ツィアの結婚                            

ツィアが結婚?                              2013年2月16日

 先日、G村の図書館で働くツィアに電話すると、
「パヌン、早く来ないと、私、結婚しちゃうわよ」と言う。

「えっ、結婚するの?」
 私は声を上げた。ツィアは、図書館オープンの2007年からずっと働いているスタッフだ。7年目となる今では、もう一番頼りにしている図書館のお姉さんなのだ。
 ツィアは・・・・、モンの女性にしては結婚適齢期を過ぎようとしている…お年頃なのだから、結婚するということは喜ばなくちゃいけないのだが、私は心の底では、
「ツィアがいつまでも図書館にいてくれたらいいなぁ…」とこっそり思っていたのだ。

「本当に結婚するの? 喜ばなくちゃいけないいだろうけど…うれしいけど、悲しいなぁ、どうしたらいいんだろう」
と、私が電話口でうろたえていると、ツィアは、

「うそよ。まだ結婚なんかしないわ」
と言った。今までも何度か結婚の話があったけれど、嫁に行かなかった彼女なので、今度もそうかしら?とかすかに期待?していた。でも、その翌朝、もう一人の図書館スタッフのトゥルから電話があって、ツィアが結婚して行ってしまったという。 あぁ、やっぱり、その時が来てしまった。ツィアが図書館からいなくなってしまった。あぁ、

 ツィアは、また電話をかけてきた。今はG村から数時間もかかる彼の村にいるのだという。金曜日に再び、G村にやってきて、ノォチョン(花嫁側の家で行う、結婚の儀式)。そして土曜日には再び、彼と一緒に新しい家族の家に行ってしまうのだと言う。

 モンの結婚は、元々略奪婚ともいわれるが、男が女を、男側の家に連れて行くことがスタートで、その後、花嫁側の家に一緒に戻ってきて、親族同士の話し合い、結納金の受け渡し、そして、お祝いの宴会が行われるのである。

「ぜったい、結婚式に来るでしょ?来なかったら、許さないよ。絶対来てよ。私は最初からずっと図書館でやってきたんだもの」
とツィアは、いつになく強い口調で言った。いつもは、「うーん、無理だったらいいよ」と言う人なのに、いつになく強く、「来なかったら、一生恨むわよ」とまで言う。どうしても行かないわけにはいかないだろう・・・・本当は、その翌週に村に行こうと思っていたのだが、急きょ、飛行機のチケットをとった。

ツィアが行ってしまった                       2013年2月23日(土)

 ツィアは、夕方5時頃、少し暗くなり始めた頃、夫とその親族たちと一緒に車に満載されて、自分の家に戻ってきた。
 花婿は布団を背負い、花嫁とお付きの女の子は、モンの衣装を着て、車から降りてくる。親族の行列は、家のコッチョン・ターと呼ばれる扉の方へと向かった。でも、すぐには入れてもらえない。



 傘をもっている介添え人が、歌を歌う。扉の内側には、花嫁側の歌い手がいて、また歌を返す。ジャーチョンと呼ばれる結婚のための歌のやりとりが、何曲も取り交わされた。30分も、歌と酒がやりとりされた後、戸口をふさいでいた椅子が取り除かれて、彼らは花嫁の家に入ってきた。

 家に入ると、ツィアはお母さんに抱きついて泣いた。
「ごめんなさい、お母さん。勝手に行ってしまって…」
 ツィアが家を出て行ったのを、お母さんは知らなかったという。行った後しばらくして、男側からの使いの人が来て、「ツィアを嫁にもらったけれど…」と言われた時も、「何言ってんの。ツィアはそこにいるわよ」と言って、振り返って、ツィアがいないのにはじめて気がついたのだという。ぜんぜん、思いもよらなかったのだという。

 彼の方は、うっかりしたらまだ中学生にも見えそうな男の子なので、ツィアは、姉さん女房だ。でも、もう何年かつきあっていた相手だ。

 長い机の両側に花嫁側、花婿側の男たちが席につき、酒を飲みはじめた。口上を述べては酒を回す。女たちは、囲んで見ていたり、台所で食べたりしている。その日の食事は、迎える花嫁の家側が用意したものだ。筍とブタの脂の汁とご飯。婿は、机に一緒に座っているが、ツィアは、食事を運んだりで忙しい。モンの結婚式は花婿と花嫁そっちのけで、親戚の男たちが飲む・・・ものらしい。男が机を囲むので、私は女たちと脇にいて男たちの宴会を眺め、ご飯を食べて、家に戻った。

 その後、夜遅くまで結納金の交渉、やりとりなどがあったそうだ。花婿側は、純銀じゃない延べ棒(混ざりものの多い銀)を2本、しかもそのうち1本を後払いにさせてくれないか…などのいざこざがあり、結構もめたのだそうだ。傍で見ていると、ただの酔っ払いの宴会にしか見えなかったけど、結構、シビアに話し合っているのである。

 ツィアの両親は、私に
「ツィアが嫁に行っても、まだ図書館で働いてもいいか?」と聞いてきた。ツィアのダンナは、まだ21歳の学生で、あと2年間学校に通うそうで、しばらくは一緒には暮らせないのだそうだ。ツィアはダンナの両親と暮らすことになるわけだ。私は、
「私は全然問題がないよ。嬉しいよ。でも、ツィアの嫁ぎ先の家族で問題がなければね・・・」
と答えると、ツィアの両親は、「そうだ」とうなづいている。
 ツィアは「夫も、夫の両親もいいと言ってくれているわ」と言った。けれど、結局は、
「誰か私の替わりを見つけてね。いろいろ考えてみたけど、きっといろいろ問題がありそうだから、やめておくわ」
と言った。賢明な彼女らしい判断だ。確かに父系社会の男性中心のモンの社会の中では、そうかもしれないとは思う。モンの人が新婚の嫁を、親族の目の届かない遠くに置くことを許さないだろう・・・・

 ツィアの父は、
「もう娘は、あっちの家にあげてしまうのだから、あっちの旦那や両親の判断に頼るしかない。もう僕は口を挟まない。もう向こうの家の人間になってしまったんだから。娘が、ただ畑仕事をしていようが、どうであろうが、もう口を挟まむことはしない」
と言う。モンの人はそうだ。嫁に出した娘は、もう自分たちの家から出た人間なのだ。これまでは娘のことには口うるさかった父親も、嫁に行ってしまったら、口を挟めないという。

 翌朝、ツィアの家に行くと、ツィアは、
「昨晩は一晩中、料理を作っていて、寝ていないのよ」
と言った。今度は、花婿側が用意した食材でのご馳走作りである。ブタを一頭連れてくるのが本当だが、彼らは市場で買ってきた肉を持ってきた。
 モンの結婚式は、男は飲み、女は働く。

 朝からすでに男たちは飲んでいた。そして、ツィアはやっぱり働いていて、呼ばれた女たちは台所で食卓を囲んで食べている。男たちは、あんなに酒を飲んでいても、それなりの役目があるのだろう・・・・仕切り役はそれなりに手順を進めているらしいが・・・花嫁花婿の姿は、どこかに隠れていて見えず、とにかく、親族の男たちが机を囲んで飲み食いして、女子どもたちは、台所で食べている・・・・それが、モンの結婚式だ。

 12時前、ツィアは、部屋に入って、モンの衣装を着る。お母さんが、箱にしまってあった衣装をあれこれ取り出して、持っていく衣装を分けている。母と娘のモンの衣装がこれまでは一緒にしまってあったのを、お母さんの分と、ツィアが持っていく分を分けているのだが、

「この帯はどっちの? あんたが持っておいきよ」
などと母は言いながら泣いている。あまりにも急で、ほとんど何も準備もできていないだろう。
「嫁に行ったら、向こうの両親の言うことを聞くのよ」とか「何でも一生懸命やらないと嫌われるからね」とか、嫁にいく娘に言いながら母は泣き、ツィアも泣いている。



 衣装を着終わった頃、ツィアはおいおい泣きはじめた。親を離れていく…家を出て行く・・・その寂しさがこみあげてきているのだろう。

 花婿の方は、さんざん酒を飲まされ、もう酔っぱらって寝ている。花嫁と花婿はほおっぽらかしで、男たちの酒飲みは、続いている。何度も何度も酒が回され、20ケースのビールと何本もの酒がなくなった。最後に、二人へのお祝いのお金、そしてプレゼント、ふとんやらお皿やら・・・を贈った人の名前が読み上げられる。そして、この村から向こうの村へ、戸籍が移ることなどの役所的な話も、宴会の一席で読み上げられ・・・



またまたたくさん酒が何度か回ったあと、最後、花婿たちが何度も土下座をした後、花嫁の荷物を背負った一段は、あっという間に、昨日入ってきた扉から出ていって、ツィアを乗せた車は、走り去って行った。

 ツィアは嫁に行った。図書館の一幕が下りた・・・ような気がした。寂しいようながっかりした気持ちの中、ふっと思いついた。

 ツィアに絵本を贈ろう。
 じきに、ツィアが子どもを産んだ時にお話をしてあげられるように。ツィアならきっとお話してあげる…自分の子どもだけでなく、近所の子どもたちにも…彼女は絵本やお話の価値を十分に身につけているから・・・・。ツィアは自分の家で小さな文庫を開くことがきっとできるだろう。
 少し落ち着いた頃、きっとツィアに絵本をあげよう・・・・
 そう思うと、急に気分が明るく軽くなった。

 ツィアによって、お話が広がる。
 そして、まだ誰かはわからないが、ツィアのあとをついで、新しい村の女の人が、図書館の仕事に関わるということの意味もよくわかるような気がしてきた。


村の集会所+文化センターのその後

 前回、集会所を建てる予定地にあった、米倉、トウモロコシ倉を村人たちが協力して移動し、やっと敷地が整ったのであったが、果たして、今回、建物が建ちはじめていた。
 この建物は、前回の図書館建設であまった材料と、足りない材料費を、ラオス山の子ども文庫基金から支援し、実際に建設に携わる大工さんの費用を村の人たちが、1家族、10万キップ(約1000円)ずつ負担して、建てようというものだ。1家族10万キップも負担するのは、大変なのではないかなあ…と思うのだが、村の人たちが、自分たちでそう決めたことなので、そういうことになっている。73世帯なので、730万キップが大工さんの労賃ということになり、これは、この大きさの建物としたら、決して高いわけではない。これはあまり、条件のいい仕事ではないようで、そんな中、図書館を一緒に作ったジュアテンが、この大工仕事を請け負ってくれている。結局、彼が、「ぼくがやらないと誰もやらない」と受けてくれたようだ。
 ジュアテンと一緒に、下の家に住むリーが、やっている。リーは、当初は、この建物ができるのに反対していたが、実際には、一緒に作業をしているのを見て、ほっとした。彼は、元図書館員だったが、結婚をした後、辞めた。でも、農業の専念すると言ってもなかなか現金収入にはならない。大工仕事などを覚えて、家の建設を請け負うというのが、今、モンの男たちの一つの現金収入にもなっている。ジュアテンからいろいろ教えてもらいながら、技術を身につけたいのだろう。
 

 前回の話し合いでは、12メートル X 6メートルの建物を建てるという話だったのだが、実際には、下のリーの家の壁に貼ってあるスカ(モンの家の守り神である紙)の場所に、上の建物が重なってはいけない…などという、モンの決まりがあるために、建物を図書館側に寄せることができず、また、反対側も、隣の人の家の土地とぎりぎりだったこと・・・などなどから、実際には、11・5メートルほどの長さしかとれなかった。幅も、出っ張ると道にかかってしまうことから、少し狭くなった。
 あれこれ仕方ない事情があってのことだし、大工さんの責任だはないのだが、村人の中には、この仕事を請け負っているジュアテンに、
「話し合い通りの大きさより小さいから、ぼくは、大工代を支払わない」
などと言う人もいるのだそうだ。どこの世界にも、あれこれ御託を述べて、文句を言う人たちはいるものだが、この村でもそうである。ジュアテンたちは
「だからさぁ、建物ができても、僕たち、あまり金が入らないかもしれない」
と言うので、
「気にせず、とにかくちゃんとしたものを作ってよ。仕事した甲斐がなかった…なんてことにはさせないからね」
などと、私は言った。せっかくだから、出来る範囲でいいものにしたいじゃないか。

 ここは、村の集会所兼、モンの民話や村の写真やビデオ・・・モンの記憶を見たり聞いたりする場所にしたいのである。ずっと、言うだけは言っているが…その資料を整理して、みんなが見たり聞いたりできるように、していくのは私の仕事で…なかなかこれは大変なことなのだが・・・




メドンのねずみとり

 中1になったメドンが、「ねずみとりのワナ見に行くから一緒に行こうよ」と誘いにくる。中1は、人数があまりにも多いために、教室が足りず、2部制の授業になっている。メドンは、
「今週は午後が授業だから、午前中は大丈夫なんだよ」
と、朝、ネズミ捕りのワナを見に行くわけだ。午前中が授業の時は、6時過ぎには家を出る。
 さて、すっかり背が高くなったメドンの後にくっついて、畑の奥の木々の中にしかけたネズミ捕りのワナのところまで、私ははいつくばってくっついていく。
 メドンとは、彼が3歳くらいの頃から、こうして一緒に歩いてきたのだ。なんだか、笑っちゃうな・・・と思いつつ、彼の背中を見て歩く。

 さて、ワナにかかっていたネズミ。しっぽが挟まれていただけで、死んでいなかった。
 メドンは、そのネズミの喉のところを指で挟み、力をかけて、メドンはネズミの息を止めようとしている。
「うわ、見たくない」
と私は、一瞬、顔をそむけようとしたが、そのメドンの顔が、あまりにも真剣な顔をしていて、普段の無邪気にニコニコ笑っている顔と、あまりにも違うので、私はメドンを凝視してしまった。

 少年は、まだ息をしている動物の息の根をとめようとしている。それは、少年にとっても真剣勝負なのだ。その命を奪う指の感触を、少年は命の重さとして身体に身につけていくのだろう。

 真剣勝負で、生命と対面している。生と死を体験しながら、この山の村の子どもたちは生きている。






 新しいスタッフ…マイ

 ツィアが行ってしまった後、すぐに新しいスタッフ探しをする気に、どうしてもなれなかった。残った図書館スタッフ、トゥルと話した。
「何人かやりたいって人が、言ってきてるんだけど、でも、その人たち、一度も図書館を覗いたり、本を読んだりしていないのに・・・・」と言う。
「うーん、そういう人だと困るし・・・・やっぱり字の読み書きができない人でも、難しいし・・・それに、何よりあなたと気が合わないとね・・・」
と私は言った。
 たった二人の図書館員なのだから、お互いに気が合わないと、働いていても面白くない…今働いているトゥルが一緒にやっていける人でないと・・・・まぁ、あせらず、いい人が見つからなかったら、しばらく一人で頑張ってもら うしかないか・・・

 頭の中に、一人思いついた人がいた。
 私がまだ図書館づくりで常駐していた頃、高校に通っていたマイという女の子だ。やはり村に住む男の子と恋人同士で、仲良く学校に通う姿を何度も見かけた。高校2年の時、子どもができて、結婚することになり、高校を辞めた。その時、彼女のお父さんが、「せっかくここまで勉強してきたのに、途中で辞めることになってがっかりだ」と言っていた。その後、その初めての赤ちゃんを死産して、暗い表情でいるのを見た後、畑仕事で忙しいのだろう・・・あまり見かけることもなく、話したこともなかったのだが・・・今、どうしているのだろう? 

「マイはどうかしら?」
とトゥルに言うと、トゥルは、「私も同じことを考えていたんだわ。私たち、同級生だったの。2人とも、高校2年まで勉強したけど、二人とも結婚して辞めてしまったんだけどね」と言う。
「彼女は、今は、毎日畑仕事で大変なんだけど、私、こっそり聞いてみるわ」とトゥルは言った。
 
 マイは「やりたいわ」と言ったというので、私がマイに会いに行った。
 マイは、自分の実家の隣に、夫と新居(と言っても、木と茅屋根の昔ながらのモンの家)を建て、住んでいた。
「マイいる?」と覗いてみると、彼女は赤ん坊をおんぶして、薄暗い家の中からでてきた。
 あれ?彼女だっけ・・・・私は、実は彼女の妹の顔と、彼女の顔を勘違いしていて、「あれ? 彼女がマイなんだっけ?間違った人をリクルートしちゃったら困るな」と一瞬たじろいだのだが、用心深く、
「トゥルが話しに来た?」
と確認してから、話をはじめた。話しながら、記憶をたどっていくと、7年前に学生だった頃の顔を思い出した。結婚後、畑仕事、家事育児に追われているのだろう・・・顔もやつれて疲れて見える。おとなしそうな印象だが、話してみると、芯がしっかりしている。

「こんなに毎日、畑仕事やいろんなことで忙しくてね・・・その上図書館の仕事なんかできるかしら?ってトゥルに言ったの。そしたら、トゥルが、そんなこと言ってたら、何も変わらないよって言ったの。そうだな・・・って思って、やってみようかって思ったの。でも、何もわからないから、教えてね」
と、マイは言った。

 次の日、マイは図書館にやってきた。2人の子を連れて・・・・これまで、何度かちらっと見かけた印象では、いつも、畑仕事の帰りで、作業着を着て疲れた顔をした印象があったが、すっきりときれいにしている。子どもにも、こざっぱりとした恰好をさせ、抱いてきた子は、紙おむつをしていた。モンの子は、普段は、おしめをしないが、図書館で、おもらしさせないようにだろう。
  

「あぁ、よかったな」
とそのマイを見ただけで、そんな気がした。せっかく高校レベルまで勉強をしてきた若いお母さんが、日々の畑仕事の中で、週に何度か、子どもを連れて絵本のページをめくり、村の他の子どもたちにもお話をしてあげる・・・・そんな時間を持てるのは、いいことなんじゃないかな・・・