道草の時間ー春から初夏へ(4) (2007)


ウツギ

ウツギ (Deutzia crenata Sieb. et Zucc.)   五月下旬、あちこちにウノハナ。



タニウツギ
Weigela hortensis K. Koch

タニウツギは桃色の花のものが多いが、近くの散歩で出会ったのは紅色の花をつけていた。よく話題にされるが、ウツギと名のつく植物は、いくつかの科にわたっている。ウツギはユキノシタ科であるが、タニウツギはスイカズラ科である。おたがいに縁もゆかりもないのだが、季節的には同じ頃に花が咲き、花が美しいという共通点はある。





ハナウド


ハナウド
Heracles nipponicum Kitagawa

この季節に散歩をしていると、突然ハナウドの群れに出会うことがある。大きな草本で、切れ込みのある大きな葉から、花が咲いていなくてもハナウドと分かるが、花が咲くと、その姿は一段と立派に見える。わが国固有の種だそうだ。こんなに見事な花をつける植物だが、知名度はそれほど高くないように思われる。





キショウブ


キショウブ
Iris pseudacorus L.

ヨーロッパ原産のキショウブは各地に野生化して繁殖している。今の季節、沼地や湿地にあざやかな黄色い花を見ることができる。写真は、田の片隅に群がって咲いていたものである。農家の人が抜き取らず、残しておいたものであろう。キショウブを添えた田の風景、わるいものではない。



カワヂシャ



カワヂシャ
Veronica undulata Wall.

休耕田の中にカワヂシャを見つけた。オオイヌノフグリと同じクワガタソウ属の植物で、花の形がよく似ている。ところで、最近オオカワヂシャ (Veronica anagallis-aquatica L.、英語名は、blue water speedwell)と名づけられた帰化植物が水辺に、すごい勢いで繁茂しはじめたという。私もそれと思われる植物を河原で見つけ、こわい感じがした。カワヂシャの方は準絶滅危惧種とある。



ノアザミ



ノアザミ
Cirsium japonicum DC.

ここは日当たりのよい川沿いの土手。十分に初夏の光を吸い込んで、ノアザミは花を開く。マルハナバチやハナムグリが集まってくる。かれらはノアザミの花に夢中で、私がそばにいることを全然気にしない。アザミ属のアザミはいろいろな種類があるが、春から初夏に咲くのは、ノアザミだけらしい。アザミは春の季語になっているのはおかしいという人もいる。私も、アザミといえば、一番にノアザミを思い浮かべる。しかしアザミでなく、ノアザミを春の季語として欲しいものである。



アカツメクサ



アカツメクサ
Trifolium pratense L.

シロツメクサと並ぶ飼料作物であり、やはり同様に野生化している。ムラサキツメクサという名の方が公式の和名かも知れないが、私はずっとアカツメクサと呼んでいたので、そう呼びたい。実際に花の色は紫というより淡紅色から紅色である。それに、アカツメクサ・シロツメクサという紅白の対の方が面白味がある。

イボタノキ


イボタノキ
Ligustrum obtusifolium Sieb. et Zucc.

イボタノキは散歩道によく見かける低木である。今の季節は花ざかり。枝の先端についた花房は、いつも風に揺られている。イボタノキにはよく、イボタロウムシ(イボタカイガラムシ)がついて、白い蝋を分泌する。このイボタ蝋は、木製の家具に塗ってつや出しするために古くから使われており、現在も実用されているようだ。

アゼナルコ








アゼナルコ
Carex dimorpholepis Steud.

このあたりでは、休耕田やヨシの生えるような湿地にごく普通のスゲである。小穂が数個、ぶらぶら垂れ下がっている。カサスゲみたいに、小穂がぴんと立っている姿はきりりとしているが、アゼナルコはのんびりした印象を与える。一番上の小穂には、雄花(小穂の細く見える部分)と雌花がついているが、その下の小穂はみな雌花ばかりをつけている。不公平だが、これがアゼナルコには合理的なのだろう。





オニウシノケグサ ナギナタガヤ

オニウシノケグサナギナタガヤ
Festuca arundinacea Schreb. and Festuca myuros L.

両者はヨーロッパ原産の帰化植物で、道端に最も普通のイネ科植物である。オニウシノケグサはその名にふさわしく、見るからに逞しい。ナギナタガヤは姿はやさしいが、やはり繁殖力は旺盛である。道端は、これらの植物やスズメノチャヒキ、ネズミムギ、イヌムギ、カモジグサ、アオカモジグサ、トボシガラ、カニツリグサなど、イネ科植物の凄まじい勢力争いの舞台である。



セイヨウミヤコグサ

セイヨウミヤコグサ
Lotus corniculatus L.

近頃、在来種ミヤコグサ (L. corniculatus L. var. japonicus Regel.) はすっかり減ってしまって、帰化植物のセイヨウミヤコグサが増えているようだ。散歩道に見つけたもの(写真)もミヤコグサではなく、セイヨウミヤコグサだったので、少々がっかりであった。ミヤコグサの方は、マメ科植物を代表する実験植物として、遺伝子およびゲノムの分析が進んでいる。

モミジイチゴ



モミジイチゴ
Rubus palmatus Thunb. var. coptophyllus Koidzumi

「初夏」ももう終り。キイチゴの実が色づきはじめた。モミジイチゴの葉はモミジのように切れ込みがあり、工芸のデザインに使えそうなかたちである。また、花の季節や実の季節には、ひと枝とって、花瓶にさしてみたくなる風情がある。ただし、鋭いとげがあるので、ご用心。



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