入り込みミラーⅡ
のび太:ええ?すごいもの?すごいものって何だよ。
スネ夫:見ればわかるさ。ハハハ、まあね。とにかくすぐ来るんだぞ。
のび太:ちぇっ、なんだい。
静香:何かしら、すごいものって?
ジャイアン:スネ夫のことだから、どうせまたなんか見せびらかすつもりだぞ。
のび太:そう、きっとそうだよ。いやな性格。
静香:じゃ、やめる?
ジャイアン:うーん。でも、行ってみようか。
のび太:うん。
ジャイアン:くそ。見たいけど、みたくないような。
のび太:ねえ、ちょっと覗いてみようか。
ジャイアン:うん。
のび太:わあ。
ジャイアン:すげえ。
静香:素敵なスポーツカー。
ジャイアン:ポ、ポルチェじゃんか。
のび太:カッコイイなあ。
スネ夫:いやあ、君たち、来てたの。
スネ夫の母:スネちゃま。だめざましょう。勝手に動かしちゃ。パパの大事なポルチェに傷でもつけたら大変ざます。なんてったって、お高級ポルチェざますからね。
スネ夫:はい、ママ。ハハハ。しかれちゃった。ハハハ。ポルチェ。
スネ夫の母:そう、ボルチェ。
スネ夫:どう。すごいでしょう。あれはポルチェっていうんだ。ポルチェっていえば、超高級車だもんね。そのポルチェ959というのはまだ250台しか生産されてない、とても貴重な高い車なんだ。たしか、日本でも数台しかないんじゃないかな、このポルチェ。
静香:まあ、そうなの。
スネ夫:僕、18歳になったら、すぐ免許とるんだ。そして、さっそうと全国をドライブするんだ。
静香:すてきね。
スネ夫:あ、そんときはね、もちろんしずかちゃんも隣にのせてあげるね。
静香:まあ、ほんとうに?
ジャイアン:オ、オ、オレは?
スネ夫:いやだな。ジャイアン、乗せるに決まってるじゃん。親友を忘れるもんですか。
ジャイアン:そうか。スネ夫、お前はやっぱり本当に心の友だ。
スネ夫:いや、ジャイアン。だから、痛い、痛い、苦しい。
ジャイアン:日本全国をポルチェでクルージングか。
静香:いいわね。九州や北海道、そして瀬戸大橋をわたって四国にもいけるわ。
のび太:あの、ぼ、僕は?
スネ夫:どう?ちょっと座ってみる?運転席からの眺めは抜群だよ。
ジャイアン:えっ、いいのかよ。
スネ夫:うん、どうぞ、どうぞ。
静香:私、感激。
ジャイアン:オレもだよ。
のび太:なんだい、なんだい。ポルチェなんか。どうせ乗れるのは、ずうっと先じゃないか。ふん。なんだい。
ドラえもん:え?
のび太:だから、車を運転したいって言ってんの、今すぐに。
ドラえもん:また、無茶なことを。18歳になるまで運転免許はとれないんだぞ。
のび太:そんなものは、いらない。
ドラえもん:いらないって?わからない人だね。免許なしでは道路は走れないの。
のび太:免許なしで走れる道路があるでしょう。ふふフん。
ドラえもん:そんな道路が、ど、ど…。
のび太:えっへん。鏡の中の世界。入り込みミラー。
ドラえもん:ギク。覚えていたか。
のび太:ねえ、出して。
ドラえもん:入り込みミラーⅡ。
のび太:Ⅱ?
ドラえもん:入り込みミラーは、この前、ちょっと間違って割っちゃって。これは、新しいタイプなんだ。
のび太:なんだ。同じじゃないか。これだ、これ。左右があべこべで、誰もいない不思議な世界。そうそう。
ドラえもん:でもね、これは前のミラーと違って。
のび太:ここじゃ、何をやってもしかられないんだ。わあい。こんなことしたって。
ドラえもん:わああ、のび太くん。あ、あのね、この入り込みミラーⅡはね、こっちの世界で何かがあれば、あっちの世界にも影響があるんだ。ミラーを覗いてごろん。
スネ夫の母:あーあーあー。と、突然、落書きが。いったいどうなってるの。だれがやったの。ああ、こんなになっちゃって。
のび太:はあ、静かだな。さあ、早くポルチェ出して。
ドラえもん:そんなものないよ。
のび太:ええ、何、これ?カッコわるいなあ。
ドラえもん:へたくそ用練習カーです。
のび太:えー、この車に乗れっていうの。こんなスタイルの悪い、こんなおもちゃみたいのに。
ドラえもん:そのかわり、丈夫で安全なの。ほら、文句言ってないで、乗った、乗った。座ると自動でシートベルトが締まるんだ。はい、ブレーキを踏んで。
のび太:こう?
ドラえもん:エンジンキーをまわす。ギアをニュートラルからドライブに、アクセルをそっとそっと。
のび太:ああ、動いた。動いたよ。うそみたい。僕が車を運転するなんて。
ドラえもん:ふふふふふ。もっとスピードを落として。左、左。まだ細い道は無理だね。しばらく空き地で練習しよう。よいしょ。ここなら安心だ。
のび太:ここなら安心でスピードが出せるね。出発。ギアをバックに入れちゃった。では、出発。へへへ。ちょっとハンドル切るのが遅かったみたい。わあい、だいぶうまくなったみたいだ。
ドラえもん:どこが?
のび太:ドラえもん、ミラーを貸して。
ドラえもん:どうすんの。
のび太:ふふん、ちょっとね。
ドラえもん:ああ。
静香:え?ドライブ?
のび太:僕、とっても運転うまいんだ。だからさ、鏡の中の北海道や九州行こう。瀬戸大橋を通って四国へもね。誰もいないうちに、二人だけでドライブしようよ。
スネ夫:ジャイアン、こっちにも。ジャイアン、ずっと続いてるよ。
ジャイアン:行ってみようか。
のび太:さあ、入って。ここが入り口。
静香:あら、入り込みミラーね。
ジャイアン:空き地のとこまで続いてるぞ。
スネ夫:あ、のび太。この。
のび太:ね、ジャイアンとスネ夫が。
ドラえもん:え、え!
ジャイアン:俺たちにも乗せろ。くそ、のび太のやつ。
スネ夫:あ、そうか。ジャイアン、何もあんなおもちゃに乗らなくても平気だよ。ここは鏡ん中の世界なんだから、僕んちにも超高級車ポルチェがあるはずだよ、きっと。
ジャイアン:そうか。
スネ夫:ほらね。
ジャイアン:本当だ。
スネ夫:ね、さ、誰にもしかられないで、おもいっきりドライブができるよ。
ジャイアン:スネ夫くん。
スネ夫:へ?は?
ジャイアン:おれ、運転したい。
スネ夫:でも、これ、僕んちの。
ジャイアン:運転したい!
スネ夫:ぎゃゃあ!僕んちの車なのに。
ジャイアン:のび太をおっかけろ。
スネ夫の母:何ざますか。えっ、いったい何なの。えっ、何ざますか、え、え、え。
ジャイアン:よし、そろそろ本気を出すか。
のび太:ねえ、もっとスピード出ないの?この車。
ドラえもん:制限速度を守りましょう。
静香:ああ、前、前!
ドラえもん:コンピューターの働きで自動的にブレーキがかかったんだ。交通ルールを守らないからこんなことになるんだ。スピードの出しすぎ、よそ見運転、もう運転は…
静香:大丈夫?二人とも。
ジャイアン:まあ、なんとか。
スネ夫:このポルチェはぐちゃぐちゃだけど、鏡の世界のポルチェでよかった。ハハハ。
ドラえもん:ところが、ちっともよくないんだよね。さあ、みんな、向こうの世界へ帰ろう。どうぞ、しずかちゃん。
静香:うん。ありがとう。
スネ夫の母:ぎゃあ、どうなってるざます。車がひとりでにつぶれたざます。あーあー。かってに壊れたざます。これはどうなってるのざますか。
スネ夫:ママ、マ、ああ!
スネ夫の母:信じられないざます。どうしたらいいざます。ポルチェが、ポルチェが勝手に。ポルチェ。ポルチェが勝手に…。
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