
富士身延鉄道が必要とした物、それは土砂である。昭和2年当時市川大門〜富士間の開通していた富士身延鉄道は身延線の歴史・第一章でも紹介した南甲府駅周辺用地取得問題などを抱えながらも市川大門〜甲府間の建設を急ピッチで電化工事と平行して行っていた。その際、善光寺駅周辺は高架で建設する事になった。何故この区間だけ高架にしたのか真相は不明だが、おそらくその理由として
・甲州街道との平面交差の回避。
・濁川、十郎川、高倉川、藤川等の中小河川の合流地帯であり地質が悪く、毎年の様に水害の被害を受けていた。
等が挙げられるのではないだろうか。今では様変わりしてしまったが、身延線の東側にある山梨学院大学とその周辺は大学が出来る以前は広大な沼地であったと言われ、また平成16年10月20日の台風23号ではこの辺り一体は大規模な水害により、広範囲にわたって床下・床上浸水などの被害に見舞われている。
恐らく、当時の資金の無い富士身延鉄道としては毎年水害により線路の修復に費用をかけなくてはならないのなら一気に高架線で建設してしまった方が一時にかかる額は高いものの長期的に見れば安上がりだとの計算をしたのではないだろうか。また、山梨馬車鉄道の甲府〜石和線が甲州街道上に敷かれ、それを引き継いだ甲府電車軌道による石和線の電気軌道化が画策されていた事から平面交差を避けようとしたとも考えられなくは無い。
とは言え、鉄筋コンクリート技術がまだまだ未熟かつ普及していなかったこの時代、高架を作ると言えば都市部ならともかく大抵の場所では盛り土にて施工してしまうのが普通であった。それ故、富士身延鉄道もこの区間を盛り土高架とすることにしたのだが、いざ建設するには大量の土砂が必要となる。遠くから購入する事も可能だが、輸送費用を考えると馬鹿にならないし開業を遅らせる要因になっても困るという事で当時は田畑や沼地の広がっていた濁川以南の土地から地主の了解の下、土砂を入手する事にしたのである。
これなら、費用もかからずまた採取したすぐその場所で建設をしているのだから時間のロスも無くて済む。そうして建設は急ピッチで進められ、高架線建設に反対する周辺住民を押さえて砂田川踏切〜善光寺駅〜誓願寺踏切間の高架線が開通し昭和3年3月30日の開業を見たのである。

↑現在の高架線、善光寺〜南甲府間第二板垣川架道橋より善光寺方を見る。
こうして富士身延鉄道は全通したが、土砂採掘の為に掘られた複数の穴はそのまま放置され、後の市街地化と共にその多くが姿を消した。しかし、甲東掘の元になった穴は周囲の水路からの水がたまった事から釣り堀として使われる様になり「甲東堀」と命名されて今に至っているのである。
この様に身延線と縁の深い甲東堀への駅からのアクセスは意外にも悪い。最寄り駅としては善光寺駅と南甲府駅が挙げられるが距離的には善光寺駅のほうが近いように感じられる。だが、道順の分かり易さとしては南甲府駅のほうが良い。何れにしろ訪れる際には事前に市販の地図などで場所を確認してから行く事をお勧めする。甲東堀の大まかな位置
参考までに善光寺駅からの行き方を書いておくと、善光寺駅を降り411号線沿いを東進、善光寺入口交差点で道路を横切りガソリンスタンドの角を右へ曲がる。そのまま道なりに濁川を越えて南下していくと県営里吉団地とデイリーヤマザキが見えてくる。そして、デイリーの脇から南西の方向へ分かれていく道があるのでそちらへ入ると下の写真のような看板があり、その看板脇の路地を入れば甲東掘はすぐである。


↑この看板が見えれば甲東掘はまもなく。
車で訪れる場合は甲東堀の周辺は住宅地で道路も狭く幼稚園や団地があるので注意が必要であろう。
なお、甲東堀の営業時間は午後6時まで、料金の方はヘラブナ1日1500円、半日1000円。中学生の場合は1日700円、半日500円。鯉の料金は中学生料金と同額である。但し、釣った魚の持ち帰りは出来ない。

↑甲東掘入口に掲げられている案内板、後ろの家の中で料金を支払う。