ラオス 山からだより 18号 

                                       2012年9月 



 








ラオスでは9月に学校が始まります。先日、ゲオバトゥ村に行きましたが、今年は大勢の子どもたちが、中学生に進学しました。小学校は、本校がゲオバトゥ村にあり、近隣の村々から子どもたちが通ってきているのですが、中学校は隣村のタムクー村にあります。中学は、ゲオバトゥ村よりさらに山奥へ歩いて1時間ほどのタムクー村に校舎が作られたために、子どもたちは朝早く起きて、中学校へ通うのです。


 いつも泊めてもらっているサイガウ爺さん(故人)の孫のトゥーローも、今年から中学校1年生。私もトゥーローと一緒に、朝6時過ぎに家を出て、歩いて中学校へと行きました。途中、自転車の子どもたちが、チリンチリンと嬉しそうにならしながら、追い越して行きました。でも、トゥーローは、

「自転車と競争して、たいてい僕の方が勝つんだぜ」と言って、山の中を横切る近道を、大股でどんどん歩いていきます。トゥーローはまだ私よりも背は小さいのですが、その彼の脚にとても追いつけません。さすがに山の子です。彼は、車道を大回りして自転車を押して登らなくちゃいけない自転車組を、途中で追い抜かしていました。

 さて、タムクー村の中学校は、3年前にラオス政府の村落開発の予算で建てられました。小高いところに建てられた教室は4教室だけ。中学1年生から4年生までが勉強するのです。(ラオスは、小学校5年、初等中学4年、高等中学3年制) 今年の中1は、なんと73人。1つの教室に入ったものの、小さな机に3人が押し合いへし合い…先生たちは、「来週からは、2クラスに分けることになるけど、今は我慢して座っててくれ」と言っていました。近くの小学校(小3までの分校)の空いている教室を、中4の子どもたちが使うことになるようですが、できて間もない中学校もさっそく教室不足の状況となっています。

 日本の地方が過疎で若者や子どもがいないという状況と違い、このラオスのド田舎であるゲオバトゥ村、そしてそのさらに奥の村々には、子どもたちが大勢あふれています。これまでは、中学校に進学する子が少なかったわけですが、今は、ほとんどの子が進学するようになってきています。

 私たちの「太郎の図書館」には、教科書を借りに来る子どもたちが殺到。今回、私が手持ちで、段ボールいっぱいの教科書を、ビエンチャンから購入していったのですが、図書館がオープンした途端に、

「教科書を貸して」
と、お母さんたちが、やってきました。普段、農作業で忙しいお母さんたちは、あまり図書館へはやってきません。それが、この日ばかりは、学校へ行かなくちゃいけない中学生たちが、「朝一番に図書館へ行って、教科書借りてきて」と、おかあさんたちに頼んだとみえ、大勢のおかあさんたちが、図書館へやってきました。

「私自身は、読めないんだけど、この科目を貸しておくれ」と、「ワンナカディー(文学)、カニサート(数学)、パワサート(歴史)」などとラオス語で書かれた紙を、図書館員のツィアに差しだします。

「ちょっと待ってて、パヌン(安井)が、今日、持ってきてくれたばっかりだから、これから登録作業をして、貸出しカードをつけるから、今日の午後か明日になるわ」とツィアはてんてこまい。


 教科書は、ビエンチャンの教育省直属の印刷所で購入できるのですが、ゲオバトゥ村や、また麓のノンヘートの市場には、ほとんど出回ってきていません。また、学校で、1冊2000キップ(20円)で、1年間貸し出すという制度はあるのですが、学校でも教科書が足りない上、「12教科、全部、お金出してなんか借りられない」という状況の人たちが多く、タダで貸し出す私たちの図書館から借りたい人が多いわけです。でも、村の子どもたち全員分をそろえるわけにはいかず、私たちも、「1人3冊まで。1か月ことに更新すること」という条件で、貸出しをしています。今回、特に大勢いる中1の教科書を取り揃えていったのですが、あっという間に全部貸し出されてしまい、私がビエンチャンに戻ってから、さらに追加で新たに買い足し、バスに託してノンヘートまで送ったところです。

 前号にも書きましたが、やはり今後、教科書、そして、中学生が興味を持つような物語、知識本などを少しずつ取り揃えていく必要があると、感じています。




図書館スタッフが作っている刺繍絵本

 図書館スタッフの2人。ツィアとトゥルが、今、一生懸命、刺繍で絵本を作ろうとしている。お話もモンの民話から自分たちで起こし、下絵はトゥルが描いている。絵は上手とは言いかねるが、モンの人らしく味がある。以前作った時は、私が下絵を描いていたのだが、それよりも、やはりずっといいように思える。最初は、まるでコマ割り漫画のように、場面数が多かったので、そこを工夫するように言ったところ、だいぶんよくなった。

 最近できたお話を紹介しよう。

IMG_0004 (800x634) みなしごは殿様の娘と結婚することになった。娘の家で結婚式を終え、一緒に家へと帰る途中のこと、みなしごが、「ちょっと用を足してくる」と草むらに入った時、娘はトラに食べられてしまった。トラは娘に化け、何も知らないみなしごは一緒に家へ帰る。

トラ嫁は、人に化けたまま一緒に暮らし始めた。ある時、みなしごの妹とトラ嫁は、一緒に森へ行く。トラ嫁は、

「あぁ今ごろ、本当だったら、お父さんお母さんたちと森を跳び回っているんだわ」とつぶやく。

「えっ?どういうこと?」妹に何度も聞かれ、とうとうトラ嫁は、「こういうことよ」と、トラの正体をばらして森を跳びまわって見せる。

「でも、あんたのお兄さんにトラだってことばらしたら、すぐ食べてやるわよ」と言われ、妹は怖くてたまらない。

それからしばらくして、みなしごは、妹と嫁を家に残して出かけると言う。妹は、どうしても一緒に連れていってくれ…と頼み込むが、「すぐ戻るんだから、嫁と一緒に留守番しておくれ」と言う兄。兄のあとを追いすがり、どうしても聞いてくれないので、とうとう兄嫁がトラだという話をする。兄は、「心配ないよ。ぼくが9つの柵を作ってその中におまえを囲っておくから」と、妹を9つの柵で囲うが、兄が行った途端に、トラ嫁は妹を食べてしまう。

その後、「チュンチュン、お兄さんが連れて行ってくれなかったら、私はトラに食べられてしまったわ」

と鳴く鳥の声を聞き、妹の死を知った兄は、やはり嫁がトラだったことを知る。さて、その後、知らぬふりをして暮らしていたみなしごだが、

「お正月に、おまえのお父さんお母さんを呼んでくるから、しっかりご馳走の準備をしておくれ」とトラ嫁に言い、両親を呼びに行く。言われた通りに働き続けたトラ嫁に、やってきた両親は、「疲れているだろうから、少しお休み」と声をかける。トラ嫁は、あまりに疲れていたので熟睡して、トラの正体をばらしてしまう。みなしごと両親は、寝ているトラを縛り上げ、そして、お正月のご馳走にしてしまいましたとさ。

../../../Pictures/2012/2012xk/2012-05-03/237%20(800x533).jpg刺繍をした布を見せながら、子どもたちにお話をするツィア。

 なんとか、彼女たちの刺繍の作品を絵本にできたら、と思っているのだけど・・・

 ぜひ、実現に結びつけたい夢である。

















トゥルに3番目の子が生まれました

 図書館員のトゥルに、3番目の子が生まれた。待望の男の子。上の2人が女の子なので、男の子が生まれて本当によかった。彼女はぎりぎりまで、図書館に出ていたが、出産後は1か月の産休を取った。モンの習慣でも、産後の1か月は、家で休み、鶏のスープと炊き立てのご飯しか食べてはいけないことになっている。他のものを食べるのはジャイ(タブー)。1か月たったら「さっそく図書館に働きに行くわ」と言っていたが、少しずつ復帰してくれたらいいと思っている。結婚しても、出産しても、女性たちにがんばって仕事を続けてほしい。

                                          (以上 安井清子)

 








過ぎ去った時間

 太郎の事故から来月で丸10年になります。10年の間には実に様々なことが起こりましたが、たまたま年齢的にそんな巡りあわせの時期だったのでしょう。私にとっては、この10年間はどちらかというと悲しい出来事が多くありました。その度に「生きる」ということについて考えました。「時薬」という言葉があるそうです。時間がたてば苦しみも悲しみも薄れていくという意味だろうと思いますが、それは忘れるのではなく、まして癒されるのでもなく、諦めるということに慣れるのではないかと思っていました。でも人が生き続けられるのは、悲しいことも辛いことも、楽しいこと嬉しいことと同じように、時間とともに受け入れられるようになるからだろうと思います。私も旅行したり、友達とお茶をしたり、自分のために時間を使い、普通に生活しています。

 「時は、過去から現在そして未来へととどまることなく過ぎゆく現象」と辞書にはあります。ゲオバトゥ村にも6年の間にいろいろなことがありましたが、未来を担う大勢の子どもたちが図書館を利用し、育ってくれているようです。時間はどんな人にも平等に与えられていますが、子どもたちはみんな希望を持って確実に未来に進んでいきます。ラオスの図書館活動も子どもたちと一緒に前に進んでいます。安井さんの頑張りはもちろんですが、お手伝いいただいている館員さんやゲオバトゥ村の方々、会員の皆様、たくさんの方からのご支援のおかげです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。         (お彼岸に  武内桂子)




モンの民話の本が出版されました




このたび、「ラオスの山からやってきたモンの民話」が、

ディンディガル・ベルより出版されました。

 安井が、ゲオバトゥ村をはじめ、ラオスのモンの村を訪ねて、実際に録音した民話から訳したものです。わかりやすいように、解説を、モンの村の生活での経験をもとに書きました。ゲオバトゥ村に、図書館を作るために長期滞在したことが、民話の理解にかなり役立っていると思っています。

 ぜひ、多くの方々に読んでいただきたいと思っています。