四方を海に囲まれた島国日本では、古くから魚を食べる食文化が発達しました。今から4000年以上も前から、日本人は魚を生で食べていたようです。魚を生で食べる習慣は、世界でも珍しいものと言われますが、新鮮な魚が容易に手に入ればこそのことでしょう。それに、食用に捕獲されていたのが川でなく海の魚であったことも、魚を生で食べる習慣につながったかもしれません。海の魚は川の魚よりも寄生虫などの危険性が低いからです。
また、日本人は動物の肉も生で食べていたという記録があります。猪や鹿などを、魚の刺身のように薄く切って食べていたのです。もちろん、日本人が何でも生で食べていたというわけではありません。肉などを煮たり焼いたりして食べていた痕跡が、古い遺跡からも発見されています。しかし、生で食べる食べ方は、古代から現代まで、日本の食文化の中で特別な地位を占めているようです。現在でも、日本人に好きな料理を聞くと、トップ3には、寿司と刺身が必ず含まれる結果になります。
魚に限らず、日本人にとって、新鮮なものは特別な価値を持っているのです。新米や新茶など、日本人は新しいものが大好きです。日本酒も、新酒にこそ価値があります。ワインのように長く貯蔵することはしませんし、ワインを飲むときにも、比較的若いワインを好む傾向があります。ワインに合わせるチーズも、熟成されたものではなく、フレッシュなものが日本人の味覚に適合しています。
このようなことから、日本はフレッシュな食文化であるといわれます。確かにその通りかもしれません。ただ、その一方で、味噌やしょう油やみりん、納豆や塩辛などの発酵食品を好むのも日本人であると言えます。フレッシュなものを珍重しながら、発酵したものも排除しないところに、日本の食文化の雑種性、あるいは、奥行きの深さがあるのかもしれません。