ここでは「ところ」および語形の共通する「ところから」「ところが」「ところで」「ところに」「ところへ」「ところを」の用法と意味をまとめて示す。
「ところ」
「ところ」には、名詞の用法と助詞(接続助詞)の用法がある。
名詞「ところ」
名詞の「ところ」には、
- 場所を表わす用法
- 時間を表わす用法
- 状況を表わす用法
- 内容を表わす用法
の4つがある。
場所を表わす「ところ」
場所を表わす用法は、(1)特定の空間や地点を表わす、(2)部分や位置・箇所を表わす、(3)〈点〉の意味を表わす、(4)所属や住所を表わす の4つに整理できる。なお、特定の空間や地点を表わす用法では『〜のところ』の形で使われることが多い。
- 1.場所を表わす
-
- 1.1.特定の空間や地点を表わす
-
- 家のカギが、いつも置いておくところにない。[特定の空間]
- 公園のところにラーメンの屋台が出ています。[特定の空間]
- タバコは、彼女の見えないところで吸います。[特定の空間]
- まっすぐ行ったところにマクドナルドがある。[地点]
- 頂上まであと300メートルのところまで来た。[地点]
- コンビニのところを右に曲がって3軒目です。[地点]
- 1.2.部分や位置・箇所を表わす
-
- ひざの裏のところが痛くて、歩けないほどだ。[部分(具体的)]
- 見かけはおとなしいが、頑固なところがある。[部分(抽象的)]
- 入れるところを間違えたので、動かなかった。[位置]
- 後で修正したところは赤字にしておきました。[箇所]
- 1.3.〈点〉の意味を表わす
-
- 決断力がないのが、彼のダメなところだろう。[点]
- 考えなければならないところはたくさんある。[点]
- その意見はなかなか良いところをついている。[点]
- 1.4.所属や住所を表わす
-
- 兄のところは小さな料理旅館を営んでいます。[所属(家族)]
- わたしのところではミミズをジミと言います。[所属(地域)]
- 裏面に、おところとお名前をお書きください。[住所]
- 1日だけ、あなたのところに泊めてください。[住所(家)]
- 彼は、週末ごとに彼女のところに通っている。[住所(居所)]
時間を表わす「ところ」
時間を表わす用法は、(1)現時点や特定の時機を表わす、(2)直前・途中・直後を表わすに整理できる。
- 2.時間を表わす
-
- 2.1.現時点や特定の時機を表わす
-
- 今日のところはこれくらいにしといてやるか。[現時点]
- 今のところ有力な目撃情報は得られていない。[現時点]
- 調子に乗ってきたところで時間切れになった。[特定の時機]
- いつでも中途半端なところで終わってしまう。[特定の時機]
- あと少しというところで犯人をとり逃がした。[特定の時機]
- 2.2.直前・途中・直後を表わす
-
- これからレストランで食事をするところです。[直前]
- お金をどうしようかと考えているところです。[途中]
- 自動車で空港に向かっているところだそうだ。[途中]
- ついさっき、会社から帰ってきたところです。[直後]
状況を表わす「ところ」
状況を表わす用法では、状況を表わす。
- 3.状況を表わす
-
- 3.1.特定の状況や仮定の状況を表わす
-
- 二人の米国人が逃げていくところを見ました。[特定の状況]
- ちょうどいいところに来た。手伝ってくれよ。[特定の状況]
- 彼女に見つかったら、殺されていたところだ。[仮定の状況]
- あやうく屋上から落ちてしまうところだった。[仮定の状況]
内容を表わす「ところ」
内容を表わす用法では、内容や概要の意味を表わす。
- 4.内容を表わす
-
- 4.1.内容や概要の意味を表わす
-
- 聞くところによると、今の主任は無能らしい。[内容]
- 自分の信ずるところを述べたまでのことです。[内容]
- 今の説明で、大体のところは理解できました。[概要]
- 君の言わんとするところは、何となくわかる。[概要]
助詞「ところ」
助詞の「ところ」は 〈AしたところB〉 の形で、Aの結果としてBが生じたことを表わす。順接の場合も逆接の場合もある。
- 順接または逆接を表わす
-
- 契約を申し込んだところ、担当者に大歓迎された。[順接]
- 交番で道をたずねたところ、丁寧に教えてくれた。[順接]
- 契約を申し込んだところ、3ヶ月待てと言われた。[逆接]
- 交番で道をたずねたところ、間違って教えられた。[逆接]
「ところ」の慣用表現
「ところ」を含む慣用表現を、以下に挙げておく。
- 早いところ:〈できるだけ早いうちに/できるだけ早く〉の意味
→ 早いところ仕事を終わらせて、いっぱい飲みにいこう。
- ところ構わず:〈いつでもどこでも気にせずに〉の意味
→ アメリカ人はところ構わずキスをする。
- ところにより/ところによって:〈ある場所では〉の意味
→ 雨のち曇、ところにより晴でしょう。
→ 雨のち曇、ところによって晴でしょう。
- ところ狭しと:〈場所が狭すぎるほどだ〉の意味
→ 子どもたちがところ狭しと走り回っている。
→ 棚には高級酒が所狭しと並べられている。[漢字で書くこともある]
- ところ変われば品変わる:〈地域によって習慣は様々である〉という意味のことわざ
「ところから」
「ところから」は、起点や由来を表わす。
- 起点や由来を表わす
-
- 生活のスタイルを見直すところから、エコがはじまる。[起点]
- 自分の醜さに気づいたところから、苦しみがはじまる。[起点]
- どんなことも身近なところから始めることが大切です。[起点]
- 太っているところから、みんなに関取と呼ばれている。[由来]
- 町の名は、塩を運んだ川があったところからきている。[由来]
「ところが」
「ところが」の形をとるものには、(1) 〈名詞「ところ」+助詞「が」〉 、(2)接続詞、(3)助詞(接続助詞) の3つがある。
〈名詞「ところ」+助詞「が」〉
〈名詞「ところ」+助詞「が」〉については、「ところ」を参照せよ。
- 老後に住むのならば、自然の豊かなところがいい。
- 頭は良いが、人の気持ちを考えないところがある。
接続詞「ところが」
接続詞の「ところが」は逆接を表わす。前の文の内容に対して、予想外の結果(=後の文の内容)が生じたことを表わす。結果として生じた事柄は、話し手にとって良い(プラス)ものでも悪い(マイナス)ものでもよい。
- 逆接を表わす
-
- もう死んだと思われていた。ところが、博士は生きていた。[予想外の結果(良い結果)]
- 準備は完璧だった。ところが、土壇場でトラブルが生じた。[予想外の結果(悪い結果)]
助詞「ところが」
助詞の「ところが」は、逆接を表わす。 〈Aしたところが、B〉 の形で、Aに対する予想外の結果(=B)が生じたことを示す。結果として生じた事柄は、話し手にとって良い(プラス)ものでも悪い(マイナス)ものでもよい。
- 逆接を表わす
-
- 傘を持っていったところが雨は降らなかった。[予想外の結果(良い結果)]
- 無理だと思っていたところが、合格していた。[予想外の結果(良い結果)]
- 勝利を信じていたところが、負けてしまった。[予想外の結果(悪い結果)]
- 道をたずねたところが、誰一人知らなかった。[予想外の結果(悪い結果)]
助詞の「ところ」と「ところが」
助詞の「ところ」と「ところが」の違いは、「ところが」が順接を示さないところである。
- 〜たところ…
- 順接/逆接
→前の事柄の結果が後の事柄になったことを示す
- 〜たところが…
- 逆接
→予想外の結果になったことを示す
次の文は、事柄の間の自然なつながり(順接)を表わしている。
一方、次の文は、予想外の結果になったことを示している。つまり、『なかなか道がわからないと思っていたが、予想に反してすぐにわかった』という気持ちを表わしている。
- 道をたずねたところが、すぐにわかった。
→なかなか道がわからないだろうと予想していた
「ところが」の慣用表現
「ところが」を含む慣用表現には以下のものがある。
- ところがどっこい:〈ところがそうではなく〉の意味の俗語
- ところがどうして:〈ところがそうではなく〉の意味の俗語
「ところで」
「ところで」の形をとるものには、(1) 〈名詞「ところ」+助詞「で」〉 、(2)接続詞、(3)助詞(接続助詞) の3つがある。
〈名詞「ところ」+助詞「で」〉
〈名詞「ところ」+助詞「で」〉については、「ところ」を参照せよ。
- 狭いところで暮していると、心まで狭くなる。
- タバコ屋さんのところで待っていてください。
接続詞「ところで」
接続詞の「ところで」は話題の転換を表わす。
- 話題の転換を表わす
-
- 世の中、不景気で大変なことになっています。ところで、彼女は元気ですか。
助詞「ところで」
助詞の「ところで」は逆接の条件表現を表わす。 〈AしたところがB〉 の形で、Aを実行しても期待通りの結果にならないこと(=好ましくないBの結果になること)を示す。「たとえ…しても」と同じ意味である。なお、談話体では、「とこで」になることがある。
- 逆接の条件表現を表わす
-
- 健康に気をつけたところで、死ぬときには死ぬものだ。
- 今さら頭を下げたところで、彼女が許してくれるとは思えない。
- 勉強したとこで、君の頭じゃどうにもならんよ。
「ところに」
「ところに」の形をとるものには、(1) 〈名詞「ところ」+助詞「に」〉 、(2)慣用的な連語 がある。
〈名詞「ところ」+助詞「に」〉
〈名詞「ところ」+助詞「に」〉については、「ところ」を参照せよ。
なお、〈名詞「ところ」+助詞「に」〉の「ところに」と〈名詞「ところ」+助詞「へ」〉の「ところへ」の違いは、助詞の「に」と「へ」の違いと同じである。
- 狙ったところに命中させる。
- あいているところに座る。
- 木のところに犬がいる。
- 見えないところにシミができた。
- 新しい家は、姉のところに近い。
- 強いところにあこがれている。
慣用的な連語「ところに」
慣用的な連語の「ところに」は、2つの出来事が同時に生じることを示す。〈AしたところにB〉や〈AしているところにB〉の形で『Aの直後にBが生じる』・『Aの途中でBが生じる』の意味になる。
- 2つの出来事が同時に生じることを表わす
-
- 眠ろうとしたところに、彼女から電話がかかってきた。
- ビデオを見ているところに、彼女から電話がかかってきた。
この用法では「ところへ」と同じ意味である。
「ところへ」
「ところへ」の形をとるものには、(1) 〈名詞「ところ」+助詞「へ」〉 、(2)慣用的な連語 がある。
〈名詞「ところ」+助詞「へ」〉
〈名詞「ところ」+助詞「へ」〉については、「ところ」を参照せよ。
なお、〈名詞「ところ」+助詞「に」〉の「ところに」と〈名詞「ところ」+助詞「へ」〉の「ところへ」の違いは、助詞の「に」と「へ」の違いと同じである。
- 狙ったところへ命中させる。
- ?あいているところへ座る。
- *木のところへ犬がいる。[「へ」は〈存在する場所〉を示さない]
- *見えないところへシミができた。[「へ」は〈出来事の生じる場所〉を示さない]
- *新しい家は、姉のところへ近い。[「へ」は〈基準〉を示さない]
- *強いところへあこがれている。[「へ」は〈動作・作用の対象〉を示さない]
慣用的な連語「ところへ」
慣用的な連語の「ところへ」は、2つの出来事が同時に生じることを示す。〈AしたところへB〉や〈AしているところへB〉の形で『Aの直後にBが生じる』・『Aの途中でBが生じる』の意味になる。
- 2つの出来事が同時に生じることを表わす
-
- 眠ろうとしたところへ、彼女から電話がかかってきた。
- ビデオを見ているところへ、彼女から電話がかかってきた。
この用法では「ところに」と同じ意味である。
「ところを」
「ところを」の形をとるものには、(1) 〈名詞「ところ」+助詞「を」〉 、(2)助詞(接続助詞) がある。
〈名詞「ところ」+助詞「を」〉
〈名詞「ところ」+助詞「を」〉については、「ところ」を参照せよ。
- 困ったところを見られてしまった。
- すぐに怒るところを直して下さい。
助詞「ところを」
助詞の「ところを」は逆接を表わす。「だが」や「のに」と同じ意味である。
- 逆接を表わす
-
- 1000円で売るところを、今日は半額の500円です。(→「だが」)
- 1000円のところを、今日は半額の500円です。(→「だが」)
- いつもはまっすぐ帰るところを、その日に限って寄り道したらしい。(→「のに」)
- 他人なら怒るところを、息子のこととて笑って済ませた。(→「のに」)