cinema / 『リターナー』

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リターナー
監督・脚本・VFX:山崎 貴 / 製作:亀山千広、鳥谷能成、阿部秀司 / 共同脚本:平田研也 / 音楽:松本晃彦 / 主題歌:Lenny Kravitz“Dig In” / 出演:金城 武、鈴木 杏、岸谷五朗、高橋昌也、樹木希林 / VFXプロダクション:白組 / 制作プロダクション:ROBOT / 配給:東宝
2002年日本作品 / 上映時間:1時間56分
2002年08月31日日本公開
公式サイト : http://www.returner.net/
劇場にて初見(2002/09/04)

[粗筋]
 ミヤモト(金城 武)は怪しい老女・謝(樹木希林)の手引きの許、人身売買・臓器取引などの闇商売を水際で妨害し、黒い金を回収することを生業としている。その夜もいつものように幼児の人身売買の現場に駆け付け、金を回収して脱出しようとしたところ、ギリギリで取引に加わっていた男たちに発見される。辛うじて危機は脱したが、最後に残った男が来日以来追い続けていた悪党溝口(岸谷五朗)と気づき、ミヤモトは動揺する。動揺のあまり、背後で聞こえた物音に過剰に反応し、それが子供と気づいたときには既に発砲していた。現れた人影は倒れたまま動かず、溝口も隠していたヘリで逃げてしまった。
 仕方なく連れ帰った子供は、胸元に潜ませていた金属プレートで一命を取り留めていた。ミリと名乗るその娘(鈴木 杏)は、起き上がるなりミヤモトに「力を貸してくれ」と懇願する。彼女はもうじきやって来る宇宙人たちと戦い、これから起きる戦争を食い止めなければならない、と言う――当然の如く、ミヤモトはその娘をアジトから追い出した。
 だがミリは諦めていなかった。外出したミヤモトをアジトで待ち伏せ、隙を見てその首筋に黒いシートを貼り付ける。ミリはそれが彼女の持つ発信器と連動した小型爆弾で、自分が剥がす以外に助かる方法はない、と脅す。不承不承、ミヤモトはミリの指示に従って動き始めた。謝の許を訪れ、溝口の情報と共にミリの語る場所――揖宿山についてのデータを受け取り、自動車で現地を目指す。
 揖宿山の道路は、爆発事件があったと言うことで手前で封鎖されていた。徒歩で現場まで駆け付けると、ミリは「手遅れだった」と呟く。彼女に課せられた使命は、戦争のきっかけとなった最初の宇宙人を発見し、事前に殺すこと。ミリは2089年の未来から派遣された少女戦士であった――

[感想]
 対象年齢層を5つほど上げた『ジュヴナイル』。見る前に決めた態度であり、見終わってその結論が正しかったと確信した。
 何せ、タイムトラベルを軸にしたSFとしては、あまりに考証が適当なのである。タイムパラドックスは兎も角として、バリアを一度は破るほどに敵の装備を研究しているはずの人々が敵の素顔を知らないとか、クライマックスでの擬態に殆ど意味がないとか、論っていくときりがない。いちばんどうかと思う部分は――かなり後半のネタバレとなるので(はっきり言ってバレバレだが)下の方に行間を置いて記す。こちらからどうぞ
 が、こうした問題点は恐らく初めに「どんな見せ場を用意するか」から物語の構築を行い、それを後付けで補っていったから生じたものと推測される。ゆえに、個々の要素は物語での動きのある展開に貢献しているのだ。考証の上での破綻やあからさまな辻褄合わせを「約束」として、アクションやVFXの勢いと、ストレートながら工夫も感じられるベース部分の物語を楽しもうと思えば、失望することはないはず。
 冒頭から強すぎるヒーローも、男っぽいけど行動の端々に愛らしさを見せるヒロインも、独善的で奇行の目立ちすぎる悪役も、本来の「少年もの」を志した物語と捉えると非常に堅実で快く映る。VFXを除いた殆どが型に嵌っているので、見終わったあと殆ど何も残らないのが欠点でもあり、シンプルな娯楽作品としての完成度の高さとを同時に証明している、とも言えるか。
 割り切って鑑賞した分、ごく素直にアクションや豪快なVFXを堪能できたらしい。兎に角リラックスして約2時間、その世界に身を委ねることをお薦めする。

 しかし、最大の問題は『リターナー』というネーミング。未来からやって来る少女戦士ミリの時間移動そのものを指している、と捉えていたのだが、プログラムを読んだら金城武演じるミヤモトが生業にしている、裏の仕事潰しを“リターナー”と呼ぶらしい。んな馬鹿な。そんなん、名前が付いてる方が不自然ではないか。そもそもミヤモトが本編で一体何回そんな職名で呼ばれた? そんな付け合わせみたいな設定がいったい何に必要だったと言うのだ??
 蛇足極まりないので忘れましょう、こんな設定。この作品のプログラムは人物紹介に背景を書きすぎたり、粗筋で殆ど大半の内容を書いていたり(あとで読んで良かった……)、凝っているつもりで余韻ぶち壊しな仕上がりとなっているので、読むときは予め覚悟しておきましょう。とりあえず鑑賞前には極力見ない方が身のためです。――鑑賞以前にここまで読んでしまった方には今更な話ではありましょうが。

(2002/09/04)


































































 ――さて、SF考証部分の最大の難点、それはタイトル『リターナー』にもかかっていると思われる、事件後の出来事である。ミリが未来に戻ったあと、自分の当初の目的でもある敵討ちをも終えてしまったミヤモトは謝の許に引退することを告げる。そこから何処かへ向かう途中、冒頭で見逃した敵のひとりが待ち伏せていて、武器を持たなかったミヤモトはあっさり撃たれてその場に頽れる。だが、ミヤモトのコートには、防弾プレートが入っていて一命を取り留めた。プレートの裏にはミリの文字で「借りは返した」と書いてある――物語の途中でミリが口走った、「この借りは必ず返す」という言葉を証明するために一度戻ってきていた、という場面なのだ、が。
 月並みだが印象深い展開である。しかし、ここで気になるのは、未来から再来したミリが防弾プレートを潜ませたとき、一緒にミヤモトが銃殺されたという新聞記事と写真とを一緒に落としていったくだりが挟まれていたこと。この場面がある所為で、エピローグの成りゆきがかなり早い段階で割れてしまい、衝撃を薄めてしまっている。くわえて、恐らく作者は警告の意図で置いていったとしたいのだろうがミヤモトは全く警戒していないし(雨が降っていた段階であの写真を思い出しても良かっただろうに)、警告することで行動に変化が生じ襲撃されるときの状況も違ったものになる、という危険があり、SF考証の上でもどうにも拙い対応であったように思う。ラストの伏線は、ミリの「借りは必ず返す」という台詞で張られているのだから、余計な添え物は不要だったと思うのだが。
 ただ、そのあと、2度目にやって来たミリが眠っているもうひとりの自分に「頑張れよ」と囁きかける場面を見せたのは悪くない。悪くないだけに、あの記事の見せ方をもうちょっと考えるべきではなかったか、と思うのだけど……。もっと偶然に落としてしまった、という演出を最低限するべきではなかったか、と。


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