被験者にわからないため、被験者自身が自分の反応を歪曲する傾向が少ない。
また、検査結果から非常に多くの知見を得ることができるため、性格検査の中では極めて有効度が高い。
ただし、検査結果を正確に把握するために施行方法や解釈については、熟練が必要とされるので、簡便さの点では質問紙法に劣る。
ロールシャッハ・テストは、被験者の知的側面、情緒的側面、衝動や感情の統制のあり方、対人関係の特徴、病態水準、予後の予測など多角的なアプローチが図 ることができる。
[図版]
無彩色5枚、赤と黒2枚、多色刷りの3枚の計10枚。
[実施手順]
検査は10舞の図版を順番に被験者に呈示し、その反応を得る要領で行う。
順番としては、「自由反応段階」と「質疑段階」の2段階で構成される。
・自由反応段階
図版を呈示し、何に見えるか自由な反応を求める。
回答にあたっては、何の制約もないことを被験者に強調する。
この際、カードの方向、初発反応時間、終了時間、反応語、受検態度などを記録する。
・質疑段階
自由反応段階で得られた反応について、スコアリングに必要な情報を得る。
検査実施後、反応領域(どこにそれが見えたのか)、決定因(どのような特徴からそう見えたのか)、反応内容(何を見たのか)を記号化する。
その記号化したものを集計し、分析を行う。

ソンディ・テスト Szondi Test
ソンディによって考案された投影法検査であり、彼が構想した運命分析学を検証するために考案されたものである。
48枚のトランプカード状の顔写真セットを用いる。
ソンディ・テストは、てんかん、うつ病などの8タイプの精神疾患患者の顔写真を被検者に呈示し、好き嫌いを評定させることで性格の査定を行うものである。
ソンディによれば、フロイトの個人的無意識とユングの集合的無意識との中間に家系的無意識があるという。
この家系の遺伝に基づく無意識的衝動を明らかにして、その否定的なものを予防し、肯定的なものへと転換することが治療に役立つとした。
48枚の顔写真は、典型的な精神疾患患者であるといいつつも実はそれ以外のものが含まれており、ソンディの理論構成の是非はさておいても、内容的な面での 妥当性が疑問視されることもある。
また、いずれもヨーロッパ人の顔写真であるため、日本人に適用することへの問題もある。
結果の分析については、衝動プロフィールの作成手続きがかなり整備されており、様々な量的分析法もとりあえず確立されている。
ソンディ・テストは、深層レベルの意識を拾い上げる検査として、多くの場面で用いられてきたが、運命分析や衝動分析の理論的根拠に対する妥当性の検討が問 題であるといわれている。

描画法検査
描画法とは、被検者に絵を描かせ、そこから被検者の性格や知能、発達の程度などを査定する方法のことである。
(DAPもこれに含まれる。)
一般に描画法検査は、言語以外のものに焦点を当てた検査であるため、言語コミュニケーションが難しい状態の被検者の心理状態を査定できるという最大の特徴 を持っている。
また被検者の無意識的な心理状況を拾いやすく、多面的な部分を抽出することが可能である。
さらに、描画自体が描画療法という側面を持ち、治癒的な効果を持つという利点もある。
逆に短所としては、被検者との十分なラポールが取れていない場合には、何も必要な情報が現れないことも起こりうる。
描画の上手下手を問題にすると、特に成人に拒否的な反応をされてしまう場合があるので、被検者の描画への嘲笑的な態度は禁物である。
■■ HTP(家と樹木と人物描写 検査)
バックは知能検査として使用されてきた描画法に対して人格検査の側面を持たせた、HTPの創始者として知られる。
HTPは、クレヨンなどで「家(house)」「木(tree)」「人(person)」の3種類を「できるだけ上手に」描いてもらい、描画完成後にバッ クによる64の質問(Post Drawing Interrogation; PDI)を行う。
ここから量的分析、質的分析を行い、被検者の心的世界や知的水準を把握する。
また日本においては、高橋がHTPを鉛筆のみで描かせ、さらにもう1人違う性の人を描かせる手法を用いており、これはHTPPやHTPsとも呼ばれてい る。
■■ バウム・テスト Baumtest
スイスの心理学者コッホによって創始された描画による投影法性格検査。
A4用紙に鉛筆で「実のなる樹木を一本」描かせ、その図を評定する。
他の描画法と同様、様々な年齢層に対して、言語表出が困難な者にも、知的能力や発達の診断に用いることができるという利点がある。
一般的な人格診断だけでなく、職業適性、精神障害や知的障害の早期発見、心理療法の効果測定など広く用いられる。
■■ FDT(家族画法/家族描画法) Family Drowing Test
DAPから発展したもので、児童の発達の評価から始まったが、現在では成人の臨床場面にも用いられる投影法的描画検査の1つである。
ホールズ(1952)は人物画よりも被験者を含めた集団を描画させたほうがより被験者の全体的把握が可能であると主張した。それ以降家族画法に関しては非 常にさまざまな手法が開発、創案され、合同家族画法、家族診断画法、動的家族画法、円枠家族画法などがある。
家族画法においては、被検者に単に家族の絵を描かせるが、家族診断画法においては、「なぐり描き」「家族の肖像画」「家族の共同製作による壁画」を描かせ る。
また、動的家族描法においては、家族が何か動作をしているところを描かせることによって、児童の自己概念に関して、特に感情的なものを引き出すことを意図 している。
円枠家族描画法は、被検者に19〜23cmの直径で描かれている円の中心に母親の全身像を描かせ、それに対する自由連想を円の周辺に描かせる。
いずれも描画法をさらに複雑にしたものであるため、描画法の持つ長所・短所がさらに強調されたものとなり、検査者の面接能力の高さに大きく依存する検査技 法である。
■■ ベンダー・ゲシュタル ト検査 Bender Gestalt Test
ベンダーによって開発された視覚・運動形態機能を測定するための検査。
被検者はまとまりやパターンの繰り返しのある様々な模様・図形を描写することを求められ、その描写の正確さ、混乱度、描画方法などが査定される。
児童に対して行えば、その発達成熟度を調べることができ、成人に対して行うと、視覚や運動機能の障害、大脳の器質的損傷の診断、場合によっては統合失調症 などの診断も可能となる。
この検査は、作業検査法に分類されることもある。





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