cinema / 『サスペリア PART2 <完全版>』

『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る


サスペリア PART2 <完全版>
原題:“Profondo Rosso” / 監督:ダリオ・アルジェント / 脚本:ダリオ・アルジェント、ベルナルディーノ・ザッポーニ / 製作:クラウディオ・アルジェント / 撮影:ルイジ・クヴェイレル / 音楽:ジョルジョ・ガスリーニ / 音楽演奏:ゴブリン / SFX:カルロ・ランバルディ、ジェルマーノ・ナターリ / 出演:デヴィッド・ヘミングス、ダリア・ニコロディ、ガブリエレ・ラヴィア、マーシャ・メリル、エロス・パーニェ、グラウコ・マウリ、クララ・カラマイ / 配給:東宝東和
1975年イタリア作品 / 上映時間:2時間7分 / 日本版字幕:浅野恵子
1978年09月日本公開
1998年10月25日DVD版日本発売 [amazon]
DVDにて初見(2003/09/04)

[粗筋]
 超心理学会で活躍するテレパシスト、ヘルガ・ウルマン(マーシャ・メリル)は公演の壇上で、観客のなかに殺人鬼が混ざっていることを指摘する。殺人鬼のなかにある幾つかのイメージを口走ったあと、ヘルガは昏倒する。
 音楽の講師としてイタリアで暮らしていたアメリカ人ピアニストのマーク・デリー(デヴィッド・ヘミングス)は自宅のあるアパートに帰る途中、友人でドサ回りのピアニスト、カルロ(ガブリエレ・ラヴィア)と立ち話をしていると、突然けたたましい悲鳴を耳にした。視線を上げると、彼の部屋の上のフロアでまさに惨劇が繰り広げられているところだった。急いで駆け付けたマークだったが既に遅く、女――ヘルガはとうに事切れていた。早速警察に通報し証言したマークは、その途中、妙な違和感を覚える。入口から奥の部屋に通じる廊下に何枚も飾られた絵が、入ったときと出たときとで枚数が違っていなかったか……?
 ふと覚えた疑問にマークは激しく惹きつけられた。事件現場にすぐさま駆け付け、意気投合した女性記者のジャンナ(ダリア・ニコロディ)と共に、マークは独自の捜査を開始する。
 だが、そんな彼を、殺人鬼が付け狙い始めた。幼い歌声が鳴り響くなか襲いかかる殺人鬼の正体とは……?

[感想]
 綾辻行人、竹本健治などの敬意を集めるイタリアの監督ダリオ・アルジェント監督の初期の作品である。邦題こそ『サスペリア PART2』だが、制作は当の『サスペリア』より早く、内容的に何の拘わりもないのも有名な話。怪奇現象がすべての前提となっている『サスペリア』に対して、本編は正統派の謎解きとなっている。
 ただ、筋は非常にぎこちない。いきなり「独自に捜査してみよう」などと言い出す主人公だから、あとは何をしても不思議はなさそうではあるが、その周辺の人物の行動もあまり説明がついていないし、何より犯人の行動原理がいい加減だ。ある人物はここまで執拗に殺しているのに、ある場面では死を見届けなかったためにメッセージを残されたり、終盤では殺す気もなかったのではないか、という箇所もある(尤も、そこについては別の解釈も有り得るが……)。
 が、全体に流れる雰囲気や、随所に観られる不気味な演出、そして殺害手段の凄惨な様式美ぶりは称賛に値する。決して意味はないのだが、どれほど観客の胸中をざわつかせるか、をひたすらに追求したような手続の数々は、『サスペリア』にも匹敵する強烈なインパクトを発揮している。
 決して丁寧ではない謎解き部分も、終盤に明かされるあるトリックのために異様な説得力を具える結果となった。ていうか、ああ来られたら何も言い返せません。
 映画という方法論を使った娯楽、というあり方を非常に自覚的に実現した、決して整ってはいないが上質と感じさせる作品。ただ、出来ることならば、冒頭で登場する「超心理学会」のガジェットをもっと活用して欲しかった……ある意味以外だがあの扱いはあんまりだと思う。

 本編の主演俳優デヴィッド・ヘミングスは英米でいまも活躍しており、私にとっては個性の立った名脇役、といった印象が強い。例えば『スパイ・ゲーム』でかつての部下の危機をロバート・レッドフォードに知らせ、後半で大きな手助けをする役柄を、『ミーン・マシーン』で自身の結成した看守によるサッカーチームの成長とギャンブルに身を窶す刑務所長を演じ、『リベリオン』などでカメオ出演もしている。が、あまりに雰囲気が違いすぎて本当に同一人物なのか自信が持てない。本編のデヴィッド・ヘミングスは如何にも洗練されたスマートな二枚目なのだが、現在のデヴィッド・ヘミングスは恰幅の良さとふさふさの眉毛がトレードマークの、異様に貫禄のある俳優である。
 ……本当に、同一人物か?

(2003/09/04)


『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る