陸上ボート
スネ夫:静かな湖畔にボートを漕ぐ音だけが響く。山々はまだひっそりとしていて、冬の装いだけれども、湖をわたる風が「春がそこまで来てるよ。」って教えてくれるんだ。いや、すっかり心が洗われたって感じ。
静香:すてきね。
スネ夫:今度行くときはね、静香ちゃんも絶対連れて行ってあげるよ。
静香:本当?わたし、ボート乗るの大好き。
スネ夫:それじゃ、僕はこれで。
静香:約束よ。
スネ夫:わかりました。
のび太:いつもああやって人に自慢して、いやなやつ。しずかちゃん、スネ夫なんかについていくことないからね。ボートぐらい、僕がすぐに乗せてあげる。
静香:まあ。うれしい。
のび太の母:ボート、ボートって公園の?
のび太:そう、いいでしょう。
のび太の母:だめです。
のび太:なんで?
のび太の母:子供だけでボート乗りなんて危ないから。
のび太:そんな。
ドラえもん:ん、のび太くんがくるような気がする。今日は何だ?
のび太:(泣きながら話す)
ドラえもん:なるほど。
のび太:(泣きながら話す)
ドラえもん:それで表で静香ちゃんが待っているのか?
のび太:なんとかして。
ドラえもん:よし、任せなさい。
のび太:本当!
のび太の母:えっ?
ドラえもん:池じゃなくて、空き地で乗るならいいでしょう。
のび太の母:ええ、いいわよ。
ドラえもん:のび太くん、行こう。
のび太:うん。
のび太の母:空き地でどうやってボートに乗るのかしら?
のび太:空き地で乗るんだってさ。
ドラえもん:陸上ボート。土の上に浮かぶボートだよ。
のび太:ね、ね、ね。早く乗ろう、乗ろう、乗ろう。わあ、ゆれる、ゆれる。
ドラえもん:気をつけて。本当のボートと同じだからね。
のび太:ドラえもん。ねえ、動かしてみて。
ドラえもん:よし、行くぞ。
のび太:わあい。わあい。動いた、動いた。
静香:すてきね。本物のボートそっくり。
のび太:本当、本当。ね、今度、僕に漕がせて。よ〜し。
ドラえもん:のび太くん、のび太くん。それじゃアベコベだよ。そっち向いてこいだら、後ろにすすんじゃうぞ。
のび太:そう。
静香:のび太さん、大丈夫?
のび太:ごめん、ごめん。ちょっと失敗しちゃったね。ヨイショ。こうすればいいんだ。
ドラえもん:そう、そう。それでいいんだ。じゃ、あとは任したからね。
のび太:え?帰っちゃうの?
ドラえもん:うん。ドラミに手紙を書かなくちゃいけないんだ。じゃあね。
静香:ドラちゃん、ありがとう。
のび太:じゃあね。よし、行くぞ。
静香:がんばって。
のび太:よいしょ、よいしょ。
静香:あっ、のび太さん、だんだん曲がってきちゃってる。
のび太:ええ?おかしいな。
静香:だめよ。ぐるぐる回ってる。
のび太:え?何で?
静香:右手と左手の力を一緒にしないとだめなのよ。
のび太:あ、そうか。ええっと、右と左を一緒の力で。よいしょっと。
静香:そう、そう、そう。その調子。あ、左に曲がってる。あ、今度、右。
のび太:わあ、ボートって疲れるな。もう、クタクタだよ。
静香:替わってあげましょうか?
のび太:なんの、なんの。
静香:あ〜。土管にぶつかちゃう。
のび太:え、土管?どけて。け、け、怪我しなかった?
静香:大丈夫。
のび太:ちょ、ちょっと待ってね。びっくりした
ドラえもん:え?漕がなくてすむボート?
のび太:どうもうまくいかなくて。
ドラえもん:うん、しょうがないな。陸上モーターボート。
のび太:すごい。しずかちゃん、乗ろう。
静香:すてきね。
ドラえもん:気をつけてね。いい、道路に出ちゃだめだよ。
のび太:わかった。
ドラえもん:じゃ、僕は帰る。
のび太:サンキュー。よーし、出発。早い、早い!
静香:すごい。気持ちいい。
のび太:本当。
静香:のびたさん、気をつけて。
のび太:うん、わかってる、わかってる。でもさ、空き地の中をぐるぐる回ってるだけじゃつまんないなあ。道路に出ちゃおうっと。
静香:のび太さん、ドラちゃんがでちゃだめだって。
のび太:平気、平気。うわあ、気持ちいい。
ジャイアン:すげえ。
スネ夫:なんだ、これ?
ジャイアン:よ、のび太。いいものに乗ってんじゃん?
スネ夫:またドラえもんに借りたな。
ジャイアン:こんないいもの、自分だけで楽しむっつうのはないよな。
スネ夫:あ、そう、そう。
のび太:あ、いや、その、あの。
ジャイアン:とっとと降りろよ。
スネ夫:貸さないとひどいぞ。
のび太:わかったよ、もう。
スネ夫:しずかちゃんは、降りなくてもいいのに。
静香:ふん。私、乱暴な人嫌い
ジャイアン:まあ、いっか。
スネ夫:悪く思わないでね。しずかちゃん。
のび太:ごめんね、しずかちゃん。ぼくが弱っちいから。
静香:いいのよ。気にしないで。
のび太:でも、せっかくしずかちゃんを喜ばせてあげようと思ったのに。
静香:ううん、私とっても楽しかったわ。今度は、本物のボートに乗りに行きましょうね。
のび太:ああ、うまく漕げるように練習しなくちゃね。
静香:うん、しっかりね。
のび太:うん。
静香:じゃ、私、帰るわね。
のび太:うん。
静香:どうもありがとう。のび太さん。
のび太:どういたしまして。
静香:さよなら。
のび太:さよなら。でも、くやしいなあ。
ドラえもん:ゆるせない。まったく、あの二人は、なんて奴らなんだ。だいたい、君も情けないぞ。いつもいつも、いうなりになって。
のび太:そう思います
ドラえもん:よし、こうなったら、もう、あれを使ってやる。
のび太:あれって?
ドラえもん:ふっふっふ。待ってろ。ジャイアン、スネ夫。いくぞ!
のび太:待ってよ。ドラえもん。ね、あれってなに?
ドラえもん:ふっふっふ。陸上潜水艦。
のび太:こ、こ、こ、こんなもんまであるの?
ドラえもん:22世紀の科学に不可能はないのだ。潜行開始。のび太くん、潜望鏡を出して。
のび太:うん。あ〜、見える、見える。なるほど、地面の下を進むのか。
ドラえもん:出発!
ジャイアン:いやあ、たまんねえなあ!
スネ夫:最高!
先生:僕たち地球人、か。こ、こら!道路でボート遊びはいかん!え?
スネ夫:ジャイアン、道路はだめだって言ってるよ。
ジャイアン:よし、裏山に行こうぜ。
ドラえもん:のび太くん、まだ見つからない?
のび太:うん、おっかしいなあ。どこ行ったんだろう。あ、いた。裏山を走り回ってる。
ドラえもん:よし、鮫型魚雷攻撃だ。発射。
のび太:命中!
ドラえもん:よし、浮上!
スネ夫:溺れちゃうよ。助けて!助けて!溺れる!沈む!
ジャイアン:助けてくれよう!スネ夫!
ドラえもん:溺れるわけないのに。
のび太:そう。下は地面だもんね
ジャイアン:誰か助けてくれよ!
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