花の形態

花 flower
  
花の構成
  典型的な花は、4つの輪生 (whorl)をもち、各輪生に4種の花葉の一つを生じる
  4種の花葉は外側から蕚片 (sepal)、花弁 (petal)、雄蕊 (stamen)、心皮 (carpel)
  花葉は花柄の一端にある花床(花托 receptacle)に付着する
花葉 floral leaf 花における葉的な器官の総称 すなわち蕚片、花弁、雄蕊、心皮
  裸花葉 sterile floral leaf 蕚片と花弁
  実花葉 fertile floral leaf 雄蕊と心皮
輪生配列と螺旋配列 whorled and spiral arrangement
  通常の花葉のつき方は輪生
  螺旋配列をもつもの
    クリスマスローズ 花被は2つの類似した輪生に生じるが、多数の雄蕊は
      円錐形花床上に螺旋配列する 5つの心皮は中央の輪生に生じる
    モクレン属 多くの雄蕊と多くの心皮が花床上に螺旋配列する
放射相称花 actinomorphic flower 鏡映面を二つ以上もつ
整正花 regular flower 鏡映面をもつ
不整正花 irregular flower 鏡映面をもたない 

花被 perianth 蕚と花冠の総称
  花被片 tepal, perianth segment 花被の構成葉
  異花被花 heterochlamydeous flower 蕚と花冠の区別がはっきりした花
  同花被花 homochlamydeous flower 蕚と花冠の区別がない花
    花蓋片 perigonial leaf 同花被花の花被片
    花蓋 perigone 花蓋片の集まり ユリ属
  両花被花 dichlamydeous flower 花被が2つある花 通常の異花被花と同花被花
  単花被花 monochlamydeous flower 花被が1つの花 ニリンソウ
  無花被花 achlamydeous flower 花被がない花 センリョウ
蕚 calyx 蕚片の集合
  蕚片 sepal 花葉のうちでは最も普通葉に近い
  冠毛 pappus 下位子房の果実の上端に生じる毛状突起 キク科 オミナエシ科
     咢の変形 通常1〜3輪 細胞質を失った死細胞からなる
     毛状突起の分岐をもつもの アザミ属
     骨状の突起となるもの センダングサ
花冠 corolla 蕚の内に位置して発生する裸花葉の集合 構成葉は花弁
  合弁花冠と離弁花冠とがある 
  花弁 petal 花冠を構成する 維管束は細く、分岐少なく、主脈は明瞭でない
    爪 claw 花弁の基部 細まっている
    舷部 limb, blade 爪より上の部分
  合弁花類 gamopetalous plant, sympetalous plant
  離弁花類 choripetalous plant, polypetalous plant 
    花冠のないもの (Apetalae)も含める
雄蕊群 androecium 一つの花にある雄蕊全体
  キュウリでは雄蕊が互いに融合しているので雄蕊群を使う
  雄蕊束 phalanx 雄蕊が束になっている
  単体雄蕊 monadelphous 雄蕊が一束
  二体雄蕊 diadelphous 2束の単体雄蕊からなる
  三体雄蕊 triadelphous オトギリソウ
  雄蕊 stamen 花床上で花冠の内側に輪生する 小胞子葉 葯と花糸からなる
  葯 anther 花粉(雄性配遇体)を作る袋状の部分
    裸子植物、一部の被子植物では小胞子葉の面に直接つく
    多くの被子植物では花糸の先端につく
    葯壁 (connective)によって半葯 (theca) に二分され、一個の半葯に2室 (loculus) あり
  葯の発生 初期には表皮に包まれた同型の分裂細胞群からなる
       表皮に溝ができて4片に分かれる
       表皮直下の細胞が大きな胞原細胞になる
       胞原細胞は外側に内皮の細胞 (endothecium) を、内側に花粉母細胞 (pollen mother cell) を作る
       内皮は3〜5層の葯壁となり、繊維状細胞層、中間層、タペータムに分化する
       中間層は減数分裂時に消失する
  葯の裂開
    内開 (introrse) 葯の長軸に沿って葯の内側が破れる
    外開 (extrose) 葯の長軸に沿って葯の外側が破れる
    側開 (equifacial) 葯の長軸に沿って葯の側方が開く
    その他 孔開(ツツジ) 弁開(メギ)
  花糸 filament 葯を支持する 一般に糸状
    癒合して筒になるもの アオイ科、ツバキ
    花糸を欠くもの スイレン科
心皮 carpel 雌蕊を構成する特殊に分化した葉 大胞子葉
  裸子植物では心皮は葉状 その上に直接胚珠がつく
  被子植物では茎の先端(花茎端)からわずかに下方に原基として発生
    離生心皮 一枚の葉の両縁が巻いて癒合している サクラ属、マメ科
      サクラ属では普通葉の先端に柱頭状の付属物をつけたようなもの
    合生心皮 複数の心皮から癒合によって構成される 球状または円筒状
  胚珠のつき方 
    心皮の縁にあたる部位に発生 離生心皮では縫合の縁につく
    心皮は外側が葉の裏側 胚珠は葉の表面に着く
雌蕊群 gynoecium 一つの花に存在する雌蘂の総体
  一般には一花に一雌蕊 その場合雌蕊群は雌蕊と同じ
  多数の雌蕊がある場合、雌蕊群という語が必要 ウマノアシガタ
  雌蕊 pistil 心皮によって構成される雌性生殖器官
    柱頭 stigma 花粉を受け取るところ 
      離生心皮花では各心皮の先端または縫合部の上部に生じる 
      合生心皮では花柱の先端に、癒合して生じるか、または構成心皮数と同数に
      分枝して生じる
      各心皮の向軸側に原表皮から乳頭状組織が分化する それを構成する細胞は
      細胞質に富み、糖類を含む粘液を分泌する 
      花粉の発芽のための水分、養分を供給する
      ただし、若い時期には柱頭は蝋質に覆われて乾燥している
    花柱 style 柱頭と子房の間を占める部分
      非常に短いもの、無いもの、非常に長いもの(トウモロコシ)などあり
      花柱は通常受精後萎れるが、
      萎れずに残って果実の散布に役立つものもある(クレマチス)
      花柱溝、花粉道、粉道 stylar canal
        花柱内の中央の縦に中空の管または溝 
        柱頭状組織 stigmatoid tissue 花柱内の乳頭状の突起
          粘液を分泌し、花粉管の成長を促し、方向性を与えて胚乳に導く
        柱下体 stylopodium 花柱の基部が子房上に肥大した構造 セリ科
    子房 ovary 胚珠を内臓する袋状器官 雌蘂の基部にある
      通常、心皮の縁が胎座になり、胚珠をつけるが、内面表皮上に胚珠を形成
      する場合もある
      子房壁 クチクラ化した表皮、多くの柔組織、維管束からなる
          心皮の背部に主脈があり、細脈が葉脈状に分枝する
          両葉縁に当たる部分にも一本づつ維管束が分化する
          マメ科の子房 背部に1本、腹部の胚珠のつく位置に2本の維管束
         キンポウゲ、シャクヤクは心皮の一枚一枚が子房をつくる
           離心皮子房 libarate ovary
      合生子房 coalescent ovary 柱頭の分かれ方、維管束の配列が構成を反映
      受精後、子房は果実、胚珠は種子に発達する
    子房と他の花葉との位置関係
      子房上位 superior ovary 花被、雄蕊より上部 
        花被、雄蕊は子房下生 hypogyny, hypogenous 
        アブラナ科、リンドウ科、イネ科、モクレン属、ユリ、チューリップ
      子房下位 inferior ovary 花被、雄蕊より下部 
        花被、雄蕊は子房上生 epigyny, epigynous
        キク科、アヤメ科、ウリ科、スイセン
      子房周囲生 perigyny, perigynous
        花被、雄蕊が子房から離れて周囲から生じる
        (子房が合着しない皿状のヒパンチウムの周囲から生じる)
        バラ、サクラ
花柄、花梗 peduncle, flower stalk
小花柄 pedicel
完全花と不完全花
  完全花 complete flower 蕚、花冠、雄蕊、雌蕊をすべて備えた花
  不完全花 incomplete flower いずれかの花葉を欠く花
    カラー calla lily 花被不在、 アカザ科 緑がかった咢があるが花弁不在
    クレマチス 花弁様に色付いた蕚をもつが花弁不在
  単性花 unisexual flower <>     両性花 (hermaphrodite flower, bisexual flower)に対する語
    雄蕊か雌蘂の一方だけをもつ花、両方あっても一方だけが機能する花
    雄花 male flower, staminate flower
    雌花 female flower, pistillate flower
  中性花 neuter flower 雌蘂、雄蕊とも不在、または発育不全で不稔
    ガクアジサイの花序の周辺部の大型花、
    アザミ、コウヤボウキ、コンギクなどの頭状花序の周辺部の管状花
合着(がっちゃく、ごうちゃく)coalescence, fusion
  同類合着、合着 cohesion, connation
    合弁蕚 synsepaly, synsepalous
    合弁花冠 sympetaly, sympetalous
    単体雄蕊、集葯雄蕊 synandry 
     ワタ 花糸が合着してsheathをつくる 葯は分かれている
     オレンジ 20〜60の雄蕊が基部でグループをつくる
     アザミ 葯が集まって管状になっている 花糸は離れている
    合着した心皮 (合生子房 coalescent ovaryを構成する)syncarpy
  異類合着、着生 adnation
    下位子房 心皮以外の花葉が子房の下から出た筒状(椀状、皿状もある)の
      構造物(ヒパンチウム)の縁についている
      ヒパンチウム hypanthium 花床由来または心皮以外の花葉の合着 
雌雄同熟と雌雄異熟
  雌雄同熟花 adichogamous flower
  雌雄異熟花 dichogamous flower
    雄蕊先熟花 protandrous flower 
      ヤナギラン属、キク科、ウメバチソウ属、ユキノシタ科、セリ科、
      ニガクサ属
    雌蕊先熟花 protogynous flower
      ゴマノハグサ科、オオバコ科、アブラナ科、ホソバノシバナ、イヌサフラン
雌雄同株と雌雄異株
  雌雄同株 monoecism, monoecious カボチャ、キュウリ、トウモロコシ、クルミ
  雌雄異株 dioecism, dioecious アスパラガス、ナツメヤシ

花序 inflorescence 枝上における花の配列状態または花をつけた枝
  総穂花序、総房花序 botrys 単軸分枝を基準とする花序の基本の一つ
    原則として無限花序で求頂花序 ただしワレモコウは求基花序

    総状花序 raceme 花序の軸が長く、苞の葉腋に有柄の花を側生する
      フジ、チドリソウ
    穂状花序 spike 花序の軸が長く、苞の葉腋に無柄の花を側生する
      オオバコ、ワレモコウ
      複穂状花序 compound spike
        小穂 apikelet, spicule を単位とする穂状花序
           小穂は1〜2花、または数〜多花からなる
          イネ科、カヤツリグサ科
          イネ科の花は基部に苞穎2、外花穎、内花穎に包まれる
      尾状花序 ament, catkin
        花被が無いか目立たない単性花が密集した花序
        雄花序は花後に脱落する
          ヤマモモ科、ブナ科、カバノキ科、クルミ科、ヤナギ科
      肉穂花序 spadix 花序軸が多肉になり、花が表面に密着する
        サトイモ科、ヒルムシロ科 サトイモ科では仏焔苞 spathe を伴う
    頭状花序、頭花 caput, capitulum, head
      花序軸の先端に2個以上の無柄の花が集合した花序
      2花 マルバノキ、数花 ランタナ
      多花 キク科、マツムシソウ科
        花序の軸の先が拡大 総苞を伴う 
        周辺花 ray flower, 中心花 disc flower
        ブタクサ、クサヤツデでは二次的に花数が減少し、1花序1花
    散形花序、繖形花序、傘形花序 umbel
      花序軸の先端に有柄の花が多数集合する花序 セリ科、ウコギ科
      花柄が等長で球形のものから周辺に至るほど長く平頂になるものまである
    散房花序、繖房花序 corymb 総状花序と散形花序の中間型
      有柄の花が花序軸につく位置は総状花序と同様、花柄に長短があって、
      球形ないし平頂に類する点は散形花序に近い
      コデマリ、サンザシ
    円錐花序 panicle
      外観が円錐になる複合花序 枝は何回も分岐するが、花序中で軸上の位置が
      低いほど大きい ヌルデ、ムクロジ、ネズミモチ
  集散花序、衆繖花序 cyme
    花序軸の頂端がターミナルフラワーをつくり、軸の成長が停止する
    仮軸分枝を基盤とする有限花序
    
    多散花序、多出集散花序 cyme, pleiochasium ミズキ、ガマズミ
      団散花序 glomerule 多散花序のうち特に分枝が密集している花序 ズミ
      隠頭花序 hypanthodium, hypanthium 花序の分枝が肥大かつ癒着して多肉の座を作り、
           その上面に花をつけ、四周から花のついた面を包み込んだ形式 イチジク
      輪散花序 verticillaster 花序が密集して茎を取り巻く シソ
      杯状花序、壷状花序 cyathium 雄蕊または雌蕊1本からなる有柄の雌花
        および雌花が壷状の器官内に包まれている花序 トウダイグサ科特有
    単散花序、単出集散花序 monochasium 1花毎に1側軸だけを出すもの
    岐散花序、二枝集散花序、二出集散花序 dichasium
      対生葉序をもつ枝に生じた集散花序で、枝の節間が長いもの
      ミミナグサ、ノミノツヅリ、ツリバナ
  無限花序と有限花序
    無限花序 indefinite inflorescence 花序軸の先端に花をつけない花序
    有限花序 definite fluorescence 花序軸の先端に花をつける花序
  求頂的と求基的
    求頂的 acropetal 軸の上の花の形成などが先端に向かって進行するもの
    求基的 basipetal 求頂的と反対
    総穂花序では一般に求頂的であるが、ワレモコウ、カライトソウは求基的
    (基とは幼植物に存在した胚軸と幼根の遷移部)
  求心的と遠心的
    求心的 centripetal 成長、分化、成熟などが体の中心に向かって進む 
      原則的には求頂的と一致する
      求心的雄蕊群 centripetal androecium
        多数の雄蕊が外側から中心部へ次第に熟して行くもの モクレン
    遠心的 centrifugal 求心的の逆
    
イネ科の花
  通常穂状花序 (spike) (オオムギなど)または円錐花序 (panicle) (エンバクなど)
  小花 (floret) は小穂 (spikelet) に着いている 小穂の根元に2枚の苞葉(苞穎 
  glume) が存在する
  外苞穎 lower glume, outer glume 下の苞穎
  内苞穎 higher glume, inner glume 上の苞穎
  (ただし、チジミザサの花序は4つの苞穎をもつ)
  小軸 rachil米la 苞穎の上の細い軸 個々の花米は軸の先端につく
  外花穎、外穎、護穎 lemma 花を包む穎 
    花は外花穎の葉腋の枝先に生じる 
    苞穎と本質的に同格 同一軸上に生じる 
    内花穎とは枝上の序列を異にする
    (イネ科は例外 両花穎は同一枝、同一列につく 同質同形 主脈を一脈もつ)
    (のぎ) arista, awn
  内花穎、内穎 palea, palet 花を隔てて外花穎と相対す
    主脈なく2稜をもち、背を小葉の背に向けている 花を直接包む
    成立  花柄の基部の一対(2枚)の前出葉が側面で癒着したもの
     (前出葉 prophyll 側枝の第1節に生じる葉 単子葉では母軸側に1葉、
      双子葉では左右に一対同形同大の前出葉を生じる 一般に小型)
  雄蕊群 androecium 3つの雄蕊からなる
  雌蕊群 gynoecium 2つの融合した心皮からなる
  鱗被(りんぴ)、鱗穎 lodicule 
    内花穎と雄蕊輪との中間にある小型の鱗片状花器の一つ
    通常2枚の鱗被がある (本来は3枚 うち背面の1枚が消失)
    開花直前に膨れて内花穎、外花穎を押しあけ、受粉を助ける
キク科の花
  頭状花序 caput, capitulum, head
    周辺花と中心花からなるが、すべて中心花(カクタス咲きダリア)
    すべて中心花のもの(セイタカヒゴタイ)のものもある
    周辺花 ray flower しばしば不稔または雌花
    中心花 disc flower 一般に完全花
      子房下位 (inferior ovary) 小さな管状の花冠が下位子房の上に生じる
      心皮は2枚 柱頭はフォーク型 受粉時、柱頭が管状花被からつき出す
      雄蕊は5つ 花糸は離れているが、葯は管状に癒合し、花柱を取り囲む
      萼は冠毛pappusなどとして花を囲む
    総苞 involucre, involucral bracts
      花序の基部にとくに多数の苞葉が集合して形成された葉的器官
      総苞片 involucral scale 総苞の個々の苞葉
    個々の花は花床から生じる苞葉 (receptacular bracts)をもつこともある

有性生殖と結実

雄蕊群 androecium
  葯 anther 4つの袋 (pollen sac) からなる
  小胞子母細胞 microsporocyte, microspore mother cell
    1群の分裂細胞としてpollen sacに含まれる 減数分裂 (meiosis) によって
    半数体 (haploid) の4つの小胞子 (microspore) に分かれる
    小胞子は有糸分裂によって2細胞を含む花粉粒 (pollen grain) になる
      2細胞は、生殖細胞 (generative cell)と花粉管細胞 (tube cell)
  受粉、授粉 pollination  花粉粒が成熟すると葯壁が裂開し花粉が外に出て、
   さまざまな方法で柱頭に運ばれる 柱頭と和合性なら花粉は発芽して
   花粉管 (pollen tube) を伸長させる
雌蕊群 gynoecium
  1花内の心皮の数
    エンドウ 1心皮
    クリスマスローズ 5つの独立の心皮
    コチレドン 5つの心皮 融合していないが、集合しているので1心皮にみえる
    ユリ 3心皮 完全に融合
  複合雌蕊 compound locule
    ユリの場合のように、完全に融合した2個以上の雌蕊からなる  
    複合雄蕊を構成する心皮の数は、一般に、柱頭の数、
      子房内の室 (locule) の数、子房の面の数と関係する
      エンドウ 1心皮1柱頭1室
      クリスマスローズ、コチレドン 各心皮1柱頭1室
      チューリップ 複合心皮(3心皮)3柱頭3室
胎座のつき方 placentation
  胎座 placenta 子房の中の胚珠がつく組織
  子房の横断面から見た分類
    側膜型 parietal 胎座が子房壁につく 
      バイオレット、カラント、スグリ、ケマンソウ
    中軸型 axile, axial 胎座が子房の中軸につく
      ユリ、フクシア
   (独立)中央型 (free) central 胚珠が1室のみの子房の中央にある
      もとは中軸型で、融合してできた側壁が崩れて、中央の軸が独立した
      ものと考えられる サクラソウ科
  胎座のつく場所による分類
    胎座は原則として心皮の周辺部につくが、心皮どうしの融合、
    子房内での疑隔膜の形成、花軸の子房中央への突出などにより複雑になる
    周辺胎座 marginal placenta 心皮の周辺(周縁)
    薄膜胎座 laminal placenta 中肋、周辺を除く全面
    中肋胎座 median placenta 中肋につく
胚珠 ovule 後に種子となる器官
    雌性配遇体(胚嚢)embryo sac)、それを包む珠心 (nucellus) および
    珠心を包む珠皮からなる 
    (裸子植物では胚珠は心皮に直接着生し、裸出している)
  珠皮 integument 胚の発達の際、珠心を包む組織
    珠心の原組織に遅れてその外側基部に発し、珠心を基部から包んで行き、
    最後はほとんど完全に珠心を包む 包み残した部分は珠孔となる
    珠皮が1枚のもの 裸子植物、多くの合弁花
    珠皮が2枚のもの 多くの離弁花、単子葉植物
    珠皮を欠くもの 寄生植物の一部
    内珠皮と外珠皮 珠皮が2枚の場合それぞれをいう
    珠皮は胚珠が種子になったとき、種皮となる 
      内珠皮は内種皮、外珠皮は外種皮となる
  珠心 nucellus 胚珠の中央を占め、通常1または2枚の珠皮に包まれる部位
    珠心の原組織は最初に心皮の胎座の上にドーム型の突起として生じる
     (これに遅れて珠皮の原基がドーム型の突起の外側基部に発生し
      早く成長して珠心を包み、珠孔を生じる)
    珠心がよく発達すると、珠心の表皮直下の細胞層から胞原細胞が分化する
    胞原細胞は珠孔側に生じる
  珠柄 funicle、funiculus 胚珠が心皮の胎座につくための柄 
    種柄(種子柄 podosperm)に発達する
  珠孔 myclopyle 胚珠の先端に見られ、珠皮が珠心を包みこんで最後に残す小孔
    花粉管が胚嚢に達する道
    珠孔は内外2層の珠皮で形成されるもの、1層のものがある
    内珠孔 endostome 内珠皮だけのもの アカザ目、イソマツ目
    外珠孔 exotome 外珠皮だけのもの クロウメモドキ科、トウダイグサ科
    外珠皮、内珠皮が長く、ぎざぎざのもの モクセイソウ科、ノボタン科
    珠皮が完全に珠心を包み、珠皮がさらに伸びて円筒状になり
      細長い珠孔をつくるもの イチジク科
  合点 chalaza 珠心と珠皮と種柄の合一した部位にあたる組織
  胚珠の形 
    珠孔と珠柄との位置関係から
      直生 atropous
      倒生 anatropous
      半倒生 hemitropous
      曲生 amphitropous
      彎生 camphylotropous
    曲がる方向によって(直生でない場合)
      下向性 apotropous
      上向性 epitropous
胚嚢 embryo sac、大胞子 megaspore
  胞原細胞 珠心 (nucellus) の表皮直下の組織の細胞から分化し、
    周囲の細胞に比べて大型で、細胞質が豊富、核が大きい
    胞原細胞が直接胚嚢母細胞になる場合と、
    胞原細胞が側膜細胞と胚嚢母細胞になる場合がある
  胚嚢母細胞 embryosac mother cell、大胞子母細胞 megaspore mother cell
    種子植物の大胞子 (megaspore) すなわち胚嚢細胞 (embryosac cell) を
    形成する母細胞
  胚嚢細胞 embryosac cell、大胞子 megaspore
    胚嚢母細胞(大胞子母細胞)から減数分裂によって形成される単相細胞 
    減数第1分裂 胚珠の軸に直角に起こる
    減数第2分裂 胚珠の軸に直角に起こる型と平行に起こる型がある
    四分子の配列は、線型、T型、逆T型がある 普通は線型
    線型では、合点側の1個が大きくなり、内容が充実し、
      胚嚢細胞(大胞子)になる
      合点側以外の細胞が胚嚢細胞に発達する場合もある
        珠孔側 バラ属
        珠孔側から3番目 クルミ属、ホルトノキ科1種
        両端のどちらかの細胞 ユリグルマ科、アサダ属、イチゴツナギ属
      いずれも、1個が胚嚢細胞になり、他の3細胞は退化消滅する
  胚嚢 embryo sac 胚嚢細胞(大胞子)の分裂によって形成される雌性配遇体
    正常型 胚嚢細胞の核が分裂し、2核になり、それぞれ胚嚢の両極に移動する
      両極に分かれた核がそれぞれ2回分裂し、8核の胚嚢になる
      両極のそれぞれ4核のうち、1核ずつが中央の方向に移行する
      両極に残った6核は、いずれも1核と細胞質をもつ細胞になる
      中央に移行した2核(極核 polar nuclei)は、2核の細胞になる
        内乳母細胞 endosperm mother cell
      珠孔側の細胞群 卵装置 egg appparatus 
        通常は1個の卵細胞 (egg cell) と2個の助細胞 (synergid cells)
      合点側の細胞群 反足細胞 antipodal cells
    クロユリ型 胚嚢細胞は4核をもち、合点側に3核
      合点側の3核は、分裂の際紡錘糸が平行に癒合して3nの2核になる
        もう一度分裂して3nの4核になる
        うち3個が反足細胞、1個が卵装置側の1核と合して
          4nの中央核になる
花粉管 pollen tube
  花粉粒 (pollen grain) は雌蕊の柱頭で発芽する
  花粉粒のプロトプラストが水分を吸って膨張し、外壁を破り、
    protoplasm-lined tubeを形成する
  花粉管は細い糸状の成長物で、柱頭の組織を貫通し、花柱を通じて子房に入る
  花柱は中空のものもあるが、大抵は中空でなく、花粉管の先端が酵素を分泌して
    組織を溶かしつつ進むように見える
  花柱が短い花 エンドウ、チューリップ 2~3 mm
  花柱が長い花 トウモロコシ 雌蕊の毛 (silk) 50cm
    花粉管内の2つの精核を含む先端部は極く短く、精核が通り過ぎた後の管の
    部分は漸次崩壊する
  花粉管の伸長速度
    コムギ 受粉後1〜2日で受精する
    トウモロコシ コンディションが良い時、24時間で15cm
    カシ類 2〜3mm成長するのに1年かかる
  花粉粒は2細胞の単相植物体
  花粉管が成長する前または成長の間に、生殖細胞(generative cell) が分裂し、2つの精細胞になる
受精 fertilization
  一つの花粉管は胚珠の一つに向かって伸長する
  通常は珠孔 (micropyle) に入り、1層または2層の珠心の細胞壁を貫通し、胚嚢に入る 
  花粉管の先端が破れ、2つの精細胞はそれぞれ卵細胞と胚乳母細胞に入る
  重複受精 double fertilization  
    卵細胞の中で精核と卵核が融合し、胚乳母細胞の中で精核と2つの極核が
    融合する 
  その結果、接合子 (zygote) と原胚乳細胞 (primary endosperm cell) が生じる
    反足細胞 (antipodal cells) と助細胞 (synergid cells) は退化する
  通常、多数の花粉管が柱頭から胚嚢までの成長過程で崩壊する
助細胞の機能
  助細胞は卵装置にある比較的小さな2細胞
  一般に鉤状 胚嚢壁に付着する部分が広い
  細胞内の珠孔側に細胞壁が変形した線型装置 (filiform apparatus)があり、
    chemical secretionに関係していると考えられる
  一般に、花粉管は助細胞の1つを貫いて、その内容物を助細胞の中に放出する
  2つの精核は助細胞の上部細胞壁を通過し、重複受精を行う
受精後の変化
  接合子が胚に発達する
  原胚乳細胞が胚乳に発達する
  珠皮が種皮に発達する
  珠心の組織が吸収されるか、または崩壊する
  胚珠または胚珠群が子房に固着し、果実を作る
  花床、蕚片、花弁等が変形し、果実に取り込まれる
  通常、子房が果実に、胚珠が種子となる
胚乳 endosperm
  裸子植物 大胞子の1核が盛んに分裂して数百個の核となり、一時に細胞壁ができ、
       雌性配遇体となる これらの細胞のうち、造卵器以外の部分が胚乳になる(一次胚乳)
  被子植物 2つの極核と精核が合一してできた3nの胚乳体 (Xeniophyte)(二次胚乳)
内乳と周乳
  内乳 endosperm 周乳に対する語
    裸子植物の一次胚乳、被子植物の二次胚乳を内乳とよぶ
    ラン科 合体した胚乳核は1〜2回分裂後退化する
    イネ科 内乳周辺の細胞が形成層のような作用をもち、糊粉層 (aleuron layer)を形成させる
        イネでは2〜3層
    モザイク内乳 (mosaic endosperm) トウモロコシ 
      3n, n+2n, n+n+nなどの細胞が混在する
    内乳が3nでないもの
      スナゴショウ属 15n, 9n
      ルリマツリ属、Penaea 5n
      アカバナ科 2n
    多核細胞として終わる型 nuclear type
    多細胞化する型 cellular type
  周乳、外乳 perisperm
    珠心の一部が胚嚢の外面に発達して、養分を蓄えた複相核をもつ組織
      スイレン科、コショウ科、アカザ科、ナデシコ科、カンナ科
アポミクシス apomixis 受精や減数分裂を伴わずに生殖が行われる場合の総称
  (アンフィミクシスは、配偶子融合による有性生殖)
  アポミクト apomict アポミクシスによって成立した個体、またはそれぞれの自殖によって殖えた群
  単為生殖 parthenogenesis 卵が受精せず単独で新個体を生じる生殖
    半数性単為生殖 生じた植物は半数体で種子を作らない
    倍数性単為生殖 胚嚢母細胞が単為生殖して全数の個体をつくる
      エゾノチチコグサ、ドクダミ、ハンノキ、ヒメジョオン、タンポポ、
      イチゴツナギ、ツチトリモチ(雄がない)
    三倍体で増殖するもの 多くのヤブマオ類、ニガナ
  無胚生殖 apogamy 卵細胞でない細胞が単独に分裂し、胞子体を生ずる生殖
    生殖的無胚生殖 meiotic apogamy
      助細胞起源 ある種のハゴロモソウ、ヒナノシャクジョウ属
      反足細胞起源 ニラ
      前葉体細胞起源 イヌワラビ、タマシダ
    栄養的無胚生殖 somatic apogamy
      受精前の胚乳組織 ミヤマコウゾリナ
  不定胚 adventitious embryo
    珠心、珠皮の細胞が不定胚をつくる例 ミカン類、キイチゴ(Rubus)
  無胞子生殖 apospory 胞子の段階を経ず、胞子体の栄養細胞から直接前葉体を生じる
    種子植物では、複相の珠心細胞が胚嚢になる場合をいう(不定胚と異なる)
      イチゴツナギ、ミヤマコウゾリナ
多胚 polyembryogeby 1個の種子内に2個以上の胚ができる現象
  裸子植物 普通に見られる 2型あり
    1胚嚢内の数個の造卵器で卵細胞が受精する
    1受精卵から胚発生の過程で多胚化する
  被子植物
    1卵細胞の胚発生の過程で多胚になるもの
    卵細胞と他の胚嚢構成細胞によって形成されるもの
    1胚嚢に2個以上の卵細胞が生じるもの
    1珠心内に多胚嚢ができるもの
    胚嚢組織以外の組織に由来するもの

            (2008.11.18)



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