cinema / 『ダークネス』

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ダークネス
原題:“Darkness” / 監督:ジャウマ・パラゲロ / 脚本:ジャウマ・パラゲロ、フェルナンド・フェリペ / 製作:フリオ・フェルナンデス / 撮影:ジャビ・ジメネス / 美術:リョレンス・ミケル / 編集:ルイス・デ・ラ・マドリード / クリエイティヴ・プロデューサー:ブランアン・ユズナ / 出演:アンナ・パキン、イアン・グレン、ジャンカルロ・ジャンジーニ、レナ・オリン、ステファン・エンキスト、フェレ・マルティネス / 配給:GAGA-HUMAX / DVD発売元:Amuse Pictures(現・東芝エンタテインメント)
2002年スペイン・アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 字幕:風間綾平
2003年03月01日日本公開
2003年09月26日DVD版日本発売 [amazon]
公式サイト : http://www.darkness-movie.com/
DVDにて初見(2004/02/11)

[粗筋]
 マーク(イアン・グレン)たち一家がスペイン郊外にある一軒家に越してきて数日が経った。水泳教室に通う長女のレジーナ(アンナ・パキン)は未だアメリカに未練を残しているようだが、難しい世代だからとマークの妻メアリー(レナ・オリン)はあまり気に留める様子がない。だが、アメリカからわざわざレジーナを訪ねてきたボーイフレンドのカルロス(フェレ・マルティネス)に、今のところ帰る気はない、と応える。理由はふたつあった。父親のマークはもともとイタリアで生まれ育ち、両親の離婚からアメリカに移住したが、その頃からずっと特殊な病気を抱えており、長男のポール(ステファン・エンキスト)が生まれてからは収まっていたが、転居以来また兆候が見られている。ポールもまた、こちらに越してきてからというもの、奇妙な絵ばかり描いたり、やたらと闇を恐れるようになった。彼らのことが気掛かりで、帰りたくても簡単に帰れる状況ではなかった。
 ある日、レジーナはポールの首筋に妙な傷跡を見つける。寝ているあいだに引っ掻くかどうかしたんだろう、とメアリーは言い、マークの父で医師をしているレジナルド(ジャンカルロ・ジャンジーニ)もそれを保証したが、レジーナにはどうしても自分でつけた傷とは思えない。
 そのあいだにも、マークの精神状態は日増しにひどくなっていた。突然凶暴になり、わけもなく苛立ってはナイフで自分の手を傷つけ、ついには「壁のなかに虫がいる」と言いだし、ホールの床にツルハシを突き立てた。
 一方、奇妙な事態の原因が「家」そのものにあると感じたレジーナは、カルロスに頼んで家の素性を調査してもらった。すると不思議にも、あの家はつい最近まで空き家であり、不動産屋も仲介業者も架空の名前であり、いずれも実在していなかったことが判明する。ただひとり、所在が確認できた設計士を訊ねるが、彼もまた匿名の何者かの指示されるがままに図面を引いただけで、寧ろ未だにその家のいわれに疑問を抱き、激しく怯えていた。
 レジーナが帰宅すると、マークは救急車で病院に運ばれるところだった。一緒に、というメアリーにレジーナは調べたいことがある、と言って家に残る。ほうぼうに厭な気配を残す家を調べていたレジーナは、他でもない、父が穴を開けた床下に、不気味な紋章が隠れているのを発見した。翌日、カルロスと共に調べたそれは、ウロボロスという悪魔を刻印したものだった……

[感想]
 おおお、オーソドックスかつ意欲的なホラーだ。
 脅威として設定されているものはキリスト教的世界観に則った有り体のもの、その謎が紐解かれていく過程も凡庸だ。だが、その気配の描き方と終盤でのひねり、観客の予測を超える結末など、定石を辿りながらも印象的な演出が多々含まれている。
 特に終盤の展開はまったく予測が出来ず、想像したはしからまるで意外な方向へ話が発展していく。何カ所かで起きている出来事を交互に見せながら混乱させず、しかし同時進行で見せているからこそ可能な効果をきちんと発揮させているのも巧い。
 反面、この結末は人によって釈然としない想いを抱く可能性も大だろう。ホラーというものをあまり観たことがなく、またハリウッド的な約束を絶対条件として映画を鑑賞するような人は――個人的にはそんなんあまり面白くないだろうと思うけれど――拒否反応を起こすに違いない。
 幻想映画、ホラー作品としてそれを承知のうえで鑑賞すれば秀作。あとに残らない、単純なカタルシスを求めるならあらかじめ避けて通った方が無難だろう。
 と、仕上がりにおおむね不満はなかったのだけど、ただひとつ、これだけはどうかと思ったことは……スペインを舞台にした映画なのに、登場人物がみな英語で喋っていること。アメリカから移住したばかりのマーク一家にレジーナを追って来たボーイフレンドは兎も角、マークの父や途中で登場する設計士などはスペイン語で話すべきだろう。何の疑問もなく全員が英語で会話しているのは、先にスペイン映画である、という予備知識があればあるほど違和感が強かった。

 ……それにしても、amazonの感想は相変わらずとっかかりが違いすぎて参考にならないものが多すぎます。「救いがない」なんて、ホラーにとっては本来褒め言葉だぞ。

(2004/02/11)


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