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『CLANNAD』プレイ日記

CLANNAD―クラナド―
Key / 2004年04月28日発売 / Windows98・Me・2000・XP対応ゲーム / 全年齢対象 [amazon購入ページ(初回限定版)]

[ゲーム概要]
 前作『AIR』から約三年八ヶ月ぶりに発表する最新作。旧作で踏んでいた18禁指定から全年齢対象版、という手順を初めて外れ、いきなり全年齢対象での発売となる。家にも学校にも居場所を見いだせない少年と、長期の病気療養から復帰しまわりに友達が一人もいない状態での再スタートを迫られた少女との邂逅に始まる、恋愛AVG。

2004/04/28
 相変わらず抽象的で意味深なプロローグから始まる。そして、既に幾度も紹介された、初登校のシーン。いざ本編に入ると急激にギャグ度が高まるのもいつも通り。
 ただ、以前に比べるとキャラクター造型の無理が減った――というより、無理を無理と感じさせず自然に日常に溶け込ませていくのが巧くなった印象。友達が少ない主人公が唯一親しくしている男・春原との掛け合いが非常に楽しい。楽しすぎて女の子に話が行かなくてもいーかな、と一瞬思わせてしまうくらい、なのはどうだろう。坂上智代が登場するまでは本気でそう思った。
 選択肢が極端に少なく、展開の分岐が判断しやすかった前作『AIR』に対して、本編は序盤から無数に選択肢が登場する。まだまだシビアな展開には向かいそうもないので選ぶのも楽だし、無茶な選択をしたときの反応も楽しい。確かに、従来に比べて娯楽性が高くなっている。現在、メインヒロインである(はずの)古河渚中心に話を進めてますが……あ、あかん、なんか気がつくと坂上智代のほうに向かいたくなる……そして、ウリボウがとっっても、いい。そんなタイミングで出てくるな。そういう場面じゃないのに馬鹿笑いしてしまったじゃないか、深夜に。
 とまあ、今のところ、手応えはとても良好。あとは個々のシナリオのヴォリュームと分岐の細やかさがどの程度のものなのか、何より個々のシナリオの完成度は如何なものか。ま、のんびり確かめてみます。Key作品で初めてヒロインの家族がノーマルに近い状態であることとか、あれこれ検証してみたいことが早くも出て来ましたが、まあそういうのはひととおりシナリオを完結させてからってことで。
 ……何にしても、「コズミック朋也」だけは勘弁被りたい。
2004/04/29
 古河渚と恋人になって、春原の妹(……み○る?)が来て、見せ場があってふたたび演劇部の話へ。
 日常だけどちゃんとイベントが無数にある、加減が程良い。今のところ大きな筋がないので、どこに着地するのか読めないのが不安なのだが、「もうしばらくここにいたい」という感覚にさせてしまうのは立派。『AIR』だとそれは刃の上の綱渡りという印象があるのだけど、こちらは寛いでいられる。それだけに、たぶんこのあと待ち受けているであろうクライマックスがほのかに憂鬱。思わず別のキャラ攻略と並行しようかと思ったり。
2004/04/30
 本気で並行して攻略中。坂上智代を……と思っていたらいつの間にか伊吹風子がメインになっていた。なんでっ?! 久々にこのテーマを見たが、他のキャラクター同様に対象が明確に、しかしソフトになっているから、深刻になりすぎずに済んでいる。強いて言うなら、そのために古河渚を切り捨てるのが若干後ろめたかったり。ちゃんと攻略対象外になってしまうときのキャラクターも描写しようとしているからそういう感覚に陥ってしまうんですけど。
 で、ふといつもと違うコースを辿ってみたところ……この上なくあっさりと、どうでもいい結末に。何だこりゃ。半端なことをすると半端な結末に辿り着く、ということなんだろうけれど……本筋との差が解りません。何が原因? 攻略性が高まっているのは好ましいことだけど、こういう特典なしのエンディングに辿り着いた原因が解るような描写とかサービスがあったらもっと有り難かったような。同梱のガイドブックにヒントを掲載するような形ではなく。
 何となく納得いかなかったので、渚・風子の話と並行してやっぱり智代のほうへと進んでみる……ああ、本当に、こういうキャラは好きだ。人生直球で生きていて、微妙にラインがずれていることにも多少自覚的なくせにそれでも真ん前のミットしか目指してないような。ていうか……このゲームでは君がそのポジションに来るのか……。
 微妙な感慨に耽りつつ、以下次回。
2004/05/02
 古河 渚シナリオ終了……って、あ、あれ? ここで終わり? 思いの外あっさりと。或いはもう一本ハッピーエンドのルートがあるのか、キャラクター攻略を終えたのちの追加シナリオでもうひとつ決着が用意されているのか。『Kanon』や『AIR』と比較すると展開も結末も微温的で物足りなさを感じます。渚はいい子だし家族も(ある意味では相変わらず壊れてるんですが)楽しいしで、タイトルに相応しい暖かさはあるんですが、旧作の怒濤のようなクライマックスに馴染んだ目にはどうしても。何より、この展開に必要なはずの主人公のとある問題には終盤まるで触れずじまいだったのが気掛かりです。現実としてなら、考慮から外してもさほど問題はない(問題視すべき立場の人々も、その理由を知ってしまったあとですから)とは言え。……やっぱり、もうひと筋あるのかなぁ。
 仮にそうだとしても、一区切りついたので渚から離れ、改めて坂上智代シナリオに没頭……しない。やっぱり並行してしまう。いや、この坂上智代というキャラクター、なんか知らないがわたしのなかにあるアクセルらしきものを踏み抜きかねない要素があるもんで、逆にブレーキをかけたくなるんですわ。
 というわけで、途中放棄していた伊吹風子シナリオを併走させる。……中盤のギャグ度はいちばん高い。てゆうかほぼ漫才。通常四人以上集まった場合はひとりがボケると他のメンバーがツッコミになり、それをとっかえひっかえしないと役割の負担が大きすぎてパンクしてしまいます。このシナリオにおける主人公がまさにそれで、完璧にツッコミしすぎで壊れかかってます。まあ、別に舞台で繰り返しコントしているわけじゃないので、ハイテンションがどれだけ長引こうと構わないんですけど、ね。
 で、そのまま勢いに任せて風子編終了。これもパターン化したあるシチュエーションなんですが、捻りが巧い。自分自身の幸せの話としなかったこと、エピローグとしてもう一段階加えたことで、(以下伏せ字)いわゆるジェントル・ゴーストストーリー(ここまで)になっている。くそう、こんなことやられた日にゃ褒めないわけにいかんじゃないかっ。例によって、そのあとが必要だったのかは若干微妙ですが、個人的には、ゲームである以上本来いちばんいい結末はハッピーエンドであるべきだ、と考えているので、尚更に。そんなわけで、個人的事情も含めて、今のところ渚編よりもこちらのほうを評価します……今のところ、ですよあくまで。
 本日の締めに疑問ふたつ。
・どなたですか、「エガちゃんみたいです」なんて台詞この子に言わせたのわ。
・風子編は終盤の選択肢如何で若干CGが変わるんですが……エピローグの絵、どう違うか解ります?
2004/05/03
 相変わらず、坂上智代シナリオはちまちまと進めてます……いやもう、何なんだこのアクセルの効率の良さは。
 で、現在は藤林姉妹のエピソードと並行しております。いったいどっちの話なのか解らなくなりますが、双子の話としてはなかなか意欲的な作り。流されているうちに椋のほうで話が終わった……こらぁ、単体ではあんまり意味を為さないな。というわけですぐさま杏のほうも進めてみる。部活関係では外道を地でいく春原が、ここでは妙にいい奴に徹してます。しかもシリアスなことを……言ったかと思ったらすぐに壊れました。そういうところがいいんだよ君わ。
 しかし、ここからが大変だった。なかなか話が進まない。いいところでゲームオーバーのような感じになってしまう。実に細かな選択肢のミスで、フラグが不充分になっているらしい。乗り切るまでほとんど虱潰しでした――が、それ自体悪い気はしません。ゲームやってるなあ、という感覚があります。
 どうにかこうにか完結。いや、いい話だった。選択肢にもちゃんと筋が通っている。少々シビア過ぎという気もするが、たまにはこのくらいえぐくてもOKでしょう。ただ……ラストシーンは……これもやりすぎかなあ。絵にはなったが、あとを引きずるぞ。十年は色々言われるぞ主人公。てゆうか下手をすると一生ものだぞ。
 というのを書きながら、エンディングテーマのあとに続いていたエピローグを進めていると……ちゃんと、締めた。纏めやがった。綺麗な着地でした……が、それ故に、椋のエンディングに漂う“ついで”感がちょっと不憫だ。まあ、姉のシナリオが本筋であることは否めないので、やむを得ないところではあるんだけども。
 ただ、このエンディングを見てふと嫌な予感が兆した。俺、もしかして、伊吹風子シナリオ、ちゃんとクリアしてなかったのかも……
 この辺で本日は切り上げ……るつもりだったが、とうとう辛抱堪らなくなって坂上智代シナリオを一気に終わらせる。後半の展開は一部を除いてほぼ読み通りでしたが、それでも大満足。この物語のなかで、初登場の時のイメージを変えることなく自分を貫いていたのは今のところ彼女だけという気がします。まさに彼女らしいストーリー展開なので、一種の予定調和も心地よくさえあります。
 その後は他のキャラクター数名を同時進行。だんだん解ってきたんだが……どうも、春原の妹・芽衣がこの作品ではいちばんの常識人らしい。打てば響くし。まあ、それで兄貴がアレなんだから、考えようによってはいちばん不幸か。
2004/05/04
 ……一気に、終わらせてもうた。
 日中にだいたいのサブキャラエンディング手前までのデータを作って、就寝前にざっと眺めて、それから発生するはずの後日談シナリオは明日以降に、と思っていたのに、勢いで後日談も始めてしまったらあとはもうやめられないとまらない。寝不足です。

 ともあれ、以下、まとめの感想。既に言及済みのキャラも含めて、ざっと触れていきます。順番は恣意的なものなので気にしないように。
○藤林 杏
 いちばん攻略が困難でした。何せあんなにたくさんフラグがあって、章題に「杏」と冠されていても、それ以前の選択が間違っていたら絶対にラストシーンに辿り着かない。これを難物と呼ばずして何と呼ぶ。
 先の感想でも触れたとおり、クライマックスで主人公は彼女に対してどえらいチョンボをしていて、その場では指摘されないのですが、エピローグでちゃんと回収している。この丁寧さは他のキャラクターにも言えることなのですが、個々人では彼女のシナリオが一番解り易かった。色々な点から、本編の高いゲーム性をいちばん象徴したキャラクターとも言えるでしょう。
 ところで当初、私は彼女の名前を「あんず」だと早合点してました。が、会話のなかで「きょう」という読みだと解った時点から、頭のなかでは「梗」の字を当ててました……だって、ねえ。
○藤林 椋
 クリアされた方なら共感していただけると思うのですが、彼女に対する評価は非常にアンビバレントなものになります、どうやっても。姉のシナリオを双子キャラ特有のエピソードとして突き抜けさせるために作られたキャラクターであり、登場が早いにも拘わらず正式な攻略対象キャラではない(唯一、彼女の名前だけがラストシーンでタイトルバーに表示されない)。いちおう彼女と結ばれたあとに通常のエンドロールが流れますが、どーしたっておまけ感は拭われません。
 彼女の真価が発揮されるのは別のキャラクターのエンディングなのですが、ああいう形で活躍されてしまうと、折角の彼女のエンディングがどーも浮ついたものに感じられてしまうのも問題。何せ、その別キャラエンディングでの椋のほうが、どう考えても主人公とのハッピーエンドよりも幸せに見えて仕方ないのです。
 スタッフコメントにもあるとおり、一緒になって不幸になるようなタイプでは絶対あり得ないだけに……余計に評価が微妙になってしまうわけで。
 ちなみに物語の終盤で、看護師となって登場する箇所があるのですが――あの制服はちょっとやりすぎ。どー見ても保育園の先生です。
○伊吹風子
 4日目の日記に記したとおり、個人的に彼女のシナリオは手放しで評価してしまいます。ただ、性格面では最強の問題児だと思われます。好意が裏目に出るとかお節介が強すぎるとかいう以前に、言動が破壊的すぎる。それ故に慣れると非常にキュートですが……その後の彼女と付き合う人々は例外なしに苦労が多そうだ。
○伊吹公子
 複数のシナリオでキーパーソンとなる、非常に使い勝手のいいお方、という印象。攻略対象ではないのですが、素直に「幸せになってくれたらいいなあ」と願わずにいられない方です。だが……相手があれで妹があれでは、厭でも苦労は絶えないんじゃないかと思われる。
○宮沢有紀寧
 彼女だけは“家族”というより“一家”という趣でした。……同じではありません。プレイしてみりゃ解ります。
 登場は遅めで出番は少なく、主人公との触れあいも少ないままに話が終わってしまうので、どうしても食い足りない気分が残ります。「いい子」っぷりは間違いなく作中トップクラスに属しますが、「いい子」もここまで行くとはた迷惑というか完全に姉御だし。攻略後の主人公の命がけぷりを堪能してみたくもありますが……それやったら完全に“家族”の話じゃなくなるので、想像に留めておきましょうか。いずれにしても、まだ描く余地がある、と思わせてしまうぶん、本編のなかでは損をしているように思います。いい子なのに。
○相楽美佐枝
 ゲームの攻略対象としては恐らく最もアグレッシヴな位置づけでしょう。シナリオそのものはやはりKey関連作品ではお馴染みのあのテーマにやはり『CLANNAD』ならではの捻りを加えたものなのですが、締め括りが特異。このゲームらしいと言えばそうですが、ギリギリ“卑怯”の手前で踏み止まっているため、エピソード単体として感情移入しにくいのも事実ではないか、と。これから遊ばれる方は、敢えて彼女を早めにクリアしておくことをお薦めします。……また戻るのは大変よ。
○春原陽平&芽衣
 親友キャラとのエンディングを「俺達ずっと友達だよなっ」の常套で終わらせないためにみ○る――もとい、芽衣の出馬が要請されたような印象でした。それが不満だと言っているのではなく、寧ろ従来の18禁ではやりにくかった試みとして評価したい。
 ただ、あそこまで盛り上げたわりには芽衣があっさり退場してしまい、その後についての言及がなかったのが残念でした。
○柊 勝平
 たぶん元々は「男みたいに見えて実は女の子」という話に対するアンチテーゼぐらいの理由でデザインされたんじゃなかろうか、というくらいに登場もいきなりなら話もいきなり、とんでもない方に転がっていって、ゲームキャラとしては異例のエンディングを齎して退場する。美佐枝さんと並んで、ある意味プレイヤーに対する挑戦にも等しいキャラでしょう。ハッピーエンドを迎えたあとも、彼に対して憎悪の念を抱いているユーザーは何人かあるはずだそうに違いない。
○幸村俊夫
 ……いやまさか、退職寸前の先生というキャラにエンディングがあるとは思わないし。同梱のガイドブックに書いてなかったら絶対に忌避してたぞ。
 しかし、この人が存在してくれたお陰で、本編が“家族”限定ではなく、学生生活という一生のなかで一番大切なモラトリアムをも描いた作品である、というラインが確立されていたわけで、そういう意味ではあのエンディングもまた重要でしょう。ただ……この方のエンディングに向かった場合、色々と大事な出来事が置き去りにされてしまうんで、試みは面白くてもシナリオとしてはちょっと認めにくかったり。
○芳野祐介
 台詞もこっ恥ずかしければ、生き様までもがこっ恥ずかしい人でした……いや、嫌いじゃないの。何となく無事に生き延びた尾崎豊という気がしました。
 彼のエピソードそのものに新味はないのですが、物語全体への関わり方のバランスが非常にいい。これ以上出しゃばればあざとくなる、というラインをよく弁えており、幸村教諭とともに重要なエッセンスとなっている。こういうキャラクターの使い方もいい。
○坂上智代
 全キャラを攻略したいまでも、キャラクターとしては彼女に一番愛着を覚えます。
 はっきり言ってシナリオは予定調和です。彼女の性格を考えれば最も順当な結末に落ち着いているに過ぎません。だが、それ故の快さがあるのです。選択肢のない終盤をずっと付き合ってきた甲斐があったな、と思わせるだけの。
 全年齢対象という線引きが行われたため、従来のKey作品にもまして主人公が奥手だった本作のなかで、智代相手にだけかなり暴走気味であったことにご注目いただきたい。やはり智代というキャラは、本能のアクセルを踏み抜くんです。――それがちゃんとシナリオにも活きているので、私にはもう言うことなし、でした。
○一ノ瀬ことみ
 本筋に登場する恋愛対象キャラではいちばん最後に攻略しましたが、エピソードとしては個人的に彼女のものを最も高く評価してます。
 冒頭から独自の世界が醸成されており、キャラ攻略では無視されがちな他のキャラクターの見せ場が多く用意され、ラストまできちんとその成長が描かれている。ただの恋愛物に留まらず、学園ものとしても、何より家族の物語としても見事に決着している。古河渚や藤林椋といった、他の女性キャラの話では控えがちなキャラクターがそれぞれに最も活き活きとしていた話であった点、ゲームとしても正しい進み方だと思います。
 難を挙げるなら、ラストでことみのもとに届けられるあれについて、彼女の攻略をしているなかで伏線として描いていて欲しかった。個人的に、こういういい要素こそ不意打ちではなく、じわじわと胸に届くようにして欲しかった……あくまで、個人的な好みの話ではありますが。
 もうひとつ、気になるのは……他のシナリオでは概ねキーパーソンとして活躍している春原が、彼女の話では異常なくらいに影が薄かったこと。まあ確かに、ああいう成り行きでは、当時の彼ではどうしても出番を削らなきゃならないんですけど……絶対に水を差すから。どの話でも概ね道化役の彼ですが、この話ではピエロすら任せて貰えてませんでした……不憫だ。
○岡崎直幸
 この人のことがきちんと片を付けられなかったら、たぶん私はこの作品を認めていないと思います。むろんそんなわけはなく――いちばんいい形で退場してくれました。後日談で主人公を救うのは、けっきょく彼の存在だったわけですから。
○古河秋生&早苗
 このふたりは、前作『AIR』のメインふたりに対するスタッフからの償い、という気がしてなりません。デザイン的にもそうですが、キャラクターとしても重なって見えるのです。どうしても平穏な暮らしは出来なかった彼らに与えられた、もうひとつの生き方というように映る。
 ……ただ、それならもっと大人しく成長しろよ、という話ですが。人間的に大きくなってるのはいいとしても、悪いところまでチューンナップせんでも。
○古河 渚
 両親が『AIR』のキャラクターに対する償いであるなら、娘である彼女はある一点への反省の思いが籠もっていた、と考えられます。何故か――は遊んでみてのお楽しみ。『AIR』をプレイした方なら想像はつくと思われますが。
 こうしてひととおりゲームを終えたあとで痛感するのは、彼女はおよそKey作品のヒロインではあり得なかったぐらいに“普通”の女の子だったのだ、ということ。体が弱いことを除けば、突出した才能や個性があるわけでもなく、可愛くても埋もれてしまうタイプの女の子でしょう。それを、出会いから恋愛というものの大きな括りまで徹底的に描くことで、よりリアルな、それでいて最も存在感の大きなヒロインに仕立て上げてしまった。スタッフの愛着もあるのでしょうが、やはり誰よりも光り輝いて見えた。
 本編のみならず、Key関連のすべての作品を集約させた存在と物語。後日談の尺も、長いとは感じませんでした。

 ついでに、シナリオ以外の部分にも軽く触れておこう。
 システムについては言うことなし。ウインドウ表示・フルスクリーンの切り替えがもうちょっと解り易ければ、という嫌味はありますが、本当にその程度のもの。
 音楽は、Key旧作の雰囲気を踏まえたもので、冒険は感じませんでしたが、それ故に安定感はありました。ただ……ただ、ひとつだけ、どうしても気になることが……
 てゆーか、あの旅行間際にかかる曲はどういうことっ?! どう聴いてもPat Metheny Group『Last Train Home』やんっ!! シンバルの音とかフレットレスっぽいギターとかコーラスの響きとかっていうよりコード進行ほぼそのまんまだろっ!! これ絶対麻枝氏の仕事だろうっ!!!? しかも題名『カントリートレイン』だぁっ?! 何てことをするんだぁぁぁっ!!!??? どうしたって涙腺緩むじゃねえかぁぁぁぁぁぁ………………

 ……見苦しいところをお見せしました。気を取り直して、グラフィックについて。
 これも従来作同様に安定した仕上がりですが、ひとつ、些細なことではありますが、病院のビジュアルは、登場する数だけ揃えた方が良かったと思われます。後日談一週目のラストで完成した街の大病院と、同じ後日談の別ルートに登場する隣町の病院がまっっったく同じ外観だったんで、こけました。
 また、旧作と比べて線の可憐さがレベルアップした樋上いたる氏の原画ですが、女の子以外のキャラクターについては弱点があります。外見同様に子供っぽい古河夫妻とか、見た目が決まってないと意味のなかった芳野祐介などはいいのですが、年配のキャラクター――幸村教諭や主人公の父は、リアルにしろ、とまでは言わないまでも、もうちょっと固い線で描くべきだったのでは。時々画面に登場する主人公の容姿も、もうちょっとがっしりしているくらいの方が、文章の雰囲気には合っていたように思います。
 それと、シナリオのヴォリュームに対して、イベントグラフィックの総量が少なく感じられるのも残念。せめて主要キャラクターだけでも、おのおの三枚ずつぐらい余分にあったほうが嬉しい……水着姿の渚とか水着姿の渚とか水着姿の渚とか。

 と色々書きましたが、基本的に不満はありません。間違いなく、Key作品の集大成であり、最高傑作と思います。どれほど不自然な設定もそうと感じさせない構成の巧みさ。描かれるべきテーマと物語の分量のバランス、という観点からもほとんど言うことがない。旧作を遊んで評価していながら、本編にだけ手を出していないという方、確実に損をしてます。

 ……しかし、この作品で何よりも意外だったのは、締めがあの娘だったことである。まあ、明らかにKey先行作のあの娘の後継者なんだから、自然といや自然なんだが……。

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