「…本当に合ってんのかあ?」

「え〜と。だんだん自信が無くなってきましたぁ…。」

 もう、飽きるほど見続けたメモ用紙を覗き込んで。揃って溜め息を付いた。

 

 

 

「扉の向こうの青い空」〜そんな二人の休日の過ごし方〜

 

 

 

「チヒロ。明日、俺非番なんだ。」

「そうなんですか?」

「ああ。だからさ、ちょっと出かけるか?」

「…はい?」

「だから…。…まあ、何だ。その…な、デートって奴だ。」

「…え…?」

 驚いたように目を見張ったチヒロ。次いで赤くなる頬に、ハボックの方もなにやらテレくさい。

 今まで何人かの女性と付き合ってきたし、そのたびに当たり前のようにデートをしてきたはずなのに。

 何でこんなに気恥ずかしいんだ?とぽりぽりと頭を掻く。

「ええと。行きたいところとか、あるか?」

「あ…え……あの……。…あっ!そうだ。ちょっと待ってて下さいね。」

 ぽんと手の平を合わせたチヒロは、タタッと駆け出して玄関を開けると自室へと行ったようだった。

 食事などはほとんど一緒で。まるで兄妹か家族のようだけど、きちんとそれぞれの生活空間を持っている。

 くすぐったいような、もどかしいような。実に微妙な距離感だ。

 すぐにチヒロは戻ってきて、その手にはなにやら小さなメモ用紙を持っていた。

「ここのお店。すっごく美味しいんですって。」

「?…レストラン?」

「はい。シリルさんに教えてもらったんですけど。」

「……大丈夫なのか?」

「味…ですか?アーサーさんに連れて行ってもらったそうですよ。プロがおいしいって言うんだから、おいしいんじゃないですか?」

 ちなみにシリルと言うのはハボックの元カノでチヒロの現親友。

 アーサーと言うのはシリルの現彼氏で職業はコック。チヒロによると『イケメン』とか言うものらしい。

 以前ハボックも、アーサーの作った料理を食べたことがある。大変に美味しかったから、彼の舌を疑っているわけではない。

 まったく疑っている様子の無いチヒロに。『いや、シリルが持ってきたこの情報そのものの信憑性が疑問なんだ』とは言えなくなる。

「…で?…どこだ?」

「……良く、分かりません。」

 だから、一人では行けなかったらしい。

「……ここが、…中央通りか…?…で、角の花屋がここで…。ああ、あの辺りか…。あったか?こんな店?」

「最近出来たお店らしいんですけど…。」

「…とにかく明日、行ってみるか。」

「っ、はい!」

 ハボックは、嬉しそうに頷くチヒロの髪をくしゃりとかき混ぜた。

 

 

 ………。

 で、翌日。

かれこれ1時間以上はうろうろと歩き回っているが、目当ての店は見つからない。

 『やっぱりな』ハボックは内心溜め息を付いた。

 以前シリルと付き合っていた時もそうだった。

 彼女自身に案内されれば、きちんと目的地につけるのだが。彼女が書いた地図に従ったときには、たどり着けたためしが無いのだ。

 今回も、何度も地図と実際を見比べるのだが。あるはずの無い道が書き込まれていたり、辿って行ったら違う道に繋がっていたりで。

 ぐるぐるぐるぐると歩き続けているのだが、一向に目的の店に付けそうな気配は無かった。

 そろそろ昼休みも終わろうかと言う時刻だ。普段ならとっくに昼食を終えている時間で…。

「…腹、減ってきたなあ。」

「……ですねえ。」

「……とりあえず。その新しい店ってのは、もう一度シリルに確認するってことで…。…ここらで食ってくか?」

 ハボックが指差したのは、先ほどから5回はその前を通っているレストランだった。

 ガーリックやベーコンを炒めているのか、先ほどからたまらない香りがしている。

「うー、すみません。」

「?何で、チヒロが謝るんだ?悪いのは地図を書くのがヘタクソなシリルだろう?」

「でも、せっかくのお休みなのに。私がこのお店に行きたいって言ったばっかりに、こんなに無駄に歩かせてしまって…」

「けど、普通に買い物したってこのくらいは歩くだろう?」

「そ…かも知れませんけど…」

「軍人の体力をなめるなって。じゃ、昼飯はここで良いか?」

「はい。」

 扉を開けると、カランとベルがなった。

 

 

「…はあ。美味かったな。」

「はい。」

 時間を気にせず、久々にゆっくりと食事を取ることが出来た二人。

 味も合格点だったし、満腹にもなってにっこりと微笑みつつ店を出てきた。

「…けど、ここじゃねーんだよな。」

「お店の名前が違いますからね。…けど、良かったんですか?」

「何が?」

「昼間っからワイン飲んで…。」

「チヒロだって飲んだろ?」

「そうですけどっ。アレは、ジャンさんが私の分まで注文しちゃったからっ。」

「いーじゃねーか。たまにのんびり出来るときくらい、昼から飲んだって。」

「もう。」

「ははっ。………げっ!」

「…どうかしましたか?」

「あ…あれ…。」

「………?…う…そ……。」

 目の前にある雑貨屋の脇に、極々細い道があって。その奥に見える看板は…目当ての店のものだった。

 この前の道は、もう何度も通ったはずだった。そう、何度も何度も…。

「チヒロ…地図。」

「はっ、はい。」

 チヒロが慌ててバッグから取り出した地図と見比べる。

「……全っ然違うじゃねーかよ。」

「…うう。…シリルさあ〜ん。」

 どっと疲れた二人だった。

 

 

「さすがに、もうはいらねーな。」

「無理ですよお。」

「…じゃ。又、今度…だな。」

「ですね。」

「もう1回デートできるな。」

「ジ、ジャンさん…。」

「な?」

「は、はい。」

 真っ赤になったチヒロの米神に、チュッとキスをした。

 何だかんだ言ったって。

 二人でゆっくりとイーストシティを回ったことなんて無かったので。

 これはこれで結構楽しかったと思っている二人だった。

 

 それに、ずっと手を繋いでたし。へへへ。

 にやけた顔がハボックにばれないようにと、懸命に隠すチヒロだった。

 

 

 

 

 

 

20060425UP
END

 


10000HIT記念&お礼フリー小説です。
本編では、この二人。時間的に恐らくくっ付いてからはこんな風にのんびり過ごす時間なんて無かったと思うのですが…。
なんか、この二人はきっちり予定を立てて1日有意義に過ごすよりも、まったり過ごすんじゃないかと思います。
で、結局なにかの成果が無くても二人でいられて満足…見たいな、ね。
え〜と、では。
気に入っていただけましたなら、どうぞお持ち帰りを。
その際、背景のお持ち帰りはご遠慮下さい。
いつもの通り。文自体を変えなければ、字体を変えるのも文字の色を変えるのも、持って帰った先で名前変換が出来るようになさるのもご自由にどうぞ。
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(06、05、01)