心がわりブローチ
アナウンサー:さあ、残り時間もあとわずか。反撃もここまででしょうか。中沢が一人で持ち込んでいきます。そしてそのままセンタリング。
のび太:いけ、いけ、いけ。
アナウンサー:ゴール。中沢のセンタリングに渡辺がヘッドであわせました。
のび太:わーい。やった。
アナウンサー:...同点に追いつきました。
のび太:いいなあ。僕もサッカーうまくなりたいなあー。ねえ、ドラえもん、サッカーが上手になる道具さあ、おー。ドラえもん。
ドラえもん:わあ、ああ、どうしよう、どうしよう、えーと、あ、そうだ。
のび太:待て。待てったら。あー、タイムマシンで逃げるなんて卑怯だぞ。
ジャイアン:いくぞ。スネ夫。しっかりとれよ。
スネ夫:OK。
ジャイアン:それー。
スネ夫:もらった。
ジャイアン:へたくそ。
スネ夫:だ、だって。大丈夫。
ジャイアン:しーっ。静かにしろ。
スネ夫:あちゃ。
ジャイアン:おい、早いとこ、逃げようぜ。
スネ夫:逃げないほうがいいよ。
ジャイアン:何だよ?スネ夫。急にいい子ぶる気かよ。
スネ夫:ち、ち、違うよ。ここのおじさんもと腕利きの刑事だったから、僕らが犯人だってことすぐばれちゃうよ。はぁあ、どうする?ジャイアン。
ジャイアン:どうするたって。
のび太:おーい、ジャイアン、スネ夫。
スネ夫:なんだ、のび太か。
ジャイアン:しめた。
のび太:サッカーやってるの。
ジャイアン:そうだよ。いっしょにやんないか。
のび太:へー、いれてくれるの。
スネ夫:大歓迎だよ。
のび太:わあ、僕にできるかな。
ジャイアン:大丈夫、大丈夫、なあ、スネ夫。
スネ夫:うん。
のび太:そ、そう。
ジャイアン:よし、のび太、シュートの練習だ。スネ夫、お前、ゴールキーパーやれ。
スネ夫:へえ?また。
ジャイアン:いいな。
スネ夫:うん。わかったよ。
ジャイアン:いいか、スネ夫の顔にぶつけるつもりでおもいっきりキックしろ。
のび太:うん。
スネ夫:まったく。ぶつけられる身にもなってほしいよ。
ジャイアン:きめろよ。のび太。
のび太:よし。いくぞ。シュート!
スネ夫:あららら。
のび太:ごめんください、あ、あんなところに。あっ、ガ、ガラスが…。そんなばかな。
ジャイアン:あーあ、まずいことになったな。
のび太:でも、ガラスが割れた音なんてしなかったけど。
スネ夫:あ、僕は聞いたよ。
ジャイアン:俺も確かに聞いたな。
のび太:ドラえもん。
ドラえもん:わ、む、む、む、無理だよ。サッカーがうまくなる道具なんかないよ。
のび太:違うんだよ。ドラえもん。助けてよ。
ドラえもん:うーん、そういうことだったのか。
のび太:なんとかしてよ。ドラえもん。
ドラえもん:のび太くん、君はガラスを割ってとぼけるつもりなの。
のび太:そうじゃないよ。そうじゃないけど、相手は頑固なおじいさんだっていうから、つい。
ドラえもん:そう。そういうことで僕を当てにしたってだめだよ。
のび太:やっぱり謝りに行かなきゃだめなのか。
頑固じいさん:ガラスをわったのはおまえか。
のび太:いえ、あ、と、と、と。
頑固じいさん:喝!!!
スネ夫:こわい。
ジャイアン:のび太のせいにしてたすかったよな。
のび太:いや、絶対。行きたくない。
ドラえもん:のび太くん、せっかく謝りに行ったのに。それじゃ、こころがわりブローチ。
のび太:こころがわり。
ドラえもん:そう。このブローチの中に香水が仕込まれていて、その匂いを嗅いだ相手は一時的に心変わりをしてしまうんだ。つまり、怒ってる人はこの匂いを嗅ぐと褒めてしまうってわけ。
のび太:じゃ、ぼく、怒られなくてすむ。
ドラえもん:そういうこと。
のび太:よかった。え、でも、どうしてアジサイなの。
ドラえもん:ふふふ。それはね、アジサイの花言葉は心変わりっていうんだ。
のび太:へえ、なるほど。いやあ、それにしても、ドラえもんはどうしてそうスタイルが悪いのだろう。
ドラえもん:え?
のび太:胴が長くって、足が短くって。
ドラえもん:のび太くん、言わしておけば!誰のおかげでいつも助かってると思うんだ。そうなんだよね。僕、胴長短足だけど、それなりに僕は気にいってるんだ。
のび太:うん、たしかに効き目がある。いってきます。
ジャイアン:のび太のやつ、今度は元気に出かけて行ったぞ。
スネ夫:きっとドラえもんになにか道具出してもらったんだ。
頑固じいさん:しょせん、逃げ切れぬと思って自首してきおったな。
のび太:ご、ご、ごめんなさい。
頑固じいさん:そんなことじゃゆるせん。
スネ夫:ごめんなさい。
ジャイアン:ばか。お前が謝ってどうするんだよ。
頑固じいさん:いまさら謝ってももう遅いわ。覚悟せい。うん、うん。よい、よい。ガラスの一枚や二枚…。
のび太:心変わりした。
頑固じいさん:まあ、中へ入りなさい。茶でも一服進ぜよう。
のび太:ええ、けっこうです。
頑固じいさん:まあ、いいじゃないか。わしは君が気に入った。さあ、遠慮せずに。
のび太:は、はい。
ジャイアン:ど、ど、ど、どうなってんだ。
頑固じいさん:ああ、もらいもののケーキじゃが。
のび太:あ、はい。
頑固じいさん:は、は、は、そう固くならず、楽にして食べなさい。
のび太:いただきます。
ジャイアン:お、おい、ケーキなんか食ってるぞ。あれで頑固でおそろしい爺さんなのか。
スネ夫:性格、変わったのかね。
頑固じいさん:なるほど、すると、君はガラスが割れる音を聞いていなかったんだね。
のび太:はい、でも、割れたのは事実だから。
ジャイアン:のび太のやつ、なんだか取調を受けてるみたいだぞ。
スネ夫:なにしろ、おじさんはもと刑事だから。
ジャイアン:やばい、隠れろ。
頑固じいさん:ボールがこっちの方向から飛び込んできて、君はガラスが割れているのを発見したとき、どこに立っていたんだね。
のび太:ここです。
頑固じいさん:そのとき、ボールの落ちていた位置は。
ジャイアン:まるでテレビの刑事みたいなこといってるぞ。
スネ夫:し、真犯人が割り出されるかもしれない。
頑固じいさん:こ、これは。ちょっと、君の靴の裏をみせてくれぬか。
のび太:はい、どうしたんですか。
頑固じいさん:真犯人はほかにおる。
のび太:それじゃ、犯人は誰なんですか。
頑固じいさん:君でないことは事実だ。必ず犯人を突き止めてみせるぞ。
ジャイアン:ど、どうする。スネ夫。
スネ夫:僕たちだってばれるの、時間の問題だよ。
ジャイアン:一生罪を背負ったまま逃げとおすか。
スネ夫:そ、それじゃ、パパの別荘で。
ジャイアン:冗談だよ。
スネ夫:え、やっぱり。
のび太:これからどうやって犯人を捜すんですか。
頑固じいさん:まあ、見てなさい。昔とったきねづか、必ずホシをあげてみせる。
ジャイアン:あの。
のび太:ジャイアン、スネ夫。
ジャイアン:ガラスを割ったのは俺たちなんです。ごめんなさい。俺たち、のび太が来る前にサッカーをやってて割っちゃったんだ。
スネ夫:そこへ、うまいこと、のび太が来たんで。
ジャイアン:のび太のせいにしちまおうと。
のび太:ひどいよ、ひどいよ。
ジャイアン:ご、ごめんな。でも、ガラスの一枚や二枚どうってことないんでしょう。
頑固じいさん:んん、ゆゆ、ゆるさん!人に罪をかぶせるなんてもっとゆるせん!
のび太:は、ブローチの威力が消えたんだ。
頑固じいさん:お前は釈放だ。もう、帰ってよし。
のび太:はい。
スネ夫:のび太。ああ、ガラスは、あの、弁償します。
頑固じいさん:弁償すればすむ問題か。
ジャイアン:のび太のときと話がちがうじゃんか。
スネ夫:ど、どうなってるの、これ。
頑固じいさん:なにをごちゃごちゃ言っとるんだ!もっと力を入れて!休むんじゃない!
スネ夫:ママー。
のび太:こころがわりブローチでたすかったけど、ジャイアンたちは、たいへんだな。
静香:のび太さん。
のび太:あ、静香ちゃん。
静香:捜してたのよ。あら、のび太さん、どうしたの。ブローチなんかして。
のび太:あ、これ。
静香:わあ、すごく素敵ね。
のび太:わあ、押しちゃだめったら。
静香:ふん、私、のび太さんなんか大嫌い。嫌い、嫌い、嫌い。大嫌い!顔も見たくないわ。
のび太:わあ、ドラえもん。
ドラえもん:こころがわりブローチのせいで嫌いって言われたんだから、本当は好きってことじゃないか。
のび太:あ、そうか。
ドラえもん:でも、もしかしたら、本当は、嫌いだったのかも。
のび太:えっ!あーあ、どっちがしずかちゃんの本心だかわからない。あー。
ドラえもん:やれやれ。
のび太:一言、余計なんだから、もう。
ドラえもん:ごめん。
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