「ぼくはここにいるよ!」 加藤 丈夫
ミノムシは木の枝先にぶらさがった枯葉の袋の中に住んでいる虫なんです。 それは親が作ってくれたもので親はその中にこどもを生んで自分はどこかへ行ってしまうのです。
ぼくはある時、自分がミノムシになってしまった夢をみました。どうもその時からぼくのからだの中にミノムシが住みついてしまったらしいのです。
こんなことがありました。
近くの公園で友だちと「隠れ鬼」をしていた時のことです。
タケちゃんが鬼になってアユちゃんもリュウくんもぼくも植え込みの陰や土管の中などに隠れ、「もういいよ!」と合図しました。ぼくとおなじ場所に隠れていたリュウくんも土管の中のアユちゃんもすぐ見つかってしまいました。それなのにタケちゃんにはぼくが見えないらしく別の場所へいってしまったのです。
それきりで日が暮れてあたりは暗くなってしまいました。鬼のタケちゃんも、リュウくんもアユちゃんも家に帰ってしまいました。それなのに、土管のなかに隠れているぼくは暗くなったのも気付かずに、相変わらず、「もういいよ。」と繰り返しているのです。
闇の中から聞こえてくる淋しそうなぼくの声をどこだか、わからない場所でちがうぼくがイライラしながら聞いています。それは、地の底からのようでもあり、また、空の奥からのようでもあるのです。
季節はもう冬です。
今宵も野末からあの声が聞こえてきます。
「だれか 見つけに来ておくれ!」
「もういいよォ!」
「ぼくはここにいるよ!」
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