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私がかって教わっていた、踊りの師匠の元を離れたときのことはお話ししましたね。あのときは詳しいことは説明しなかったのですが、実は自分から辞めたわけではないのです。恥ずかしながら破門されてしまいました。
彼女(師匠は女性です)の家には妙齢の、ウメという名の実に可愛いらしい猫がおりまして、私、年甲斐もなく懸想してしまいました。月夜の晩に忍び込み、厭がる牝獣を押さえ込み、挙げ句の果てに孕ませてしまったのです。カンカンに怒った師匠は即座に私に引導を渡しました。
一時の身の迷いと申しますか、あのときのことを思い出すと顔から火が出る想いでございます。
白状しますとこの手癖の悪さ、今に始まったことではございません。実家を出る原因となったのも抑えがたき異類愛のなせる技。げに変わらないのは人間の性でございます
実家ではその昔、数匹の雌鶏を飼っていたのですが、ある日その一羽が産んだ卵から聞こえてきたのは、まごうかたなき赤子の泣き声。こりゃ大変だと3分間レンジでチンしてみたところ、孵ったのはどこか鶏じみた赤ん坊。誰の仕業かは問い質すまでもなく解っているぞと、見透かしたような親父のひと睨みに、しらを切り通せなくなった私は、哀れ、勘当の身となってしまったのです。
もっとも家を出る前に、その鶏のような赤子、家族そろって美味しくいただいたのですが・・・。
まさに最後の晩餐。今生の別れとばかり、母親などは目頭を熱くしてせっかくの食事が喉を通らぬ有様でした。
さて、その後、猫のウメとはどうなったかというと、実は仲睦まじく同棲しているのです。子供の名も決めました。
生まれるその日が待ちきれず、思わずチンしてしまいそうになる毎日です。
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