SCO
高分子成形加工(Polymer Processing)、コーティング、繊維形成(溶融、乾式紡糸)関係のコンサルティング、ソフトウエア開発を専門とするコンサルタントです。
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コータードライヤのシミュレーション (実験データ不要のシミュレーション)

プラスチックフィルム等のシートにコーターで塗工液を塗布し、引き続き溶剤を乾燥させて、ポリマー等の塗工成分をシート上に固着させるコーティングプロセスは、例えば粘着テープ、写真用フィルム、各種包装用シート、磁気テープ、プリント基板製造の際に使用される感光性樹脂シート(ドライフィルムレジスト)等の加工に用いられる、重要なフィルム加工プロセスの一つである。

筆者は、高分子加工シミュレーションに関するシリーズ記事の一つで、コータードライヤのシミュレーションについてすでに述べているが、今回ここでとり上げるシミュレーションと上述のものとの重要な違いは、塗工膜内における溶剤の拡散係数の求め方にある。

拡散係数は、塗工膜の乾燥過程を支配する重要なファクターであるが、前回のシミュレーションでは、実際の乾燥テストのデータをもとにフィッティングして逆算する方法をとっていた。それに対して今回のシミュレーションは、塗工液を構成するポリマーと溶剤の物性値だけから計算した拡散係数を使用することになる。

今回の方法は、実際のテストをしなくても、またはする前に、物性値から理論式に基づいて拡散係数を計算することができるので、すべて机上データを用いてシミュレーションができる点が、大きな特長であると言える。しかし、必要物性値を文献から探し出す、ないしは不足するものを自力で求めることが容易でない場合も、少なくはないと思われる。

一方、前回の方法は、テストデータをもとにフィッティングをする必要があるため、実験を行う手間とトライアルアンドエラーのための手間がかかるが、フィッティングが適正に行われれば、より実用的で適応性が高いものにすることも可能である。

これらの2つの方法は、実用的な見地からすると一長一短があり、使い分ける必要があろう。本稿ではそれらの相互比較を交えながら、理論とそれを用いたシミュレーションについて具体的に述べる。

本報における物性値からの拡散係数の算出法として、Vrentas-Dudaの自由体積理論によるものを用いた。

【「コータドライヤのシミュレーション(前編)」, プラスチックス, Vol.56, No.12, P.90(2005) 及び「コータドライヤのシミュレーション(後編)」, プラスチックス, Vol.57, No.1, P.175(2006)】