「えー、夏休み。無いの〜〜〜!?」

「無えよ。」

「何で?」

「仕事。」

 

 

 

ただ、真直ぐに。

 

 

 

「し〜ご〜と〜?」

 そんなのおかしい!!

 私は心の中で叫んだ。

 今だって、今にも死にそうなくらいに休み無く働いている。

 いくら軍人さんは身体が資本のお仕事とはいえ。この仕事量はおかしいと思う!

「本当に、1日もお休み無いの?」

「シフト通りの休みは一応あるけど…。」

「じゃ、それを使えば良いわけね!」

「うん?」

「花火大会あるでしょ?河川敷で。あの時に、お休みにして?」

「ああ、無理。」

「どうして!」

「警備。」

「むう。じゃ、中央公園でやるフェスティバルの時は?」

「警備。」

「むう。じゃあ、じゃあ…。」

「駅前広場でやるダンスパーティーも、郊外に来るサーカスも、隣町でやる縁日も。全部警備。」

「何で!!!」

「だって、それがお仕事だし?」

「おしごと…って……。」

 そうだっけ?去年の夏休み、私はその全ての行事で遊んだ。

 その時、軍人さんが警備してたっけ?

 思い出せない…。

「じゃあ、いつならまとまったお休みが取れるの?」

「う〜ん、夏が終わったら。」

「………そんな…。」

「………だから、言ったのに…。」

 少し前までの浮き浮きしていた気分はどこかへ行ってしまった。

 ジャンと付き合い始めて、数ヶ月。

 私の一目惚れから始まった猛烈アタックに、ジャンが根負けするような形で始まったオツキアイ。

 何度も言われたっけ。

『軍人なんかと付き合ってもつまんないよ?』

 そのたびにそんな事は無い!と反論したんだった。

 これなの?これの事を言っていたの?

 今日だって本当、久々のデート。

 やっとの思いで約束を取り付けたオープンカフェ。

 でも、もうすぐ夏だし。

 どこか旅行でも行きたいと思って、持ってきた大き目のバッグの中には何冊かの旅行パンフレットが入っている。

 あそこも良い、ここも良い。と頭の中では半ば旅行プランが出来上がりつつあったのに…。

 その上、近場のイベントも全部ダメ?何それ?ありえないでしょう!?

 むう。と黙り込んでしまった私を、ジャンは困ったように見つめている。

「あのな、更紗。」

「うん?」

「軍人の一番嫌いな季節って、分かるか?」

「へ?」

「夏、だよ。」

「……どうして?」

「軍服は暑くて蒸れるし、ブーツなんか最悪で水虫出来るし…。」

「や、やだ。」

「イベントが多いから仕事は増えるし。」

「………。」

 私達にとって楽しいイベントが、ジャンにとってはお仕事…なんだ。

「仕事が多いから休めなくって、恋人には振られるし…。」

「っ。」

「ま、そんな感じ?」

 アッサリと言うジャン。

 優しいジャンのことだ。

『だから振っても良いんだぞ』と、『そんなの良くある事だから罪悪感とか抱く必要も無いんだぞ…』。と、多分そういう意味で言ってくれてるんだと思う。

 確かに、一瞬心が揺れないではなかった。

 これからはじまる夏休み。

 友人達は、彼氏と旅行だ花火だ海だとはしゃいでいる。

 そんな浮かれた季節を一人で過ごすのは、確かに淋しいことだと思う。

 ………だけど…。

「ジャンの馬鹿。」

「…っ。」

「あたしは『ジャンと』行きたいの。旅行も花火大会もダンスパーティも、『ジャンと一緒』だから楽しいと思ったの。他の誰かじゃないの。」

「更紗…。」

「夏が忙しいんなら、諦める。でも、夏が終わったらお休み取れるんでしょ?秋になったら一緒に旅行に行こうよ!うん、紅葉とかきっと綺麗だし、気候も良いし。かえって夏より良いかも!」

「お、まえ…。」

「それとも、何?本当はジャンがあたしのこと好きじゃなくなったの?だから、これ幸いとばかりに『振られる』なんて言ったの?」

「んな訳ねえよ!」

「ん、じゃあ決まり。夏は頑張って働いて、秋になったらいっぱい遊ぼう!あたしも夏の間はバイトたくさんやってガッツリお金貯めておく!」

「いい、のか?」

「あたしの本気をなめないで!あたしすっごい頑張ったんだから。ジャンと付き合えるようになるまで、すっごい頑張ったよね。こんな…夏場に一緒に休みとれないくらいで別れたりなんてしないんだから!!」

「更紗。」

 ジャンのおっきな手がポンと頭に載せられる。

 そして、すっごくすっごく嬉しそうに笑う顔。

少しタレ気味の目が本当に幸せそうに細められて…。

 見ている私までがほわんと幸せな気分になる。

「え…。」

 その顔が近付いてきて、そっと唇が重なった。

 あ、わわわ。

 う、う、嬉しいけど。嬉しいんですけど…。

けどけど、ここオープンテラスのカフェなんですが〜。

ヒューとどこからか囃すような口笛がして。

硬直した私に気付いたのか、ジャンがそっと離れた。

「ああ、悪い。つい、嬉しくて。」

 全然悪びれてないジャン。

「更紗にまで夏を嫌いになって欲しくないしな。…プールや遊園地くらいなら行けると思うぜ。」

「本当!?」

 思わず弾む声を抑えられない。

 ああ、こういうところが子供っぽいと思われちゃうのかな…。

 私がまだ学生だからなのか、何となくいつも子供扱いされている気がしてちょっと悔しかったし、不安もあった。

 『ジャンは本当に私のことが好きかしら?』

 けど…。

「思いっきり可愛い水着買っちゃおう!!」

 私がそういった途端。

「っ。」

 ジャンが真っ赤な顔をして絶句したのを見て。

 

 

 …あらあら、私案外想われてる? …とか、思ってみたり。

 

 

 

 

 

20070813UP
END

 

 

 


30000HITお礼小説です。キリ番ゲッターの更紗様のみお持ち帰り自由で。
リクエストは「夏休み」…。敵前逃亡と言って下すって構わない!
なぜ「夏休みは取れない」話になっているのか?
何というか月子の中でハボは夏場は忙しく働いているイメージが強くて…。
のんびりデートしている光景がどうしても思い浮かばなかったのだ…。更紗様。す、すみません。
返品可で…。
気に入ってくださいましたら。
背景のお持ち帰りはご遠慮下さい。
もしもどこかに掲載されるのなら、隅の方にでも月子の名前とサイト名をくっつけて置いてください。
文自体を変えなければ、字体や文字色を変えるのもご自由にどうぞ。

では、更紗様。そして皆さま。30000HIT有難う御座いました。
(07、08、22:月子)