リ コ ー ダ ー

リコーダーとの出会いは高校生の頃である。それまではたて笛といえばスペリオパイプというものを学校で使ったような記憶がある。

その頃はバイオリンやビオラの練習に夢中になっていたのだが、輸入楽譜のカタログの片隅にリコーダーの宣伝があり、プラスチック製のソプラノリコーダーで歴史的な楽器のコピーと書いてあったような気がする。

イギリスかどこかの輸入代理店のようなところだったと思うが、自分のコヅカイでも購入できそうだったので注文してみたのである。

そうして、はじめてバロック式の運指を知る事になった。ドから2オクターブ上のレまで、しかも半音もすべて出す事ができる事に驚いた。

受験浪人などでしばらくは忘れていたのが、大学に入ってから市民オーケストラでビオラを弾いていると、いろんな人に出会った。その中にリコーダーを上手に吹く者がいた。右の写真のような美しい少年たちではなかったが・・・。

自分が本格的に吹き始めたのは埼玉に転居した後だったような気がする。


リコーダーを吹く少年( The Piping BoY )
Nathaniel Hone the elder (1718-1784)
ダブリン・アイルランド国立美術館
  ( リ コ ー ダ ー の 歴 史 

リコーダーはシェークスピアの記述に登場する事から、中世からと考えられている。立て笛そのものはもっと以前からあり、音程や音階もヨーロッパ各地で異なっていたと考えられるので少なくともある一定のスタンダードが定まったのがその時代と考えても良いのかもしれない。

ルネッサンス時代に入って出版物が、それまでの希少な写本、木版に比べると多くなり、情報もよりスムースになっていたと思われる。バロック時代の出版はイタリアの作曲家の作品の多くがアムステルダムで印刷されていたようである事などからも、そのことが推察される。

ともかく、そのような背景の中でリコーダーについての詳細は16世紀のドイツの作曲家プレトリウスによって紹介されているのが最初ではないかと考えられる。

右はそのプレトリウスの出版物である。皆さんもどこかでご覧になった事があるでしょう。

M.プレトリウス(E.ウィードマンと同じ時代で同じドイツの作曲家)の「音楽大全」の中には9種類のリコーダーが紹介されており、この中でもっとも小さいリコーダーは14cm、もっとも大きいリコーダーは2mというものまで含まれています。


プレトリウスのこの時代のリコーダーは、管の構造が円筒形で、音色は、現在用いられているリコーダーよりは幅の広い、刺激の少ない音色をもち、リコーダーだけのアンサンブル「ホウル コンソート」または他の楽器とのアンサンブル「ブロークン コンソート」で演奏されていた。

この円筒形のリコーダーをルネッサンスリコーダーとも呼ぶ。これらの時代は、明らかな楽器指定はされないのが普通で、各種の舞曲(パバーヌ、ガリヤルト、アルマンドなど)が、様々な楽器をの組み合わせで演奏されていた。

バロック時代に入るとリコーダーは独奏楽器としても進化して華やかさを求められるようにもなり、管の構造も円錐形のものが主流になる。皆さんが知っているリコーダーはほとんどこのタイプが多いと思います。

しかし、リコーダーのコンソートで使うバスやグレートバスなどはルネッサンス時代の形が残っています。円筒形の木製の大きな楽器は材料も高価で、その結果一般には手に入れにくいことが問題です。

これを解決しようとペツォルトという人が板で断面が丸ではない四角形のリコーダーを発案しました。皆さんはパイプオルガンでも円筒ではない箱みたいな管のついたものを見たことがあるでしょう。

あれと同じ発想なのですが、そのペツォルトのリコーダーは折れ曲がっています。潜望鏡の異名を持つゆえんです。トップページの武石さんが吹いているコントラバスリコーダーがペツォルトのリコーダーです。

さて、バロック時代(1600年〜1750年)に入って管が円錐形になると、高い倍音が豊かに、そして、澄んできらびやかな音色をもつようになってきました。リコーダーのための「ソナタ」や「協奏曲」が数多く作曲され、リコーダーがもっともはなやかに活躍した時代でした。

この時代までフルートといえばリコーダーの事を意味していました。現代のフルートの原型ともいえるキーの少ない笛はフルート・トラヴェルソといって区別されていました。
音も大きく表現力が豊かな楽器ではあったのですが、よほどの名人でなければ音程の悪い楽器で、モーツアルトの時代はもう少しキーの増えた楽器になっていたのですが、それでもモーツアルトには扱いにくい楽器のように思われていたようです。
しかし、時代がすすんで今日のようなオーケストラの活躍する時代になると音量で勝るフルート・トラベルソに主役の座を奪われる事になります。その後、まったくといって良いほどリコーダーは博物館以外での活躍の場は無く、姿を消してしまったのです。

20世紀のはじめに、イギリスのA.ドルメッチという人が最初にリコーダーを復活させ、1926年にはリコーダーだけのコンソートが演奏され、これが現代におけるリコーダ復興の始まりだったのです。これに引き続き、ドイツでもリコーダーの復興が始まり、ドイツでは古い音楽を古い楽器で演奏しようとする運動のほかに、学校音楽の中にリコーダーを積極的に取り入れて音楽教育をしようとする動きが出てきました。

私がスペリオパイプを手にしたのもそんな流れの中にあったのかもしれません。教育的な目的とするために(簡単に教えられるように)ジャーマン式運指(クロスフィンガリングが少ない)が考案された。スペリオパイプはジャーマン式だったし、現在でも小中学校では一部の課外授業などを除いてジャーマン式が採用されているようである。

しかし、音楽的に、本格的に曲を演奏するときにはバロック式の運指の方が向いているように思う。この事が、初めてリコーダーを手にしたとき、バロック式運指の練習には若干の障害になった事は確かだが、現在ではバスだろうが、テナーだろうが、あまり苦にはならなくなってきている。しかし、ソロソナタを人前で披露できるほどではないと思うし、その必要もない。何故なら通奏低音のチェロでそのアンサンブルに参加できるのだから・・・(まわりには上手な笛吹きもいることだし・・・)。

リコーダーは本来、バロックピッチ(現代よりほぼ半音低い)であるはずなのですが、販売されているものの多くはモダンピッチなのです。これは他の楽器とのアンサンブルをするときに重要な問題となるからです。モダンピッチとは「ラ」の音が440Hzという事です。しかし、オーケストラなどでは442Hzにしているところが多いので、またまたややこしくなります。これはロマン派の時代に入ってさらにオーケストラの演奏が劇的なものに派手さを増して音量の幅を広げようとしたからだと思います。今日は443Hzでやるぞーっと指揮者が宣言すればそれにあわせなくてはなりません。そうすると管の長さに未だ余裕のあって調節のきく管楽器は良いのですが、そうでないパートは大騒ぎです。

話はそれましたが、二つのグループが存在する事になったのです。古い音楽を古楽器で演奏しようとするグループはバロックピッチを尊重し、(その認識はないのだろうが)教育目的で復活させたグループはモダンピッチになってしまったのです。

(リコーダーから脱線するが・・・)
埼玉にいたころにビオラ・ダ・ガンバのコンソートの経験をした。当然バロックピッチである。ところがリコーダーや他の楽器とアンサンブルをするときにはモダンピッチにしてくれと要求される。当然といえば当然なのだが、これは辛いものである。バロックバイオリンでも同じ事がいえるのだが、モダンな楽器と比べると内部の構造も異なり、音量の点ではかなわない。無理に440にして演奏すると楽器に負担がかかってしまうのである。また、音を上げるとガット弦がよく切れてしまうので経済的にも辛いのであった。なんとか安く済まそうとナイロン弦やバトミントン用のラケットのガットなどで代用した事もあった。そのうちに日本でもバロックピッチのリコーダーが輸入されるようになって、最近ではガンバにそのような要求をするような無茶をするグループは減ってきたと思う。

そのころ、リュートやガンバ、怪しげな素性の不明なリコーダーや、どうみても琵琶としか思えないようなレベックなどを持ち寄って中世音楽を愉しんでいるグループがあった。私もこれにレベックで加わった、リュート制作者の作ってくれたレベックは歴史的な楽器のコピーに近いものであった。この楽器は太い弦をメイッパイ強く張って大きな音を出すようである。ま、チョッと下品な音のする弦楽器である。ところがリュート作家の作品はカタチは良いのだが表板がリュートなみに薄く、弦をきつく張ると表板がめり込んでいくのであった。仕方がないのでみんなより一音低く調弦し、頭の中でニ長調に移調しなければならなかった。(それも半音低いピッチで・・)
このころの楽しさは忘れられない。また、機会があればやってみたいものです。

中世の音楽はバロック時代の宮廷の音楽とちがって力強くたくましい感じがする。しかし、そうかと思うと非常に叙情的であったりする。民衆に人気のあった美しいメロディーや舞曲などは宮廷音楽家もとりいれ、ポリフォニー的なアレンジを施しチェンバロの変奏曲やリコーダーや管楽器の舞曲集として残している。

もともとのオリジナルの民衆の舞曲は単旋律で、ドローン(4度か5度の持続する低音)の上で繰り返し演奏される。そして太鼓などのリズム楽器が加わる。反復されるリズムと持続音(特に低音)は人々をコーフンさせたに違いない。ブラームス交響曲1番の冒頭でも同じ事がいえる。ベートーベンのシンフォニーなど、今日は冷静に弾こうと思って練習に参加しても血沸き肉踊るような興奮状態になってしまう事がある。こんな時も反復する音形の持続によって、そうさせられているのだろう。

宮廷貴族の栄華と衰退に関係なく、民衆の音楽として現代にまで引き継がれその土地特有の民族音楽として残っているものもあるようです。ハーディーガーディーやダルシマなどが原型となる民族楽器もあるようですし、ドローンはアイリッシュ音楽のバグパイプにも見ることができます。

最後にリコーダーの種類と音域を示します。(バロックピッチのものはこの半音下ですが記譜上は変わりません)