cinema / 『ザ・プロフェッショナル』

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ザ・プロフェッショナル
原題:“HEIST” / 監督・脚本:デイヴィッド・マメット / 製作:アート・リンソン、エリー・サマハ、アンドリュー・スティーヴンス / 撮影監督:ロバート・エルスウィット / 美術:デイヴィッド・ワスト / 編集:バーバラ・テュライヴァー / 音楽:セオドア・シャピロ / 衣装デザイン:レニー・エイプリル / 出演:ジーン・ハックマン、ダニー・デヴィート、デルロイ・リンド、サム・ロックウェル、レベッカ・ピジョン、リッキー・ジェイ / 配給:K2 ENTERTAINMENT、GAGA
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間47分 / 字幕:関 美冬
2002年06月15日日本公開
2002年12月06日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.theprofessional.jp
日比谷スカラ座にて初見(2002/07/06)

[粗筋]
 ジョー・ムーア(ジーン・ハックマン)は、バーグマン(ダニー・デヴィート)の斡旋により数多の大仕事をこなしてきたプロの強盗である。大胆な手口で犯行を重ねてきたが、宝石店での仕事の最中に些細な失敗を重ね、女性店員に顔を見られた上素顔を記録した可能性のある防犯カメラの録画テープを回収できないまま撤退する羽目になった。どのみち近々現役を退き、妻のフラン(レベッカ・ピジョン)とともに南の島でのんびりと余生を過ごすつもりだったムーアは、バーグマンに早急に分け前を寄越すよう請うたが、既に次の計画を準備していたバーグマンは支払を渋ってムーアを押し留める。
 仕方なく準備を開始したムーアだったが、バーグマンの願いから計画に加えたジミー・シルク(サム・ロックウェル)に問題があった。年老いたムーアを侮り、やもするとすぐに暴力に訴えようとするシルクのために、下見の際に危うく足がつきそうになる。念のために仲間のピンクス(リッキー・ジェイ)に下見に使った車を処分させようとしたところ、その途中で姪に会いに行ったために、犯行計画を記した段取表を置いたままの車をレッカーされてしまった――それでも計画を強行する、と言い張るムーアに憤った長年の相棒ボビー・プレイン(デルロイ・リンド)は隠れ家を出ていき、シルクも一緒に出ていった。――だがそれらは全て、無謀な計画から抜けるためにムーアが仕掛けた罠であった。隠れ蓑として営んでいる造船業のほうで客を騙し、大金を得る計画を別途に立てることで妥協し、ムーアはそのまま雲隠れするつもりだったのだ。
 だが、あと一歩というところで造船所に侵入者があり、その対応の最中に客を取り逃がしてしまう。侵入者は――シルクだった。段取表を忘れたので取りに来た、と言い、失態の許しを請うて改めて計画の仕切り直しを願うシルクに、金を得る手段を失ったムーアは仕方なく頷く。ボビーとピンクスとを呼び寄せ、計画の練り直しを図るムーアだったが、そのときムーアはシルクの「段取表を忘れた」という言葉が嘘であった事実を知る。自分を計画に引き戻すために、バーグマンと共に仕組んだ罠だったのだ。――ムーアは犯行の実現を大幅に引き延ばし、計画の大幅な改竄を図る。
 空輸直前の金塊を巡る悪党同士の騙し合い、最後に生き残るのは一体誰か?

[感想]
 日本では特に知られた名前ではないが、このデイヴィッド・マメットという監督、アメリカの演劇会では屈指の大立者らしい。公開前に予告編などで得た情報ではリドリー・スコット監督『ハンニバル』の脚本を手掛けたぐらいしか解らなかったが、実際には『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、『アンタッチャブル』、『俺たちは天使じゃない』と目も眩むような名作の脚本を手掛け、戯曲の分野でも監督としても優れた仕事を残す人物のようだ。
 そういう予備知識一切なしで観た私だが、それでも一目で解るほど、本編は優れた職人芸である。口頭での説明を一切廃し、ひたすら映像でのみ描写される犯行計画の緻密さもさることながら、その背後で行われる悪党同士の駆け引きの緊張感は凄まじいの一言に尽きる。どうしてここでこういうエピソードが挟まれるのか、とその時点では疑問に感じても、あとで明確極まりない答えが示されて思わず膝を打つことさえあった。
 あまりに巧妙故に、逆にどこにトリックが潜んでいるのか事前に察しがついてしまう(ラストシーンでの一幕も概ね想像がつき、爽快ながらも若干拍子抜けの印象があったことは否めない)という欠点はある。普通ならそこで緊張感を損ねるところだが、この作品の巧いところは、斯様に緻密に仕組まれながらも決して計画通りには進まないこと。策略をきちんと描きながらそれがときとして失敗し、微妙な軌道修正を迫られるあたりで、先読みの難しさによる緊張感を演出している。大切な場面では、同じテーマを使用してクライマックスを盛り上げる手法も、基本的ながら効果を上げている。
 プロットのために磨き上げられたキャラクターを、きっちりと立たせた役者陣も凄い。こと、老境に達してなお洗練された佇まいを見せるジーン・ハックマンのまー格好いいこと。技術も信念もある悪党を、圧倒的なインパクトで演じきっている。脇役一人一人の完成度の高さもそれぞれ特筆に値するが、やはりこれはジーン・ハックマンあってこその作品である。
 個人的に、出来ればムーアが冒頭に語った信念のひとつをそのまま作品のクライマックスまで貫いて欲しかった、という嫌味があるが、それを差し引いても無視することの出来ない、クライム・サスペンスの傑作。これこそプロフェッショナルの仕事である。

 余談。殆ど文句の付け所がない本編だが、この原題……Heist(強盗)って、まんまやんか。これだけはいまいち納得できない。簡潔でいいと評価することも出来るけどさあ。
 余談その2。鑑賞したその日の日記にも書いたが、映画そのものの完成度に対してプログラムの文章が情けなさ過ぎる。署名原稿も匿名原稿も。折角わざわざ『ザ・プロフェッショナル』なんて邦題にしたのだから、せめて署名原稿ぐらいプロフェッショナルに委ねましょう、映画の知識しか売りのない素人なんか使わずに。

(2002/07/08・2004/06/22追記)


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