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NHK『野鳥百景〜タンチョウ(丹頂)』

雪原に舞う2羽のタンチョウ。その優美な姿は昔から人の心を魅了してきました。

タンチョウは、日本では北海道釧路湿原を中心に生息する鶴の仲間です。タンチョウの最大の特徴はこの頭の赤い部分。実は赤い毛が生えているのではなく、肌が露出しているのです。この赤い部分は伸縮が自在です。何と興奮すると面積が広がってきます。タンチョウは頭の赤い部分で感情や意思を表現すると言われています。例えば、相手を威嚇するときには頭を下げ、広がった赤い部分を見せながら突進します。

北海道東部に広がる釧路湿原、タンチョウはここで1年を過ごします。広大な湿原は野生動物にとても大切な環境です。11月から2月にかけては一面雪と氷の世界。

冬の間タンチョウはどのような生活をしているのでしょうか。日本野鳥の会の日高哲二さんは四季を通してタンチョウの行動を調べています。

午前6時、朝日が差し込んできました。湿原を流れる雪裡川。冬の間、この川の中流およそ5キロにわたってたくさんのタンチョウがねぐらに利用しています。その数はおよそ400羽。気温は氷点下7度、水温との温度差によって、霧が立ちこめます。

冬でも凍らないんですよ。あの、マイナス20度くらいの日が続いてもですね、ここは凍らない不凍河川になってます。で、タンチョウは夜の間、水の中に入って眠るっていう習性がありまして、まあ、それはキツネなどの天敵から身を守るっていうこともあると思うんですけど。あの、それも加えてですね、寒くても水の中の方が暖かいっていうのもあると思います。

川の深さはおよそ20センチ、水の流れはゆるやかです。

気温が氷点下20度になっても川が凍らないのは、山の裾野から一年中豊富な地下水が湧き出ているからです。釧路湿原にはこのような凍らない川が大小いくつも流れているのです。

水辺には野草が芽を出しています。タンチョウにとって、冬の間の貴重な食べ物です。くちばしにくわえているのはザリガニです。また、カワゲラやカゲロウの幼虫なども重要なタンパク源です。

タンチョウは江戸時代には関東周辺にも生息していました。冬の間も水が流れ、食べ物も豊富な湿原があったからです。しかし、湿原は次々に姿を消し、タンチョウはいまや日本では北海道の東部にしか生息していません。

冬の間、タンチョウは群れをつくって行動します。およそ400羽のこの大きな群れは、夫婦と子供3羽から4羽の家族がいくつも集まったものです。これは、去年の夏に生まれたタンチョウの子供。頭の毛はまだ茶色です。タンチョウの繁殖の季節は春から夏にかけて。しかし、その兆しは冬の間から始まります。

鶴の一声といわれる鳴き声。でも一声ではありません。雄、雌で鳴きあいます。雄が一声鳴く間に、メスは二声。つがいの絆を深め、別のつがいに対して自分たちの存在を主張します。

左側のつがいが右側の子供連れに近づきます。ここは自分たちの場所だとしきりに威嚇しています。するとさらに右の方から別のつがいが悠然と近づいてきました。左側のつがいはやむを得ず場所をうつします。最後に勝ちどきの声をあげるつがい。どうやら、ここが自分たちの場所であることをまわりに認めさせたようです。

鳴きあいで絆を強めた2羽のタンチョウ。今度は、雄が雌をダンスに誘います。

まあ、一番ダンスらしいのはですね、その、つがいが、えー、いわゆる求愛のダンスといわれている、あの、次の繁殖に向けて気持ちを高めていくようなですね、えー、ダンスというのが、まあ、鶴のダンスの中では一番きれいじゃないかなっていうふうにわたしは思ってます。そんなに鳴き声でですね、あの、コミュニケーションとってはいるんですけど、そんなバリエーションはたぶんないと思いますから、それを身体全体でですね踊ることによって、その気持ちと言いましょうか感情をですね表現してるんじゃないかなっていうふうに思ってますけどね。

雪の上に座り込んだタンチョウが頭の赤い部分を大きくしながら警戒しています。実は、近づいてきた自分の子供を威嚇しているのです。タンチョウは繁殖期が近づくと、前の年に生まれた子供を厳しく突き放します。親と別れたタンチョウの子は子供同士で群れを作ります。2・3年後には、その群れの中から新しいつがいが誕生するのです。

日本で繁殖する唯一の鶴、タンチョウ。白、黒、赤の鮮やかで優美な姿が北海道釧路湿原に舞います。

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