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■100年建築とは

 100年建築とは、文字通り長寿命の建築のことだが、たとえば戦後の住宅の平均寿命は30年弱。それを3倍にすればそれだけエネルギーを使わずにすむため、地球環境に負担をかけなくて済むという発想である。また、ヨーロッパの美しい街並のように、日本も改めて街並みを育てていこうという考え方でもある。例えば住宅の寿命が延びれば、年あたりの住宅費は安くなるし、その分生活にに余裕ができる。それ以外にも良いことがたくさんある。何より、これからのサスティナブルな社会形成にはなくてはならないものの1つであることは、論を待たない。
しかしながら実現するのは簡単ではない。なぜなら建替えの理由がハードウエアが(建物が)痛んだからだけではないからである。

A, 建物の建替えの理由

建物の建替えの主な理由は大きく3つに分けられる。
1、建物単体の理由
2、都市計画の理由
3、事業性の理由
この理由は、単独でなく組み合わせた理由と考えるほうが自然であろう。
このうち2、と3、については、まさに建物に起因する理由ではない場合が多い。
さらに詳しく建物の建替えの理由をあげると

1、建物単体の理由
 a、建物の使い勝手が今のライフスタイルに合わない。
 b、建替えたほうが安上がり。
 c、構造が旧基準でつくられているためこのままでは不安、若しくはは危険。
 d、居住性能が低い
 e、デザインが時代遅れ
 f、親と同居するためバリアフリー化等必要
 g、建物が手狭になった。
 h、建物が汚くなった
 i、建物の主要構造部が劣化し始めた。
 j、設備の老朽化により衛生上問題がある。
 k、設備が陳腐化したため更新したい。(省エネと快適性を上げたい)

2、都市計画の理由
 a、都市計画変更などでもっと大きな建築が可能になった。
 b、都市計画道路に敷地がかかった。
 c、周辺環境にそぐわない建物となってきた。
 d、再開発地域に指定された。

3、事業性の理由
 a、所有者の変更
 b、敷地所有者の事業計画にあわない建物になった。
 c、専用用途から収益のある建物にしたい。
 d、相続対策をしたい。


こうして理由を見ていくと、どの建替えの理由にも同感出来る部分があるのではなかろうか。
100年壊れなければそれでOKでないことは、理解できると思う。
将来性についてどのような準備をしておくか、建替える理由には重要なヒントが隠されている。
100年住宅を考える際少なくとも、この3項目の建替えの理由について将来該当してしまう事業計画では実現は難しいかも知れない。

B、100年建築の条件
 100年といえば人それぞれだが、自分のひ孫が自分と同じ年代になる年月である。
その間の赤ん坊から棺おけに入るまで3代に亘ってお世話になる年月でもある。
では本当に100年建築が出来るのかという疑問がわく。

日本でも戦前は当たり前だったし、むしろ西洋より優れた文化があった。しかし戦後、社会構造が変わったためそのままでは通用しなくなったのだ。ここでは満足できれば100年建築は十分可能といえるポイントを述べる。

 まずは都市計画での条件である。
都市計画の方針に合致させることが大切である。都市計画が変わりそうな地域では、行政に働きかけて建物を熟成させる都市計画に変えさせることである。これは、地区、地域の住民間で協定を結び、行政側へ要望していくことで可能になる。時間と努力が要ることではある。
また、都市計画道路などにかかっている敷地の場合は、むしろ、道路事業が決定したときに建替えしやすい計画とし、次世代に託すほうが現実的である。

 次に建物の条件だが、高耐久仕様の設計とする必要がある。法律ぎりぎりの仕様では不十分と考えたほうが良い。
その上で住宅の内部の設備が更新できるシステムが必要である。また、住宅のプランも一新できるようにしておくとさらに良い。
SI(スケルトン、インフィル)建築は、この考え方を具体化させたもので、主要な構造部以外のすべてを、建替えることなく更新できるようになっている。
SI建築は、ようやく集合住宅で実践されはじめているが、青山設計でもSI建築を実践している。特徴は小ばりのない床スラブにある。

また、100年建築の条件に「広さ」は大きな要素を占める。100年建築に家族が住み続けることを想定(夫婦2+親夫婦2+子供2)すると
常に3世代同居から2世代同居となり最大7人〜最小で4人を推移する。プライバシーを確保できる部屋は最低でも4室以上必要で、不満なくすごすためには5室以上必要である。同じ家に住み続けるには、その広さが条件となる。

一方賃貸住宅の場合移り住むことが容易であることから、広さは条件にならない。しかしいろいろな広さのバリエーションをそろえることは、
2住戸を組み合わせて3世代同居の可能性が広がることから、賃貸住宅で100年住まうことも可能になってくる。今後の新しい市場を思えば本流になる可能性がある。

 100年建築の条件にデザインがある。デザインを軽視されている建物がまだ目につくが、100年以上街並みに存在することを考えると大切な要素である。たとえば、地域で愛されている建築が解体することになれば、住民の保存運動がおきるかも知れない。その反対で街並みを乱す建築は建築反対運動が起きるだろう。地域の人々が守りたくなる建築になれば、パリやローマのように多少費用がかかっても改築しながら住まい続けることになるものである。
建築は時間とともに地域に慕われ歴史を刻んでいくが、それにふさわしいデザインかどうかがとても大切で、実際には建築の命運がかかっているといっても過言ではない。100年以上観るに耐えうるデザインは大切な条件である。


これらの条件を確認するためには、良きも悪しきも良い教科書になるものがある。ヨーロッパ主要都市の建築と住居、同潤会のアパートメント、日本伝統の家屋や町家である。特殊性はそこにはない。

C、100年建築の長所と短所

なぜ100年建築にこだわるか、その長所と短所をみるとわかりやすい
長所
1.地球環境への建設時の負荷が1/3になる
2.寿命が3倍になるため年あたりの住宅コストを平均すれば1/2以下になる。(メンテナンスが必要なので1/3にはならない)
3.3世代同居が継続可能になれば防犯、高齢者介護、少子化や子育ての不安など地域の問題が解消しやすくなる。
4.美しい街並みが増える

短所
1.35年以上の長期住宅ローンが存在しない。
2.将来建て替えが減るため建設産業の景気が悪くなる。


建設産業にとっては痛手かも知れないが地球環境の危機が近づいている。
次の建て替え時期の35年後には大きな試練が来るに違いないと考えるのは筆者だけではないと思う。
また、これから人口が減ってきた場合、建物の建て替えで、新しいニーズに応えた建物を供給する方式では収支が合わない局面も予測される。
そう考えると100年建築はいいことづくめに見える。ぜひ今後の建築界を見ていただきたいと思う。

ただし住宅メーカーの100年住宅は、メーカーによって考え方に随分開きがあるので注意が必要である。100年壊れなければOKでないことを重ねて述べる。

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