インフルエンザはかぜの親玉です。よくインフルエンザとかぜとはちがう、という解説もありますが、インフルエンザも立派なかぜの一つです(インフルエンザ感染症の恐ろしさを強調するための表現と思われます)。たしかにかぜウイルスの中で最もありふれたライノウィルスなどとは症状が異なりますが、アデノウィルスなどインフルエンザと似た症状を示す、ウィルス感染症も存在します。
インフルエンザ騒動は今や毎年冬の風物詩となってしまったので、ワイドショーや新聞雑誌の無責任な煽り記事に振り回されないよう、少し詳しくインフルエンザ感染症について解説することにします。
2009年4月、ついに新型インフルエンザが発生しました。しかし、怖れられていた、何百万人も死亡するというような強毒型のウイルスではありませんでした。新型インフルエンザについては別稿で詳細に解説します(→新型インフルエンザについてはこちら)。
●インフルエンザウィルスの構造
まずインフルエンザウィルスの構造から始めましょう。インフルエンザに関するさまざまな事柄は、このウィルスの構造を知ると理解が容易になるからです。
インフルエンザウィルスは、オルソミクソウィルスというグループに属している、大きさが100nm(1mmの1/10000)の中型のウィルスです。
中心にRNA(リボ核酸)という遺伝子を持ち(右図の真中の8本のまだら紐のようなもの)、外側には、NAとHAという2種類のとげが林立しています。その他に、M2という蛋白質(右図の白い棒)も存在します。
右図で赤いとげはノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれる蛋白質で9種類あり、緑のとげはヘムアグルチニン(HA、赤血球凝集素)と呼ばれる蛋白質で16種類あります。
インフルエンザウィルスは内部(ピンクの所)の蛋白質の種類で、A型、B型、C型に分けられます。
A型インフルエンザウィルスは、ヒト、水鳥、ブタ、ウマなどに感染し、B型とC型インフルエンザウィルスはヒトにしか感染しません。また、病原性が強いのはA型とB型インフルエンザウィルスで、C型インフルエンザウィルスはあまり病原性はありません(C型は時に小流行を起こします)。
A型インフルエンザウィルスはもともとミズトリ(かもなど。水禽類)の腸管内で増殖するウィルスでしたが、ヒトなどにも感染する能力を獲得し、宿主を増やしてきました。
A型インフルエンザウィルスを表わすときは、このHAとNAのとげの番号を組み合わせて表現します。たとえば、3番目の緑のとげ(HA)と2番目の赤のとげ(NA)を持っているA型インフルエンザウィルスはAH3N2と表現します。
A型インフルエンザウィルスのHAのとげは、トリでは16種類(H1、H2、H3、…、H16)すべて見られますが、ヒトでは3種類(H1,H2,H3)のみです。一方NAのとげも、トリの9種類(N1、N2、…、N9)に対し、ヒトでは2種類(N1,N2)みられるだけです。すなわち、鳥インフルエンザの一部(H1,H2,H3とN1,N2を持ったウイルスの一部)がヒトでも寄生、繁殖できるように進化したと考えられています。
一方、B型インフルエンザウィルスは、HAもNAも1種類しかありません。
次にインフルエンザの感染、増殖サイクルを見てみましょう。
まず、インフルエンザウィルスがヒトの鼻、のど、気管支に侵入すると、緑のとげ(HA)を伸ばして細胞のレセプター(ウィルスのとげがくっつく部位)に吸いつきます。
次にウィルスは細胞の中に取り込まれ、自分のRNA(自分を複製する遺伝情報の図面です)を細胞に注入します。(このとき、ウィルスの殻は分解します。これを脱殻といいます。)
細胞の中に注入されたウィルスRNAは、細胞の核(遺伝子を複製する所。細胞の中心)に入りこみ、細胞の核を支配し、自分の分身を作らせます。
沢山作られたウィルスの複製=分身は細胞から外に出ようと、細胞の表面に移動し、盛り上がって突起となります(出芽といいます)。このとき、ウイルスは緑のとげ(HA)で細胞とくっついているので、これを切断してウイルスを自由にするのが赤いとげ(NA)の働きです。自由になったウィルスは、流血中を広がり、さらに次々と細胞に感染を広げていくのです。
●インフルエンザの変異(何故ワクチンがきかないか)
ヒトのインフルエンザで、現在流行しているA型インフルエンザウィルスはソ連型(AH1N1)、香港型(AH3N2)の2種類、B型インフルエンザウィルスは1種類の計3種類です(過去にはアジアかぜAH2N2も流行しました)。
すなわち、過去インフルエンザにかかったり、ワクチンを打っていれば、何回もインフルエンザにかかることはないはずです(理論的には3回かかれば免疫ができるはず)。それが何故、毎年600万人から1000万人の人々が罹患し、ワクチンの効果が限られているのでしょうか。
それはインフルエンザウィルスが、大きな変化と小さな変化を繰り返して、ヒトの免疫の防御システムをたくみにかいくぐって流行するからなのです。
インフルエンザのHAとNAは不安定で、そのアミノ酸構造を変化させ(突然変異)、とげの形を少しづつ変えていきます。これを連続変異といい、車でいうとマイナーチェンジにあたります。インフルエンザウィルスは毎年連続変異をくりかえしているのです。
トリのインフルエンザウィルスとヒトのインフルエンザウィルスがブタの体内で交じり合い、新しいインフルエンザウィルスが生まれることを不連続変異といいます。
シベリアから中国に渡ったカモのウィルスはブタに取り込まれます。一方、ブタはヒトのインフルエンザウィルスにも感染します。ブタの体内で共存することになったカモとヒトのインフルエンザウィルスがHAとNAを取り替えて新しいインフルエンザウイルスが誕生する(遺伝子の再集合という)ことを、不連続変異といいます。当然、ヒトはこのウィルスに対する備え(免疫)はありませんから、あっという間に感染が広がっていくことでしょう。
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●インフルエンザの症状
潜伏期間は1〜4日で、感染経路は咳による飛沫感染です。感染力はきわれて強く、一地域に爆発的に広がり、3〜5週で終息する経過を繰り返します。まず、12〜1月にA型インフルエンザが流行り、2〜3月にB型インフルエンザが流行するというのが、例年のパターンです。
症状は急激な発熱(39℃以上)によって発病しますが、頭痛、筋肉痛、関節痛(からだのふしぶしを痛がる)、全身倦怠感(ぐったりして起きていられない)などの全身症状が強いです。ほほが赤く、目は充血してうるんできます。高熱のわりには、せき、鼻水などは当初は目立ちませんが、やがてせきもひどくなり、ピークを向かえます。腹痛、嘔吐、下痢などもしばしばみられる症状です。
発熱3〜4日めで一度解熱しますが、1〜2日後に再び発熱することが多く、インフルエンザのニ峰性発熱と呼ばれます。この2度目の発熱は1〜2日で解熱し、咳を除けば症状は快方に向かいます。咳はしつこく続く例があり、この場合は肺炎も考えて治療を行います。2度目の発熱が2日以上続く場合は、中耳炎、肺炎など細菌感染が強く疑われるため、必ず診察を受けて下さい。まれに足の筋肉痛のため、歩けなくなることもあります。
合併症は、子どもでは気管支炎、肺炎、中耳炎、熱性けいれん、ライ症候群群、インフルエンザ脳症(後述)などの合併症がみられます。B型インフルエンザはA型に比べて症状が軽いといわれてきましたが、2002/3年のB型インフルエンザの流行時の経験では、A型インフルエンザと症状にあまり差はありませんでした。
1994年に学童のインフルエンザワクチン集団接種が中止されたころから、老人のインフルエンザ肺炎による死亡と乳幼児のインフルエンザ感染に伴なう脳症が増加し始めました。
このうち、乳幼児に見られるインフルエンザ脳症については、1998年、1999年に患者が多数報告され、社会的に注目されるようになり、1999年12月に日本小児感染症学会がインフルエンザ関連脳症についての見解を公表しています(付録2)。また、厚生労働省、新興・再興感染症「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療及び予防方法の確立に関する研究」班(主任研究者森嶋恒雄岡山大学大学院小児医科学教授)によって、2005年11月にインフルエンザ脳症ガイドラインが公表されています(→内容はこちら)。
インフルエンザ脳症は、5歳以下の乳幼児(特に1〜2歳がピークで、0歳台は少ない)がA型インフルエンザウィルス(AH3N2:香港型)に感染して発病します(ただし、2002年調査ではAソ連型(AH1N1)やB型でも脳症は報告されています)。
その症状は、まず高熱が出て数時間でけいれんを起こします。しかし、この時点ではインフルエンザの高熱に伴なう熱性けいれんと区別がつきません。ただし、熱性けいれんなら、数分間から数十分でおさまり、回復してくるのが普通ですが、脳症の場合は寝てばかりいて起きてこない、呼びかけても応答がない、目がうつろでボーとしている、見えないものが見えたり、聞こえたりする(「意味不明の言動」)、嘔吐する、さらにけいれんが再発するような症状が続き、おかしいことに気付かれます。
救急病院で診察を受けると、意識障害の存在、けいれん重積(けいれんがとまらない)などがみられた場合、CTやMRIという脳の形を写し出す検査が行われます。その結果、脳が腫れていたり(脳浮腫)、脳の一部が壊れている(壊死)ことが確認されれば、インフルエンザ脳症として強力な治療が開始されます。
インフルエンザの発病からこのような脳症の症状を呈するまでの時間は、平均1.4日(約30〜36時間)しかかからず、症状の進行は電撃的です。したがって、抗インフルエンザウィルス治療薬を飲み始めていても、発病を抑えることはできないものと思われます(間に合わない)。2002年調査では、死亡は15%、重度後遺症を残したものは8.5%、完全回復したものは50%でした。
インフルエンザ脳症の多くが、A香港型インフルエンザウイルス感染に伴って発病します。しかし、なぜ発病するのかは現在まだ解明されていません。インフルエンザウィルス感染が引き金になって発病することは確かなのですが、インフルエンザウィルスそのものが脳炎を起こすわけではないようです(そのため、インフルエンザ脳炎・脳症ともインフルエンザ関連脳症とも呼ばれます)。
一般にウィルス感染症では、リンパ球、顆粒球、マクロファージ(大食細胞)などの免疫を担当する細胞が協力して病原ウィルスと戦い、炎症という戦場でウィルスに打ち勝ち、病気を治します。この時、それぞれの細胞は炎症性サイトカインという物質を分泌し、指令を出したり、連絡をとり、組織的に戦います。しかし、インフルエンザ脳症の髄液(脳を包む液体)には、この炎症性サイトカインが異常に多いことがわかりました。
インフルエンザ脳症を起こしたお子さまは、インフルエンザウィルス感染に対して何らかの原因で全身の炎症反応が異常に強くおこり、その結果脳の血管の細胞が大量の炎症性サイトカインに曝され、壊されてしまいます(サイトカインストームという)。そしてその結果、脳血液中の水分が大量に血管外に滲み出し、脳が腫れてしまうのではないかと考えられています。このメカニズムは、インフルエンザ脳症のお子さまでは、脳以外にも肝臓など全身で観察されているのです。
さらに一部の解熱剤(ボルタレン=ジクロフェナクナトリウム、ポンタール=メフェナム酸)が症状の悪化に関係する疑いが強くなり、ボルタレン、ポンタールの使用については、2001年厚労省薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会で15歳未満の小児において、原則禁忌(原則的には使用してはならない)と決定されました。ただし、現在、我が国の小児科で主に使用されている(諸外国でも用いられている)アセトアミノフェンは、脳症の発症に関連しないと考えられています。
インフルエンザ脳症については、まだよくその本当の原因はわかってはいません。ボルタレンやポンタールを使用しなくなっても、それだけでインフルエンザ脳症がなくなるわけではありません。ただ、脳症になるお子さまは毎年60〜230名、死亡者は9〜33名と、感染者総数600〜1000万に比べると極めて少数です。きわめてまれな病気と考えてよいと思います。(インフルエンザ脳症の詳しい解説はこちら)
また、インフルエンザ脳症の発生はA香港型の流行と相関しています(A香港型が流行した年(98/99、99/00、01/02)にインフルエンザ脳症が多く発病しています=下図)。したがって、インフルエンザワクチンを接種することによって、A香港型の流行が抑えられれば、集団レベルではインフルエンザ脳症の発病数も抑えられる可能性が期待できるのです。個々(人)のレベルでは、残念ながらワクチンを接種してもインフルエンザ脳症を発病し、死亡したお子さまもおりましたが、インフルエンザワクチン接種は現在インフルエンザ脳症を予防するもっとも有効なアプローチと考えられます。したがって、当クリニックはインフルエンザ予防接種を強くお勧めしています(→インフルエンザワクチン、インフルエンザワクチン詳細編)。なお、最近のインフルエンザ脳症の報告は、2004/05シーズンに51例、2005/06シーズンは51例、2006/07シーズンは42例、行われています。
| シーズン | 患者数 | 死亡数 |
| 1998/99 | 217 | 61 |
| 1999/00 | 109 | 27 |
| 2000/01 | 63 | 9 |
| 2001/02 | 227 | 33 |
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●インフルエンザの診断
インフルエンザはかつて、@突然の発症、A38℃を超える発熱、B上気道症状、C全身倦怠感等の全身症状、の4点を満たすものとされてきました。インフルエンザと確実に診断するためには、血液を採取してインフルエンザの血清抗体価が上昇していることを確認するか、のどをぬぐってその検体からウィルスを分離・検出するしかありませんでした。
ところが、1999年にインフルエンザ迅速診断キットが登場してから、インフルエンザの診断は正確に、しかも容易に行われるようになりました。現在ではさまざまな迅速診断キットが登場し、A型とB型のインフルエンザを区別して診断できるようになりました(右図はエスプライン・インフルエンザA&B-N=富士レビオ。左がB陽性、中央が陰性、右がA陽性を示している)。
Aソ連型とA香港型を区別して診断できる検査キットは、2009年2月現在、発売されておりません。
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●インフルエンザの治療
インフルエンザウイルスそのものの増殖を抑えるインフルエンザ治療薬(抗ウィルス薬)が登場し、インフルエンザの治療は一変しました。従来は、インフルエンザにかかったら、なるべく家で安静にしているように、といわれてきましたが、現在はなるべく早く病院に行き、検査をし、症状によってはインフルエンザの治療薬を飲むことが最も良い対処法となりました。
現在我が国で使用されているインフルエンザの治療薬は4剤、現在開発中の新薬が2剤あります。
抗ウィルス剤
@効果と作用機序
1998年A型インフルエンザの治療薬として認可されました。シンメトレルはA型インフルエンザに著効を示し、大体1〜2日でインフルエンザの熱は下がり、他の諸症状もかなり和らげます。シンメトレルの作用は、M2蛋白の働きを抑制し、インフルエンザウィルスの脱殻を抑えてしまうことです。脱殻が起こらないと、インフルエンザウィルスは感染細胞で増えることができないため、インフルエンザはおさまってしまいます(右図参照)。しかし、2日以内に服用を開始しないと、すでにウィルスは蔓延して効果は期待できま
せん。また、B型インフルエンザウィルスはM2蛋白を持っていないため、シンメトレルはA型インフルエンザウィルスしか効果はありません。
A副作用と問題点
シンメトレルは長期に服用した場合、薬が効かない耐性ウイルスが誘導されてきます。もともとA型インフルエンザウィルスの1万個に1個は、シンメトレルが効かない耐性ウィルス(抵抗力を持ったウィルス)が存在していますが、シンメトレルの作用でインフルエンザウィルスがほとんど死滅した後、この耐性ウィルスが急激に増えてくるのです。この耐性ウィルスは感染している本人には普通のインフルエンザウィルスと同じようにふるまい、特にインフルエンザ症状が重くなることはありません。しかし、他のヒトに感染したときには、シンメトレルが全く効かなくなります(症状が軽くなることはない)。この耐性ウィルスはシンメトレルを飲み始めて、早ければ3〜4日で出現してくるといわれています。
さらにM2蛋白の働き(イオンチャンネル活性)に重要な役割を持つアミノ酸が一つ以上変化するだけで、シンメトレルは効かなくなるといわれており、非常に耐性を誘導しやすい薬剤のようです。
その上、シンメトレルには、興奮したり、夜寝られなくなったり、うわごとを言ったりする精神神経症状や、吐き気などの副作用が時に少なくありません。(2007年にタミフルの「異常行動」が騒がれましたが、精神神経症状はシンメトレルの方がはるかに高頻度です。)
しかし、薬を止めると症状は消失すること、インフルエンザそのものでも夜寝られない、うわごとを言うなどの熱譫妄がみられるため、副作用に注意を払いながら、投与が行われてきました。ただし、熱性けいれんを起こしたお子さまや1歳未満の赤ちゃんには、使用は好ましくないと考えられています。
2004年以降、中国では農民と当局がぐるになって鳥インフルエンザ対策として、薬価が安いアマンタジンを大量に飼料に混ぜて鶏に服用させていたため、ほとんどのA型インフルエンザがシンメトレル耐性になってしまったことがわかりました(詳しくはこちら)。アメリカのCDC(疾病管理センター)は2006年1月にインフルエンザの予防と治療にアマンタジンとリマンタジン(アマンタジン類似薬)を使用しないよう、勧告しました(報道はこちら)。中国の身勝手で非道な振る舞いで、抗インフルエンザ薬がひとつ(薬剤は2種)消滅してしまったことはまことに残念です。
2005/2006年のシーズンでは、アメリカのAH3N2(香港型)ウイルスのシンメトレル耐性率は92.3%、日本ではAH3N2の耐性率は65.3%で、AH1N1(ソ連型)でもシンメトレル耐性は急増しているようです。
B当クリニックの対策
上記のようにシンメトレルは耐性ウイルスが増えていること、精神症状が強いこともあり、現在では処方しておりません。
@効果と作用機序
タミフルはノイラミニダーゼ阻害剤といって、インフルエンザのNA(ノイラミニダーゼ)の働きを抑える薬です。インフルエンザウィルスのNAは、感染細胞内で複製された無数のインフルエンザウィルスが出芽して、感染細胞から飛び出すことを助けます。このNA(ノイラミニダーゼ)の働きを抑えるノイラミニダーゼ阻害剤(タミフル、リレンザ)が投与されると、インフルエンザウィルスは感染細胞から分離できなくなり、細胞にくっついたまま最後は死んでしまいます(上図参照)。
タミフルはA型インフルエンザ、B型インフルエンザ両方に有効で、1〜2日で熱は下がり、インフルエンザの症状は軽くなります。インフルエンザの症状を1日程度短縮するといわれています。また、新型インフルエンザウィルスにも有効と考えられており、新型インフルエンザ対策に大量に備蓄されています。
しかしタミフルの効果が現われるには半日以上はかかるため、急激に進行するインフルエンザ脳症の発症を抑えることは難しいと考えられています(2003年にはタミフルを服用したにもかかわらず、インフルエンザ脳症を発症した例もありました)。
A副作用と問題点
タミフルは副作用として、服用患者の5%に腹痛、下痢がみられますが、症状は軽く服用をやめれば消失します。腎障害や意識障害が新聞に大きく取り上げられましたが、これらはきわめてまれな副作用です。
薬の効かない耐性ウィルスは、タミフルでも1/100の割合で出現しますが、タミフルの耐性ウィルスはシンメトレルの場合とは異なり、感染力が弱いため、あまり問題にしなくてよいと考えられています。
また、タミフルを飲んで速やかに解熱しても、ウィルスの排出は数日間は続くこと、解熱後1〜2日後に再び発熱するお子さまが少なくないため、いつまで園や学校を休ませなければならないのか、結論の出ていない問題も残っています(通常は解熱後、2日間を登園校停止の目安にします)。
2007年11月ごろから、北欧でタミフル耐性のAソ連型(H1N1)のインフルエンザウイルスが登場し、急速に全世界に広がりました。わが国でも2008年は2.6%だったタミフル耐性H1N1ウイルスが2009年には93%を占めるようになり(国立感染症情報センターのまとめはこちら)、またマスコミが大騒ぎしたことは記憶に新しいところです。
このタミフル耐性H1N1ウイルスは、日本でもマスコミなどで一部の人間が騒いでいた「タミフルを使いすぎると、ウイルスが抵抗力を持ってしまい、効かなくなる」(薬剤の選択圧)という杞憂とは全く無関係に発生したものでした。すなわちこの耐性ウイルスは、たまたまタミフルが作用するノイラミニダーゼに突然変異が起こり、ノイラミニダーゼの立体構造に変化が生じ(ノイラミニダーゼの275番のアミノ酸が、ヒスチジンからチロシンに置換した)、その結果タミフルが作用しなくなったウイルスだったからです。(→連続変異)
むしろわが国ではタミフルを幅広く使用してきたにもかかわらず、2008年段階では2.6%とほとんど国内からは耐性ウイルスは見られなかったのです(現在の流行しているタミフル耐性H1N1ウイルスは外国から持ち込まれた)。
現在タミフル耐性H1N1ウイルスは急激に世界中に拡散しています(WHOのレポートはこちら)。数年でタミフル耐性H1N1ウイルスは世界中を席巻しそうです。そのような状況になったら、タミフルは歴史的な役割を終えることになるかも知れません(香港型H3N2はタミフルが依然有効ですが、香港型H3N2と耐性ソ連型H1N1を外来で簡単に鑑別することができないため)。そのときはリレンザとT-705が治療の中心になると思われます。
タミフルの現在の大きな問題点は薬価が高額なことです。この薬の乱用は医療費を押し上げる可能性があります(投与人数の多いため、また世界中で備蓄しているため)。また、ドライシロップと称していますが、きわめてまずい薬で飲み方に工夫がいるようです(食事と一緒に服用することが勧められています)。
2007年、薬害反対グループと狂騒マスコミによって、タミフル「異常行動」の副作用騒ぎが医学ではなく、社会問題となりました(第2次タミフル騒動→当クリニックの見解はこちら)。人の命に係る深刻な問題を、チンドン屋のような馬鹿騒ぎで面白おかしく囃し立てることがどれだけ医療現場を混乱させ、保護者を惑わし、子どもの健康を危険のさらしているか、彼らマスコミ連中は自らの職業的倫理観に問うことはないのでしょうか。
タミフルの「異常行動」に関しては、
B当クリニックの対策
典型的なインフルエンザの症状を呈し、迅速診断が陽性の10歳未満、成人の患者さんには、タミフルを3日間、処方しています。(発熱、全身症状が消失するまで)
@効果と作用機序
ザナミビル水和物(リレンザ)もノイラミニダーゼ阻害剤で、
A型インフルエンザ、B型インフルエンザに有効です。吸入薬なので、直接インフルエンザウィルスの感染部位であるのど、気管支に到達してインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。(→リレンザの作用を示す動画)
この薬は銀色のカップ(ブリスターという。右図の左の四個の玉)のなかに粉末が入っていて、この2ブリスターを1日2回、5日間、専用のディスクへラー(右図、右側の吸入器)を用いて吸入します。
リレンザはA型インフルエンザ、B型インフルエンザ両方に有効で、1〜2日で熱は下がり、インフルエンザの症状は軽くなります。インフルエンザの症状を1日程度短縮するといわれています。また、新型インフルエンザウィルスにも有効だと考えられています。また、現在問題になっているタミフル耐性H1N1ウイルスにもノイラミニダーゼの作用点がタミフルと異なるため、効果が期待できます。
A副作用と問題点
リレンザは吸入薬で、喘息の治療薬のフルタイドロタディスクと類似した吸入用具を用います。吸入薬なので、小さなお子さまには使用できません。2006年2月から、5歳以上の小児にも処方できることになりました。しかし、小学校の低学年(6〜7歳)では強く吸い込むことはなかなか難しいようです。ただ、吸入してむせる子はいないようです。
また、刺激により気管支喘息の発作を誘発する可能性があるため、喘息のお子さまは使用しないほうがよいとされています。しかし、現在10代のお子さまにはリレンザしか使用できないため、インフルエンザで高熱、全身症状がある場合は、喘息のお子さまにも処方しています。気管支喘息の患者さんでも、特に問題なく使用できています。むしろ、フルタイドで慣れているせいか、うまく吸入できる患者さんが多い印象です。
リレンザは吸入薬のため、発売以来タミフルの陰に隠れていましたが、10代でタミフルが使用できなくなったこと、2009年タミフル耐性のH1N1ウイルスが日本でも蔓延したために、リレンザの使用頻度も急激に増加しています。
B当クリニックの対策
典型的なインフルエンザの症状を呈し、迅速診断が陽性の小学校3年以上(8〜19歳)の患者さんには、リレンザを3日間、処方しています。(発熱、全身症状が消失するまで)
@効果と作用機序
ペラミビル水和物(バイオクリスト社、日本では塩野義製薬がライセンス)はタミフル、リレンザに次ぐ、第3のノイラミニダーゼ阻害薬の注射薬です。注射薬のため、インフルエンザと診断されたら、15分間点滴で薬が投与されます。長時間作用型のため、1回のみの点滴でよいそうです。(重症例では反復投与も可能。)
薬が飲めなかったり、吸入することができない高齢者やせき、嘔吐がひどい人でも使用できるメリットがあります。A型およびB型インフルエンザウイルス、H5N1型鳥インフルエンザにも有効です。(ペラミビルの詳細はこちら)
2010年1月13日に塩野義製薬が製造販売承認を得たと発表し、1月27日から発売になりました(報道はこちら)。
A副作用と問題点
主な副作用は、消化器症状(腹痛、下痢など)のようです。1回投与で長時間作用するので、それに伴う副作用の観察が必要です。また、注射薬なので、使用に制限があります。
@効果と作用機序
ファビピラビル(T-705:6‐fluoro‐3‐hydroxy‐2‐pyrazinecarboxamide)は、タミフルと同じ経口薬です。ヒト細胞内に侵入したインフルエンザウィルスRNAがヒト細胞の核を支配し、自分の複製を作らせる、RNAポリメラ−ゼの働きを抑えることで、ウィルスの複製、増殖を防ぎます(右図参照。富山化学工業株式会社ホームページ、研究開発への取り組みより転載。原図はこちら)。
RNAポリメラ−ゼを阻害する作用があるため、A、B、C型全てのインフルエンザウィルスの効果があり、高病原性鳥インフルエンザや新型インフルエンザにも有効と考えられます。また、ノイラミニダーゼ阻害剤(タミフル、リレンザ)とちがって、ウイルスそのものを攻撃するため、48時間以降でも効果が期待できます。
A副作用と問題点
特に副作用はなく、感染マウスに対する動物実験ではタミフルより強い治療効果が示されました。新型インフルエンザの新しい治療薬としても期待されています。
現在富山化学工業が日本とアメリカで臨床実験を行っています(富山化学の発表)。すでに臨床実験U相まで進んでおり、数年後にはインフルエンザ治療に使用することができるようになりそうです。
@効果と作用機序
ラニナミビルはリレンザと同じノイラミニダーゼ阻害剤で、A型インフルエンザ、B型インフルエンザに有効です。ドライパウダ−吸入、またはネブライザ−で吸入します。直接インフルエンザウィルスの感染部位であるのど、気管支に到達して効果を現します。
ラニナミビルは長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害剤といわれ、発病時、1回吸入するだけで効果が期待できます。ザナミビルの数倍強い抗ウィルス活性を持つといわれています。現在、第一三共がV相の臨床実験(最後の試験)を行っているので、まもなく使用できるようになると思われます。(報道はこちら)
A副作用と問題点
腎から排泄されるため、腎障害時には減量を考慮する必要があります。また、長時間作用するので、それに伴う副作用の検討が必要でしょう。また、吸入薬なので、リレンザと同じように幼児に使用できないなどの短所があります。
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抗インフルエンザウィルス薬は副作用や価格の問題があり、安易に使用するべきではありません。当クリニックでは抗ウィルス剤を使用するに当たっては、家庭内感染などインフルエンザとほぼ診断できる例を除けば、インフルエンザ迅速診断を行い、診断を確定してから投与することを原則としています。
その他の薬
インフルエンザの症状をやわらげるため、鎮咳去痰剤(咳、痰に)や抗ヒスタミン剤(鼻水、鼻閉に)、整腸剤、下痢止め(腹痛、下痢に)を適時投与しています。
抗生剤はインフルエンザウィルスそのものには効果はないため、インフルエンザと診断された場合は投与の必要はありません。ただし、中耳炎、肺炎の合併が疑われる場合には投与しています。
解熱剤
インフルエンザでは解熱剤の使用には注意が必要です。小児では、アセトアミノフェン(コカール、カロナ―ル、アンヒバ、ピリナジン、ナパ)のみが安全に使用できる解熱剤と考えられています(解熱剤の使い方をお読み下さい)。
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)、ポンタール(メフェナム酸)、アスピリンは、インフルエンザには使用できません。
●登校・登園基準
登校・登園基準としては、インフルエンザでは解熱後、2日を過ぎるまでは登校・登園はできません。抗ウィルス剤(タミフル、リレンザ)を使用して解熱しても、発病5日目ごろに再び発熱する(二峰性発熱)お子さまが時にみられます。この二度目の発熱は1〜2日で解熱し、発熱中も元気なお子さまが多いようです。そのため、お薬を飲んですぐに熱が下がっても、2日間は無理をせずゆっくりと体力の回復をはかることをお勧めします。
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本篇中、Medical Tribune別冊「座談会インフルエンザ診療の実際」の図3点を使用させていただきました。
新型インフルエンザについての当クリニックの解説はこちら