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子ども好き一茶(その十)

               縄帯の倅幾つぞ霜柱


 一茶の目にした子ども達はどんな身なりをしていたのだろうか。江戸でも下町と呼ばれた地域、あるいは故郷北信濃の山林の子ども達は、いずれも筒袖という袂のない着物で腰回りを帯紐で締めていた。貧しい家ではこの句のように帯紐も買えなくて、荒縄で締めていた子もいたのだろう。履き物は藁草履だった。子どもは家の貧しさなど気にせず、仲間同士で飛び跳ねて遊んでいた。寒い夜でも袷の着物などはなかなか着せて貰えなかった。背丈の伸びは速いので着物の裾から脛を出してつるつるてんの奴っ子さんのような子どももいた。おまけに当時は貧乏人の子沢山というように五人六人の子持ちは珍しくなかった。しかし、一茶の次の句を見ると当時のおとなは子どもが生まれてくるのを歓迎していたことがうかがえる

          子宝が みみずのたるぞ 梶の葉に


 「みみずのたるぞ」はみみずののたっているよなの下手な字の七夕の短冊(梶の葉)がいっぱいぶらさがっているよ、という意味。


*梶の葉姫-織姫




かやつりぐさ   
    
加藤 丈夫 


ひろい のはらの まんなかで

よにんで ままごとの おとまりほいく

かやつりぐさを つりましょう


しほうへ すうっと ひいていく

ひろがる ひろがる しかくい かや

みどりの かやの できあがり

すそを もちあげ もぐりこめば

よにんだけの ひろい せかい


くさの かおりに つつまれて

ねむって しまうの もったいない






子ども好き一茶(その九)


       
秋風や 壁にヘマムショ 入道 (一茶)
                                     
 
 子ども好きな人は大人になってからも子どものような茶目っけを失わない。
誰のものかヘマムショ入道の落書きが壁に書かれていて、その上を秋風がふいている。
現在はひら仮名で「へのへの茂辺地」と書くが当時はカタ仮名で「ヘマムショ」と書いた。
 一茶には、しかつめらしい俳諧の宗匠というイメージはなく、子どもの中に入っていって一緒に遊び戯れる好好爺といったところがある。高尚な俳諧の世界にユーモア、アイロニー、ナンセンスなどのことばあそびを取り入れて俳諧そのものを現代の文芸に通じるものへと革新した。
 
 「小便の滝をみしょうぞ鳴く蛙」
 これは蛙の鳴く夜の田んぼへ向かって立ち小便をしている姿。
 「歯が欠けてあなた(阿弥陀仏)頼むもあもあみだ」
 歯を無くして「南無阿弥陀」が言えなくて「あもあみだ」とお経を唱えている自分。
 「十返も屁を捨てに出る夜永かな」
                                        

※このコラム毎月こぶしの木(園新聞)に連載中。今回掲載以外の作品もお読みいただけます。お問い合わせください。



「ぼくはここにいるよ!」
                  加藤 丈夫 

 

 ミノムシは木の枝先にぶらさがった枯葉の袋の中に住んでいる虫なんです。
それは親が作ってくれたもので親はその中にこどもを生んで自分はどこかへ行ってしまうのです。

 ぼくはある時、自分がミノムシになってしまった夢をみました。どうもその時からぼくのからだの中にミノムシが住みついてしまったらしいのです。

 こんなことがありました。
近くの公園で友だちと「隠れ鬼」をしていた時のことです。
タケちゃんが鬼になってアユちゃんもリュウくんもぼくも植え込みの陰や土管の中などに隠れ、「もういいよ!」と合図しました。ぼくとおなじ場所に隠れていたリュウくんも土管の中のアユちゃんもすぐ見つかってしまいました。それなのにタケちゃんにはぼくが見えないらしく別の場所へいってしまったのです。

それきりで日が暮れてあたりは暗くなってしまいました。鬼のタケちゃんも、リュウくんもアユちゃんも家に帰ってしまいました。それなのに、土管のなかに隠れているぼくは暗くなったのも気付かずに、相変わらず、「もういいよ。」と繰り返しているのです。

 闇の中から聞こえてくる淋しそうなぼくの声をどこだか、わからない場所でちがうぼくがイライラしながら聞いています。それは、地の底からのようでもあり、また、空の奥からのようでもあるのです。

 季節はもう冬です。
今宵も野末からあの声が聞こえてきます。
「だれか 見つけに来ておくれ!」
「もういいよォ!」

「ぼくはここにいるよ!」


 麦秋
加藤 丈夫





眼に映るもの光に満ち
肌に触れるもの優しさを含み
耳にとどくもの歓喜の声をあげ
六月は季節の中の絶頂



しかし完璧なものにも瑕はある
黒衣の麦秋が画面の中に
鋭く痛々しく一筋のヒビを入れ
素知らぬ顔で立ち去っていった



後に青葉若葉の中を立ち尽くす
私の心のどこかを
麦のシクシク



ー 六月を美しいなんていわせないよ ー







「ただ今 受信中」



加藤丈夫詩集

ジュニアポエム 131 〜こどもからおとなまで〜
発行:'98.8
著者:加藤 丈夫 
画家:葉 祥明
判型:A5  ページ数:108
出版元:銀の鈴社
発売元:銀の鈴社
ISBN978-4-87786-131-5
日本図書館協会選定 全国学校図書館協議会選定 





山の神の祀り」



子ども詩のポケット 11

 「虫ことば、花ことばのユーモアや風刺の楽しいエスプリと
大地にひたむきに生きる人々の暮らしの讃歌

発行:'05.1
著者:加藤 丈夫 
画家:久松温子
判型:B5変  ページ数:80
出版元:株式会社てらいんく
発売元:株式会社てらいんく
ISBN4-925108-37-9

 


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