ラオス 山からだより  19号 

                        20135









 ゲオバトゥ村にいよいよ電気が通りました。

201212月、いつものように村に到着し、いつも泊めてもらっているサイガウばあさんのおうちに入ると、いつものように子どもたちは出迎えに来てくれず、一心にテレビに見入っている後ろ姿が見えました。

「あぁ、とうとうこの時が来てしまった」

と、私は運命の時を迎えたような…気がしてしまったのでした。

 電気が通る…村の文明開化? 喜ぶべきこと…なのですが、テレビ、ビデオ、ゲーム……そしてお金が一番モノを言う消費経済に巻き込まれていく…とうとう、この村にもやってきたか…。案の定、図書館に来る子どもたちも、一時期少なくなりました。みんな、テレビの画面に見入っているのです。子どもだけではなく、大人たちも…。いつもお世話になっているシェンは、すっかり韓国ドラマのモン語版にはまっているし、(難民でアメリカに定住したモンの人たちが多いので、韓国ドラマもインド映画もモン語版のDVDがある。その他、日本の**ライダーのような子供向け番組はタイ語版になっている)婆ちゃんは、子ども番組の怪獣を見て、「日本にはこんなのが本当にいるのかい?」と聞いてくるし…

 これは仕方がない。世の中の流れだ…と思いつつも、とうとう、テレビやゲームなどと、図書館が競合しなくてはいけない時が、この村にもやってきたのだ…これからがまた大変だ…と思うと、やはり気が重くなったのでした。でも、少し落ち着けば、きっと子どもたちは戻ってくる…お話をしていれば、きっと戻ってくる…私たちは、それを信じて、ずっと図書館をあけ、来る子どもたちにはお話をしていました。

 つい先日、5月始めに行った時には、「たろうの図書館」は再び、賑やかな子どもたちでいっぱいでした。絵本のページをめくる子、本を借りていく子、一生懸命読む中学生、すごろくをする子、絵を描く子…やっぱり、村の図書館は、子どもたちに必要な場所なんだ…と改めて、思ったのでした。




ツィアの結婚

「たろうの図書館」オープンの時から、6年間働き続けてくれたツィアが、とうとう結婚して辞めることになった。当時19歳で一番若かった彼女も、もう25歳。モンの女性としては、晩婚の域に入り、もう結婚しないのかな…と、彼女には悪いけど、私はかすかな期待を持っていたほどだ。というのは、ツィアは、子どもたちへのお話も、ラオス語を読みながら、ほぼ同時通訳的に、モン語でお話をしてやることもできたし、図書館の本の大方を読破していただろう、本を探しに来る高校生などにも適切なアドバイスをしていたし、そんじょそこらの司書の資格を持っている人よりもずっとすぐれた図書館員になっていたからだ。普段はおとなしく控えめだが、きちんと判断し、違うと思ったことははっきりと言った。ツィアの代わりを見つけるのは難しい。だから、彼女には悪いけれど、ツィアには、あまり早く結婚せずに、なるべく長くいてほしかったのだ。

 何度か、彼が村を訪ねにきていた。結婚しようか…と思った時もあったみたいだが、「でも、辞めたわ。結婚しなくてもいいわ」と、ツィアは言った。本をあれこれ読み、村に住む普通のモンの女性よりは、ずっと広い世界を知っているだろう彼女は、女は結婚したら、家にいて、畑仕事をして、子どもを産み育て、夫につかえて暮らす…というモンの女性の普通の生き方に入るのを、自分でも先延ばしにしているのかもしれないな…という気もしていた。

 2月のある日、ツィアはビエンチャンにいた私に電話をかけてきて、「パヌン、早く来ないとお嫁に行っちゃうわよ」と言う。「え〜!」と驚くと、彼女は笑って、「うそよ、まだ行かないわ」と言って電話を切ったので、冗談かなぁと思っていると、その翌日、図書館のもう一人のスタッフ、トゥルが電話をかけてきて、「ツィアがお嫁に行っちゃった」と言うではないか。モンの人はあっという間に結婚してしまうのである。ツィアはその後電話で、数日後の土曜日に結婚式をするという。「来てくれなかったら、一生うらむわよ」とツィアは言った。そこで私は、急きょ、村に駆け付けたのだった。

 モンの結婚は、男が女を自分の家に連れていくことから始まる。ツィアも、会いに来た彼に連れられて、誰にも言わずに、そっと家を出て彼の家へ向かったのだ。その後、親戚が使者として家を訪ね、「お宅のお嬢さんを嫁にもらいました」と言った時、ツィアのお母さんは全然気がつかず、「あら、うちの娘はまだここにいますけど」と言って振り向いたら、いなかった…とのこと。数日後、実家での結婚の儀式に戻ってきたツィアは、家に入ってきたなりお母さんに抱きつくと、「黙って行ってしまってごめんなさい」と泣きじゃくった。ツィアは泣いてばかりいた。「結婚とは生家を出ていくことなんだ。ツィアはもうこの家の人間ではなくなってしまうんだ」と、モンの女性にとって、結婚することの重さを思った。

 
 ツィアは行ってしまった。私にとっても、図書館の一幕が下りてしまったような…そんな感じがしたのだった。これからどうしよう…脱力感の中、ふっと考えた。でも、ツィアがこの図書館で経験して身につけたこと、ツィアが読んだ本から得たもの…これは彼女の力だ。どこに行っても変わらない。

「そうだ。少し落ち着いたら、ツィアに絵本を贈ろう。彼女が、じきに生まれるだろう子どもに…近所の子どもたちにお話をしてあげられるように…」

 そう思ったら、急に気持ちが明るくなった。ツィアは、きっとツィア文庫を開けるだろう。彼女にはその力がある。そして、図書館は、子どもたちの為だけではなく、関わる女の人たちにとっても新しい経験になり、力となっていくのだ…と改めて感じたのであった。










新しいスタッフ、マイ

                   新しい図書館のスタッフになったのは、マイ。

                   トゥルと同じく高校2年生まで勉強し、結婚して辞めた元同級生だ。やはり村の青年と結婚し、今2人の子供のお母さん。最近は、畑仕事の行きかえりなどに、重い荷を背負って、忙しそうで疲れている顔しか見ていなかったが、図書館の仕事の初日、マイは、小ざっぱりとしたブラウスとシン(スカート)をはき、きれいな恰好をして現れた。私はそれを見て、嬉しくなった。毎日毎日、畑仕事に追われていた若いお母さんが、週に数日、自分の子どもを連れて、図書館の仕事をやるのって、きっと悪くないよね…と。

 おしゃべりな人ではないが、しっかりと話す。マイは言った。

「私は、小さい子が好きなの。だから、勉強を続けていたら、幼稚園の先生になりたいと思っていたの。でも、結婚して学校辞めてしまったから、ダメだったけど…畑仕事が忙しいから、その上に図書館は無理かと思ったけど、トゥルに『やってみなきゃ、何も変わらないよ』って言われて、やってみることにしたの。図書館で働くのは好きよ。私も、子どもたちに、上手にお話をしてあげられるようになりたいわ」






いよいよ、コミュニティセンター建設着工

                        前々から村の人と約束をしていた、村の集会所兼小さな文化センターのようにも使える場所…いわばコミュニティセンターのような建物がやっと20131月に着工した。これまで、何度も話し合いを繰り返してきたが、村長が代わったり、あれこれで、なかなか実行に移せなかったのだが、やっと実現することになった。

 今回は、私たち文庫基金から、前回の図書館建設で余った材木を全部と、材料費を提供し、村の人たちが大工さんに払う労賃をみんなで集めて出す(一部、足りない部分は文庫基金から少し援助)…ということで、コミュニティセンターの建物を建てることに話が決まった。大工さんは、図書館の建設にもかかわったジュアテンが担当。図書館のすぐ下に住み、一時は図書館のスタッフとしても働いてくれていたリーが、助手としてジュアテンの仕事を手伝った。大勢の労力が必要な作業は、村の人たちが手伝った。

今回は、作業は村の人にお任せ。お金も村長に渡して、材料購入などすべて自分たちでやってもらった。でも、実は村長は自分の商売、副村長の1人は自分の畑仕事でほとんどいない中、自分の仕事と時間を犠牲にして、ほとんどの雑務を担当したのが、副村長の1人のネンワァで、まじめに一生懸命、奔走していた。このような人がいないと、コトは進まないと実感。今回の建設の功労者だ。









20131月。図書館の隣の敷地に建っていた米倉とトウモロコシ倉を、みんなで移動させた。まずは、中に入っていたトウモロコシを全部運び出し、それから人海戦術で重い倉を運ぶ。そろそろと…でも「人の力ってすごいなぁ」と何でも人間の力でやってしまう、モンの人たちには、いつもびっくりだ。この後、建設予定地がすっかり整地された。



建設途中のコミュニティセンター。出来上がったら、集会所などとして使うとともに、モンの民話や村の写真やビデオなどを置き、見たり聴いたりできる、いわば視聴覚ライブラリー的なスペースを作りたい。また、モンの楽器ケーンなどの教室も開きたいとの村の人たちの希望もある。モンの伝統文化保存に役立つことができれば嬉しい。

「たろうの図書館」に並んで、村の人たちが集まる素敵な場所になりますように!







世界ナゼそこに?日本人に「たろうの図書館」が紹介されます

 5月始め、テレビ東京の「世界ナゼそこに?日本人」の取材班が、ラオスを訪れ、安井が取材を受けました。また、ゲオバトゥ村の生活、図書館の様子、図書館ができるようになった経緯なども取材されました。「ラオス山の子ども文庫基金」を応援してくださっている皆様には、ぜひご覧いただきたいと存じます。テレビなので、どのように編集されるのか多少不安はありますが、通信では伝えきれない、本をとる子どもたちの声や笑顔、畑で働く人たちのたくましさ…などが、映像を通して、紹介されればいいな…と願っております。

 関東ではテレビ東京で、毎週金曜夜8時から1時間放送ですが、全国放送だそうです。

(テレビ大阪、テレビ北海道、ミヤギテレビ、北陸放送など…ただ、放送日、曜日は異なるようです)

テレビ東京では、5月末放送という話だったのですが、延びたようで、6月中のどこかで放送になると思います。

番組表を注意深くご覧になっていて、ぜひご覧くだされば幸いです。


← いつもお世話になっている泣くサイガウ爺さんの娘シェンと、嫁のニア・ゾンブー


       







    
                                                (以上  安井清子)

村の人たちの総力であたらしい建物ができることになりました。

 みんなで村のことを決め、血からを合わせて物事に当っていくこの村の人たちにとっては、みんなが集まれる場所が必要で重要です。この場所は、もともと図書館建設のために村が用意してくれた土地でした。図書館が予定より小さくてすんだので、ここに村のセンター的役割を持つ建物を、というのがずっと村の人たちの希望でした。ようやく実現できてほっとしています。昨年からは電気も通り、これからは利用の幅もいろいろ広げられると思います。図書館員だったツィアさん、新しく図書館の仕事を手伝ってくれることになったマイさんたち、新しい建物が女性たちに元気を与えられる場になってほしいです。どこの国でも子どもと女性は一緒です。隣にある図書館とともに、ずっと村の文化活動のかなめの場所として広く利用され、村の人たちの役立てられることを願っています。                                   (武内桂子)